牢屋
ちょこんとお説教されてるミルア、かわいいです。
「・・・で、牢屋だ」
「牢屋だな・・・」
ぴくぴくと顔をひきつらせるコウキに、ミルアはびくびくと相づちを打った。
案の定、門前で名乗りを上げたとたんに大勢の兵士に囲まれ、あれよという間に牢屋にぶち込まれてしまった。
コウキは床にあぐらをかき、腕組みをしてイライラと指を動かす。
「だぁから言っただろうが!絶対捕まるって!なんで言うこと聞かねぇんだ!?」
「すみません・・・」
対してミルアはコウキの前にちょこんと正座しお説教を食らっていた。
背の高いコウキの横に並ぶとよけいに小さく見えるミルアが、なおさら小さく見える図だった。
「どんなお気楽な頭してんだ!?第一王位継承者が聞いてあきれるっつーの!」
「面目ない・・・」
考えが甘かったということは、もう嫌というほど実感したミルアは頭を下げる。
「言っとくけどな、俺に態度変えられるかもって心配すんならもうちょっと王女らしくしてみろ!!そんな心配すんのは10年早いっ!ただのじゃじゃ馬だお前は!!」
「はい・・・」
余計な心配をしているひまがあるなら、もっと他の事に頭を使えと言われたミルアは、返す言葉もなくただただ小さくなるばかりだった。
確かに、一般人が王女と聞いて想像するような優雅さやおしとやかさとはかけ離れているミルアを、王女だと聞いたからと言って突然お姫様扱いをするようなコウキではなかった。
しゅんとするミルアに怒鳴るだけ怒鳴ったコウキは、ふんと鼻を鳴らした。
「・・・ま、この後どうしたいのか考えとけよ。早めにな」
「・・・・」
いつ、どんな決定が下されるかわからない。
様々な状況を想定して計画を練っておかなければならない。
うつ向いたミルアはぽつりと呟いた。
「・・・リン、いなかったな」
広場で会った騎士が、リンらしき女が城の牢にいると言っていた為、ミルアはここに来るまでずっとリンを探していたのだ。
「さあ?人違いだったんじゃねぇの?」
コウキは冷めた声を出した。
しばらく牢での時間を過ごしていると、見回りの兵士がコウキ達の牢屋の前を通った。
すかさずコウキは鉄格子を掴んで身を乗り出した。
「おいっちょっと!ここってメシは何時だよ?ちゃんと一日三食出るんだろうな!?」
コウキのお気楽な声に立ち止まった兵士は不愉快な顔をした。
「自分の立場がわかってないのか?静かにしていろ!」
「・・・ちぇ~、ケチだな~」
ぼそぼそと反論したものの引き下がったコウキを満足げに見た兵士は、ひとつうなずいて去っていった。
「・・・コウキ、恥ずかしいぞ・・・」
そんなにお腹が空いていたのかと顔を赤らめるミルアに、コウキは黙って手のひらに握ったものを見せた。
視線を向けたミルアは、驚いて目を見開いた。
コウキの手のひらに、牢屋の鍵が当たり前のように乗っていたからだ。
「・・・えっ!?いつっ・・・」
「しっ!・・・使うか使わないかは、お前次第だ」
「・・・っ!」
判断を委ねられたミルアは、ぐっとこぶしを握った。
「・・・使う。コウキ、その鍵、他の牢屋も開けられるか・・・?」
ミルアの言葉から考えを察したコウキは、ニヤリと笑って頷いた。
「・・・上等だ」
二人は月が傾く頃、行動を起こした。
かチャリと差し込んだ鍵によって牢屋の扉は開かれた。
「行くぞ」
コウキの後ろについたミルアはこくりと頷いた。
そして他の牢屋に入れられている囚人たちを次々に解放していった。
ほどなくして、緑の国フォレスタの城は、地下牢の囚人たちの大脱走により、大騒ぎとなった。
コウキとミルアはそのどさくさに紛れて城の上階を目指していた。
「・・・この辺まで来るとさすがに静かだな」
だいぶ上がってきて、王族の部屋も近いのもしれないと思った時だった。
前方から気配を感じて二人は立ち止まった。
柱の影から現れたのは、広場で会った、王の近衛騎士と名乗った男だった。
剣を取り上げられ丸腰のコウキは、再開したくなかった相手の登場に舌打ちして構えた。
騎士は余裕の笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。
「やはりお前たちか。必ず来ると思ってましたよ、王女?」
「・・・っ」
「月並みな悪役のセリフだな。もっと気の利いたコト言えねぇのか?」
やはり正体がバレていたかと息を飲んだミルアをかばって前に立ち、コウキは笑みを浮かべて見せた。
騎士は目を細めてコウキとミルアをにらんだ。
「この場合、悪役はそちらだろう。大方、王の首でも取りに来たのか?たった一人の従者を連れて王女自らが来るなど、マール・モーリェももはや終わりか・・・」
最後の手段で来たかと鼻で笑う騎士に、ミルアは慌てて首を振った。
「違うっ!私は話をしに来たんだっ!!こんなばかげた戦争をすぐに止めるよう・・・!」
「黙れ。ならばそちらが白旗を挙げれば済むこと。何故我が国が手を引かねばならない?」
「・・・違うっ!そうじゃなくて私は・・・!」
「どちらにせよ、敵国の者と話す事など無い」
騎士の声を合図に、多数の兵士が姿を現した。
すっかり回りを囲まれ、コウキは舌打ちする。
「・・・行きたい所まで送ってくって約束だったな。ミルア、お前の行きたい所は、どこだ?」
改めて問われたミルアは、コウキの後ろ姿をじっと見詰めた。
「・・・緑の国の・・・フォレスタ王の前だ!」
凛と響いた声にコウキはニヤリと笑った。
「了解!んじゃ突破するぞ!しっかり付いてこいよ!?」
コウキは兵士たちの真っ只中に突っ込んでいった。
「我が身我が魂に集いし雷の精霊! 我が手を依り代にその力を現せ!!」
丸腰の剣士とたかをくくっていた兵士たちに、コウキは攻撃魔法をお見舞いする。
怯んだ兵士から剣を奪い得物を得たコウキに、隊長たる騎士はすっと目を細め、剣を抜いて前へ出た。
あっという間に血路を開いて進んできたコウキとミルアの進路をふさぐ。
コウキと騎士は再び刃を交えた。
「・・・まさか魔法が使えるとは思わなかったな」
「俺の奥の手だ」
ギリギリギリと剣で押し合うコウキの背中を守る為、ミルアは回りの兵士たちに技を繰り出す。
「この先へは行かせない」
騎士がそう宣告した時だった。
騎士の背後から、場違いにのんびりした声が聞こえた。




