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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
フォレスタの旅
23/119

正体

 広場から充分に離れた路地で二人はやっと立ち止まった。

「追ってこないな・・・。あいつ、かなり強いぞ・・・」

 ミルアの腕を離して汗をぬぐったコウキを、ミルアは見詰めた。

「・・・コウキ・・・さっきの話、もしかしてリンが・・・」

「それよりお前だ。あの騎士、見覚えがあるとか言ってただろ。心当たりあるのか?」

 言葉を遮って問われたミルアは、一瞬言葉に詰まった。

「それよりリンが・・・!」

「ミルア!俺はお前の護衛だ!」

 厳しい瞳で見つめられ、ミルアは口を閉じた。

 リンが捕まっているかもしれないと考えるだけで、居ても立ってもいられないというのに。

「ミルア!」

 再び厳しい声で促され、ミルアは覚悟を決めた。

「・・・本当のことを話す。ホントは、もうちょっと知らせないでいたかったけど・・・」

 もうどんな話でも驚かない覚悟で、コウキはじっと話の続きを待った。

「・・・確かに私もあの騎士に見覚えがあるんだ。たぶん、4年位前に。あの騎士は、この緑の国フォレスタの国王の近衛騎士隊長。・・・会った場所は、海の国マール・モーリェの、王城だ」

「・・・なんでお前が王城にいたんだ?」

 静かな声で問われたミルアは、一度呼吸を整えた。

「・・・私は、マール・モーリェの王女なんだ・・・」

 その告白に、何を聞いても驚かないと決めていたコウキは目を丸くした後、ため息をついて額に手を当てた。

「・・・そうか」

 やっと、それだけ言った。

 確かに、ミルアは国境を越えてきたと言った。

 金貨も余るほど持っており、どこか世間離れした言動にも納得がいった。

「なんで先に言っとかなかったんだよ・・・」

 隣国の王女だと知っていれば、ミルアの顔を晒すような真似はしなかった。

 あの場は隠し続けても仕方ないと判断しあんな方法を取ったが、あの様子ではあの騎士もミルアの正体に気付いたかもしれない。

 ミルアは、言いにくそうに口を開いた。

「・・・本当のことを言って、態度を変えられるのが嫌だったんだ・・・。お前たちと一緒にいて、本当に楽しかったから・・・」

 コウキは、もうひとつため息をついた。

 もう今さらどうこう言っても仕方ないという、諦めのため息だった。

「この国に来た目的は?亡命か?」

「・・・違う。私は、この戦争を終わらせたくて、フォレスタ王に会うために来たんだ・・・。父上に無断で・・・」

 ミルアの言葉にコウキは絶句した。

「お前・・・じゃあ、目的はリンと同じ・・・?」

 ミルアはこくりとうなずいた。

「だから、リンの話を聞いたとき、運命だと思った。勢いで国を飛び出してきて、本当に自分がそんな大それたことをできるか不安だらけだったけど、たった一人で頑張ろうとしてるリンに勇気をもらったんだ。・・・本当は、一緒に来たかったけど・・・」

 離ればなれになってしまっても、同志という気持ちは変わらない。

 目指す所は同じと信じてミルアも首都までやってきた。

 きっと、行く先で必ずまたリンと会えると信じて。

 コウキは三度目の大きなため息をついた。

 とんだ雇い主の護衛になったものだ。

「・・・じゃあ何か?お前が行きたいのは、城か?」

 ミルアは決意した瞳でコウキを見詰めた。

「・・・ああ、そうだ。王に会って、この戦争を止めるよう説得する!」

 リンとの出会いで、ミルアは感じた。

 きっと各国の王たちが突然戦争を始めたのも、リンの言う『外からの影響』なのかもしれないと。

 本当に本心から仲違いをしたのでなければ、原因さえ解消できれば、きっとまた以前のように協力し合える関係を作ることができると。

 だから、リンと同じ道を辿るのだと決めた矢先の別れだっただけに、ショックは大きかったのだ。

「・・・本気で言ってんのか?」

 いつかリンにも言ったことのあるセリフを、コウキは口にした。

 ミルアは、まっすぐにコウキを見つめ、ハッキリとうなずいた。

「本気だ」

 その迷いのない返事にコウキは最後にひとつ、盛大なため息をついたのだった。

(・・・俺が会う女って、こんなんばっかりかよ・・・)

 そして、フォレスタ王に会う為にミルアが決断した方法は。

「・・・絶対、捕まるって」

 王城の正門に向かって歩きながら、コウキは虚ろな顔で呟いた。

 前を行くミルアは振り返ってこぶしを握る。

「大丈夫だ!正面から正々堂々と名乗りを上げて訪ねれば、王だって捨て置けはしないはずだ!」

「・・・だってさぁ、敵対してる国なんだろぉ・・・?」

 まず門番の兵士に信じてもらえず、相手にされずに文字通り門前払いならまだいい。

 へたをしなくとも、敵国の王族の名を騙った罪で投獄されるか、よしんば本物と認められたとしても、捕虜として投獄されるか、最悪、殺されて死体をマール・モーリェに送り付けられるか。

 どちらにせよ、捕まることはコウキにもわかることだった。

 門に向かう道も、以前は栄えた通りだったのだろうが、今は難民であふれている。

 皆、城に向かって呪いの言葉を吐いているようだった。

「・・・いつまで戦争が続くんだ・・・」

「王様なんて、わしらの事などどうでもいいんじゃ・・・」

「このまま勝つかどうかもわからない戦いをいつまで・・・」

「王子も戦に出るのを拒んでるってよ・・・」

「とんだ腰抜け王子じゃあ、この国の行く末も知れたもんだ・・・」

 歩きながら人々の声に耳を傾けていたコウキに、ミルアはそっと振り返った。

「どの国も状態は同じようなものだ」

「・・・こんな状態でも戦争か。何の為の戦争なんだか」

 ため息まじりのコウキの言葉にミルアは歩きながらうなずく。

「もうきっと、王たち自身もわからなくなってるんだ。だからこそ、どんな手段を取ってでも終わらせなくては・・・!」

 ミルアは毅然と目の前の王城を見上げた。

「・・・きっと、リンの力が最後の希望だ」

 その言葉を聞き取ったコウキは、なんとも言えない顔でガリガリと頭をかいた。

 とうとう正門の前まで来たミルアは、かぶっていた布を勢いよく外した。

「私は海の国マール・モーリェの第一王位継承者ミルア!王に目通り願う!門を開けよ!」

 凛としたよく通る声を聞き、門番の兵士たちは顔を見合わせた。



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