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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
始まりの旅
20/119

別離

積極的な娘ちゃんたちのノリが楽しかったのですが・・・お別れです。

「本当に行っちゃうんですかぁ~?」

「私達と子供作るって約束はぁ~?」

「してないしてない。そんな約束」

『え~~~っ!?』

「こらっ二人とも!いい加減にしなさいっ!」

 村の外れまで見送り、旅立つコウキ達にだだをこねる娘達を、マイカがぴしりと叱りつけた。

「・・・マイカ姉さん、怖ぁ~い!」

「あんた達がうるさいからよっ!・・・ごめんね、最後までこんなので」

 名残惜しいが、キリがないからと村長は家の玄関までで見送りをやめた。

 最後まで見送りしてくれたのが、マイカと娘達だった。

「マイカ・・・早くも村長の貫禄だな」

 ミルアの感心したような声に、マイカは笑った。

「茶化さないでよ。村長になるからって偉いわけじゃないわ。みんなの為に頑張る、要は雑用係よ。でしょ?」

「違いねぇな」

 マイカの明るい声にコウキも笑った。

 マイカは娘達にも笑顔を向ける。

「も・ち・ろ・ん、あんた達にも色々やってもらうからね!」

『え~~~~~っ!?』

「え~じゃないっ!みんなで力を合わせて頑張るんだからね!」

『はぁ~い・・・』

 張り切るマイカ姉さんにビクビクしながら返事をした娘達を見たコウキは、ニッと笑ってリンの肩を叩いた。

「大丈夫大丈夫。こっちにはマイカより怖い姉さんがいるんだぞ?雷落とされてみるか?ん?」

 いくらマイカが怖いお姉さんでも、雷を落とされたり水を浴びせられたりはしないだろうと娘達に笑いかけたコウキを、リンはジト目でにらんだ。

「なんで私を引き合いに出すのよ?」

 マイカはその様子を見てくすりと笑い、リンの手を取った。

「あんたも大変な運命を背負ってるんでしょうけど、こんなにいい仲間がいるんだもの。きっと大丈夫よ」

 マイカの言葉に、リンは返事をせず、ただ控えめに微笑んだだけだった。

「・・・そろそろ行くか」

 マイカと握手をし、ミルアがそう切り出した。

「いや~ん!」

「淋しい~!」

 最後とばかりに抱き付いてきそうな娘二人の雰囲気を察し、コウキは後退りしながら手を振った。

「いや~、ホント残念だけど、こっちの怖いお姉さんが、俺がいないと泣いちゃう~って言うもんだから・・・」

 コウキの言葉にぎょっとしてリンは怒鳴った。

「そんなこと言ってないわよっ!!」

「あれ?言ってなかったっけ?『置いていかれた時、私がどんな・・・』」

 言いながらコウキは、次にどんな反応が返ってくるかを予想し逃げ出した。

 案の定、リンは真っ赤になって追いかける。

「違ぁうっ!!勝手にニュアンス変えないでっ!!」

「あれって俺と片時も離れたくな・・・」

「そんなこと一言も言ってないっ!!」

 みるみるうちに遠ざかる二人に、ミルアはハッとした。

「こ、こら、雇い主を置いて行くなっ!・・・じゃあなマイカ!いつかまた会おう!・・・こらぁ~!待て二人とも~!」

 あっという間に見えなくなった三人を呆然と見送ってから、この上手い立ち去り方はコウキの仕組んだことだと気付いたマイカはクスクスと笑った。


 充分に村から離れた所まで延々と逃げたコウキは、そろそろいいだろうと急ブレーキをかけて立ち止まった。

「・・・わっ!?」

「わっ!?」

 その背中にリンとミルアがぶつかって止まる。

 顔面をぶつけて涙目になり鼻をさする二人に、コウキは真顔で振り返った。

「・・・さて、お遊びはこれくらいにして、腹を割って話そうか」

 ハッとしてミルアは顔を上げた。

 コウキは、まだ顔を上げないリンを厳しい瞳で見つめていた。

「村長に言ってたことは本当なのか?」

「・・・・」

 答えないリンに、コウキは更に厳しい声で言葉を続ける。

「世界を救う為に、王様に会う。そんなばかげた事、本気で言ってるのか?」

「・・・・」

 固い表情でうつ向いたままリンは声を出さない。

 ミルアはハラハラと見守った。

「リン」

 厳しい声でコウキに初めて名前で呼び掛けられ、リンはとうとう息を吐いた。

「・・・そうよ。私は、その為に来たの。ばかげた事かもしれないけど、本気よ」

 目を見開いて聞いたミルアは、村長の家で言ったリンの言葉を思い出した。

 ーーーーそれが私の役目だから。

「『役目』って、リン・・・」

 本当に世界を救う役目を負っているのかと見詰めたミルアを、リンは強張った顔で見返した。

「・・・ごめんね。詳しくは話せない。王様に話さなきゃいけない事だから。だから、首都に着いたら私はお城に行かなきゃならないの」

「でもっ・・・!各国の王は人が変わったみたいに冷酷で残忍な性格になってる!いきなり行って話なんて聞いてくれるはずないっ!殺される!」

 泣きそうな顔で叫んだミルアに、リンは笑みを浮かべて見せた。

「大丈夫よ。私の力見たでしょ?なんとかなるわよ」

「・・・じゃあなんで震えてんだ?」

 厳しい声でコウキに言われ、リンはハッとして荷物を持つ自分の手を見た。

 リンの手が細かく震えていることに気付いていたミルアも、涙目でリンを見つめる。

 コウキは冷たい瞳でリンを見下ろした。

「・・・お前言ってたよな?信頼できる仲間は武器。一人で背負うんじゃなく、分け合えるって。あれは、嘘か?」

「・・・・」

 黙って唇を噛み締めるリンをミルアも悲痛な顔で見守る。

 コウキは続けた。

「・・・お前は俺たちを仲間だと思ってないってことか・・・」

 ため息まじりに言われた言葉に、リンはうつ向いてぎゅっとこぶしを握った。

「・・・わかったわ」

 リンの口から出た肯定の言葉に顔を輝かせたミルアは、次の瞬間凍りついた。

「・・・ここからは私一人で行きます」

「!?」

 ミルアは息を飲み、コウキは目を細めて片眉を上げた。

 リンは淡々と続けた。

「最初は、タイミング良くあの森に現れて首都を目指してるって言ったミルアを、待ち合わせの相手かと思ったの。だから一緒に行こうって言ってみたけど、違ったわ。これ以上、一緒にいる意味はない」

「リンっ・・・」

「でも正直、ミルア一人じゃ心配だったけど・・・護衛がいるから大丈夫よね?」

 微笑みながら言うリンの服を、ミルアは必死で握った。

 どこにも行かせないように。

「いやだっ・・・リン、せっかく出会えたのに、なんで離れなきゃならないんだ!?私はリンのこと大好きなのにっ・・・!」

「・・・ありがとう。でも、ダメ。・・・コウキの言う通り、私はあなた達を仲間とは思えないの」

「・・・っ!」

 ミルアの瞳が涙でうるんでいく。

「・・・それが本心か?」

「・・・ええ、本心よ。あなた達とは一緒にはいられない」

 言葉を失ったミルアの代わりに問うたコウキを、リンはまっすぐに見詰めた。

 二人の視線が、ぶつかり合う。

「・・・わかった。じゃあ、ここでお別れだな」

「・・・コウキっ・・・!?」

「ええ、今までありがとう。・・・さようなら」

「リンっ・・・!何言ってるんだ!どうしてこんなことにっ・・・!」

 とうとう泣き出したミルアの腕を掴み、コウキは歩き出した。

「それがリンの望みなんだ、しょうがねぇだろ?信頼できない俺たちには何も話せねーし、一緒にいたくもないとさ」

「いやだ!そんなの納得できないっ!!」

「うるせぇっ!!さっさと行くぞ!!雇い主だろがっ!!」

 泣きわめくミルアを無理やり引きずっていくコウキの後ろ姿を、リンはいつまでも見詰めていた。




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