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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
始まりの旅
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役目

「リンさんには感謝してます♪」

「いくらでもゆっくりしてってくださいね♪この村で♪」

 村を救った恩人であるリンへの言葉も忘れず、娘達はにこやかに去って行った。

 やっと起き上がることができたコウキに、ミルアは腕組みをしてあきれる。

「まだ付きまとわれてたのか?リンのいる部屋にまで来るなんて、相当だなぁ」

「・・・ここなら大丈夫だと思ったんだけどな・・・」

 はぁっと大きなため息をついたコウキの言葉に、リンの眉がぴくりと動いた。

 その様子に気づかず、ミルアは続ける。

「ハッキリと断らないからだろう?情けないやつだな」

「・・・だってこの村で世話んなってるのに、そうそう邪険にもできねぇだろ・・・」

 更にリンの顔がひきつった。

 だが、またもやそれに気づかず、コウキは名案を思い付いたようにパッと顔を上げた。

「そうだ!ここはひとつ、村の恩人のリン様から『私の男に手を出すな!』とか言って雷の一つでも落としてくれれば・・・」

「『落雷』」

 みるみるうちに天井に暗雲が垂れ込め、そこから小さな稲妻がコウキに落ちた。

 ビリビリビリとしびれて倒れたコウキを見て、ミルアは感心する。

「すごいな!室内でも雷が呼べるのかぁ!」

 目を輝かせたミルアの前で、まだしびれの残るコウキは無理やり体を起こした。

「・・・誰が俺に落とせって言ったよ!?」

「冗談じゃないわよ!なんで私がそんなことしなくちゃならないの!?自分でなんとかしなさいよ!」

「できないから頼んでるんだろうが!」

「そんな事言って、状況楽しんでるんじゃないの!?」

「ああっ!?そりゃ俺だって男だ!楽しいか楽しくないかって言ったら楽しいに決まって・・・!」

 バチーーーン!

 リンの平手打ちが炸裂し、見ていたミルアは思わず自分の目を手で覆った。

 そして、指のすき間からそっと二人をうかがい見る。

「やっぱり、あなたなんて大っ嫌い!!」

 ビンタで張り倒されピクピクしているコウキと、叫んで背中を向けたリンを交互に見て、ミルアはポツリと呟いた。

「・・・私は、コウキ、好きだぞ?」

 呟きを聞き取った二人はミルアを見た。

「ムカつくこともあるけど、一緒にいると楽しいし、なんか安心するんだ」

 はにかんだように言ったミルアに、リンは目を丸くし、コウキはコロリと機嫌を良くして起き上がった。

「わかってるじゃねぇかミルア♪よ~し、今日から俺の一番弟子にしてやろうっ♪」

 ぐりぐりと頭を撫でられたミルアは、あきらめたようにため息をついた。

(・・・なんか、伝わってないな・・・)

 ポロリと出てしまった本音だったが、めちゃくちゃ軽く受け止められていた。

「・・・それより、リンの食事の用意だ」

 改めて、ミルアはリンが食事を摂れるように仕切り直したのだった。

 騒動のタネになるから一歩も動くなとコウキに命じてから、ミルアはリンの為に食事を運んだ。

 村の中心部で大掛かりな術を使ってから、丸二日以上経っていた。

 その間眠ったままで飲まず食わずだったリンは、まず体が受け付けないだろうと、柔らかいお粥と野菜のスープを用意してもらった。

「・・・おいしい!」

「だろう?村長の奥さんは料理上手なんだ」

 ニコニコとミルアと話ながらリンが食事を終える頃。

 リンが起きたようだと聞きつけた村長が部屋にやってきた。

「・・・お体はどうですかな?」

 おずおずと部屋の扉から顔を出した村長に、ミルアは渋い顔をした。

「村長!食事が終わったら知らせると言ったのに!」

 待ちきれずに連絡をもらう前に部屋を訪ねてしまった村長は、リンにゆっくり食事をさせたかったミルアににらまれてばつの悪い顔をした。

「すまん・・・その・・・早くお話をしたくて・・・」

 リンは慌てて食器をサイドテーブルに置いた。

「あ、すみません!すっかりお世話になってしまって・・・」

 頭を下げたリンに、今度は村長が慌てた。

「とんでもないっ!謝らなければならないのは、わしの方じゃ!・・・その、魚の件で騙したことも、全て・・・!」

 床に手をつき、土下座までした村長に驚いたリンはミルアを見たが、ミルアは首をすくめただけだった。

 リンは村長に向き直る。

「結界が効いてるようですね、ちゃんと」

「お恥ずかしい限りじゃ!わしは、わしらはいったいどうなっていたんじゃろうかっ!あんたさんが村に結界を張ってくれてから頭の中のもやが取れたようで・・・。なんというか、落ち着いてものを考えられるようになったんじゃ・・・!」

 更に頭を下げてまくし立てた村長の言葉を聞き、リンはホッとした。

「良かった・・・。実は私も、上手くいくかどうかはわからなかったんです」

「いやいや本当に、わしらの為に倒れる程の力を出してくださって・・・!」

 手放しで喜ばれたリンは、しかし悲しげに眉を寄せた。

「村長さん・・・。結界は、永久的に続くわけじゃないんです。私の力では、せいぜいもって1~2ヶ月・・・」

 その言葉にコウキは眉を上げ、ミルアと村長は驚いてリンを見た。

 リンは申し訳なさそうに顔を伏せる。

「・・・今、この世界には、人々の不安や恐怖、憎しみや妬み、そんな負の感情を増大させる力が蔓延してるんです。・・・でも、その力が強大すぎて、私には一時しのぎしかできないんです・・・」

「そんな・・・」

 これでこの村は大丈夫だと安心しきっていた村長は、再び絶望の色を顔に宿した。

「・・・な、なんとかならんのか・・・!?そ、そうじゃ、やっぱり村に残って、定期的に結界を・・・!」

 ダンっ!

 村長の身勝手な発言に、コウキは寄りかかっていた壁を蹴り、ミルアは床を踏み鳴らした。

 驚いて顔を向け、コウキとミルアの厳しい瞳を見た村長はハッと我に返った。

「・・・いや、今の言葉は忘れてくだされ・・・」

 強大な負の力が、世界に蔓延しているとリンは言った。

 被害を受けているのはこの村だけではないのだ。

 そして、二日も倒れなければならない術を、この村の為だけに何度も使えなどとリンには言えない。

「すみません・・・」

 謝ったリンに、村長は首を振った。

「あんたさんは悪くない。一時的にでも正気に戻してくれて、感謝しとる・・・」

 うつ向いてしまった村長に、リンはベッドを降りて近づき、そばにしゃがみこんだ。

「でも、影響を受けないようになることもできます!今回は村長さんが一人で何もかも背負い込もうとして、無理をして心が疲れたから影響を受けやすくなってしまったんです。村のみんなと協力して、みんなで強い心を持てば、負けません!」

「・・・・」

 リンの言葉を、村長はかみしめた。

「・・・そのことなんじゃが・・・・」

 村長は穏やかな笑みを浮かべた。

「わしは、引退しようと思っとる。この時代を皆で生き抜くのに、わしは年老いた。男たちもいない今、新しい長には、マイカなら任せられると思ってな・・・」

 夫を戦争に送り出し、待つ間も村で辛い思いをさせた。

 みんな諦めかけていたところで、今回現れたコウキたちに願いを託し行動を起こしたマイカなら、強い意志で村を率いてくれると思った。

 どんな理由があったにせよ、大事な村人に辛い思いを強要して泣かせてしまったことには変わりない。

 このまま長の座に就いていることなど、できなかった。

「適任なんじゃねーの?」

 コウキの言葉に、村長は顔を上げた。

 離れの中でも娘達をまとめていたのはマイカであったし、離れから抜け出す時にも率先して付き添ってくれた。

 娘達に、中にコウキがいるように演技を指示したのもマイカだ。

 度胸もあるし、機転もきく。

「・・・それでも、あんた達が来るまでは泣いてばかりいたんじゃ・・・」

 結婚したばかりの夫と離ればなれになり、見も知らない男の相手を強要した。

「・・・本当に、あんたさんには感謝しとる。あの光の風で、娘達の心も癒してくださった・・・」

 起きた出来事は消せないが、リンの癒しの風は、辛い思いをした娘達に笑顔を取り戻していた。

 我を失っていたとはいえ、村長は後悔と自責の念で潰されそうだった。

 その手を、リンは握った。

「・・・村長さん。起きてしまった過去は変えられません。でも、未来はきっと変えられます。この村の子たちは、強いわ。だから、大丈夫です」

 ごまかしても断っても諦めずに迫ってくる娘達を思い出し、コウキは大きくうなずいた。

 たくましいことこの上ないと、ミルアもうなずく。

「あんまり自分を責めてばかりいると、また負けちゃいますよ。みんなで、自分のできることを頑張っていきましょう?・・・私も、頑張りますから」

 リンの言葉に涙を流していた村長は、ふと顔を上げた。

「あんたは、いったい・・・」

 リンは微笑んだ。

「・・・この負の力をどうにかするのが、私の役目なんです。その為にこの国に来ました。王様に、会う為に・・・」

「!?」

 村長どころか、コウキとミルアも驚いた。

 コウキとミルアは思わず顔を見合わせたが、村長は感極まって更に涙を流した。

「ありがたい・・・ありがたい!もし王様にあの光の風を与えて頂ければ・・・きっと、きっとこんな戦などっ・・・!」

 リンの手にすがりながら泣く村長を見ながら、コウキとミルアは呆然としていた。

 リンは、ただひとり。

 人ひとりの涙の重さを感じていた。

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