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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
始まりの旅
18/119

冷水

「・・・・」

「やっと起きたか?今度はちゃんとベッドだぞ」

 深い意識の底から浮き上がってきたリンは、声のした方に顔を向けた。

「・・・みんなは?」

 リンの眠るベッドを背もたれにして顔だけリンの方に向けて床に座っていたコウキは苦笑する。

「まずは自分の状況考えろよ。相当無茶しただろ?」

 そうたしなめられても、じっと見る真剣な瞳にコウキはやれやれとため息をつく。

「みんな大丈夫だ。お前が気を失った後みんなで大泣きして、それからは落ち着いてる」

 コウキの声音と表情から、良い方向へ向かっているとわかり、リンはホッとした。

「・・・ミルアは?」

 リンの問いに、いたずらっぽいような、呆れたような顔をしたコウキは自分の膝を示した。

「・・・まぁ」

 首だけ動かして見たリンは、目を丸くした後クスクスと笑った。

 ベッドに寄りかかり足を投げ出したコウキの膝を枕にしてミルアが眠っていた。

 コウキも笑みを浮かべる。

「さっきまで『リンの看病する!』って頑張ってたんだけどな」

「・・・・夜明け?」

 窓の外に目をやり、空が薄明かるくなっているのを見てリンが呟いたが、コウキは首を振った。

「残念。今、陽が沈んだとこだ」

 コウキの言葉にリンは目を丸くした。

「・・・丸一日寝てたの私っ!?」

 驚くリンの言葉に、またもやコウキは首を振った。

「残念。丸二日だ」

 もはや絶句し、リンは呆然とした。

「・・・そんなに・・・?」

「それだけ、でかい術だったんだろ?」

 探るような目で言われ、リンは一瞬言葉に詰まった。

 かけられていた毛布をぎゅっと握る。

「・・・ええ、ハッキリ言って、上手くいくかどうか、今の私の力では五分五分だった。でも、この村をなんとかしたかったし・・・。あなた達がいたから、きっとできると思ったの」

 その言葉にコウキは目を瞬き、リンが長老に言っていた台詞を思い出した。

 ーーー信頼できる仲間と・・・。

 ーーーみんな、一人じゃないから・・・。

 ニッと笑ったコウキに、リンも微笑む。

「あとで、ミルアにもお礼言わなきゃ」

「起きたらな。お前ももう少し休んどけよ。まだ顔色悪いぞ?・・・俺もミルアも、ここにいるから」

 コウキの言葉に少し驚いたリンは、その言葉をゆっくりとかみしめて微笑んだ。

「・・・うん」

 もう一度ミルアの寝顔を見、リンは安心して瞳を閉じた。


 次に目覚めたリンの目に映ったものは。

「・・・え~と、君たち、お見舞いに来てくれたんじゃなかったっけ?」

「お見舞いよ♪もちろん♪」

「あなたのね♪」

 寝返りをして横を向いて寝ているリンの目の前の床に、コウキが村の娘達二人がかりで押し倒されていた。

「いや、俺元気だし・・・」

 お見舞いの必要はないと言ったコウキに、娘達はニッコリと笑う。

「わかってるわ♪」

「だからじゃない♪」

 離れに集められていた時に現れたコウキを見た時には怯えていた娘達だったが、コウキが今までの男たちと違って好き放題なことをせず、村の問題に向き合って解決してしまったことで、逆に興味を引いてしまったようだった。

 娘達は、更に身を寄せて迫る。

「私達、マイカ姉さんたちと違って夫も婚約者もいないし♪」

「最初に村長が言ってたように、村に残ってほしいな♪」

 そばにリンが寝ている為大騒ぎするわけにもいかず、コウキは曖昧な笑みを浮かべながら、どうしようかと考える。

「いや~、そういうわけには・・・」

「どうして?私、元気な赤ちゃん産むわよ?」

「私も♪」

「・・・いや~、それはそうだろうけどさ・・・」

 その時、何かないかと目を泳がせたコウキの視線と、ベッドに横たわったリンの視線が交差した。

 ものすごく冷たい、絶対零度の目をしたリンの視線と。

 コウキはぎょっと目をむく。

「っ!・・・起きっ・・・!」

「『冷水』」

 ニッコリと微笑んだリンの言葉通り、コップ一杯分ほどの凍る一歩手前のような冷たい水がコウキの顔面に降った。

「ぶわっ!」

「きゃっ!」

「冷たっ!」

 コウキと娘達が突然のことに悲鳴を上げているすきに、リンはベッドを抜け出す。

 そのまま扉へ向かい、リンは振り返った。

 それはもう、ニッコリと。

「もう大丈夫だから。邪魔者は消えるわ。ごゆっくり♪」

 優しく柔らかい声とは裏腹に、バタンと乱暴に扉を閉めてリンは部屋を出た。

 なんだかわからないがとにかくムカムカして廊下に出たリンは、きょろきょろと周りを見る。

(・・・え~と、村長さんの家かしら?)

 普通の村人の家よりは広そうだと見当をつけ、どっちに向かったらいいのか考えた所へミルアの声がした。

「リン!起きたのかっ!大丈夫か?」

 ぱたぱたと嬉しそうに駆けてくる姿に、リンは微笑む。

「大丈夫よ。心配かけてごめんね?」

 そばまで来たミルアもニッコリ笑う。

「いいんだ!それより、リン一人に無茶をさせたな・・・」

 笑ってからしょんぼりとし、そのくるくると表情が変わる様子にリンは笑った。

「いいのよ。それは私の役目だから。倒れたのは、私が未熟だったからよ」

「リン・・・」

 ミルアはリンを見つめた。

「・・・村長も不思議がってた。あの時、リンがいったい何をしたのか・・・。外からの影響って何なのか・・・。私も気になる。・・・でも今はリンの体が一番大事だ!」

「ミルア・・・」

「ちょうどお粥を作ってもらったとこなんだ!部屋に運ぶから、もう少し休んで・・・」

 ニコニコしながら、ミルアはリンが寝ていた部屋の扉を止める間もなく開けた。

 コウキは。

 冷水を浴びせられて部屋に取り残され、慌てて体を起こす。

 力強い動きで下から押し上げられ、娘達は歓声を上げた。

 なんとか立ち上がることに成功したが、娘達はそれでも離れようとしない。

「・・・あのさ!やっぱり俺はあいつらの護衛だし、ここには残れな・・・うわっ!?」

 二人がかりで押されて足をもつれさせて後ろ向きにベッドに倒れ込んだコウキの上に、娘達はしがみついてのし掛かるように一緒に倒れた。

「・・・部屋に運ぶから、もう少し休んで・・・」

 ガチャとミルアの声と共に扉が開けられ、コウキは固まった。

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

 だらだらと汗をかいたコウキと、中の様子を見て目を真ん丸にして驚いたミルア、そして更に冷たい氷のような瞳をしたリンは、それぞれに黙り込んだ。

「やだぁ、なんかみんな戻ってきちゃった~」

「ん~、じゃ、また後でね~♪」

 ぞろぞろと人が集まってしまった為、娘達は仕方がないとコウキの上から退け、退室した。





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