責任
その後、それぞれは役割を果たすために別行動を起こした。
マイカはこっそり離れに戻り、いかにもコウキが中にいるかのように演技を続けている他の娘達に、状況を伝える為に。
ミルアは、村長達をおびき寄せる囮に。
そしてリンは村人達を集めるための広場に向かっていた。
「・・・あのお姉さん達のところに行かなくていいの?」
前を行くリンに振り返りもせずに言われたコウキは目を瞬いた。
「大きな術を使うなら、援護いるだろ?」
大技には集中する時間が必要で、その間は無防備になると相場で決まっている。
コウキの言葉に答えず、リンは黙々と進んだ。
村の中心部に着いた二人は、ミルアが騒ぎを起こすまで待機する。
「・・・ミルア、大丈夫かしら」
心配するリンに、コウキは苦笑した。
「大丈夫だろ。あいつはすばしっこいし、なかなかやるぞ?」
旅の中でモンスターと戦う様子を見ても、ここまで旅をしてきて腕に自信はあると言うだけのことはあると、コウキはミルアを高く評価していた。
中身はともかく、腕っぷしだけは誉められる。
コウキの言葉に、リンはムッとした。
「・・・どうせ私は、声が出せなきゃ何の役にも立ちませんけど」
「?何言ってんだ?」
意味がわからないと眉を寄せるコウキに、リンはカッとなった。
「そうでしょ!?だから言葉も出せないようにして、一人で勝手に行っちゃたんでしょ!?」
身動きもできず、口が封じられて術も使えないまま置いていかれた時は、何もできない自分が悔しくて仕方なかった。
最初は本気で行ってしまったと思ったが、コウキが戻ってきてその言葉を聞いた時には、もっとがっかりした。
「ミルアは強くて信頼できるけど、私は役立たずだからっ・・・!」
思わず感情に任せて涙ぐんでしまい、急いで後ろを向いたリンの背後で、コウキのため息が聞こえた。
「・・・なるべく、危ないめに遭わせたくなかったんだよ」
続いて聞こえた言葉に、リンはハッとした。
「どうなってるか状況もわかんねー所で動くのは、俺一人で充分だ」
「・・・それが勝手なのよっ!」
こぼれる涙も構わずにリンは振り返っていた。
泣いているのがわかり、コウキは思わず口を閉ざす。
「置いていかれて、あの時私がどんな気持ちだったか・・・!」
リンの言葉にコウキは目を見開いた。
リン自身もなぜ涙が出るのかわからず、言葉に詰まって口を押さえ、必死におえつをこらえた。
その様子を黙ったまま見ていたコウキは、ニヤリと笑った。
「・・・なぁ~んだ、ヤキモチかっ!」
「違ぁ~うっ!!」
的はずれもいいところのセリフに、リンは場所も考えずに大声で怒鳴っていた。
「全っ然わかってないっ!!」
怒るリンを眺めながらも、コウキは笑ったままだった。
「いやいや、わかったって。何も言うな」
「わかってないってばっ!なんでヤキモチなのよっ!」
「そりゃあ決まって・・・」
楽しそうに笑いながらコウキが言い掛けたとき、遠くからバタバタと足音が聞こえてきた。
「こっちに逃げたぞっ!」
「捕まえろ!」
「捕まえられるもんなら、捕まえてみろっ!」
予定通り、村長の取り巻きの老人達をひきつけて広場までやってきたミルアだった。
若くてお転婆なミルアの足に追いつけるはずもなく、上手に手加減されながら、老人達はひいこらしながら広場にたどり着き、その中心に立っている人物を見つけた。
「あ、お、お前・・・!」
「なぜここに・・・っ!?」
離れの中にいるものと思っていたコウキがいつの間にかリンと共に立っているのを見、老人達は驚く。
「お、お前、離れの中でかれこれ六時間も励んでいたはずじゃ・・・っ!」
「いや、死ぬだろ、それ」
何を無茶な事をとツッコミながら腕組みするコウキのそばにミルアも戻った。
徐々に状況を理解してきた老人達は顔色を変える。
「・・・では、娘達を抱き込んでわしらを裏切らせたと!?」
「いや、だから抱いてないって」
「コウキっ!もういいっ!やるぞ!」
バカなやりとりにしびれを切らせて怒鳴ったミルアに、コウキは首を振った。
「まだだ。一番重要な奴が来てない」
コウキは広場の入り口を見つめた。
続いてハッとして同じ方向を見たリンとミルアの目に映ったのは。
マイカを捕らえて無理矢理歩かせてきた長老の姿だった。
広場に入ってきた長老は、昏い瞳でコウキ達を見た。
「マイカの手引きで逃げたな。なぜ言うことを聞かんのだ。皆、この村が滅んでもいいのか・・・」
まるで独り言のようにボソボソと言う長老に、ミルアはビシっと指を突きつけた。
「村長っ!目先のことに捕らわれるあまり、一番大事なものをお前は見落としている!長たる者は、民を守る責務を負う者!大切にすべきは民であって、村でも国でもないっ!民が傷付くのを良しとするのは、長失格だっ!」
孫のような少女に説教され、長老は鼻で笑う。
「小娘がわかったような口をきく・・・。お前らにはわからん。こんな小さな村でも、ひとつの村を守っていくことがどれだけ大変なことか・・・。大戦さえ起きねば、こんなことには・・・」
長老の言葉に、ミルアはぐっと言葉を飲んだ。
だが、コウキはひるまず口を開いた。
「・・・あんたが守りたい村って、どんな村だ?」
長老がぴくりと反応した。
「なんじゃと・・・?」
コウキは長老をまっすぐに見つめる。
「守りたいのはどんな村かって聞いてるんだ。女達の笑顔が無い村か?母親の愛を受けられない子供だらけの村か?」
「!」
長老の憎悪のこもった瞳でにらまれたコウキは構わず続けた。
「そうなるだろう?無理矢理知らねぇ男をあてがって、それで出来た子を母親は愛せるもんなのか?母親の笑顔ひとつ見たことねぇ子供を作りたいのか?」
「・・・うるさいっ・・・!」
「いい村は女が笑顔だっていうだろ?見てみろよ、あんた達みんなの大事な娘のマイカ、泣いてるじゃねぇか。村ってのは家族だろ?家族が笑顔で暮らせるようにすることが、本当に守るって事じゃねぇのか?」
「うるさいっ!泣くなマイカっ!わしはっ・・・わしは村の為に、村の皆の為にっ・・・!」
マイカの涙を見て動揺しだした長老に、それまで瞳を閉じてその声を聞いていたリンが語り掛けた。
「・・・長老さん。わかりました。あなたは、戦争が始まって村からどんどん徴兵されていくのを見て、ずっと一人で戦ってたんですね。村が滅びるかもしれないという恐怖と。村人を率いていく者としての責任と重圧と。・・・そこに付け入られたんだわ」
リンはまっすぐな瞳を天に向けた。
「・・・今、助けます」




