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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
始まりの旅
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八重歯

「コウキっ!?」

 ミルアの声を聞き驚いたリンは後ろを振り返ろうとしたが、がっちりと押さえられていて身動き出来なかった。

 大声で話すわけにはいかないため、リンの耳元のすぐ後ろでコウキの声がした。

「ったくお前ら動くの早すぎんだよっ!おとなしくしてれば朝までノーマークだったのに」

「コウキっ!どういう事だ!本当に裏切るつもりだったのかっ!?」

 ミルアに問い詰めらたコウキはあきれたようにため息をついた。

「んなわけねぇだろ。とりあえず納屋に戻るぞ。いつまでもこんな所で話してられない」

「・・・わかった。話を聞こう。そっちの人もな」

「!?」

 ミルアの言葉に、リンは初めてコウキの他に別の人物がいることに気付いた。

 先ほど出てきたばかりの納屋に戻ると決めたミルアは、コウキにジト目を送る。

「・・・で、いつまでリンを抱き締めてるつもりだ?」

「・・・人聞きの悪い言い方すんなよ・・・」

 大声を出しそうだったから押さえていただけなのにと、コウキはがくりとうなだれた。

 そして、こっそりと納屋に戻った4人は、それでも警戒しながらひそひそとお互いの状況を話し合った。

 コウキと一緒にいたのは、離れに集められた娘の中で一番年長のマイカと名乗った。

「・・・村長は異常よ。あんな風になったのは一昨年くらいからだわ。村の存続の為に子供を作らなければならないって・・・。でもこんな山奥に旅人なんて滅多に来ないから、余計ムキになっていった。一度なんて、山賊みたいな奴を連れてきたこともあった。・・・・そいつは、散々好き放題したあと、金目の物は無いってわかって出てったわ・・・。」

 マイカの話を聞き、リンとミルアは悲痛に顔を歪めた。

 マイカたちは、どれほど恐ろしい思いをしたことだろう。

 辛い記憶を話したマイカは、顔を上げた。

「もうみんな諦めてた。戦争が続く限り、男達が帰って来ない限り、もうどうしようもないって。・・・でも、この人が来てくれたわ」

 マイカはコウキに顔を向けた。

 続いてコウキがマイカの視線を受けて口を開いた。

「最初にこの村に着いたとき思ったんだ。いくら守り神に守られてたからって、水害対策が全くないなんてあるかってな」

「!」

 リンとミルアはハッとした。

 コウキは続ける。

「そもそも、水害ってどこからだ?あの魚のいた川は確かにここの上だけど、地理的に、村に水があふれてくるなんてあり得ない。それこそ、山が崩れでもしなけりゃな」

「だから、この人から水害から村を守ってた守り神のことを聞かれた時、私答えたのよ。生まれてからずっとこの村にいるけど、水害なんて一度も起きたことはないし、守り神がいるなんて聞いたことも無いってね」

「・・・!」

「それって・・・!」

 マイカの言葉に目を見開いたリンとミルアはコウキを見た。

 コウキは頷く。

「全部うそだったんだよ。あのじーさん達にまんまとだまされた。あいつら、最初っから俺の体が目当てだったんだよ。あと、ついでにお前らも」

「変な言い方しないでよっ!」

「ついで扱いするなっ!」

 小声ではあったが厳しくツッコまれ、本当のことなのにとコウキは肩をすくめた。

 その様子を見て、マイカはクスクスと笑う。

「仲良いのね。こんなに楽しいの、久しぶりだわ」

 笑顔が見れて少しホッとしたリンとミルアに、マイカは笑いながら顔を近づけた。

「ね、ところで『八重歯の鋭い女神』って、どっち?」

「・・・え?」

「うわっマイカっ!それを言うなっ!」

 きょとんと首をかしげたリンとミルアの前でコウキは慌ててマイカをたしなめたが、マイカはさらりとかわして続ける。

「私達が『連れの女の子たちは大丈夫なの?』って聞いたらね、この人『あっちには八重歯の鋭い女神がいるから大丈夫だ』って。でも、短気だから早く行動起こすぞって」

「・・・・」

「コ~ウ~キ~・・・!」

 脱出の経緯を思い出すリンの隣で、ミルアは赤くなってコウキに詰め寄った。

「確かにな~、私もお前の言葉を思い出したから脱出できたんだ~。お前、私の事を『オオカミ娘』って言ったよなぁ~?」

 地を這うような低い声で言われ、コウキはごまかし笑顔を浮かべた。

 その言葉でリンも思い出す。

 ミルアと出会って二日目の夜明け、突然コウキが悲鳴を上げた。

 寝ぼけたミルアが、コウキの腕にかじりついたのだ。

 怒鳴り声にびっくりして飛び起きたリンの目には、コウキの腕にまるで吸血鬼に血を吸われたような穴が二つ空いているのが見えた。

 散々ミルアを怒った後にコウキはリンに傷を治してもらったのだ。

 ミルアは更に詰め寄る。

「だからって、それを人にバラすな~」

 コウキは両手を挙げて降参した。

「悪かったって。でも、だから大丈夫って信用してたんだぞ?」

 その言葉に、ミルアはムッとしながらも引き下がる。

 単純に、信用してたという言葉が嬉しかった。

 おとなしくなったミルアにひとまずホッとし、コウキは顔を上げる。

 そしてそのまま顔を向けられたリンはドキっとした。

 口をふさがれたら何もできない自分は、ミルアほど信用されていないと思ってしまった心を見透かされたようで。

 だが、コウキの口から出た言葉は、全く違うことだった。

「・・・で、だ。マイカ達の話を聞いてたら、これはもしかしてあんたの出番かもしれないと思ったんだ」

「・・・私?」

 何か役に立てることがあるだろうかときょとんとするリンに、今度はマイカが身を乗り出した。

「あなたは魔法の心得があるって聞いたわ。村長達の心を、元に戻すことはできないっ?」

「・・・・」

 リンは困って沈黙した。

 人の心は、魔法ではどうにもできない。

 考え込んでしまったリンに、コウキが助け船を出した。

「村長達が変わっちまったのは、戦争が始まってからだ。人の負の心に反応してモンスターも増殖してる。人間にも影響があってもおかしくないんじゃないか?」

「!」

 リンは目を見開いた。

 ミルアは、ポンと手を打って納得する。

「なるほどっ!そういう事もあるかもなっ!」

「どうだ?」

 そういうものをどうにかできないかと問われたリンは、しばし目を伏せ考えた。

 コウキの言葉は、まさにリンがこれから成し遂げようとしていることに密接な繋がりがあること。

 まだコウキにもミルアにも話しておらず、これからも話すつもりの無いことだった。

「・・・・できるかもしれないわ」

 ポツリと呟いたリンの言葉に、全員が身を乗り出した。

 リンは静かに皆の顔を見回す。

「確かに、あの人達は何か外からの影響を受けているのかもしれない。やってみないとわからないけど、その影響を遮断することができれば、元に戻るかも・・・」

「本当っ!?」

 必死な顔でマイカに手を握られ、リンは瞳に力を入れた。

 まっすぐに、マイカを見る。

「・・・・やってみる」


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