脱出
日が落ちて暗くなった頃、リンとミルアは誰も来ないまま、納屋に放置されていた。
散々力を込めたり暴れたりしてみたが、後ろ手に縛った縄はほどけなかった。
縄が食い込んだ手首がヒリヒリしだして、リンはぐったりと体の力を抜いた。
(・・・もう、体力限界・・・)
そばではまだミルアが元気にジタバタと動いていたが、リンにはもう気力が無かった。
(どこかに移動させられる時にでも、逃げる隙があれば・・・)
売り飛ばすと言われたが、いつ、どのようにされるかわからない。
ぐったりと動かなくなったリンを見て、ミルアは焦った。
自分より体力が無いのはわかっていたし、コウキが行ってしまったことに自分以上にショックを受けていると思ったからだ。
(あ~い~つ~め~!)
あっさり出ていった後ろ姿を思いだし、思わず噛まされていた布をぎりぎりと噛みしめたとき、ミルアは一つ名案を思い付いた。
出会って二日目の夜が明けたときに、コウキが言ったある言葉を思い出したのだ。
(リン、待ってろっ!)
ミルアは作戦実行の為にアゴに力を入れた。
ギリギリギリギリと聞こえてきた音に、リンは目を開ける。
(・・・ミルア?)
暗闇でよく見えないが、何やら歯ぎしりのような音だと、ズリズリと体をずらしながらミルアに近付き、音源の方へなるべく近づこうとしたリンの目の前で、ミルアの猿ぐつわがポロリと外れた。
「っ!」
「・・・ぷはっ!リンっ!大丈夫かっ!?」
(ミルアっ!どうして・・・)
どうやって外したのかと驚くリンの背後に回ったミルアは、口を使ってリンの縄をほどきにかかる。
説明よりも、まずは状況の改善が最優先だ。
手首の縄が緩まったのを感じ、リンは力を振り絞って縄を外した。
自由になった手で急いで猿ぐつわを外し、今度はミルアの縄をほどきにかかる。
「ミルアすごいわ!どうやったの!?」
手放しでほめられたミルアは得意気な笑みを浮かべたが、すぐに真顔に戻った。
「説明は後だ。すぐコウキのところに行くぞ!」
リンはドキっとして一瞬息を飲んだ。
「何言ってるのミルア?もうあんな人関係ないわよ。二人で逃げましょう?」
だがミルアは頑として首を振った。
「いや、まだ関係ある。あいつが本当に裏切ったのか確かめたい。本当に裏切ったのなら、一発ぶん殴って契約の前金を返してもらう!」
「ミルア・・・」
ミルアの本心が言葉の前半であることはすぐにわかった。
後半も半分以上本気だろうが、リンはミルアの強さに複雑な思いがした。
本当に裏切ったかどうかを確かめるなんて、リンには怖くてとてもできない。
それなら初めから信用しない方がいいと思ってしまう自分の弱さが恥ずかしく、ミルアが羨ましいと思った。
(でも・・・私も強くならなきゃ・・・)
これからしなければならない事の為にも、こんな所でくじけてはいられない。
この先へ進むためにも。
リンは決意して瞳を上げた。
「・・・わかったわ。行きましょう!」
縛られた小娘二人が、逃げ出す等とは思いもしなかったのだろう。
納屋に見張りがついていないのを確認して、二人はこっそりと夜の闇の中へと抜け出した。
「・・・リンっあそこ、入り口に見張りがいるぞ!」
「怪しいわね・・・」
ミルアが見つけたのは、長老の家を挟んで納屋の反対側にある離れと思わしき建物だった。
守り神である巨大魚を食べてしまった三人を村へ連行した際にもいた老人二人が入り口の前に立ち、何やら一生懸命に中の様子を伺おうとしていた。
「・・・裏側へまわろう」
入り口はダメでも窓や縁側くらいあるだろうと、二人は姿勢を低くしながら離れへ近付いていった。
だが、近付くにつれ、リンの決意は早くも揺らいでいた。
明らかに女性のあえぎ声と思える声が離れの中から聞こえてきたのだ。
しかも、複数の。
「・・・ミ、ミミミミミルアっ・・・!やっぱりやめましょうっ・・・!?」
教育上にもよろしくないと、リンは前を行くミルアの服の裾を引っ張る。
だがミルアは強気だった。
「何言ってるんだリン!ここまで来て!」
「で、でもっ・・・」
「・・・おいっ何してんだっ!」
「・・・っ!?」
突然背後から声を掛けられ、思わず悲鳴を上げそうになったリンの口を伸びてきた手がふさいだ。
「っ!」




