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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
最後の大戦
111/119

終わりの始まり

 兵士たちの不安を感じ取ったユウヒは、豊樹神に呼び掛ける。

「豊樹神よ!」

 ユウヒの意図を理解して呼び掛けに答えた豊樹神が、姿を現した。

 堂々たる若きケンタウルスの姿に、兵士たちは歓声を上げる。

「我が国の守護神は心優しき誠実なるケンタウルスだ!我々はいつも彼に見守られているのだ!その誇りを忘れるな!」

 豊樹神の澄んだ瞳で見詰められた兵士たちは温かい愛を感じ、心が沸き立つのを感じた。

 今までで一番大きなときの声が上がった。

 ーーーーなぁなぁ♪オレも出ていいっ?

 注目を浴びたいとわくわくしている幻霧神の声が聞こえて、コウキは一人げんなりする。

「・・・混乱するから、やめとけ・・・」

 突然巨大なドラゴンが現れたら、せっかくまとまっている兵士たちがパニックになる。

「お前の出番はもっと後だろ?」

 ーーーー・・・ちぇ~・・・。

 豊樹神のようにかっこよく目立ちたかったと拗ねた幻霧神は、それ以上駄々をこねなかった。

「・・・さて、どう仕掛けてくるかな」

 アルバ・ソル軍とヴラフォス軍を見据え、ユウヒは不敵な笑みを浮かべた。

 コウキはユウヒの隣に馬を並べる。

「せっかく守護神を見せびらかしてるんだ。先制の意味も込めて、どかーんと来るんじゃないか?」

 敵国を恐れさせる為にも、守護神の力で派手に来ると予想し、コウキは冷めた瞳を草原の向こうに向けた。

 いきなり強大な人外の力で攻撃されれば、徴兵された一般人だけでなく訓練された兵士だって怯むだろう。

 それは、今まで各地の守護神の力を肌で感じてきたユウヒにはよくわかった。

「・・・豊樹神、防げるかな?」

 ユウヒは自らの守護神を見上げ、豊樹神は生真面目な瞳でユウヒを見つめ返した。

 ーーーー紅陽と玄地の力は私と対応するものではないが、努力はしよう。

 豊樹神の持つ力は、雷。

 対して紅陽神は炎、玄地神は闇を司る。

 決して有効な力ではない。

 ユウヒは豊樹神に微笑みを向けた。

「ありがとう。・・・でも、間違ってもバカなことは考えちゃだめだよ?君たちが共にいた少女が悲しむような真似だけは、しちゃダメだ」

 思い詰め、守護神同士が刺し違えるようなことがあってはならないとユウヒは念のため口に出して言った。

 もともと彼らは同じ志を持ってこの地にやってきた、仲間同士なのだ。

 最後の最後まで希望を捨てず、諦めてはいけないと言ったユウヒに豊樹神も笑みを浮かべた。

 ーーーーありがとう。・・・真っ直ぐな魂を持つ我が王子よ。そなたが諦めぬ限り、私も諦めることはないだろう。ただ・・・。

 強かでしぶといことにかけてはユウヒの右に出る者はないだろうと考え、ユウヒが諦める姿など想像できないと一人苦笑していたコウキは、続いた豊樹神の言葉に顔を上げた。

 ーーーーただ、やはり気になる。『黒い月』の動き次第によっては月の守護神殿に頼る他ないのかもしれない・・・。

 申し訳なさそうな豊樹神の声に、コウキはしっかりと頷いた。

「それは大丈夫だ。今も出たくてウズウズしてんだ。出番が来たら大喜びで飛び出してくるさ。心配ない」

 コウキの言葉に、豊樹神は控えめに笑みを浮かべた。

 その妙に人間くさい表情に、コウキは複雑な感情を覚えた。

(『黒い月』・・・。どうせ操り人形なら、まるっきり感情なんか無い本当の『人形』にすりゃ良かったんだ。どんな高度な技術があるか知らねぇけど、残酷だよな・・・)

 本当の『人形』であれば、守護神たちが世界の板挟みになり苦しむことも無かったはずだ。

 そして、『黒い月』自身がこんな苦労をする必要も無かった。

 どんな事情があるにしろ、コウキには『黒い月』の技術やあの黒い稲妻のような力の示し方がとても傲慢に思えた。

 様々な技術が発展したとしても、それが自己満足から来るものであれば決して人間は幸せになれない。

 そう、守護神たちが教えてくれているようだった。

「・・・来たようだ」

 向こうの軍勢が前に進み始めたのを見つめ、ユウヒは唇を引き締めた。

「・・・やっぱりな」

 コウキは呟いた。

 アルバ・ソル側の軍の上空に巨大な火の玉が出現したからだ。

 まるで小さな太陽かと思えるそれに、フォレスタ兵は思わず息を飲む。

 まさかアレが飛んでくるのではと冷や汗を垂らした時、予想通り巨大な火の玉がフォレスタ軍に向かって飛んできた。

「・・・狼狽えるなっ!!」

 どうすればいいかとそわそわし、逃げ腰になる兵士たちにコウキの檄がとんだ。

 コウキも、そして先頭のユウヒも、豊樹神も全く動じずに飛来する火の玉を見つめていた。

「・・・っ!」

 兵士たちが思わず覚悟を決めたその時。

 フォレスタ軍の前方上空に、大きな水の膜が張った。

「!?」

 驚く兵士たちの前で、凄まじい蒸気の音を立てて火の玉が消滅した。

 ユウヒは微笑んで振り返り上空を仰いだ。

「・・・コウキっ!ユウヒ!!待たせたな!!」

 ユウヒと同じく振り仰いだコウキの視線の先に、美しい人魚の慈澪神の肩に乗りやって来るミルアの姿があった。

「いいタイミングだったよミルア」

 いつもの笑顔で落ち着いているユウヒの姿を見たミルアはホッとした。

「良かった。マール・モーリェの軍はハルアが率いてこちらに向かってる。私だけ、じっとしてられず先に来たんだ」

 ーーーーもうミルアったら早く連れてけって子供みたいに駄々をこねて・・・。

「慈澪神っ!」

 わがままな妹を可愛がる姉のように言った慈澪神に、ミルアは顔を真っ赤にして怒鳴る。

 仲のいいその様子に、ユウヒはくすくすと笑った。

 笑われたミルアは恥を吹き飛ばすように勢いよく、ビシッとコウキに指を突きつける。

「・・・コウキっ!!言いたいことはたくさんあるが、どうせリンを泣かせて来たんだろうから帰ったらお説教だからなっ!!」

 そのセリフに、ユウヒは目を丸くした後腹を抱えて笑いだした。

 コウキはぴくりと眉をひきつらせて、なんとか口を開く。

「・・・お前、ユウヒと同じこと言うなよな・・・」

「はぁ?」

 敵の攻撃を前にして和んでいる王子たちの姿に、フォレスタの兵士たちは呆気に取られた。

 だが、味方が増えたことだけはわかった。

 ーーーー次は、私の番だ・・・。

 豊樹神は、次に飛んできた玄地神の黒い波動を雷で打ち消した。

 その姿に、兵士たちは一気に元気になった。

 アルバ・ソルとヴラフォス連合軍は、次は人海戦術だとばかりに兵を進行させてきた。

「・・・できれば、兵士たちの衝突は少しでも遅らせたいところだな」

 ユウヒがそう呟いた時。

 広い草原の真ん中が突然一面の氷で覆われた。

 連合軍の兵士たちが次々に足を取られ、つるつると滑って歩みが遅くなったのを見てから、コウキは豊樹神の隣を見た。

 ーーーー・・・ほんの少しの足止めですけど・・・。

 微笑んだ氷月神に、ミルアは歓声を上げた。

「いいぞ!ありがとうっ!こっちの方が味方が多いっ!なんとかなるぞ!」

 連合軍の守護神二体に対して、こっちはすでに三体だと喜んだミルアの声に、コウキはハッとした。

 これでヒエンが風奏神を連れて援軍に来れば、この場に守護神六体が揃うことになる。

「まさか・・・」

 コウキが考えているうちに、氷面を越えてくる者たちが出始めた。

「ミルアっ!慈澪神の力と豊樹神の力を合わせよう!」

 ユウヒの発案により、ミルアは頷いて慈澪神を促した。

 氷面を越えてきた者たちの足元にサーっと水が流れ、水の中に兵士たちが足を踏み入れたのを見計らい、豊樹神が小さな雷を水面に落とした。

 その雷は水を伝い、水に足を踏み入れていた兵士たちは感電して痺れて動けなくなった。

 バタバタと倒れていく連合軍に、フォレスタ兵は歓声を上げた。

 だが、その歓声はすぐに止んだ。

 一度倒れた者たちが、人間とは思えない動きですぐに起き上がったからだ。

 ーーーーどうやら、向こうの兵士たちは皆『黒い月』の影響を受けているようですね・・・。

 悲しげに氷月神が呟いた。

 感覚や感情をも麻痺させられているのかもしれない。

「でも、あなた達のおかげで軍隊が小出しになったよ」

 足止めは効いているとユウヒは微笑み、ミルアは大きく頷く。

 守護神の力は頼もしいが、大技をかければ人間の兵士などひとたまりもなく死んでしまう。

 ここは、援護的に守護神の力を使った方がいい。

 ユウヒとミルアは自分の守護神を見上げた。

「豊樹神、頼むよ」

 ーーーー心得た。

「行くぞ、慈澪神!」

 ーーーーええ、ミルア。

 二体の守護神から二人に力が注がれた。

 ユウヒとミルアの瞳が、守護神たちと同じ金色に輝いた。

 守護神の熱い心と力を全身に感じ、ユウヒは剣を抜いて天にかざした。

「行こうっ!!」

 全ての兵士が、ユウヒの後に続いた。

「・・・ユウヒっ!油断すんなよっ!?」

「わかってる!!コウキ頼むよ!!」

 すかさずユウヒのすぐ後ろに馬を付けたコウキは、引っかかる点を感じながらも始まってしまった戦闘に身を投じた。

「我が身我が魂に集いし炎雷の精霊!! 我が剣を依代にその力を現せ!!」

 コウキは得意とする炎と、フォレスタの守護神にあやかって雷の精霊を剣に宿し、頭上に掲げた。

 今までの戦では恐怖だった『戦荒らしの炎竜』の剣が今は味方であることに、フォレスタの兵士たちは一層士気を上げた。


 雪崩のような雄叫びの中で、最初の剣と剣がぶつかりあった。

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