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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
最後の大戦
110/119

立志と出陣

「・・・お、おい、アレっ・・・!」

「・・・あいつっ・・・炎竜っ・・・!?」

 馬に乗ったコウキの姿を見た兵士たちが騒ぎ始めた。

 ざわつき始めた周囲の様子に、コウキはハタと目を瞬く。

(・・・そういや、俺有名人なんだっけ・・・?)

 コウキはわからなかったが、フォレスタの城でミルアと脱走騒ぎを起こした時にいた兵士や、王のいた砦にいた兵士も集まっていた。

 面は割れている。

 もしや雲行きが怪しくなってきたかと少し緊張した所へ、兵士たちの奥から声が掛かった。

「通せ」

 若い兵士たちの間を掻き分けてきた立派な鎧を身に付けた騎士に、コウキは見覚えがあった。

「やはり来たのか」

 そう言って真っ直ぐに馬上のコウキを睨み上げたのは、フォレスタ城の守りを任されていた近衛騎士長だった。

 ユリカ姫と共に、旅立つユウヒ達を見送った唯一の人物。

 あれから数ヵ月ぶりの再会だった。

「・・・あんた、城で見かけないと思ったら前線に出てたのか。城の守りはいいのか?」

 きょとんとした顔で臆せずにコウキに話し掛けられ、騎士長は息を吐いて肩の力を抜いた。

「私とて騎士のはしくれ。最後の戦いならば王と王子のお側で戦いたいと志願したのだ。・・・来い、ユウヒ様がお待ちだ」

 最後に言われた言葉にコウキは更に目を瞬いた。

 待っているということは、絶対に来ると思っていたということだ。

 リンの傍を離れるなと言ったくせに、結局コウキの行動をお見通しだと言われたようで、コウキは苦い顔をしながら騎士長の後を馬の手綱を引きながら付いていった。

「話はユウヒ様から聞いている。堂々としていろ」

 好奇の視線を浴びまくっているコウキに、騎士長はそう言った。

 その態度から見て、随分良いように話をしてくれたらしいユウヒを思い、コウキは苦笑した。

「・・・・コウキ!来たな!」

 陣営で迎えたユウヒの顔にやっぱりと書いてあり、コウキは思いっきりおもしろくない顔をする。

「・・・悪かったな。単純で」

「なにぶすくれてるんだ。言っておくけど、どうせ泣かせてきたんだろうから、帰ったらミルアと二人掛かりでお説教だよ?」

 ニッコリと笑顔でそう言われてコウキが苦虫を噛み潰したような顔をしたのを見、ユウヒと話し合いをしていたフォレスタ王は思わず小さく吹き出した。

「・・・すまぬ。ずいぶん仲良しになったのだな」

 笑いを引っ込めて、フォレスタ王は優しい瞳でコウキを見詰めた。

 一応、王に一礼したコウキはすぐに口を開いた。

「王様も戦いに出るつもりなら、やめた方がいい。必ず『黒い月』が何か仕掛けてくる。前に出るなら、守護神の力を持つユウヒと、俺だ」

 キッパリと言ったコウキの言葉に、ユウヒは笑みを深めた。

「ねぇ父上、僕が言った通りでしょう?」

「む・・・・」

 大事な跡継ぎであり、今まで戦に出たことのないユウヒを前線に出すことを渋っていたフォレスタ王は唸った。

 ユウヒは更に畳み掛ける。

「これまでの旅で僕もかなり実戦を積みましたよ。守護神とも戦ってこうして生きてることだし。なにより、毎日のモンスターとの戦いでこのコウキにビシバシ鍛えられて・・・」

「お前はちょいちょいサボってただろ」

 すかさずツッコミを入れたコウキに、ユウヒは目を瞬いた。

「・・・・そうだったかな?」

「そうだろ」

 とぼけようとしてもだめだとジト目で睨まれたユウヒは、まぁいいかとニッコリ笑う。

「まぁそういうわけですから。『黒い月』の力もこの目で見てるし、何より豊樹神が力を貸してくれる。・・・これも、リンのおかげだ」

 リンの癒風光を浴びたからこそ、四体の守護神たちは我を取り戻し、地上も『黒い月』も救う道を探すと言ったミルアやユウヒを信じて力を貸してくれることになったのだ。

 各国を巡り守護神と戦ったことは、決して無駄ではなかった。

 フォレスタ王はユウヒから話を聞いているらしく、リンの名前が出ても何も言わず、コウキもまた何の反応もせず黙ってユウヒの話を聞いた。

 そして、真っ直ぐにユウヒとフォレスタ王を見る。

「・・・ユリカ姫と約束してきた。ユウヒの背中は俺が守る」

 コウキの宣言に一瞬目を丸くしたユウヒは、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。

「なら安心だ。できれば戦いが終わっても、ずっと守っててもらいたいくらいだな」

「なんでだよっ!?調子乗んなっ!」

 嫌味のようにユウヒに言われ、コウキは咄嗟にそう答えていた。

 ついに、フォレスタ王は観念したように息を吐いた。

「・・・ここまでやって来たのはお前たちだ。・・・任せよう」

 世界の異変に気付き、疑問を持って行動した若き王子や王女たち。

 もはや地上の命運は彼らと共にあると感じ、フォレスタ王は不思議な運命を感じた。

 たった一人の娘が月から降りてきたことから始まった物語が、もうすぐ終わりを告げようとしている。

 結末は、どうなるかわからない。

 若き王子や王女の望むように、地上と『黒い月』が共に救われることが可能なのかどうかもわからない。

 ただ今は、出来ることをするだけだ。

「・・・・では、指揮は任せるぞ、ユウヒ」

「はいっ!」

 それからしばらくして兵士たちの前に姿を現したのは、戦装束のユウヒだった。

 フォレスタ王と王の近衛騎士長は脇に控え、兵士を見渡せるよう台に登ったユウヒの足元には、立派な防具を与えられたコウキが立った。

 まるでユウヒの近衛騎士であるかのようなその姿に、兵士たちはざわついた。

 だが、王が平然としている為に何も言うことができない。

 ざわつきの波紋が広がっていく兵士たちを、ユウヒは片手を挙げて黙らせた。

「皆には長い間苦しい戦いを強いてきた!私が自分の立場から逃げていたことで、皆に心労もかけた!だが、赤と青の月の導きにより、世界の異変が正されようとしている!」

 ユウヒはゆっくりと兵士たちの顔を見渡した。

「・・・・これが、最後の戦いだ!だが忘れるな!我々の敵は、地上の民ではないっ!地上の民が再びひとつとなる為に戦うのだ!相手であれ己であれ、無駄に命の灯を消すことは許さないっ!」

 兵士たちは黙ってユウヒの声を聞いていた。

 大切な国民である兵士たちが自分の声を聞いてくれるのを見て、ユウヒは最後に、いつものようにニッコリと笑った。

「君たちと君たちの家族は、僕が守る!だから、決して僕より前へは出ないでくれ!我が国の守護神・豊樹神が力を貸してくれる!そして・・・」

 ユウヒは足元に立つコウキを示した。

「我が友『炎竜』コウキが、地上全ての為にその力を貸してくれる!我が国だけでなく他国をも恐れさせた男だ!皆、何が起きても恐れることはないっ!!」

 どんどん大きくなるユウヒの声に釣られて、兵士たちがときの声を上げた。

「・・・・言い過ぎじゃねぇ・・・?」

 これが煽動術というものかと感心しつつ、何が起きても大丈夫だという言い方にコウキは顔をしかめた。

 壇上から、ユウヒはくすりと笑う。

「これ位言っといていいんだよ。君の今後の為にもね」

「・・・あっそ・・・」

 煽る材料にでも何でもしてくれと、コウキは疲れたため息をついた。

 兵士たちはそんな事には気付かず、腰抜けと思っていた王子のこの上ない頼もしい言葉に、大いに士気を盛り上げた。

 むやみに殺すなとの命も、さすが我が国の王子、崇高なことこの上ないと誉め称えた。

「・・・さぁ!皆行こう!!」

 片腕を天に向かって突き上げたユウヒの姿に、ひときわ大きなときの声が上がった。

「・・・・王子を頼む・・・!」

 王の近衛騎士長にそう言葉を掛けられ、コウキはしっかりと頷いた。

 その日、フォレスタ軍はアルバ・ソルとヴラフォス連合軍が目指して進軍している、ヴラフォス側の国境へと向かい出発したのだった。


「・・・・なぁ、コウキ?」

「うん?」

 ユウヒは馬上から、自分のすぐ側を同じく馬で進むコウキに話し掛けた。

「君が追い付いて来るまでの間に、ずっと考えてたんだ・・・」

「?・・・なんだ?」

 前方を見据えたまま改まった口調で話し出したユウヒの様子を横目で見たコウキは、その真剣な表情に眉を寄せた。

「・・・・今頃、うちの城で、やっと二人結ばれてるのかなって・・・」

「この非常時に下ネタかよっ!!本っっ当お前ビックリするわ!!」

 淡々と声を発したユウヒの言葉に、コウキは馬上で思わず怒鳴っていた。

 これから戦いに出るという時にとんでもない事を言ってくれるものだと血圧を上げるコウキに、ユウヒは爽やかな笑顔を向ける。

「あははは。だって気になるじゃないか。変なとこ律儀な君のことだから、何もしないで来たんじゃないかって思っ・・・」

「我が身我が魂に集いし・・・」

「・・・まぁ、というのは冗談で」

 据わった目で呪文を唱え出したコウキを見て、これは自分の予想が当たったなと苦笑しつつユウヒは話題を変えた。

 死ぬつもりは無いにしても、戦いでどうなるかわからないのに無責任なことは出来なかったのだろうコウキに、今度こそユウヒは真面目な顔を向けた。

「本当に考えてたのは別のことだよ。『黒い月』のことだ」

 ユウヒの真っ直ぐな瞳を見、コウキは呪文を引っ込める。

 それで当たり前だと頷くコウキに、ユウヒは続けた。

「豊樹神に確かめてみたんだ。アルバ・ソルの紅陽神とヴラフォスの玄地神(げんちしん)、それに『黒い月』と通信できなくなっているそうだ。このままそれぞれの連合軍がぶつかり合うのは、人間を少しでも多く減らす為だろうけど・・・。それでもし守護神が一人でも欠けたら、困るのは『黒い月』だろう?6神が揃わなければ、こっちに来る道が開けないんだから」

「・・・・」

 ユウヒの言葉を聞き、コウキは目を細めた。

「って事はだ。大戦に乗じてあの黒い稲妻なんかで攻撃してきたとしたら、万が一守護神が犠牲になる確率も高くなる。・・・向こうの命運だって掛かってるのに、そんな危険を冒すだろうか?」

「・・・確かに、そうだな・・・」

 ユウヒの言葉を聞くうちに、コウキは違和感を感じた。

 おそらくユウヒが感じているのと、同じ感覚。

 何か根本的に間違っているような気がして、コウキは眉を寄せる。

 そんなコウキをちらりと見て、ユウヒは続ける。

「『黒い月』が乗じてくる以上の、裏があると思ってた方がいいみたいだな」

「・・・ああ」

 ユウヒの言葉に頷きながら、コウキは一人残してきたリンの事が無性に心配になっていた。

 ーーーーコウキ!

 ーーーーユウヒ・・・。

 幻霧神と豊樹神の声が、二人の名を呼んだ。

 二人は頷き、じっと前方を見据えた。

 草原の向こうに、紅陽神と玄地神を従えた軍勢が見えた。

「・・・隊列を組め!」

 ユウヒの指示に、兵士たちは緊張した面持ちで、だが素早く行動した。

 ここからでも見える金色の獅子・紅陽神と、不気味な雰囲気を漂わせる黒騎士・玄地神に畏怖を感じていることは明らかだった。


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