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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アルバ・ソルの旅
105/119

長老登場

「っ・・・ん・・・」

「・・・どんだけお預けくってっと思ってんだよ・・・」

 我慢しているのだと言われそのまま熱い口付けを受けて喘いだリンは、驚きながらも喜んでいる自分を抑えられずにコウキの首に腕を回した。

「・・・ふ・・・っん・・・」

 無言のまま、むき出しになっている肩や背中、腰に手を這わせられ、その感触に反応してしまったリンは思わず甘い声を上げてしまう。

 ベアトップを押し下げればすぐに胸が露出する上に、巻きスカートの合わせ部分から手も入り放題だ。

 近くの木に体を押し付けられ、即行動に移そうとするコウキの手にリンは慌てる。

「ちょっ・・・ちょっと待って・・・!」

 少しだけと言ったのに、まさか野外でこれ以上事が運ぶなど思っていなかったリンはその性急な行動に抗議したが、その口はあっさりと封じられる。

 情熱的な口付けと、熱い手の愛撫によって。

「あっ・・・コウキっ・・・」

 少しだけでは済まないと言ったはずだとリンの抗議を封じたコウキは、無言のまま唇を移動する。

 首筋を伝って鎖骨を通り、胸に降りていったコウキの唇を感じ、リンはぎゅっと瞳を閉じた。

「んっ・・・あ・・・っ」

 熱い舌を感じた瞬間耐えられない快感が襲いその感覚を逃すように顔を背けたリンは、その一瞬の隙を狙ったかのように一番敏感な部分を目指してスカートに侵入してきた手にびくりとして瞳を開けた。

「あっ・・・だめ・・・っコウキ・・・!」

 木に押さえ付けられて逃げ場のないリンは、力では敵わず声だけで必死に訴える。

「だめじゃない。観念しろ」

「でもっ・・・みんな、待ってる・・・っ」

「うるさい。お前が悪い」

「・・・あっ・・・」

 挑発したのはそっちだと言われ息を飲んだリンの体に甘い電流がはしる。

 コウキの息も大きく乱れていた。

「・・・もう、我慢なんか出来ねーから」

『・・・・こりゃ』

「あ・・・コウキっ・・・ん・・・!」

『・・・・・・・こりゃ』

「待っ・・・!あっ・・・んんっ・・・!」

『・・・・おい・・・ちょっと・・・』

「リンっ・・・」

『こりゃ~~~!!いい加減気づかんかいっコウキ~~~!!』

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

 突然辺りに響いた大音響の怒鳴り声に、お互いだけに集中していて無防備だったコウキとリンは悲鳴を上げた。

 誰かに見られていたのかと、あたふたと服を直すリンの前でコウキは声のした方に勢いよく振り返った。

「この声はっ・・・!」

 ずらされていたベアトップを直し、胸元を押さえてコウキが顔を向けた方を見たリンの目に映ったのは。

「・・・やっぱじじいかぁーっ!!」

 コウキの叫ぶ声を聞きながら、リンは宙に浮かぶ半透明の老人を見た。

「・・・・・・・」

 驚き過ぎて声も無く見つめるリンには目もくれず、半透明の老人は空中からコウキを見下ろしてスッと目を細め、大きく息を吸った。

『・・・この、ばっかもーんっ!!さっぱり連絡も寄越さんと何しておったぁ~!!』

 ビリビリと響くような怒鳴り声にリンは思わず目をつぶったが、コウキは負けていなかった。

「うるっせぇー!いいところ邪魔しやがって!!いきなり出てくんじゃねぇっ!!」

『青き月のばばあを保護して地上を救えと言ったのに、自分の役目も果たさんとこんな所でどこぞの娘とチョメチョメしとる奴が偉そうにぬかすなっ!!』

「チョメチョメ言うなっ!!古ぃんだよっ!!このくそじじいっ!!」

『なにをぉうっ!?この放蕩孫息子がっ!!幻霧神まで勝手に連れ出しおって!!』

「いらねぇのに勝手について来たんだっ!!」

『なんだとこのバチ当たりがっ!!だいたい出ていくなら子供の5~6人も作ってから行けばいいものを!!見合いも全部すっぽかしおって!!お前には赤き月を担う責任があるんじゃぞっ!?』

「そうやって縛り付けるから出てきたんだっていい加減気付けっ!!くそじじいっ!!」

『自分の役目から逃げとる奴が一丁前なことぬかすなっ!!』

「逃げてねぇっ!!自分の役目は自分で決めるっ!!」

『生意気な事を言うなっ!!』

「・・・あ、あのっ・・・!!」

 コウキと半透明の老人の凄まじい言い合いに圧倒されていたリンは、自分の手を握ってなんとか声を絞り出し、一歩前へ出た。

「・・・もしや・・・赤き月の長老様です・・・!?」

 老人は、正体を言い当てた娘の顔をこの時初めて見た。

『・・・お前さんは・・・?』

 目を細めた老人ーーーーコウキの祖父であり赤き月の長老は、リンを上から下まで訝しげに眺め透かした。

『・・・上から86、60、85か・・・』

「消えろこのエロじじいっ!!」

 リンのスリーサイズを目測した祖父に、コウキはカッと眉を怒らせて怒鳴る。

「・・・すごいわ・・・当たってる・・・!」

「お前も変なとこで感心すんなっ!!」

 さすが長老様だと神妙な顔で口元に手を当てているリンに怒鳴ってから、コウキは祖父に向き直った。

「このリンが青き月の使者だっ!!ちゃんとやってんだよ俺はっ!!」

 言われた通りに青き月の使者と合流し、地上を救うために動いているのだからとやかく言われる筋合いはないと言い放ったコウキを無視し、長老はリンをじっと見つめた。

『・・・・こんな若い娘が来るなら、わしが行けば良かった・・・』

「『消えろ』っ!!」

 代理で行ってくれと連絡を寄越したときには、ぎっくり腰でもうだめだと弱々しく頼んできたくせに都合のいいことを言う祖父に激怒したコウキが言霊を使ったが、長老は鼻で笑っただけだった。

『ふん。相変わらず未熟者が。そんな言霊がわしに通じるか』

「・・・くっそぉ~・・・!」

 心底悔しがるコウキをもう一度鼻で笑ってから、長老は再びリンを見た。

『・・・そうかい・・・お前さんが・・・。あの事故(・・)のことは、わしも聞いておるよ』

「っ!」

 長老の言葉に、リンはハッと顔を強張らせた。

「事故・・・?」

 何のことかわからないコウキは眉を寄せたが、リンはコウキの方を見なかった。

『わからん奴はわからんでいい。それより・・・そっちに隠れとる者たちは仲間か?』

「「え?」」

 長老の言葉にコウキとリンが目を瞬いた瞬間。

「「「・・・うわっ!?」」」

 木の陰からミルア、ユウヒ、ヒエンの三人が転がり出てきた。

「いっ・・・てててっ・・・」

『ふん。バカ孫息子なっとらんな。チョメチョメ覗かれておったようだぞ?』

 目を細めて見下ろす長老の前で、倒れ込んだ三人は体を起こす。

「チョメチョメってなんだ?」

「ミルア、それは女の子が口にする言葉じゃないよ?」

「要はエッ・・・ぐふっ!」

「下品だよ、ヒエン?」

「お~ま~え~らぁ~!」

 立ち上がりながら言い合う三人に、コウキが地を這うような声を出す。

 その鋭い視線に気付いたユウヒはニッコリと振り返った。

「いやぁ、珍しくミルアが包丁なんか握ろうとしてるから。何かあると思ってね」

「・・・ごめん、二人とも・・・」

 あっさりバレてしまったと縮こまるミルアを優しく見てから、ユウヒは爽やかに笑う。

「僕だって婚約者(ユリカ)と離れて数ヶ月ずっと禁欲生活なんだ。そう簡単にいい思いをさせると思うかい?」

「・・・婚約者・・・いるんだ・・・」

 爽やかに腹黒いことを言ってのけたユウヒのそばで、しゃがみ込んだヒエンがどんよりと地面にのの字を書いていた。

『ふん。なかなかの者どものようじゃの』

 仲間の面々をそれぞれ見て、長老は目を細める。

 ユウヒは一歩前へ出て、長老に向けて優雅に一礼した。

「お初にお目にかかります。赤き月の長老殿。僕はフォレスタのユウヒ。こちらがマール・モーリェのミルア。ウェントゥスのヒエンです。・・・言霊を飛ばして様子を見に来られたのですか?」

 その丁寧な物腰に少し気を良くし、長老は表情を和らげた。

 半透明なその姿はどう見ても実体ではない。

 言霊の力も少しは理解している風なユウヒに長老は頷く。

『そうじゃ。・・・思った以上の力の干渉があったようだな』

 その言葉に、全員がハッと表情を引き締めた。

『事態は我々の予想を遥かに上回っとる。幻霧神から下された神託は「地上の守護神たちが人間を操って戦わせ、人間を滅ぼそうとしている」。それだけだった』

「・・・ちっ・・・役に立たねぇな、幻霧・・・」

 口の中で呟いたコウキの悪態を聞き逃さず、長老はカッと目を開く。

『このばかもんっ!だいたい契約者になったんなら、もっと幻霧神とコミュニケーションを取らんかいっ!』

「・・・あいつ出てくるとうるせーんだよ・・・」

『うるさがっとる場合かっ!神じゃぞ神っ!!ばかたれがっ!!』

「うるせぇなっ!!わざわざ説教しに来たのかよっ!!」

 無駄に長く生きてるじじいなら、為になることの一つや二つも言ってみろと喧嘩腰のコウキを、長老はぎろりとにらんだ。

『当たり前じゃいっ!!お前が連絡を怠るから悪いっ!!とにかく何がどうなっとるのか説明せいっ!!』

 その言葉に一同は顔を見合せ、今までの出来事をそれぞれの視点を交えながら長老へ報告した。

 長い話を聞き、長老はゆっくりと頷いた。

『・・・なるほど・・・。そこまでの話になっておったか』

 重い沈黙の中で目を伏せて呟いた祖父を、コウキは冷たい目で流し見る。

「じじい、『黒い月』なんて知ってたのかよ?」

 コウキの問いに長老はゆっくりと目を上げ、それぞれの顔を順番に見て最後にコウキに目を留めた。

 その意味深な態度に、一同はごくりと息を飲む。

『・・・・いや、全然』

「この役立たずじじい~~~っ!!」

 間髪入れずコウキの怒鳴り声が響き、リン、ミルア、ユウヒはがくりと脱力する。

「・・・さすがバカ竜のじじいだな・・・」

 あきれ顔でぼそりと呟いたヒエンをギラリとにらんでから、コウキは祖父に向き直る。

「ほんっとに何しに来たかわかんねぇなっ!!普通、なんか事態の解決法とか教える場面だろーがっ!!」

『あほかっ!!そんな都合良くいけば世の中苦労せんわいっ!!知らんもんは知らんっ!!』

「うがぁ~っ!!もう本っ当うるせぇだけのじじいだな!!」

『お前に言われたくないわいっ!!とにかくこっちはこっちで調べる!!お前はお前の出来ることをやっとれっ!!』

「言われなくてもそうする!!早く消えろっ!!」

 散々言い合いぜいぜいと息をする二人を見て、仲が良いのか悪いのかわからないとミルアとユウヒは苦笑した。

 これ以上反抗期の孫に構っていられないとばかりにコウキから目を反らした長老は、リンに向き直った。

『・・・リンと言ったな。青き月の黄昏の姫、最後の娘よ。己れの運命を呪ってはいかん。全ては起こるべくして起こったこと。あれは事故じゃ。誰もお前さんを責めはせんよ。・・・・また連絡するからな』

 最後の一言をコウキに向かって言い、長老は姿を消した。

 忽然と姿を消した長老の残した最後の言葉に、ミルアは目を瞬く。

「・・・黄昏の、姫・・・?」

 何か、深い意味の込められた言葉だった。

「じじい、何の事言ってんだ?事故って・・・」

 自分の祖父ながらわけのわからないことを言うだけ言って消えるなんて、無責任だと不機嫌な顔をするコウキはリンを見た。

「・・・・リン?」

「リンちゃん・・・?」

 ただ一人、見開いた目で空中を見つめたまま真っ青な顔をしたリンは、ユウヒとヒエンに名を呼ばれてもまるで聞こえないかのように微動だにしなかった。

 いや、出来なかった。

 かくかくと震え出したその体に気付き、ミルアは真っ先にリンに駆け寄る。

「リン?どうしたんだっ?具合悪いのかっ!?」

 震える体を抱き締め、見上げたミルアの姿は、しかしリンの瞳には映っていなかった。

「リン・・・?」

 どこか違う遠い所にいるようなその瞳に、ミルアは不安になってリンの名を呼んだ。

「・・・リンっ!」

 ミルアに腕を掴まれて揺すぶられ、強く名前を呼ばれてリンはやっとハッとした。

「・・・あ・・・ミルア・・・」

 目の前にいるミルアに初めて気付いたかのようにその名を呼んだリンの様子に、ユウヒは目を細め、ヒエンは目を瞬いた。

「リン」

 浅い呼吸を繰り返しているリンは、コウキの静かな声に名を呼ばれ震えながら視線を上げた。

 ただ真っ直ぐな瞳が、リンを見詰めていた。

 そして、心配そうな仲間たちの視線をやっと認識したリンは、瞳を閉じてゆっくりと息を吐いた。

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