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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
103/119

・・・・ん?

幕間・2ですね。

「・・・・あっぢぃ・・・・」

「暑いっていうとよけい暑くなるから、暑いって言わないでコウキ・・・」

「・・・・リン、何回も言ってるぞ・・・」

「・・・・ごめん、ミルア・・・・」

 熱帯地方に入った一行は、湿気が多くジメジメした暑い森の中を歩いていた。

 今まで通り、あまりひとけのない地域を選んで旅を続けている為、道は非常に厳しかった。

 南国風の衣服を身に着けていても暑いものは暑く、慣れない温度と湿度にどんどん体力が奪われていった。

「いやぁ、同じ森でもフォレスタとは全然違うなぁ~」

「・・・・お前のそのターバン、見てるだけで暑い・・・」

 マイペースに歩きながら植物などを手に取って、その大きさに驚いているユウヒを振り返ったコウキがジト目でつっこむ。

 さっきから皆と同じように暑い暑いと言ってはいるが、それでも涼しげな顔をしているユウヒはさすがと言えた。

 コウキもリンもミルアも、ジットリとして疲れた顔をしていたのだ。

 振り返るその三人の顔を見て、苦笑したユウヒは口を開いた。

「・・・まぁ、三人とも彼よりはマシだね?」

 そう言ってユウヒは、更に自分の後方を振り返った。

「大丈夫かい?ヒエン」

 ユウヒにつられて同じ方を見た三人の目に映ったのは、一行の中で一番の長身でだらりと肩を落とし、重そうに歩いてくるヒエンの姿だった。

「・・・なんで風がねぇんだよ・・・あっちぃ・・・ジメっとして重い・・・風・・・風が欲しい・・・なんでこんな所俺様が歩かなきゃならねぇんだよ・・・あー・・・あぢぃ・・・」

 ぶつぶつと呪いの言葉を吐きながら足を引きずってくるヒエンの姿に、リンとミルアはため息をついた。

 あんなに偉そうにしていたくせに、ここに来てぐだぐだと情けなくちびりちびり文句をたれているヒエンに、コウキは眉をひきつらせた。

 そもそも、戦の遠征でもこんな風に自らの足で地道に歩くことなどしたことのなかったヒエンだ。

 風のように動く景色には慣れていても、いつまでも同じような風景の中を一歩一歩歩くことに最初の数日で飽きてしまっていた。

「・・・ったく、よくお前らこんな旅してられるよな・・・セレブな俺様がすることじゃねぇよ・・・もっとこう、快適に・・・あ・・・!」

 何かを思いついたヒエンはパッと顔を上げ、それまでだらしなかったのが嘘のようにスタタタタっと元気にリンに駆け寄ってきた。

「・・・リンちゃん!言霊でこうバビューンと一気に飛んでっ・・・」

「あほっ!!」

 間髪入れずにヒエンの頭にコウキのげんこつが炸裂した。

「いってぇなっ!なんでダメなんだよっ!?」

「ばかやろうっ!んなことしたら目立つし、だいたいリンが保たねぇだろっ!?」

「・・・んじゃ、せめて、涼しい風をこう・・・さわさわ~っと・・・」

 リンの力にも限界があると教えられたヒエンは、控え目に希望を口にしたが、リンは困ったような顔をした。

「そうしてあげたいのはやまやまですけど・・・ユウヒ様が・・・」

 全員の視線を受け、巨大な木の葉っぱの裏側を観察していたユウヒはニッコリと笑った。

「ダメだよ。そんなことしてたら、いつまでも体がこの気候に慣れないだろう?」

 不必要に甘やかすのは良くないと微笑み付きでキッパリと言われては、全員黙るしかなかった。

「郷に入れば郷に従え。辛いかもしれないけど、ヒエンも我慢しよう。わかったかい?」

「・・・・ああ・・・・」

 名を呼ばれたヒエンは、ユウヒと目を合わさないようにしておとなしく頷き、先頭をきって黙々と歩き出した。

「このところ、ヒエンもユウヒに逆らわなくなったよなぁ?」

 ヒエンの背中を見ながら、ミルアがポツリと呟いた。

 コウキも頷く。

「だよなぁ?あんなに腰抜けだなんだって上から目線だったくせに、気持ち悪ぃよな」

 頷き合うコウキとミルアに、少しためらってからリンが口を開いた。

「・・・・私、思うんだけど・・・」

「「ん?」」

 自分から何かを言おうとしたリンは、しかしコウキとミルアの二人に視線を向けられ、やはり言いにくいと口元に拳を当てる。

「・・・ん~・・・なんとなくだけど・・・」

 ここまで来てまだ言おうかどうか迷っているのを二人に不思議そうに見つめられ、リンは意を決した。

「もしかしてヒエン様・・・ユウヒ様のこと・・・好きなんじゃ・・・」

 忙しく目を瞬きながら言いにくそうに、目を合わさずボソボソと言われたその言葉の意味を理解するには、束の間の時間が必要だった。

 普通の「好き」なら、リンがそんな表情になるはずがない。

 現に、コウキはユウヒのことが好きなのだろうと言いかけた時には、リンはすこぶる明るい笑顔だった。

「・・・・待て。待て待て待て。奴ぁ無類の女好きだろが・・・」

 コウキにとっては恐ろしいことこの上ないが、そういう人種がいることは一応知識として知っている。

 だが、自分の城に片っ端から姫君たちを集め、いかがわしい媚薬まで持ち込んで遊んでいたヒエンだ。

「それにお前・・・ヤリたきゃヤるって自分から言いふらしてる奴が・・・」

 リンとて身をもって知っているはずのヒエンの性質。

 それがおとなしく従順になるなど、有り得ない。

 やりたいことはやりたいし、欲しいものは欲しいのだと、コウキに面と向かって宣言したのだ。

「・・・・でも・・・・」

 リンと同じく口元に拳を当てて何かを思い出すように考え込んだミルアに、コウキは顔をひきつらせる。

「やめろって。何も思い当たるふしなんてねぇって・・・」

 コウキの願いも虚しく、ミルアは拳を口に当てたまま、呟いた。

「そう言えば、ヒエン・・・剣の手入れしてるユウヒを見詰めてから、ため息をついてたことが・・・」

「やっぱり・・・・」

 神妙な顔で頷き合うリンとミルアの言葉に、コウキは青ざめる。

「・・・・いやいや、だからってそう(・・)とは限らんだろ・・・」

 消え入るようなコウキの声は聞こえなかった様子で、リンはパッと顔を上げた。

「そういえば!食事中にスプーンをユウヒ様に渡されて、ひっくり返った声で返事したこともあったわね!」

「・・・それに、今朝ユウヒに起こされて、変な大声出して飛び起きてたな・・・」

「それに、あんなことも・・・」

「や~め~ろ~!んな事あってたまるかぁっ!」

 次々に出てくる話に耐えられなくなり、コウキは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 そのコウキの肩に、悟ったような笑みを浮かべたリンとミルアがポンと手を乗せる。

「コウキ・・・。人を好きになるのは自由よ・・・」

「周りがとやかく言ってもしょうがない・・・。そっと見守ろう・・・」

 女神のような笑みを浮かべる二人に、コウキはなおさらめまいを感じた。

「・・・こぉらっ!三人とも遅れてるよ?」

「「はぁ~い♪」」

 前方からユウヒに呼ばれ、リンとミルアが爽やかに返事を返して小走りに行った後も、コウキはしばらく立ち直れずにしゃがみ込んでいた・・・・。


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