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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
101/119

女子トーク、男子トーク

 気を取り直して野営を準備をするころには、すっかり遅い時間になっていた。

 晴れた夜空には、リンの青き月が細い曲線を描いていた。

 太陽の国アルバ・ソルに近づいているため、気候は暖かくなっている。

 そんな中、近くに泉を見つけたリンとミルアは二人で水浴びをしていた。

「・・・・こうしてると、出会った時のことを思い出すなぁ」

 しみじみと呟いたミルアに、リンはくすりと笑った。

「そうね。あの時はいっぱいビックリしたわ」

 突然空から落ちてきたミルア。(実際は木の上からだが)

 大金を持ち、一人では体も洗ったことがないのだと言われ、一緒に水浴びをした。

 それが今はミルアもすっかり旅慣れ一通りのことはこなせるようになり、果ては一人でテントを張ることまでできるようになっていた。

 リンは笑みを深めながら、ミルアの美しい髪を水で濡らして鋤く。

「こんなにたくましいお姫様は他にいないわね」

 ミルアはニッと得意気に笑った。

「そうだろう?じっとおしとやかにしてるなんて、私の性に合わない!やりたいと思うことができて、私は幸せだ!」

 例えそれが、傷や埃にまみれ危険を承知で戦う道だとしても。

 キッパリと言ったミルアの潔さに、リンはそっと微笑んだ。

「ミルアらしいわね。・・・私は、あなたのその真っ直ぐな強さがずっと羨ましかった・・・」

 静かなその声に、ミルアは首を傾げた。

「リンだって強いだろう?」

 意志の強さは、頑固という名を借りて仲間全員のお墨付きだ。

 だが、リンは頷かなかった。

 髪を鋤かれながら、ミルアはリンに振り返る。

「・・・・リン?」

「・・・ミルア、私ね・・・今こんな時だけど、とっても幸せよ?」

 ずっと一緒にいてリンとコウキを見守っていたミルアは頷いた。

「・・・でも・・・でもね・・・私、本当は幸せになんかなっちゃいけないんじゃないかって・・・」

「なっ・・・!?」

 リンの口から出た言葉にぎょっとして、ミルアは思わず体ごと振り返っていた。

「どうしてそんなこと言うんだ!?リンが幸せになっちゃいけないなんて、そんなことあるはずないっ!私は誰よりもリンに幸せになってほしいのにっ・・・!」

 初めて会った時から、その優しさ温かさに惹かれた。

 その魂の持つ強さに憧れた。

 志を共にできる、ミルアにとっては大好きで大切な『友』だ。

 コウキと共に絶対に幸せになってほしい人物であるのに。

 涙ぐむミルアの顔を見て、リンは儚い笑みを浮かべる。

 リンがなぜそんなことを言うのかわからないと、ミルアの顔に書いてあった。

「ミルア・・・私・・・私ね・・・」

 何かを打ち明けようとしているリンを、どんな事でも受け入れようとじっと見詰めたミルアは身を乗り出す。

「私・・・」

 ごくりとミルアが唾を飲み込んだ。

 リンも、ミルアを見詰めた。

「・・・・私、雷落とした方がいい?」

「・・・・そうだな」

 冷めた瞳になったリンとミルアの視線の先に、泉の周りにリンが張ったのぞき防止用の結界にへばりつくようにして中を見ようとしているヒエンの姿があった。



 時間は少し戻り、水浴びに行くリンとミルアを見送った男三人は焚き火を囲んでいた。

 風奏神はヒエンの中に姿を消していた。

「・・・あ~、女の子がいねぇとつまんねぇな~」

「だったら帰れよ」

 男だけでは華やかさが無いとぼやいたヒエンの言葉に、間髪入れずコウキが言った。

 食後から寝るまでのゆったりとした時間に気分の悪い発言をされてむっつりとするコウキに、ユウヒはくすくすと笑いながら日課の剣の手入れをしていた。

 一言で切り捨てられたヒエンは唇を尖らせて拗ねる。

「んだよ機嫌悪ぃなぁ~。俺、別にケンカ売ってねーじゃん」

 ちょっと一言呟いただけなのに、帰れとまで言われるのは心外だと言うヒエンに、コウキはこめかみをひきつらせる。

「てめえの声聞いて機嫌良くなるわけねぇだろうが・・・」

 低い声でうなるように言ったコウキの言葉に、ヒエンはきょとんと目を瞬いた。

「・・・・何?もしかしてお前、まだ根に持ってんの?」

 リンにちょっかいをかけて殺されかける程コウキを激怒させたことは、さすがのヒエンでもまだ記憶に新しい。

 だが、そんなに尾を引くようなことだとは思っていなかったとでも言うようなヒエンのあっさりした態度に、コウキはカッと眉を怒らせた。

「・・・コウキ」

 大声を出す前に静かにユウヒに名を呼ばれたコウキは肩の力を抜き、戦法を変える。

「・・・まぁ、独り身のてめえにはわかんねぇな」

 ちょっと無理をして余裕の笑みを浮かべ肩をすくめて見せたコウキの態度に、今度はヒエンがムッとする。

「んだよエラソーに。俺様はみ~んなの俺様なんだよ。一人に縛られねーの!ちょっと珍しい女手に入れたからってイイ気になんなよな。てめえは畑でも耕してろ、鈴虫!」

「あんだとこのカブト虫っ!!」

 我慢できずに勢い良く立ち上がった二人を、ユウヒは笑顔のまま見上げた。

「・・・こら、二人とも・・・」

「けっ!結婚したわけでもねぇくせにっ!!」

「てめえに関係ねぇだろっ!!うるせぇんだよ!!永遠に黙ってろ!!」

「・・・こら・・・」

「言っとくけど俺様の方がモテるんだからなっ!!国の英雄なんだからなっ!!」

「自分で言う奴ほど大したことねぇんだよっ!!」

「なぁにぃ~っ!?てめぇコラもういっぺん言ってみ・・・」


 カチン。


 ユウヒが手入れしていた剣を無言で鞘に納めた。

 なぜかその小さな音にびくりとし、ケンカをしていた二人は黙る。

 ユウヒは変わらず笑顔を浮かべていた。

「二人とも、子供じゃないんだからみっともない真似はやめなさい。せっかくリンが淹れてってくれたお茶に砂埃でも入ったら台無しだよ?」

「「・・・・はい」」

 立ち上がり、今にも取っ組み合いでもはじめそうだったコウキとヒエンは、おとなしく腰を落とした。

 そして、ヒエンは我に返る。

(・・・なんで俺様、素直に座ってんだっ!?)

 ニッコリと笑っているのに、有無を言わさぬ迫力を感じ思わず気圧されてしまったのだと遅ればせながらながら気付いたヒエンは、ギリッと奥歯を鳴らした。

(こんな優男の腰抜けに・・・っ!!)

 自分が迫力負けするような相手であるはずがないのに。

(・・・バーカ。まだわかんねぇのかよ?)

 向かいに座ったコウキに小声で言われ、ヒエンはムッとする。

 だが、自分の最大のライバルだと思っていた『戦荒らしの炎竜』コウキも、ユウヒにはおとなしく従っているのが事実だった。

 ヒエンは顔をしかめて舌打ちをする。

(おいこら、バカ竜!てめえいつから腰抜け王子に飼い慣らされたんだよっ!?)

(飼い慣らされてねーよっ!でもユウヒを侮ってると、泣くぞ?)

(泣くかよっ!おかしーだろ!!絶対に俺らの方が強いって!)

(だぁからわかってねぇんだよ、てめえは)

(んだよまたエラソーに!!)

「・・・あ~、ごほん。それより、ヒエン?」

「はいっ!」

 ごしょごしょと小声で言い合うコウキとヒエンをニッコリと笑いながらながめ、わざとらしく咳払いをしたユウヒに名を呼ばれたヒエンは思わず背筋を正して返事をしていた。

 その立派な返事に満足げな笑みを浮かべ、ユウヒはヒエンを見つめて口を開いた。

「今更だけど、君が抜けて国の方は大丈夫なのかい?」

 軍をまとめて最前線で戦っていたヒエンがあっさりと国を出てこの旅に同行すると言い出した時にはただ驚き、慌ただしく出発して来た為にきちんと聞く機会もないまま今に至ってしまったが、同じ王子としての責任の重さをよくわかっているユウヒは真正面から尋ねた。

 いくらバカでおちゃらけてはいても、ヒエンとて王子として自覚し国を思って軍隊を率いていたのだと思ったからだ。

 そう問われたヒエンは妙な緊張感から解放され、肩の力を抜く。

「・・・ああ。本城にいる親父にはちゃんと伝達したしな。一時休戦すんなら、俺がいなくても大丈夫だろ。全部仕切ってんのは親父だし。・・・まぁ、15人目の嫁を構うのが忙しいってんで俺が前線に出てただけだし」

「・・・・は?」

「・・・・なんつった?今・・・」

 笑顔のまま固まったユウヒと、顔をひきつらせたコウキに見つめられ、ヒエンはそんな反応をされる意味がわからず眉を寄せる。

「だから、親父にはちゃんと伝達したから大丈夫だって・・・」

「そこじゃねぇよっ!てめえの親父、何人嫁いんだよっ!?」

「ああっ?」

 曲がりなりにも一国の王様に対しててめえの親父呼ばわりしたコウキに眉をしかめつつも、ヒエンはあっさりと答えを出した。

「だから、15人だよ」

 その返答にコウキとユウヒはポカンと口を開けてしまい、その顔を見たヒエンはやっと納得したように頷いた。

「うちの国は養えさえすれば何人嫁取ってもいいんだよ。じーさんだって17人の嫁持ってたしな」

 王様ともなれば経済力は申し分ない。

 何人でも、取り放題。

 そう言われ、話を聞いていた二人はただただ呆気に取られるしかなかった。

 そして、嫁を構うのが忙しいからと、国の命運を握る戦の前線を息子に任せる王様も王様だった。

「・・・さすが、バカ王子の親父だな・・・」

 思わず呟いたコウキの言葉に、ヒエンはムッとする。

「うちの一族は愛に生きる一族なんだっ!」

「・・・ただの女好きだろ・・・」

「じゃあ、ヒエンの愛は?」

 ぼそりと突っ込んだコウキの声に被せるようにして、ユウヒがヒエンに笑顔を向けた。

 その笑顔になぜか気圧され、ヒエンは一瞬だけ言葉に詰まる。

「・・・俺様は、女の子はみ~んな大好きだし。ヤラせてくれる女もいっぱいいるし。みんな可愛いし・・・」

「うん」

 言葉をニコニコと聞くユウヒに先を促されて、ヒエンは視線をさ迷わせる。

 みんな好き、みんな可愛いは、結局誰かを好きなわけではないという事。

 心の内を見透かされているようで、ヒエンは舌打ちをした。

「・・・・・・・・探し中!!」

 最後には根負けしてしまったヒエンは、とうとう本音を白状した。

 ユウヒはそんなヒエンにニッコリと微笑む。

「そうか。まぁ、きっとヒエンにぴったりの子が現れるさ」

「・・・・・・・」

 ムッとしたまま、ヒエンは微笑んでいるユウヒの顔をにらんだ。

 ユウヒは人の心を読む術に長けている。

 心の奥に隠している本当の心を暴いてしまう。

 誘導術ともまた違うそれは、きっとユウヒの本質の力。

 ユウヒの前では隠し事も見栄も通じない。

 本当の自分を見透かされている。

 そんな気持ちになり、ヒエンはぞっとした。

 コウキが、ユウヒのことをわかっていないと言った意味が、わかってきた気がした。

 面白くない思いで舌打ちしたヒエンは立ち上がる。

「・・・どうしたんだい?」

「つまんねぇっ!散歩っ!!」

 ニコニコするユウヒの顔を見ないようにして、ヒエンは逃げるようにキャンプ地を離れた。

 今まで自由気儘に、何不自由なく好きなことをやってきたが、あんな風に心の内を白状させられたのも、相手が自分より優位だと感じたことも初めてだった。

 ケンカで勝てなかったライバルのコウキ。

 本音を暴かれたユウヒ。

 どうも一緒にいると落ち着かない二人だった。

 荒々しい気持ちのままに林の中を歩いていたヒエンは、ふと気付く。

(・・・そう言えば、リンちゃん達が行った泉ってこっちの方だったよな♪)

 ちょうど良く気分が晴れるかもしれないと、ヒエンはキョロキョロと周りを見回した。

「・・・・ん?なんだアレ?」

 ヒエンの視界に、白い半球体のものが映った。

 まるで中に何かを隠しているようなそれは、くもりガラスのようになっていて中を見ることはできない。

 それでもなんとなく、中に人影が動いたような気がしてヒエンは目を瞬いた。

「・・・もしかして、これも言霊か・・・?」

 だとしたら、中に居るのは・・・・。

 瞬時にいろいろ想像を巡らせたヒエンは、思わず白い半球体に顔を近付けた。

 それが、マジックミラーのように中からは外の様子が見えるようになっているとは、露ほども思い付かなかった。



「・・・・ったく!!手間かけさせんなっ!!」

 突然の轟音に驚き駆け付けたコウキは、黒焦げになっているヒエンを発見した。

 何があったのかは、すぐにわかった。

 焦げたヒエンの首根っこを掴みズルズルと引き摺るコウキの後ろを、水浴びを終えて半球体の中できちんと衣服を着てから出てきたリンとミルアが怒った顔で憮然としたまま歩いていた。

 大事な話をしていたのにヒエンのせいで中断され、結局リンの話の続きを聞くきっかけを失ったミルアは余計にムッとしていた。

 そんな一行の帰還を、ユウヒは苦笑で出迎える。

「・・・やっぱり、懲りない性格だねぇ」

 何度でもめげずに挑戦するヒエンの姿勢は、ある種の尊敬に値すると、ユウヒは一人頷いたのだった。

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