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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
100/119

ツンデレ

「・・・・おい。おい、このバカ」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・おいって言ってんだよ!このバカ二人っ!!」

「うるせぇな。誰のこと言ってんだよ?」

 ーーーー口が悪いよねぇ?

「お前らだっ!!」

 真っ暗になった林の中に、コウキの怒鳴り声が響いた。

 虚ろな笑みを浮かべ、リン、ミルア、ユウヒは怒鳴られた二人を見つめる。

 つまり、コウキが怒る意味がわからないときょとんとしているヒエンと風奏神を。

「なに一人で怒ってんだよ?」

 ーーーーカルシウム不足?

「うるせぇ!これが怒らずにいられるかっ!!」

 暗闇に響くコウキの怒鳴り声を聞きながら、リン、ミルア、ユウヒは大きなため息をついた。

 怒鳴られたヒエンはムッとして唇をとがらせる。

「・・・んだよ、一人で大声出して、バカじゃねぇの?」

 リンたち三人は次の事態を予測して、耳をふさいだ。

 コウキがぴくりと眉を震わせ、大きく息を吸ったのがわかったからだ。

「・・・このバっカ野郎っ!!てめぇらがメシだメシだ騒いだせいでこんな林で野宿する羽目になったんだろうがっ!!次の町に行きゃ泊まれる宿があるっつったのはてめぇだろっ!!」

 コウキの怒鳴り声に反応し、夜行性の動物たちがぎゃあっぎゃあっと不気味な鳴き声をあちらこちらで上げた。



 ヒエンの城で話し合った結果。

 とにかく予定通り守護神たちのもとを訪れようということになった。

 風奏神いわく、リンの癒風光を浴びた守護神は何らかの変化を起こしており『黒い月』からの信号を受けにくくなっているはずだとのこともあり、守護神たちのリーダー的存在である太陽の国アルバ・ソルの紅陽神(こうようしん)にまずは会いに行くことになった。

 紅陽神なら『黒い月』についてもっと詳しい話を知っているはずだとの風奏神の言葉を信じ、コウキたちは腹を決めたのだ。

 自分の力で世界を救うと豪語するヒエンは当然コウキたちに同行すると言い出し、散々大騒ぎして揉めたが結局はコウキが折れることとなった。

  『黒い月』のことをペラペラと話した風奏神を、幻霧神が保護すると約束していたからだ。

 守護神は、契約を結んだ者と一体になる。

 つまり風奏神を伴うなら、もれなくヒエンも付いてくるのだ。

 そして、二人に契約を解除する意思は無かった。

 そんな事で大人数になった一行は、ヒエンの案内でウェントゥスを抜け、アルバ・ソルに向かっていた。

 ヒエンの話を聞き、このご時世めったに無い宿屋に泊まれると期待していただけに、やっぱり野宿する羽目になったことがコウキを苛立たせていた。

 と、いうのも。

「もうちっと我慢すりゃあそこそこの時間に宿に着いたんだっ!それをてめえが腹減った腹減った騒いで日も沈まねぇうちからメシ食わせろだ歩きたくないだ喚いたんだろうが!」

「だぁ~ってリンちゃんのメシうまいんだも~ん」

「もんじゃねぇっ!この大バカ野郎っ!!」

 あまりにヒエンが空腹を訴えて騒ぐため根負けしてしまったリンが、途中で休憩がてらに食事の準備をしたのだ。

 だが、食事を作るとなるとそれなりに時間がかかり、またヒエンがゆっくり味わって食べていた為、結局宿まで辿り着くには遅い時間になってしまった。

「・・・まだ何日も経ってないのにコレか・・・」

 ぎゃあぎゃあとケンカする二人にうんざりしつつため息をつくミルアに、ユウヒも賛同する。

「先が思いやられるねぇ。ヒエン王子も懲りない性格みたいだし」

 とにかくコウキをライバル視しているため何かと絡み、その都度ケンカになるのだ。

 やれやれと首を振ったユウヒに、コウキとヒエンはキッと顔を向けた。

「・・・ユウヒ!同じ王子だろ!もっとビシッと言えよ!!」

「いや!王子に対してこんな口をきく奴を野放しにしてるユウヒが悪いっ!!」

「・・・なんだい?今度はこっちに矛先かい?」

 名指しで責められたユウヒは、ニッコリと極上の笑みを二人に向けた。

 その笑顔を横から見たリンとミルアはびくりと震えて手を握り合う。

「・・・ユウヒ様、怖い・・・」

「怖すぎる・・・」

「いいかい二人とも?新しい目標に向けて今は力を合わせなければならないんだよ?子供みたいなケンカは慎みなさい」

 ニコニコとたしなめられたヒエンは、しかし空気の読めない男だった。

「何言ってんだよっ!このバカ竜が勝手に騒いでんだ!てめぇ腰抜けのくせに偉そうに口出しすんなっ!!」

「リン」

「『落雷』!」


 バリバリバリバリバリバリ!


 微笑んだままのユウヒに静かに名を呼ばれたリンの言霊が、コウキとヒエンに炸裂した。

「・・・うわ、雷久しぶり・・・」

 炸裂した光に思わず目を押さえたミルアは、そっと目を開けて虚ろな笑みを浮かべた。

 リン、ミルア、ユウヒの見る前で、コウキとヒエンは同時に起き上がる。

「・・・こらっなんで俺までっ!!」

「酷いじゃないかっリンちゃんっ!!」

「・・・え、えと・・・つい・・・」

 有無を言わさぬユウヒの迫力に押されて条件反射で言霊を使ってしまったリンは、ビリビリと痺れの残るコウキとヒエンに責められ、曖昧な笑みを浮かべて後ずさる。

 腰に手を当てたミルアはあきれた表情でため息をついた。

「ヒエン!無理に付いてきたんだから、我が儘ばかり言うな!コウキ!気に食わないのはわかるけど、一回一回怒鳴るな!ユウヒの言う通り、子供っぽいケンカしてる場合じゃないんだぞ!?」

 一番年下のミルアにもっともな事を言われて怒られ、コウキとヒエンはむっつりと口を閉じ、二人に責められていたリンはホッとした。

 ユウヒは満足げに微笑む。

「コウキは僕の大事な友人だよ。君とも、そうなれたらいいんだけどね」

「ああっ?」

 暗にコウキが対等な口をきくことを許していると言われた上に、敵対していた国の王子ともオトモダチになりたいなどと言ってのけたユウヒを、ヒエンはそら恐ろしい目で見た。

 腰抜けだと思っていたが、その上頭もおかしいのかと正直に顔に出たヒエンに、ユウヒは苦笑した。

「・・・もちろん、複雑な思いはあるよ。君は国民の求める王子として僕より優秀だし。どの国も大事な国民をお互いに殺されて大勢亡くなってる。・・・・でも、思うんだ。憎しみの連鎖はどこかで絶ち切らなければ、いつまでも続く。僕は自分の子供の世代にまで憎しみを背負わせる気は無い」

 キッパリと言い切ったユウヒの真っ直ぐな瞳を見、ヒエンはぐっと息を飲んだ。

 しっかりと未来を見据えた発言をしたユウヒが、そういえば只者ではない迫力を持っている者であったと思い出したヒエンは、同じく自分を強く見つめるミルアの視線に気付き二人に視線を返した。

「・・・じゃじゃ馬姫も同じキモチってか?おキレイ主義にはついてけねーよ。・・・・でもまぁ、俺はギスギスしてるよりは賑やかで楽しい方が好きだからな。いいんじゃねーの?」

 言ってため息をつき、肩をすくめて見せたヒエンに、ユウヒとミルアはホッとした。

「・・・・けっただの戦バカのくせに・・・」

 短く息を吐いて悪態をついたコウキにヒエンがムッとするより早くリンが反応した。

「コウキ!せっかくいい感じなのに、茶々入れないの!」

「仲良くしようがなんだろうが、こいつがバカなのには変わりねーよ。散々っぱら戦場で暴れてただけなんだから、ユウヒも変な遠慮なんかする必要ねぇ・・・」

「コウキったら!もうっ口悪いっ!」

「・・・リンちゃん、俺を庇ってくれるなんて・・・」

「庇ってねーよっ!」

「庇ってません」

「庇ってないと思うぞ」

「庇ってはいないと思うなぁ」

 コウキをたしなめたリンにキラキラした瞳を向けたヒエンは、四人に口を揃えて否定され、背中を向けていじけた。

 しゃがみ込んだその背中を、フワフワと飛んだ風奏神が慰めるようにぽんぽんとたたく。

 ユウヒはニッコリと微笑んでコウキを見た。

「リンがヒエンを庇ったんじゃなくて、コウキが僕を庇ってくれたんだよねぇ?」

「・・・っ!」

 ユウヒの一言に柄にもなく言葉に詰まったコウキを見て、今の会話を思い出してみたミルアはぽんと手を打った。

「あ、なるほど。そうか。つまりコウキは、ユウヒを認めてるってことか!」

「ばっ・・・ミルア!」

 何か慌てたように声を発したコウキの顔は、心なしか赤くなっているように見えた。

 その顔を見て、リンも何度も大きく頷く。

「・・・そうよね!そう言えば大会に出る前にもユウヒ様を励ますような事言ってたし!コウキってば、実はすごくユウヒ様のこと好・・・」

「紛らわしい言い方すんなっ!」

「あはははは、照れなくてもいいじゃないか。僕はちゃんとわかってるよ?」

「お前が勝手な解釈してるだけだっ!」

 わいのわいのと盛り上がり、なんだか友情を確かめ合っているような場面を見ながら、ヒエンはぽつりと呟く。

「・・・・なんだ?あいつはツンデレか?」

 ーーーーツンデレかなぁ?

 一歩、輪から外れてぼそりと呟かれたヒエンと風奏神の言葉を耳ざとく聞きつけたコウキは、二人を鋭くにらんだ。

「誰がだっ!てめぇは黙ってろっ!」

「・・・・図星?」

 ーーーー図星~?

 からかうようにニヤニヤした顔で言われ、コウキは限界に達した。

「うるっせぇーーーーーっ!!」

 真っ暗な林に、再びコウキの怒鳴り声が響いたのだった。

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