野営
夜になり、三人は火を起こして野営を決めた。
残りのパンや途中で採った木の実などで食事を摂ると、ミルアはすぐに眠ってしまった。
「・・・今まで、気を張ってたのね」
「そうだろうな」
毛布代わりに集めた落ち葉を掛け直してやりながら言ったリンに、コウキは頷いた。
一人では、夜などとても安心して眠ることなど出来なかっただろう。
「・・・どうして、こんな子が一人で・・・」
ポツリと呟いたリンの言葉に、コウキは焚き火の火を直してながら口を開いた。
「普通じゃないことは確かだけど、詮索はしない方がいいんじゃないか?あんたも同じだろ?旅の目的、言ってないもんな」
リンは焚き火越しにコウキを見た。
「・・・あなたは?本当に旅の剣士なの?」
リンに問われたコウキは、焚き火から目を上げた。
じっと見るリンと目が合い、しばらく沈黙してからコウキは静かに口を開いた。
「・・・実は俺、ある国の王子で、フォレスタに亡命を・・・」
「えっうそっ!?」
「・・・スミマセン、うそです」
ビックリして身を乗り出して声を上げたリンの反応を見て、コウキは素直に頭を下げた。
またもや騙されたリンは、騙されたことに気付き悔しくてこぶしをぷるぷると震わせる。
「あ・・・!」
「しーっ!でかい声出すなよっ!」
思わず怒鳴りそうになったリンは、コウキがぐっすり眠っているミルアを示すのを見て慌てて口を押さえた。
だが、それではもちろん気持ちは収まらず、膨れっ面でにらむリンを見てコウキは吹き出してしまった。
「くっくっくっくっ・・・!」
笑われたリンは、更にふくれた。
「あんたおもしれーな。素直なんだか、素直じゃないんだかっ・・・!」
笑いが収まらないコウキをにらみながら、リンは口を開いた。
「・・・おっと」
声を出す前にコウキの手が伸びてきて口をふさがれ、リンは目を見開いた。
「水攻めも風の刃もいらねーよ」
まさに呪文を口にしようとしていたリンは驚いてコウキを見た。
コウキは、静かな目をしていた。
「・・・あんたの力はそういうものだろ?紡いだ言葉がそのまま力になる。・・・地上には無い力だ」
スラスラ言い当てられ、リンは呆然とした。
おとなしくなったリンから、コウキはそっと手を離す。
「あなた・・・どうして・・・」
なぜわかったのかと見つめるリンに、コウキは得意気に笑った。
「ちょっと見てればわかる。あのじーさんをぶっ飛ばせなかったのも口がふさがってたからだろ?ま、ミルアは気付いてないだろうし、弱点知ってるのは俺だけだから心配すんな」
「・・・・」
心配するなと言われても、自分の弱点を人に知られて安心できるはずがない。
強張った顔になってしまったリンを見て、コウキは苦笑する。
「・・・まあ、信用できないやつにそう言われても、な」
コウキのその言葉に、リンはピクリと反応した。
その様子に気付かず、コウキはごろりと横になる。
「あんたも休めよ。また明日から歩くんだからな」
そう声を掛けてもまだ動かないリンに気付き、コウキは顔を動かした。
リンは困ったような戸惑ったような、なんとも言えない瞳でコウキを見ていた。
「?・・・どうかしたか?」
疲れているだろうに休もうとしないリンにコウキは目を瞬く。
まだ困った顔で固まっているのを見て、笑みを浮かべた。
「添い寝してほしいとか?」
「違うわよっ!・・・そうじゃなくて」
一瞬カッとなったリンだが、すぐに落ちつきを取り戻しコウキを見た。
「そうじゃなくて・・・あなたすぐそういう事言うけど・・・ウソもつくけど・・・悪い人には思えない・・・」
何が言いたいのかわからず、コウキは上体を起こしてリンを見た。
「はっきり言って、私、自分でも充分怪しいと思う。なのに、あなたは何度も助けてくれた。ミルアのことだって、そうよ」
「ああ、本当に俺が金だけ持って逃げたら、どうすんだよな?あんなに簡単に人に大金なんか見せたりして。危ねーよな」
このご時世だ。金など持っているだけで殺されかねない。
ましてやミルアのように「私は金持ちだ」なんて言い回っていたら、命がいくつあっても足りない。
コウキは苦笑したが、リンにはミルアがそんな不用心な娘には見えなかった。
きっと直感でコウキを信用できると思ったのだろう。
「・・・あなたが、一番変だわ」
「はぁっ!?」
突然言われた言葉にコウキは眉をしかめた。
「なんだよ、それ。失礼だな~」
だがリンは動じなかった。
「だってそうでしょ。得体の知れない人間と旅なんて・・・」
「ちゃんと契約しただろ?」
そういう問題ではないとリンは唇をかんだ。
「・・・私は、護衛の契約なんて、してほしくなかった・・・」
なんだか泣きそうな様子で俯かれ、コウキはちゃんと起き上がる。
「・・・それって、巻き込みたくないって言ってたアレか?・・・そんな大それたことに関わってるのか?」
「・・・・」
リンは俯いたまま、頑なに口を閉ざした。
「・・・本当は相棒がいるはずだったんだろ?あんた一人でできることなのか?」
結局待ち合わせの相手も見つからないまま、首都へ向かおうとしているリンは、コウキの言葉にぎゅっとこぶしを握った。
「・・・できなくても、やらなきゃ」
思い詰めた瞳をしていたリンは、次に顔を上げた時には笑顔を浮かべていた。
「どっちにしても首都に着いたら別行動よ。あなたはちゃんとミルアを最後まで面倒見てね。雇い主なんだから」
「おい・・・」
「じゃ、お休みなさい!」
何か言いかけたコウキの言葉をさえぎり、リンは背を向けて寝てしまった。
一人残されたコウキは、なんとも言えない顔でがりがりと頭をかいた。




