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07:たどり着いた先に

今回の話もそれなりにいろいろ注意ですが少しだけほっこりしています。むしろ悪党たる悪党がみたい方はギャップにはかないように注意してください。

いつの間にかデスが主人公みたいになってますがお気になさらないでください。

わけがわからなくなって理解に困った場合は無理せず一度読むのをやめてください。




7「たどり着いた先に」



 ガッと乱暴に差し込んだ陽の光に、デスは思わず顔をしかめた。

 起き上がろうにも、体が重い。

 どうやら疲れが抜けていないらしい。

(……あーっと、なんだっけ)

 デジャヴのような感覚だ、と思いつつ記憶を探ってみると、今度はちゃんと、思い出すことができた。

 家庭菜園の場で笑顔でこちらに手を振った親友に拳を振り下ろし、帝王の間まで引っ張り上げ、イライラしながらたどりついた帝王の間はなぜか帝王の子供たちとルキノが体育すわりをする異様な光景に変わっていた。

 ので、とりあえずハイゼットを放り投げてその異様な光景を払拭。

 ようやくのことハナシができるかと思ったら、今度はフォードが乱入。

 話がめちゃくちゃになったところでいつの間にかルキノは少女を帝王に預けることに成功していて、シャルルを連れてそそくさと逃げるようにかえって行った。

 そう。モルテとデス、幼女を残して。

 そのモルテはやはりというべきかフォードとマックスと意気投合。

 いわれるがままに帝都の街へと飛び出していった。

 ので、もうモルテのことは二人に任せて、デスは幼女を一度ハイゼットに預け、風呂に入って眠りについた。――はずである。

(そういや何か物足りなかったような……)

 そう、ここに帰ってきたら必ず顔を合わせるものにあわせていないような。

 何か忘れているような。

「デスっ! 起きろってば!」

「ぐおっ!」

 不意に、体の上で跳ねられてデスの意識は覚醒した。

「……リュガ……」

 目を開けると、そこには楽しそうに笑う赤い髪の少女が座っていた。

 どうやらカーテンを開けたのもリュガらしい。

 朝日に照らされて、ニコニコと笑うリュガは、満面の笑みで言った。

「おかえりなさい!」

「……あァ、ただいま」

 そういわれて、デスは理解した。

 ああ、これだ。

 これが、物足りなかったんだ、と。

 何気なく、手を伸ばしてリュガの頭を撫でる。

 リュガは少しだけ照れくさそうに、「なんだよ」と笑った。

 心底嬉しそうである。

「へへっ、やっぱデスの部屋で待っててよかった! 絶対帰ってくるって思ってたんだ!」

「……そーかよ」

 この笑顔が、父親であるハイゼットには絶対向かないことを知っているデスは、自分にだけ向けられていることを知っているデスは、なんだか疲れが癒される気がしていた。

 めずらしく、疲れがとれたらアイスでも食いにつれてってやろうと思えるくらいにはリュガの笑顔に癒された。

 それだけ、疲れていたということだろうか。

「あにき」

「うおお!?」

 不意に、真横から声がして、視線をやると白髪の幼女が立っていた。

 赤い目で、デスを見つめている。

「おはようあにき」

「お、おはよう」

 そういえばこいつ何処で寝たんだろうとふと思いつつ、デスはリュガを落とさないように体を起こす。

 リュガも幼女に気付いたらしく、「おお」と声を上げた。

 いつの間にか知り合いになっていたらしい。

「よう、ルト! 顔洗ってきたか?」

「うんねえさん。いわれたとおりしてきた」

「よーし、んじゃルトも一緒にメシ食いにいこ!」

「うん」

 デスは沈黙した。

(え、なに、ルト? 何時の間に名前ついてんのこいつ。っていうかリュガ何時の間にねえさんとか呼ばれてんの? え? 何これ俺が寝てる間になんかいろいろ進んでるのかこれ?)

 状況がうまく飲み込めない。

「モルテとマックスは昨日一緒に寝てさ、俺とルトはデスの部屋で寝たんだよ!」

「……俺の部屋?」

「そう! 俺の部屋から布団もってきて一緒にねた!」

「ああ、そう……」

 何か一気に疲れが戻ってきそうだったので、デスは考えるのをやめた。

 隠し子だと疑われるのではとか色々きかれるのではと考えていたが、この帝王の家族たちの適応力をナメていたらしい。

 考えてみればハイゼットの子供自体、実子と養子の入り乱れである。

 いまさら兄妹が増えたところで、たいして何も感じないのかもしれない。

「ほら、はーやーく!」

「はいはい……」

 休日のお父さんを起こす子供のように急かすリュガに耐えかねて、デスは重い体を引きずるようにしてベッドから降りた。

 両側をルトとリュガにはさまれながら、デスは半ば仕方なしに朝食を用意して有るという広間に向かった。

(ああ、きっとハイゼットのやつ張り切って作ったんだろうな……)

 食欲などまるでないが、どうせ食わされることに変わりは無い。

 拒否権などないのである。

「そういやお前、名前誰にもらったんだよ」

「はいぜっとさん」

「ああ、あのバカか」

 広間までの廊下は、静かなものだった。

 他の兄妹はまだおきていないらしい。

 そのほかにも帝王城は基本的に住み込みで働くことが多いが、この帝王の間があるフロアは帝王の家族のみの居住スペースである。

「はいぜっとさん、わたしのことを家族だといった。あにきの家族っていったら、そしたらはいぜっとさんも家族だって」

「ああ、絶対言うと思った」

「わたし、家族がたくさんできて、うれしい」

 はにかむようにそう言った幼女に――ルトに、デスはふっと笑みをこぼした。

 最初にヤンデレチックに襲い掛かってきたことが嘘のようである。

「そういやルキノが連れてきた女の子、責任もって親父が預かるって。なんか母さんが早速修行だとかいって連れ出してった」

「……あ~、そういえばそんなやつも連れてきたんだっけ」

「めずらしいよなあ。ルキノが頼みに来るの。そんでデスがこんなに連れて帰ってくるのなんてさ! まあ、俺も妹増えてうれしーけど」

 ぬへへと笑うリュガに、デスはぽんと頭を撫でた。

 深く追求してこないのは、この子の場合はアホだから以外に理由などないのだがそれでもそれが嬉しかった。

「リュガ」

「ん?」

「アイスでも食いにいくか?」

「うん!」




「……どうしてこうなった……」

 現在、デスの周囲はにぎやかだった。

 朝食の際、リュガがアイスを食べにいく話題をもらしてしまったがための結果である。

 リュガ、ルト、モルテ、マックス、フォードという問題児五人といっても過言ではない五人を連れて、デスは帝都の街を歩いていた。

(おかしい。俺が最初面倒を引き受けたのはモルテだけだった。うん、間違いない。いやそうだよね。うん、そうだった。なのになんで今増えた? 俺なんか悪いことした? ……いやしてるけどこれはない)

 五人は仲良さげに話をしながらアイス屋に向かって歩いている。

 ぱっと見、自分は完全に休日アイスを買いに付き合うお父さんの図だろう。

 間違いない。

(ルキノとシャルルはいい感じにバックレやがったし……いやこの空間にあの野郎ども二人なんて死んでもおいておかねえけど)

 ルキノはともかくとして。

 シャルルの対象に年齢制限はない。

 とくにマックスは魔界ではアイドル的存在だし、その旦那も地獄の大物。これ以上の面倒に巻き込まれるのだけは御免だった。

 ふいに、リュガがこちらにくるりと振り向いた。

「デス! 俺アイストリプルに挑戦する!」

「ダメだ。お前残すだろ」

「のこさねえよ! 大丈夫!」

「いや前も残しただろ!」

「今回は大丈夫! フォードいるし、モルテいるし、ルトもいるし!」

 名指しを受けたフォードはグッと親指を立て、モルテも同じくし、ルトも二人を真似して親指を立てた。

 デスは頭を抱えた。

 残したら食べるのは自分である。そして甘いものは苦手である。

 毎度のことながら、抵抗したところで食べ残しを処理することにはなるのだが、それでも止めずにはいられない。

(……まあ、今回は俺も助かってるしな)

 今朝の「おかえり」を思い出して、デスは舌打ちした。

 結局はこの子たちに甘い自分が自分で嫌になる。

「チッ……今回だけだからな。食べ切れなかったら次からスモールサイズ! いいな?」

「おう!」

「受けて立つよ~ん」

「望むところっスよ!」

「まかせて」

 おそらく食べ残しが出るんだろうなあと思いつつ、デスは五人の子供(自分の子供は一人もいない)を連れてアイス屋にはいった。



「おいしかったなー!」

「ねー!」

 アイス屋から出たリュガとマックスは、うーんと背伸びをした。

 そのうしろをフォードとルト、モルテが続く。

「アイスってのはすげーですね。食べたらひんやりで幸せな気持ちになりました」

「ええ。わたしも気に入りました」

「そうでしょ? 俺もさ~初めて食べた時はびっくりしたよ!」

 にぎやかな五人の後ろ。

 会計を済ませて出てきたデスは、やれやれとため息をついた。

 今回は確かにリュガたちの食べ残しは少なかった。

 というのも、ルトとモルテがその分食べたからなのだが。

(考えてみたらこの五人、最強かもしれねえな。マックスは魔法に関して天才だし、リュガは暗殺系スキルは確かにあるし、フォードは兵器、モルテもそこそこやれるし、ルトは怪力だし)

 本気になって喧嘩をしたら、この五人にはきっとかなわない気がした。

 もし、自分がどうしても敵に回らなくてはならなくなったら。

 そのときはきっと、この子たちが全力で止めてくれるだろう。

(……なんて)

 期待しすぎか? なんて自嘲気味に笑っていたら、前から声がかかった。

「デス!」

 赤い髪を揺らして、笑顔で自分の名を呼ぶ顔が太陽に照らされてまぶしい。

 ――どちらが太陽なのか、わからなくなるほどに。

「次どこいく? まだまだ日が暮れるまで時間たーっぷりあるぜ!」

「そうっすよセンパイ! あたしまだまだ帝都観光してみたいです!」

「だってさデス。まあデスいるならどこみても安全だよねえ」

「えへへ、おれも久しぶりに街歩くから楽しみだな! デス、どこ案内してくれるのー?」

「……わたしは、あにきが案内してくれるならどこでも」

 そんなふうに笑ってこちらを振り向いてくる少女たちに、デスはやれやれとため息をついた。

 無邪気なものだ。心から信用しきっているその笑顔は、どちらでもある自分には少しだけまぶしい。

 昔からロクなことはしていない。

 親友のためならと汚いことも平気でやってきた。

 こんな笑顔を向けられるべき存在ではないことなんて、百も承知である。

 ここにいるのもただ。

 親友が「いてくれ」と頼んだから。

 ただそれだけなのに。

(……ほんっと、こいつらは『バカ』に似てる)

(俺がどれだけ血まみれかなんて知りもしないで)

(ばっかじゃねーの)

 精一杯の、家もしない毒を心の中ではいて、デスは呆れたように笑った。

「ガキのみたいとこなんてわかんねーよ。どこ行きたいかちゃんといいやがれ」

「こ、子供扱いすんなよな! デスがいつもいくようなとこだってもう入れるもん!」

「はあ? 入れるわけねーだろーが。大人しく中央広場でライラにでもパンねだってこい」

 むすっとほほを膨らませたリュガのほほを両手でぺしゅっとつぶして、デスは言った。

 うにゃと声を上げるリュガのとなりで、今度はマックスが声をあげる。

「ああ、ライラのパンいいね! たべたい!」

「俺はメロンパン所望しまーす」

 続けざまにフォード。

「あ、じゃあアタシは焼きそばパンで!」

 便乗するようにモルテ。

「……あにきのおすすめで」

 おそらく何があるかもわかってないルト。

「じゃあ俺たこ焼きパン」

 唇をとがらせながら、リュガもつぶやいた。

「はいはい、んじゃこっちだ。とっとと歩け!」

 周りをわいわい動き回る少女ら五人を広場の方に促して、デスは笑った。



***



 

 ―――薄暗い室内には、いつもどおり、血と煙草の匂いが充満していた。

 とても誰かが暮らしているとは思えないほど汚れ、壊れた廃墟のようなその一室は、魔界の中心部帝都からは少し遠い、『オルク』の町はずれにたたずむ二階建てのビルの一部だ。

 下の階にも、上の階にも、誰も住んではいない。

 電気も通っていないのか、室内の明かりはいくつかのランプだけだった。

「おお、懐かしい気がしますね!」

「……だろうな」

 ちょうどあの日から一週間か、とデスは室内を見渡した。

 帝都の『まぶしさ』が一ミリもないこの部屋は、わりと気に入っている。

「でもルトちゃんおいてきてよかったんですか?」

「問題ねえだろ。帝王城くらい安全な場所ねえよ。それにアイツはあまり連れ回さねえ方がいい」

「はあ。そんなもんですか」

 しれっとつぶやいて、モルテはベッドに腰かけた。

 無機質なパイプベッド。

 床には片付けていないのでやはりというべきか、空になった注射器が転がっている。

「でもちょっと寂しいですね。あたし兄妹いないんで、あの空間、羨ましかったです」

 足をぶらぶらさせながら、モルテはそんなことをつぶやいた。

「朝起きたらあったかいごはんができてて、みんなでごはんたべて、昼間はお城で遊んで、夜はみんなでお風呂入って、夜も誰かと眠って。なんかセンパイが羨ましいです」

「悪党からは程遠い生活だけどな。お前悪党にあこがれてたんじゃねえの」

「そりゃ最初は。アウトローで自由な生活がいいなって思ってました。でもあの空間を体験しちゃうと揺るいじゃいますね。あたしみたいなヤツでも、あそこでならって思っちゃいました」

「だったらバカに頼んで居座りゃよかったじゃねえか。あのバカなら泣いて喜ぶぞ」

「あはは、冗談きついですよ」

 モルテは、笑って二丁拳銃をさすった。

「どんなに願っても、あたしは『あたし』から逃げられない。センパイもそうでしょ?」

 ぴょんとベッドから飛び降りて、モルテは言った。

「生まれついての死神は『死神』以外には成り得ない。ただ一つの例外を除いては」

「……お前……」

「その例外がみたくて、レド姉にあたしを誘拐するように差し向けました。かぐや姫が月から地上に遊びに来るみたいに、あたしも少しでいいからみてみたかったんですよ」

 答え合わせをしましょうか。

 モルテはつぶやいた。

 窓から、赤い月が光を差す。

「オスカー家と魔女があたしを狙った理由は、死神機構の掌握です。なぜならあたしは、死神機構トップたるライトの娘だから」

「!」

「どこぞの帝王のときみたいに洗脳したかったんでしょうね。そんな企みなんて読破してたおとーさまはあたしを幽閉してましたが、レド姉に頼んで誘拐してもらいました。魔女がシャルルさんとルキさんを抱き込んだので、レド姉はあたしをセンパイ含めた三人に頼みました。こうしてあたしは一週間自由。レド姉はその間に魔女とオスカーにあたしの居場所を教えて行動を起こさせ、センパイにその企みに気付いてもらい叩き潰してもらう」

 淡々としゃべるモルテの声を、デスはただ黙ってきいていた。

 いつか親友が誘拐されて記憶喪失にされたときがちらりと脳内に思い出される。

 あの時の絶望感はすごかった、なんて他人事のように思った。

「危険を冒してでもセンパイに会えてよかった。ルキさんも話にきいてたより最低じゃなくて、シャルルさんも『対象』にはならない程度の最低でした」

 モルテは、窓枠に腰かけた。

 赤い光が、彼女を迎えるかのようにより一層強くなる。

「おとーさまはあたしに優しくて、でも食事とか別だし寝るときもあたしは一人だから。周りもセンパイみたいに『優しく』ないから。おかあさまはいないし、あたしの教育係だっていうキングは頭固いし」

 いつのまにかモルテの目から涙がこぼれていた。

 ボロボロボロボロととめどなく。

 マフラーを。床を。濡らしていく。

「あんな生活があるなんて知らなかった。あんな、あんなあったかい場所があるなんて、知らなかった、知りたくなかった、知らなきゃよかった」

「……モルテ」

「どうしてあたしは死神なんですか……っ。どうしてあたしが死神機構を率いらなきゃダメなんですか……、あたしじゃなきゃダメですか、あたしじゃなきゃ……っ」

 ひっくひっくと泣く少女に、死神の面影など一つもなかった。

 死神機構とは。

 そういう場所なのだと痛いほど知っているデスは、そっとモルテの頭を撫でた。

 ぴょんと窓から飛び降りて、モルテはデスに抱き着いた。

 わんわんと泣きだした少女の背中を、ぽんぽんと叩く。

 ……いつか、リュガにしてやったように。

 ……いつか、自分がされたように。

「嫌なら強くなるしかねえよ」

「…………」

「生まれを呪って泣く暇あるなら、そんなくっだらねーこというバカどもをはねのけて『自由』に好き勝手やれるくらい強くなるしかねーんだ」

 俺みたいに、とは言わなかった。

 彼の人生は、彼にしか歩めないことを、彼が一番よく知っていた。

「ここでのルールは?」

「……強いやつが偉い」

「そのとおり」

 ニッと笑って、デスはモルテの頭を撫でた。

「強けりゃ文句いうやつを黙らせることができる。異論も反論も認めなきゃいい。弱いやつのいうことなんて聞く必要ねーんだ。そんなものもきいて配慮するならさらに強くならなきゃいけねえ」

「ハイゼットさんみたいに?」

「そうだ。あのバカは俺より強いから、弱いやつのことも考えられるだけってことよ。俺はそんなもんきいてやれるほど余裕ねえわ」

 ケラケラ笑うデスをみて、モルテの涙は自然と止まった。

「誰に何言われたって大丈夫なくらい強くなれよ。そいつらの想像超えてやりゃ文句もいえなくなる。うるせえばあかって言えるようになりゃいいんだ。そのかわり好きなことだけはできねえし、自分のしたことの責任ってのはどうやったってついて回る。その責任も負えるくらいになりゃ、あいつの周りに入り浸ったってなんの問題もねえだろ」

「……はい」

 目じりにたまった涙をぬぐって、モルテは殺人鬼のように、死神さながらに――ではなく。

 年相応の少女のように。

 帝王の娘たちと同じように。

 ニッと笑った。

「……終わったかい?」

「……レド……」

 いつの間にか、ドアを背にレドが立っていた。

 相変わらず体のラインを強調するような迷彩服に身を包み、こちらをニタニタ見つめている。

「おいでモルテ。あんたのおとーさまがあんたの帰りを待ってる」

「わかりました。……センパイ、あたし、帰ります」

 デスから離れて、モルテはレドの方に走っていった。

「でもまた来ます。絶対きます。キングにフォードちゃん直伝のライダーキックきめて、センパイに会いにいきます!」

「そうかよ」

「それじゃ、また!」

 レドの手をとって、モルテは笑ってドアを開けた。

 ドアの向こうから赤い光が漏れ出す。

 ちらりとみえた向こう側は、デスにとってはよく見慣れた世界だった。

 いつの間にかレドが扉を一時的に死神機構の空間へとつなげたのだろう。

 扉が閉じる間際、馬鹿みたいに警察官のコスプレに身を包んだ金髪の男がこちらに手を振った。

 ……ので、デスは舌を出しておいた。

(……ライダーキックねえ)

 静かになった室内で、デスは窓から月を見あげた。

 赤い月は嘘みたいにいなくなっていた。

 いつもどおり、人間界によく似た星空と月が見える。

「おーい、デス~」

「?」

 ふと、窓の下から、声がした。

 通りに、酒瓶を片手にこちらを見上げる影が二つ。

「これから酒盛りしよーぜ!」

「みろよいい酒もらったぜェ~!」

 ほんのり頬を赤く染めて、ほろ酔い状態の悪友二人がそこにいた。

 だらしなく着た着流しの用心棒と、ホストさながらの闇医者が酒瓶片手にこちらに手を振っている。

「そこにいろよ! 今からいくからなー!」

「今日はかえさねえからなァ!」

「……お前らなあ」

 デスはため息をついた。

 確か面倒を任されたのは自分だけではなかったんだよな、と思い出した。

 最終的にかなり役割を担わされた気はしたが、まあいいかと思いなおした。

(確かに最初に『ライトの娘』なんていわれたらやる気なくして帰ってたな。レドのやつ、わかってやがる)

 窓枠に背を向けて、ドアを見つめる。

(まあ……なんか死神機構絡んでる話だったし、そのうち面倒になりかねなかったし、企みつぶすときはあの二人も一緒だったし、今回ばかりは文句いうのもやめてやるか)

 ほどなくして、ドアが乱暴に開けられた。

 モルテが帰っていったそのドアから、今度は酔っ払い二人が現れる。

「デス~! 会いたかったぜェ!」

「俺も俺も~!」

 酔っ払い二人は入ってくるなりデスに抱き着いた。

 シャルルはともかくとして、ルキノはかなり酔っぱらっているようだった。

 よくみれば顔が真っ赤である。

「うっわ酒くさ! お前らどんだけ飲んでたんだよ……」

「だぁってさ~、お前帝都から帰ってこねえしさあ~」

「そォだそォだ~!」

「うぜえ抱き着くな! あつい!」

 ひっついてくる二人を無理矢理引きはがして、デスはため息をついた。

 そうしてモルテと微妙にタイミングがずれていてよかった、と思った。

 こんな姿はさすがに、モルテにみせられねえな、なんて思いながら、酒瓶を開ける二人をみて、やれやれと笑った。

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