05:終息に向かってほしい(作者の願い)
このお話ではなんかもう性的表現とかグロテスクな表現とかバイオレンスな事象がたくさん起きるお話です。
苦手な方は閲覧をお控えください。
だんだんめちゃくちゃになってきてどうしたんだろうと思った方、間違ってません。でもこのめちゃくちゃ感がいつもの魔界です。ご安心ください。
5「終息に向かってほしい(作者の願い)」
部屋を飛び出し、長い廊下を駆け上がること数分。
最初にデスとモルテがじゃんけんをした扉まできたところで――彼らは揃って足止めをくらっていた。
「遅かったじゃない……? このあたしをこんな姿にして……絶対に許さないわ貴様ら……」
ボサボサの髪と、ボロボロの身体。
おおよそ人間であれば死んでいてもおかしくない彼女は、身体の節々に紫色の紋章を浮かび上がらせながら、こちらを凄まじい形相で睨みつけている。
三人は思った。
(あ~……忘れてた~)
……と。
「グレンだっけ? 貴方も一体どういうことなの? あたしたち側のたくらみに参加していたじゃない」
魔女は髪を乱雑にかきあげながらグレンに問いかけた。
しかしグレンは表情一つ変えずに棒を構えて答えた。
「いえ、私はグレンではありません。グレンは死にました」
「はァ?」
「今の私はクレイブ=メルフェルト。彼の仲間です」
ぱちりとデスにウィンク。
デスは背筋に悪寒がはしるのを感じた。
「……まあ、そういうこった。あんたも人間界に帰ったらどうよ」
「人間界に帰るですって?」
魔女――アレッドはデスの言葉により一層表情を険しくした。
どうやらカンに障ったようである。
かろうじて残っていた アオザイを引きちぎる。
より妖艶に、動きやすくなったアレッドは胸に手を突っ込んで、小さな壷を取り出した。
「それはできないわ――アタシはまだここで目的を達成してない。ここに『彼』を呼んで『彼』の王国を築く。そのためなら貴様らも生贄に変えてくれる」
クツクツと笑って、アレッドはその小さな壷のふたを開けた。
怪しげな煙が漂うその壷を、彼女は一気に飲み干した。
「く――フフ、フフフ、フハハハハ! ま、まりょく、魔力がみなぎる……!」
飲み干したアレッドの体は変化を遂げようとしていた。
骨格がぐにゃぐにゃと曲がり、背中から何かが這い出てこようとしている。
美しかった顔もまた、醜くゆがみ、ヨダレすら垂れ流しだ。
そんな光景に、デスは顔をしかめていった。
「シャルル、檻にいれとけ」
「あいよ」
ガシャン。
変化をまだ遂げていないアレッドは檻に入った。
「……え?」
「よし、今のうちだ。もう能力使うのもめんどくせー。城ごと消し去るからコイツはとりあえず放置していこう」
「そーだな。仕方ねえよな。もう美女じゃねーし、ヤる気も失せたわ」
散々な物言いの二人に、グレイ改めクレイヴは「えっそれでいいの?」といおうとしたが、彼らの一味に加わったのだから仕方ないと自分に言い聞かせ言葉を飲み込んだ。
スタスタと普通に通り過ぎていくデスの後に続く。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! これからアタシの力をみせてあげるっていうのにこれはないんじゃないの!」
檻からなんとか身を乗り出して三人にアピールしたが、三人が振り返ることはなかった。
そして檻が壊れることもなかった。
――代わりに。
ぺたり。ぺたり。ぺたり。
彼らが去ったその後で、何かが近づいてくる音がした。
「……え?」
地下研究室の方から、確かに何かが近づいてくる音がする。
子供のような足音だ。アレッドに身に覚えは無い。
先ほどのメンツを見る限り、誰かを残していったということもないだろう。
彼らが戻ってくる様子もない。
(……一体、何が……)
檻の中から目を凝らして、暗闇に目を凝らす。
彼女は知らない。
上の階からルキノによって落とされ、かつ瓦礫に埋まり、気絶していた彼女は先ほど地下研究室で起きた現象の何一つも、知らなかった。
だから。
何の予測もできなかったのだろう。
「あ」
暗闇に目を凝らしていた彼女の視界が、突如、止まった。
***
ようやく屋敷らしい廊下まで戻ってきた一行は、ルキノらが待つ部屋に向かっていた。
屋敷の中は、しんと静まり返り、誰の影もない。
「そういえばグレ――クレイブ、お前の連れてた部下的なのどこいったんだ?」
檻にいれたという安心感からか、一行の速度は歩きにまで落ちていた。
全員が全員(闇医者を除いて)、疲れているためである。
さすがのデスも、今はひたすらに帰って眠りたい。
「ああ、アレはあの魔女の作り出した影みたいなものですよ。こんな、まだ成功率の曖昧な計画にオスカーの人員は割けません」
「へーえ。一応あんたら成功率なんて気にしてたんだ?」
「そりゃあもちろんですよ。計画の全容を頭首に報告して、そこから人員の割り振りが決まります。毎回プレゼンですよ、プレゼン」
「プレゼンて……会社員みたいだな」
世間話を繰り広げながら、一行は階段を上っていた。
いまだ抱えられたままのモルテは起きる様子がなく(それはそれでありがたい)それどころかシャルルがうとうとと浅い眠りについている。
「我々オスカー家はその敷地内で頭首に逆らうことができませんから、こうして外部にいったときに縁を切ることくらいしか逃亡の術がないんですよね。それもまあ成功率は低いですし。……帝王関係者が絡むと格段に成功率あがりますが」
笑顔でそう語る彼の壮絶さは、デスも容易に想像が出来た。
何せそうして『逃亡』してきた二人を知っているし、彼の父親もそうなのだと回りに聞いている。
ついでに、頭首とも顔見知りであるがゆえに――彼の一族の『異様さ』も当然身をもって知っていた。
頭首の能力、『支配』により、その敷地内で彼らは常時『支配』されているという事実。
帝王には何とか隠し通している事実である。
(そんなこと知ったらあいつ、きっと何かアクション起こすし)
魔界の歴史の根幹とも関わりが深いオスカー家ともめると、毎度よろしくないことを知っているデスは、だからこそ現在オスカー家のたくらみを帝王が知らないところで叩き潰すという終わりの無い苦労を買って出ているのだから。
「……お前まさか、『ソレ』狙ってたわけじゃねえよな?」
「いえいえ。そうなったらいいなっていう希望はもちろんありましたけどね。貴方は悪党側であると同時に、『向こう』側でもありますから」
足を洗いたくなったときに頼りたくなるんですよ、とクレイブは付け加えた。
「勘弁しろよ……それじゃ俺渡り橋みたくなってるじゃねえか」
深いため息をついてそんなことを呟いたデスは、しかし心の底から嫌だというふうではなかった。
その証拠に、彼の口元はやんわりと上がっている。
階段を上り終えて、ようやくのことルキノたちを放置した階までたどりついたデスとクレイブは、「はーっ」と息をついた。
「そんじゃアホ二人回収してとっととずらかるか」
「そうですね」
二人が廊下へ一歩踏み出した――まさにその時である。
―――ぺたり。
何か、足音が聞こえた。
「……あ?」
この期に及んでまだ何かあるのか、とデスは階段を振り返った。
クレイブも同じように振り返っている。
二人とも心当たりはまるでなかった。
シャルルの能力で造られた檻は、そう簡単に出れるものではない。
デスであれど能力を使って出る始末である。力技ではそう上手くいかない。
「……子供、の足音……ですかね。誰か連れてきているんですか?」
「いいや、ガキはこのアホ一人だけだ。他にも色々顔知れてんのはいるがここにいるわけねェ」
ふっと赤い髪の生意気な雷娘を思い出す。
続けて銀髪を二つ縛りにした――親友そっくりの女の子と、青い髪のバイオレンスな少女も思い出す。
なにかの間違いでこんな場所にいて、今この状況の自分と出くわすなどということがあればもう何をどう弁明していいかわからないなと感じた。
触手により不自然に焦げた服を身にまとい、少女と闇医者を抱え、オスカー家をたったいま家出してきた悪魔と一緒にいる自分など――見られたくも無い。
ぺたり。ぺたり。ぺたり。
足音は階段をのぼってきているようだった。
「……どうします? 迎撃しますか?」
クレイブは棒を構えた。
そんなクレイブを――デスは片手で制す。
「いや、待て。お前はこの二人をその棒にひっかけて先に行け」
「いやさすがに折れるのでは……」
「いざとなりゃ能力で即死させて、すぐにお前らんとこ向かうわ。この闇医者と中で寝てる用心棒、それからモルテのバカ起こしておけ。なんかあってもこの三人いれば片腕のお前らくらいは守れるだろ」
ドサッ。
抱えていた二人を下ろす。
そうしてゴキゴキと、デスは拳を鳴らした。
「城から出たら帝都に向かえ。どこにも寄るな。もしオスカーのバカどもに勘付かれたらこういっておけ。『死神機構の命で動いてる』ってな」
「……わかりました」
クレイブは言われたとおり、棒に二人を乗せるようにして担ぎ上げると、そのまま背を向けて歩き出した。
一方のデスも、来た道を戻るように、階段へと足を向けた。
ぺたり。ぺたり。ぺたり。
まるでホラー映画さながらの足音だ。
(とりあえずホントにマジでなんかの間違いでガキだったとき、こんな格好みられたら絶対にめんどくさいな。何か服ねえかな……)
頭をかきむしりながら、デスはため息をついた。
まさにその時である。
ぽすっ。
「うおっ」
何かが、正面から突っ込んできた。
ちょうどデスの腰あたりに当たったらしいソレは、しかしそのままぎゅうと抱きついてきた。
何事かと視線を落とす。
そこには。
「……は?」
デスの腰に、見知らぬ幼女が抱きついていた。
一瞬思考がフリーズする。
否、いやな予感どおり顔見知りの少女らなどが出てくるよりは良いのだが、良いのだが。
これもこれで予想の斜め上をいく展開だった。
「ちょ、おい……」
「…………」
ぎゅうう。
引き剥がそうにも、幼女が離れる気配はまるでない。
色白な肌。腰ほどまである、真っ白な髪。ぴょんとたったアホ毛が可愛らしいことは間違いなかったが、いかんせん、デスには隠し子などの思い当たる節もないしそのようなミスをおかした覚えもない。
(……真っ白な髪の女とヤったことあったっけ。いや最近はシャルルがうるせえから女となんてそうそう……いやいやいや、ないない。そんなシャルルみたいな過ちは俺に限ってありえない)
顔をみればわかるかも、とデスはなんとか少女を引き剥がそうとしたが、まるで離れる様子はなかった。
力任せに離そうにも、どういうわけかびくともしない。
「……一体なん……」
「ぱぱ」
ふと、幻聴のような単語が聞こえた。
「……なに?」
デスは一際怪訝な顔をしてたずねた。
「ぱぱ」
幼女は小さな声で、そう返した。
おずおずと顔が上がる。整った顔立ちだった。
大きな青い目は、確かに自分の目の色と似ている。……気がする。
幼女はふわふわの白髪を揺らして、もう一度いった。
「ぱぱ」
デスはピシリと固まった。
もはや意味がわからなかった。
彼には確かに妹がいる。しかしこのような白髪の幼女ではない。
二人とももう少し成長している。
くわえていうと彼の両親はすでに死んでいる。今さら兄妹が増えることは決してない。断じてない。
「おい、お前だれかと勘違い……」
言葉の続きをいおうとして、デスはふと我に返った。
こんな年端もいかない幼女が、どうしてここにいるのか。
その理由が検討もつかない―――
「ぱぱ。……どうしてわたしから逃げるの?」
どすっ、とわき腹に何かが突き刺さるのを感じた。
反射的に口から血があふれ出て、デスはとっさに口元を手で覆った。
ボタボタと手から零れ落ちた血が、こちらを見上げる幼女にわずかにぽたぽたと落ちていく。
「どうしてわたしを檻にいれたの?」
続いて、さらにざしゅりと胸に何かが突き刺さった。
突然の出血に視界が揺らぐ。よく見えない。
「どうして……わたしを一人にしたの?」
もう一度何かが勢いよくデスの足を貫こうとしたところで、デスはようやくのことそれを片手でとめた。
それは少女の髪の一部なのか、途中まで髪だというのに、まるで漫画のように鋭く尖った鉄の棒へと姿を変化させていた。
「……お前……一体なんなんだ……」
突き刺さったソレをなんとか抜こうとしながら、デスは呟いた。
幼女は両腕でデスの身体に巻きつきながら、答えた。
「わたしはアナタたちに生み出された怪物。モンスター。化物。無機物から生まれたからとても不安定で……さっき、同じく檻にいれられていたモンスターを食べたらこうやって喋れるようになって、形もアナタたちに似せることができたの」
さっきまでは自分のこともわからなかったけど、と幼女は告げた。
「のみこんだパソコンとモンスターの知識をまぜたら、じぶんのことが理解できた。あのへやの全てを飲み込んだから――わたしには、あなたとおなじ血がふくまれている。だから『ぱぱ』なの」
一切の曇りのない瞳だった。
デスは、能力を使おうとして――不意に、脳裏に親友の子供たちが浮かび上がるのを感じた。
(やべぇぞこれ――『ころせ』ない)
ためらっている。
誰に対しても容赦などしない自分が――躊躇っていることに、戸惑っている。
「ねえ、どうしてわたしをおいてにげたの? ほかの『ぱぱ』は?」
「ッ……!」
幼女がそう呟いた瞬間、デスを貫く棒から何か液体が出たらしい。
傷口をジュウウウウと焦がしている。
彼女にとっては、拷問のつもりなのだろうか。
(ほかの『ぱぱ』ってことは、あの部屋にいた俺たち三人を『ぱぱ』だと思ってやがるのかこいつ……くそめんどくせえ)
何か最善たる方法がないものか。
デスは思考をめぐらせたが、残念ながらマトモな案は何一つ浮かばなかった。 帝都に連れ帰り、親友に任せてもいいのだが――そうなると今回の件をどう報告していいかわからない。
とはいえ、自分が父親として幼女の世話を焼くことはできない。
親友より優先できる気は全くしないからである。
(つーか、なんだ。こいつはあの薬品で出来上がったモンスターの全てが合体して出来た産物で、ついでに魔女も食っちまって出来た『兵器』みたいなもんってことだよな……)
それじゃフォードの妹みたいなもんじゃねえかよ……とは思ったが、この場に兵器の名を持つ少女はいないし、それの親も今回ばかりは関わっていない。
「……ぱぱ。もしかしてわたしのこと、いらなかった? きらい?」
不意に、黙り込んだデスに、幼女が問いかけた。
不安な瞳だった。父親と喧嘩してふてくされた赤い髪の少女も、よくこういう目をしていたことを思い出した。
だから。――その赤い髪少女に、いつもするように。
棒を抑えるのをやめて、ぽん、と頭を撫でてやった。
「……えへ」
撫でられた少女は、はにかむように笑って、するりと棒を解いた。棒が髪に変わりデスからするりと抜けていく。
「悪かったな。……でもお前、勘違いしてるぜ。俺の血が確かに混ざってんのかもしれねーけど、それじゃただ家族ってだけだ。父親とはよばねえよ。まして俺以外のやつとは血のつながりねえんだろ。だったら父親じゃねえだろ」
頼むから理解してくれ、と念じつつ、デスはそういった。
先ほどから少しぶっとんでいるだけで、物分りはできそうなものである。
少なくとも彼の知る赤い髪の雷娘よりは頭がよさそうだ。
わしゃわしゃと頭を撫でられながら、幼女は再びデスを見上げていった。
「……わかった。じゃあ……なんてよべばいいの?」
「そうだな。普通にデスでいい。名前で呼び捨てがいやなら、うん、あれだな、せめて『兄貴』くらいにしてくれ」
「デス……あにき……あにき!」
どうやら『あにき』という呼び方が気に入ったらしい。
先ほどまでのホラーな雰囲気はどこへやら。
デスにぎゅうと抱きついて、満面の笑みである。
(どうやら死亡フラグ系は回避できたらしいな……よかった)
貫かれた二箇所の痛みに耐えながら、デスも幼女に微笑みかけた。
「よし、それじゃこの城を離れてお前の家になる場所にいこうな。ほら、背に乗れよ。おぶってやるから」
「うん! あにき!」
ぴょんと跳ねて、幼女はかがんだデスの背に飛び乗った。
首に手を回す。
「ちゃんと掴まってろよ。落ちたら怪我するからな」
「はあい」
嬉しそうな返事をきいて、デスはようやくのこと少し降りた階段をまた上がり、今度こそルキノたちの待つ部屋に向かった。
***
クレイブは困り果てていた。
目の前で罵りあう幼馴染と少女に困り果てていた。
用心棒もクレイブの隣で困り顔を浮かべている。
闇医者にいたっては関わる気がないらしい。タバコをくわえて上の空である。
「なーんでコイツと一緒に逃げなきゃならないんスか! センパイ! センパイはどこにいったんです!? あたしは先輩がいないとどこにも行きませんからね!」
「わたくしもアナタと一緒などと願い下げですわ! それにご主人様はわたくしたちと一緒にいくんです!」
「はあー!? こちとら先に世話を頼んでるんですよ!? ちょっとは遠慮してほしいです!」
「そっちこそ遠慮してくださいませ! 世話はそこの二人にも頼んでいるのでしょう!?」
今まさに手のつけられない状態で、セレナとモルテがいがみあう中、とりあえずとクレイブはルキノに今まで起きたことを全て伝えた。
当然、彼の依頼主である魔女が化物と化したことも。
「元々その子はあの魔女が魔界に何かを呼ぶ為の生贄だったようですし……記憶とばして人間界に戻したらどうですかね?」
「いやそうしたいんだけどさ……デスのやつが精神崩壊させちゃってるからそうもいかなくて……」
ルキノは傍らに立つ少女の頭をぽんと撫でた。
「……い、一応さ。アイツに怒られること覚悟で……帝王のとこに預けようかと思ってたんだ。帝王なら奇跡的になんとかできるかなって……」
「なるほど?」
「デスの暴行から守りきれなかったの俺だし……、ちょっと責任感じる」
ポケットから、再びタバコを取り出してルキノは口にくわえた。
あまり吸いたい気持ちにはならない甘いタバコ。
帝王の娘がくれたプレゼントである。
「責任とか感じたことねーわ。お前すげーな~」
「……シャルル……」
飄々と呟くシャルルに、ルキノはじとっとした視線を送った。
確かに無いだろうな、お前には! 子供も認知しねえもんな! と嫌味もこめてやりたかったが、どうせ届くこともないかと諦めた。
「つーか、とっととココ出た方がいいんじゃねえの。曲がりなりにもグラーナの別荘なんだろ? 誰かに勘付かれたらお前ら二人もだけど俺らもやばくね? 一応俺らだって仕事の相手として六大家はいるしさ~」
「……それはそうなんですが……」
シャルルの催促に、クレイブとルキノは視線をセレナとモルテに戻した。
言い争いからすでにキャットファイトにまで発展している。
二人の視線に気付いたシャルルが、「しゃあねーなあ」と立ち上がった。
「そんじゃおとなしくなるように一発ヤるか」
「「それだけはいけない」」
ルキノとクレイブ、二人の心が一つになった瞬間だった。
両側でシャルルをがっちりと固定する。
「なんだよ? てっとりばやいぞ、突っ込むと」
対してシャルルはこれである。
人格的に何か破綻しているのかもしれなかった。
「ねえ。なんでお前そんな堂々とそういうことできんの? おかしくね?」
「そうですよ。ひとの幼馴染になんてことしてくれようとしてるんですか」
「いや女なんて黙らすにはそれがいちば……」
「黙れ。それ以上喋るな。お前今さいっていなゲス発言してるから」
「人権団体に訴えられるレベルですよ」
「だって俺悪魔だし」
「「だってとかじゃない!」」
二人の声が重なったその瞬間だった。
ばーん、と勢いよくドアを蹴破りながらデスが入ってきたのだった。
蹴破られたドアは勢いよく吹っ飛び、ちょうどいがみ合う二人と騒ぐ三人の間をびゅんとぬけ、壁にめり込む形で停止した。
「……おい。お前らなんでそんなゆっくりしてんだ? あ? 俺談笑してまってろっていったか? なあ?」
ぎろりと視線をクレイブに向けるデスだったが、口を開いたのはクレイブではなくモルテとセレナであり――
「ちょっとなんですかその女の子! センパイ!!」
「そうですわよご主人様! いったいどちらの子なんですの!?」
そんなふうに駆け寄ってきた二人に、デスは容赦なく蹴りをいれて黙らせてしまったのだった。
室内にようやく静寂が訪れた瞬間だった。
「ほら、いくぞお前ら。ルキノはモルテ抱えろ。クレイブはセレナもっとけ」
「……お、おう」
「……わかりました」
デスに促されて、ルキノはモルテを抱えた。ついでに空いているほうにぼうと空中を見つめている少女を抱える。
クレイブも、気絶したセレナを片腕で担ぎ上げた。
そんな光景をじーっとみていた闇医者がポツリ。
「え? 俺は?」
「………お前……」
デス、ルキノ、クレイブの残念なものを見つめる視線が、シャルルに集中した。