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03:用心棒の解説

このお話ではなんかもう性的表現とかグロテスクな表現とかバイオレンスな事象がたくさん起きるお話です。

苦手な方は閲覧をお控えください。



3「用心棒の解説」



 ――ばたん。

 デスとモルテが去り、少し大きな音で扉が閉まった。

 しんとした室内から足音がわずかに聞こえ、遠のいていく。

 先ほどまでにぎやかだっただけに、このセレナにとってはよく慣れた静寂が無性にさみしく思えてセレナはぺたりと座り込んだ。

 肘より少し上から消えてしまった腕をさする。

 こんな姿を父や母、一族の別の者にみられたらどうなるだろう。

「……案外、研究材料ができたと喜ぶかもしれませんわね」

 くすり。

 自虐的ともとれる微笑みを浮かべてみる。

 悲しいとも嬉しいともいえない複雑な感情が彼女を支配していた。

 片腕を失った痛みと、そのために得た退屈な日常を壊せた喜び。

 少しの間、セレナは渦巻く感情のままに呆然と空を見つめていた。

 足音は完全に聞こえない。

 先ほどまでバタバタと上から下から聞こえていた足音もまた、どういうわけか同様に静かになった。

 おそらくこの部屋とは違う位置にある、研究室の方にでも向かったのだろうとセレナは思った。

(グレンさんのことですから、わたくしが何か言わなくともきっと理解して……、真っ先にご主人様の方に向かうでしょうね)

 ふう、とため息をついたところで――唐突に、ドアが乱暴に開いた。

「セレナさん!」

「――っ」

 現れたのはまさしくオールバックの悪魔、グレンだった。

 予想していなかった光景にセレナは息をのんだ。

 額に汗をかき、まさか一人で駆けつけてくるとは思ってもいなかった。

 グレンはセレナを視認すると、ギリ、と奥歯をかみしめた。

「……やはり無事ではありませんでしたか……!」

 スッと膝をつき、グレンはセレナの肩をつかむ。

 外傷を確認するかのように視線を動かして、そうして彼女の片腕がないことに気が付いた。

「貴女、腕が……」

「……片腕だけですわ」

「………」

 セレナの返答に、グレンは押し黙った。

 そうしてセレナから手を離し、室内を一瞥、壁にめり込んだルキノと虚ろな少女を確認してから、セレナに問いかけた。

「……二人ほど足りませんね。死神はどうしましたか」

「………」

 セレナがいつも聞いていた声より、わずかに低い声。

 ピリピリとした、怒りの混ざった声に、セレナはわずかに動揺した。

 少しだけ黙って、セレナは告げた。

 死神に言われた通り、正直に。

「地下研究室に行ったようでしたけれど……」

「……そうですか。わかりました」

 グレンは再び扉に手をかけて、外にでようとしたところで一度振り返った。

「ああそうそう。貴女はこちらで待機していてください。いいですね?」

「わ、わかりましたわ」

「よろしい」

 ばたん。

 再び扉が閉まり、足音が遠のいていく。

 それが完全に聞こえなくなったところで、

「ぶはぁッ!」

 瓦礫をはねのけてガバッとルキノが起き上がった。

「あ~、しんどかった~。長話するヤツじゃなくてよかった~」

 よっこらせ、とルキノは立ち上がる。

 そうして自身の手錠に気付き、その先に少女が繋がれていることにも気づき、「ええ!?」と驚きの声をあげた。

「何で俺また手錠されてんの!? 意味分かんない! え、あんたがしたの?」

「い、いえ、わたくしではないですけど……」

「じゃあデスのやろうかよ! なんなんだよもおおお!」

 頭を抱えるルキノ。

 彼の動作によって、少女の体がゆらゆら揺れる。

 そもそも立ち上がったルキノのせいで少女は腕をぐんと上げている状態だった。

「あ、ご、ごめん」

 慌ててしゃがむルキノ。

 やはり少女に反応はない。

「……いつから起きてらしたの?」

 少しだけ冷ややかな声で、セレナは問いかけた。

「あー……、デスが出ていく時かな。俺が気絶してるフリしてた方が都合よかったろ」

「……それはまあ、そうかもしれませんけど」

 何かを言いたげなセレナに、ルキノはニタニタと笑った。

 懐からキセルを取り出す。

 カンカンと床に吸いかけだったものを落として、懐から小さな箱を取り出した。

 キセルに葉を詰め直して、ぼしゅ。指先からライターほどの火を出して火をつける。

「アイツについていかなかったこと怒ってんだろ?」

 すうとキセルを吸っては吐きだす。

 すぐに室内にタバコの匂い――ではない、どこかほんのり甘い匂いが充満した。

「あれはいーっつもああなんだよ。体調よくねえはずだから多分『能力』使うつもりだ。だから連れは邪魔なのさ」

「能力……わたくしの腕を殺したやつですね。でもそれなら何故あの小娘は連れて行ったんです?」

「毒くらって体力無い俺よりは使えると思ったんだろ。あとは……」

「?」

 セレナは小首を傾げた。

「ガキの正体に気付いてやがるのかもしれねえな」

 フッとタバコの煙がルキノの口から上へと舞う。

 綺麗な雲を描くようなソレをみて、通常のタバコとはまるで違うそれをみて、セレナは思わず「わあ」と声を漏らした。

 まるで魔法でも見ているかのようだった。匂いもどことなく焼き菓子のように思えてくる。

「アイツ勘鋭いし。そんでもって魔界の中じゃ多分一番に強いし。俺の嘘も見抜いてるし。そもそも俺の出る幕なんてねーっての」

 ケラケラと笑うルキノ。

 再び吸われた煙が吐き出される。

 今度は吐き出された煙がみるみるうちにハトへと変わっていった。

「あ、あの」

「あ?」

「そのタバコは、その、本当にタバコですの?」

 そわそわして、セレナはつぶやいた。

 知る限りそんなタバコはみたことがない。

 そもそもタバコを吸う者自体、一族にはあまりいないのだが……。

 いつもかぎ慣れない、ヤニくさいにおいがするだけである。

「あー……、これちょいと特殊なんだよ」

「特殊?」

 ルキノは再び小さな箱を取り出した。

 かわいらしく装飾された箱には、『誕生日おめでとう』とかわいらしい文字で書かれている。

「前に帝王の娘がな、くれたんだ。そんなもん吸って体に悪いから、どうせなら体にいいものあげるって」

 今でも鮮明に思い出す。

 長い銀髪を二つ縛りにした、可愛らしい少女。

 純白の羽根を持つために、魔界では『天使』という種族に分けられている。

 今やアイドルさながらの知名度とファンを誇る彼女は、ルキノも大ファンである。

「味もあまったるいんだが、吸ってると不思議なことに回復してくるんだよ。手持ちのタバコは今信用ならねえけど、これには細工の仕様がねえからな」

「細工の仕様がないって……毒を混ぜればいいのではないかしら?」

「シャルルもそういってて一回マジで混ぜたんだが、何ともなかった。毒すら浄化できるってすげーよな」

「さすが帝王の関係者は厄介ですわね」

「ホントな」

 すうと吸っては、ふうと吐き出す。

 そのたびに煙はふわふわと漂い、メルヘンチックなものへと変化。

 数分ふわふわと漂ったあと、不意にふわっと空気に溶ける。

 そんな様子を見上げていたセレナは、ふと口を開いた。

「……わたくし、あんなに自由で強い方は初めてお会いしました」

「デスのことか?」

「ええ」

 やんわりと頬を赤らめて、セレナはつぶやく。

「わたくしの毒が全く効かなくて、言ってることもやってこともめちゃくちゃで、一切に容赦も躊躇もない。わたくしにはあんな勇気ありません」

「勇気、ねえ……」

 吐いた煙が今度はいくつかの星をかたどっていく。

「もしわたくしに勇気があったなら……きっと……」

 どこか寂しそうにセレナは煙を見つめた。

 相変わらず少女に反応はなかった。

 ルキノも天井を見上げて息を吐く。

「……魔界はさあ、弱肉強食だからあんたに勇気なんてあっても結果変わらねえと思うし好転はしてねーんじゃね」

「し、失礼ですわね……」

「いや、結局アイツは『強い』からああやって出来るんだよ。俺もシャルルも強くねえから時には断れない依頼ってのもある」

「………」

 考えてもみろ、とルキノは続けた。

「依頼してきたやつが自分より強かったらどうあがいて噛みついてもよ、結果かわんねーんだ。それなら利口に従ってるうちに寝首でもかいた方がよっぽどいい」

「……経験がお有りなのね」

「まあな」

 ルキノの頭にはやんわりと過去の記憶がフラッシュバックした。

 どうやっても勝てない相手、というものを彼は知っている。

 従うより他なく、どうしようもない空しさと悔しさを痛いほど植えつけられた。

 ――燃え盛る我が家と、泣く兄妹の姿は、消えることも薄れることもしない。

 そうして。

 同時に、それらに平然と立ち向かえる強さも知っている。

 自らが望まないことを全力で拒否して拒絶して叩き潰せる力を。

「あんたもさ、歯向かって痛い目みりゃわかるよ。自分がどれだけ弱いか『教えられる』から」

 ふわふわと煙が今度はシャボン玉のように丸くなる。

「だからあいつらみたいに真正面から抗うなんてやめときな。いてェだけだ」

「………お優しいのね」

「そりゃどうも。それにグラーナの家柄なら真正面から体当たりより『策略』練ってる方がお得意だろ?」

 ニタニタと下品に笑うルキノに、セレナはふっと笑った。

「……それもそうですわね」

 ふっと目を閉じる。

 これまでの自分の人生をやんわり思い返す。

 ギスギスした一族の空気に慣れ、身内同士でも策と毒を練りあう異質な一族。

 平凡だったがために両親からも無関心に扱われ、こんな郊外の城に一人置かれた自分の人生を。

 思い返している最中に――、セレナは一度、ルキノの顔を見つめなおした。

「な、なんだよ」

 じいと見つめられてたじろぐルキノ。

 しかしセレナは構わず、立ち上がって近づいていく。

「……どこかでみたような気がするのは、気のせいかしら?」

「………さあな」

 視線の意図を理解したのか、思い当たる節があるのか。

 ルキノはさらりと視線を逸らした。

「ルキノさん……、ファミリーネームを教えて下さる?」

「……なんで?」

「わたくしの記憶が正しければ、貴方は―――」

 セレナは一度、言葉を飲み込んだ。

 飲み込んでから、確信をつく。

「ルキノ=アルバート……、オスカー家の分家にあたる一族ではなくて?」

「………」

 ルキノは視線をそらしたまま、ぐっと黙り込んだ。

「わたくし学生時代に貴方を見ているのだと思いますわ。あの頃はそんなヒゲもなかったけれど」

「人違いじゃねえの」

「いいえ」

 ハッキリと否定して、セレナはルキノの瞳を見据えた。

「覚えてないかしら。足を挫いて動けなくて、校舎裏で一人うずくまっていたわたくしを助けてくださったの」

 ルキノの瞳はしばらく空を見ていたが、やがて何かを思い出したのか、ハッとしたようにセレナに移った。

「………え。あんたあの時の!? いや、だってあの時のあんた、日本人形みたいな髪してなかった!?」

「あの時貴方に『ふわっふわの髪の方が似合う』と言われて今のように変えましたわ」

「いや、うそ、マジで!? うっわすっげ……、……あ」

 ひとしきりテンションをあげたあと、ルキノはハッと固まった。

 彼は口の軽い用心棒である。

「アルバート家はおとりつぶし……本家のオスカーに皆殺しにされたときいていましたが……生きていたのですね」

 セレナはゆっくりと目を伏せ、言った。

「よかった」

「……そりゃ、どうも」




「……ご主人様は地下研究室につけたかしら?」

 しばらく沈黙した後、セレナはそんなことをぽつりと呟いた。

 いつまで経ってもこの室内に怒声や轟音、まして振動も響いてはこない。

「もうとっくについてんだろ。アイツが本気になったら無音で全部カタがつくんだから、別にこの静寂は不思議じゃねーよ」

「そう、なんですか?」

「そりゃそーだろ。触れただけで『ころせる』とかチートなのも大概にしろって話だから」

 あーあ、とルキノはごろん、床に寝転がった。

 腕と頭を少女の方に向けているために、少女の身体には影響が無い。

 セレナは、視線を少女に向けた。

 少女には相変わらず生気が見えない。

「……その女の子……、一体なんで貴方に守らせていたんでしょうね」

「ん? あー……俺もよくわかんねえんだよなあ」

 セレナの声に、ルキノも視線を少女に向けた。

 やはり時折、目から涙がつうと頬を流れ落ちている。

「護衛対象の心壊されるとかハジメテだわ。これあの魔女にどーやって報告しよう」

「魔女……そういえばさっきもそんなこといっておりましたわね」

「えらい美人の魔女でさ~、俺の魔法ぜーんぶ反射か無効にしてくんの! もうすげえ驚いて従うしかなかったもんね!」

「魔法を無効……まるでどこかの堕天使ですわね」

「あー、いわれてみればそうかも。ま、似ても似つかないけど」

 ケラケラと笑うルキノ。

 そうして、ぽつりとつぶやいた。

「……ああ、そっか。だから『ゾッ』としたんだ」

「なんです?」

「いーや、なんでもない」

 ニシシと笑って、ルキノは天井に手錠を掛けられていない方の手をかざした。

「さあて、俺はもう一眠りするとしようかね。デスが戻ってきたらまたぶんなぐられそうだし―――ッ!」

 ルキノが言い終わるか終らないか。

 セレナの目の前に、土煙が舞った。

 横の壁がバラバラと破壊され、その破片が前に勢いよく飛び出している。

 いったい、何が、と言う前に彼女の体は何かに強く抱きしめられて移動した。

「―――っ」

「喋るな! 舌噛むぞ!」

 セレナを抱いて飛びのいたのはルキノだった。

 もう片腕では、虚ろな目をした少女が抱かれている。

 その三人の目の前。

 瓦礫と土煙の中に、立っていたのは。

「んふ」

 妖艶な雰囲気をまとった、金髪碧眼の魔女だった。

 体のラインがよく出るアオザイに魔女帽子をかぶり、こちらを舌なめずりしながら見つめている。

「あらぁ、両手に華ね。用心棒サン」

「……そりゃどーも。もう俺の両脇は埋まってるんでアンタの場所はねーぜ」

「ひどいわねえ。あーんなに好きだっていってくれたのにぃ」

 唇に人差し指をあて、魔女は妖しく笑った。

 そうしてふと気づいたように、ルキノからセレナへと視線を移す。

「アナタとは初めましてねグラーナさん。アタシの名前はアレッド。この世界を近いうちに支配する者よ」

「……初めましてですわ」

 警戒するように、セレナは険しい顔でそう呟いた。

 魔女――アレッドは続けて少女へと視線を移した。

 そうして初めて表情を変え――ひどく冷たい視線を少女に向けた。

「なあにそのザマ――、ちょっと用心棒サン。この子生きてる?」

「い、生きてるよ。ちょっと心が壊れちまったかもしれねーけど」

 アレッドの問いかけに、ルキノは苦笑いで答えた。

 少女に反応はやはりない。

「ふうん――まあいいけど。その子、もうイラナイし」

「え」

 固まるルキノに、アレッドは無情に告げる。

「いらなくなったのよ。その子を使って魔術発動させるつもりだったんだけどこっちの見当違い。人さらいする相手間違っちゃって」

「人さらいって……詳しくきいてなかったけど、このガキ、いったいなんなんだよ?」

 ルキノも少女に視線を向けた。

 ボーイッシュな外見以外は至って普遍的、ただの女の子にしかみえない。

「何って、人間だけどそこそこ魔力のある子よ。このアタシが産院に潜入して、生まれて間もない子を選別して、さらってきただけよ」

「………!」

「本当はこの子じゃなくて違う子をさらうはずだったんだけど、ちょっと間違っちゃって。それにさっき気付いたの。ほんと困っちゃう」

 いやよねえ、とアレッドは続けた。

 セレナとルキノは押し黙った。

 悪魔の自分たちが言える立場ではないのは重々承知のうえだったが、それでも素直にその所業にひいた。

「それで申し訳ないんだけど、その子、処分してほしいのよねえ」

「………」

「ていうかアタシ、そのために一度ここに寄ったのよ。すぐに地下に行かないと――」

 アレッドが言い終わるか終わらないか。

 その最中に、言葉をさえぎるようにきらりと何かが飛んだ。

 頬を切り裂いていったソレに、アレッドは目を細めた。

 俯いたままのルキノが、抱えていた二人を背後に下ろす。

 少女とつながった手錠の鎖を、ぷつんと切った。

 切ってから、アレッドへと振り返った。

「――何のマネかしら?」

 黙ったままのルキノに、アレッドは問いかけた。

「……何、別になんてことはねえ」

 ルキノはつぶやきながら、ゴキゴキと関節を鳴らした。

 急に雰囲気の変わったルキノを見つめながら、セレナはそっと少女を守るように抱きしめた。

 二人の気持ちは。

 不思議なことに――、声に出してもいないのに、一緒だった。

「その依頼は、のめねェってだけだ」

「……あら、それはそれは」

 アレッドは両手を組み、仁王立ちしてルキノを睨みつけた。

「……だったら三人まとめて消し去るしかないわねぇ。あらやだ、ほんっとめんどくさい………」

 彼女の――アレッドの周りに黒いぶわぶわとした何かが浮く。

 アレッドの影からぶわぶわと浮き始めたソレは、丸く無数に分かれていく。

「アタシに手間かけさせて……ただで済むと思うんじゃないわよ」

 登場時とは打って変わって、ひどく冷たい目でにらみつけたアレッドに、ルキノは不敵に笑った。

 懐からいくつか小瓶を取り出して、ぽーんぽーんと手のひらでもてあそぶ。

 そのうちの一つの小瓶を指ではじいて、ルキノは言った。

「別にただで済むとは思ってねえ、よ!」

 きらりと。

 鋭い稲妻がルキノの手から放たれた。

 アレッドに向けて放たれたソレは、しかしアレッドに触れる前にバツンと消滅。

 ダメージには至らない。

「魔法なんて無駄よ。アタシには効かないわ」

 得意げに笑って、アレッドは指先をルキノへ向けた。

「でもアタシの魔法は、無駄じゃない」

 ばーん。

 打ち抜くようなしぐさと共に、周囲に浮いた無数の丸い黒い物体が凄まじい速度でルキノめがけて飛び交った。

 途端に凄まじい轟音と土煙に室内の視界が奪われる。

「やりすぎちゃったかしらあ?」

 かわいらしくわらって、アレッドは土煙を見つめた。

「ついでだから三人まとめて葬れるようにたーくさん撃ってやったんだけど……、……!?」

 不意に。

 彼女は足もとが崩れる感覚をおぼえた。

 ハッとして足もとへ視線を下げる。

 先ほどまで確かにあった足場が。

 丸くくりぬかれて、なくなっている。

「なッ」

「確かに無事じゃあ済んでねーけどよ……」

 咄嗟に飛びのこうとした彼女の目の前。

 ぼたぼたと血を流しながら、ニタリと笑うルキノが拳を振りかざしている。

 視線をずらすと、無傷でうずくまるセレナと少女の姿がみえた。

 二人の傍らには、大きな瓦礫が守るようにそびえたっている。

(こいつ――自分と瓦礫を盾にして攻撃を防御、しかもその隙にアタシの足もとを――!)

 目を見開くアレッドに、ルキノの拳は防がれることなくたたきつけられた。

「俺の目的は、達成なんだよ、バァカ!」

「ガッ!」

 思い切り拳をたたきつけられたアレッドは、ひゅるるると音を立てて下へ落下。

 彼女がまさに行こうとしていた地下へと落ちて行った。

 下の方で土煙があがったのを確認して、ルキノは「はーっ」と息を整える。

「どぉせ死んだりしねえだろ……トドメは死神にさしてもらえ」

 頭から流れてくる血をぬぐって、捨て台詞と血反吐を吐き捨てて――そのまま後ろに倒れた。

「ル、ルキノさん!」

 慌ててセレナが声をかける。

 駆け寄ろうとした彼女を、ルキノは片手をあげて制止した。

「いーって。大丈夫。ちょっと血ィ流しすぎただけ」

「で、でも……」

「んなことより、ほらな、いったろ。抗ったってイテェだけなんだよ」

 ケラケラと笑うルキノに、セレナは言った。

「……でも、かっこよかったですわ」

「そお?」

「ええ。それに好転はしました――この子もわたくしも貴方も、生きてます」

「……ま、たまたまってやつだよ」

 ぐっと拳を突き出して笑うルキノに、セレナも笑った。




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