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00:三人の悪党

※注意※

この小説は作者がTwitter上で希望をとり公開を決めた作品です。

元々は暇つぶしというかすさんだ心をぶつけるために書いていた投稿するつもりのない小説になるため、過激かつ残酷な描写、悪魔ならではの奔放な性表現、また悪党ならではのタバコや薬物使用のシーンがございます。

暴力暴言流血残酷な殺し方のシーンがありますので苦手な方は閲覧をお控えください。なるべくR15内に収まるよう努力はしていく次第であります。

0「三人の悪党」


 ――最初に前置きをしておこう。

 これは、魑魅魍魎らが住まう世界、通称『魔界』と呼ばれる世界での物語でふっと湧いて出た日常のワンシーン。

 悪党が悪党と悪党らしく悪党をする物語である。


***


 ―――薄暗い室内には、いつもどおり、血と煙草の匂いが充満していた。

 とても誰かが暮らしているとは思えないほど汚れ、壊れた廃墟のようなその一室は、魔界の中心部帝都からは少し遠い、『オルク』の町はずれにたたずむ二階建てのビルの一部だ。

 下の階にも、上の階にも、誰も住んではいない。

 電気も通っていないのか、室内の明かりはいくつかのランプだけだった。

 死神は、ギシ、とベッドを軋ませてむき出しになった上半身を起こした。

 鍛えられた鋼のようにたくましい肉体が、オレンジ色に怪しく照らされていた。

「あー……、頭いてェ……」

 眠たそうに呟きながら、死神はそばにあったペットボトルを飲み干した。

 彼の側には空になった酒瓶類が、これでもかと散らばっている。

 頭がやけに重い。身体には何とも言えない気怠さが残っている。

(……なんだっけか)

 頭を掻きむしりながら、死神はぼんやりと記憶を回想した。

 が、思い出せる記憶がさほどなかった。

 昨日、副業であるホストクラブでの仕事を終えたあたりから記憶がない。

 仕方なく、いまだぼんやりとする思考と視界で、室内を見渡してみる。

 景観にぴったりはまった、無機質なパイプベッドの上から見下ろす室内は、まあまあに混沌に満ちていた。

 無造作に置かれたドラム缶の上に用心棒が一人。

 室内にはそぐわない、高級そうなソファに闇医者が一人。

 そして自身の隣には、淫魔といわれても仕方ないレベルで露出した(全裸といった方が早いかもしれない)盗賊が一人。

 全員が全員、静か(とはいえないものもいるが)な寝息を立てていた。

(おいおい、なんだこの状況)

 思い出せない記憶を、思い出したいという気も薄れていく。

 副業後、職場であるホストクラブ『ゴルト』からいつもの二人(闇医者と用心棒。どちらも副業にホストをしている。闇医者は本業だとのたまっている)と一緒に飲みなおすのはよくあることだ。

 しかしそれにこの女盗賊悪魔、レドが交わるケースは、さほどない。

 パイプベッドには見慣れた乱れと汚れがあることから、死神――デスは、深く深くため息をついた。

 何もかも夢だったと、今よぎった悪い予感は全て勘違いだと信じたい。

 ふと、彼はズボンのポケットに突っ込んでいた携帯を確認した。

 時刻はすでに昼である。親友から着信が数件。その親友の娘たち複数名から着信とメールが複数件。

(なんだよ、何か約束してたっけか)

 カチカチと携帯をいじってメールを開く。

 内容はさしてたいしたことでもない。

 『帰りにアイス買ってきて』。

 ただそれだけである。

 親友からの留守電メッセージもまた、

『あ、デスー? 俺アイス食べたくてさー、帰りでいいからアイス買ってきて! お願い!』

 これだけだった。

 デスはどっと重いため息をついた。

 それから携帯を壊れる直前まで締め上げた。

 本当なら親友を締め上げたかったが、ここにはいない。

 いるわけもないのだが、それでもこの混沌の部屋に一瞬でものほほんとした空気を感じて、デスは不愉快だった。

「――お。起きたのか、クソ死神」

 ふと、ソファから独特な声質をした闇医者から声がした。

 眠たそうな双眸には、大きなくまがあったが、それがいつも通りであることをしっている死神は、あからさまに嫌そうな顔をした。

「クソは余計だ闇医者め」

「俺に悪態ついてる場合か? 記憶ねェだろ? うん?」

「……ってことは何か知ってんのか」

 嫌なふうにクツクツと笑う闇医者――シャルルに、デスは目を細めた。

 デスやドラム缶の上で器用に眠る用心棒はともかくとして、このシャルルだけは、『記憶をなくす』ことや『拘束される』といったヘマはしない。

 この空間以外でわざわざ三人そろって行動するということもまずないが、決まってその時有利な立ち位置にいるのが、この悪魔だった。

 眼鏡をくいと指で押し上げて、シャルルは目を光らせた。

「教えてほしーか?」

 得意げである。

「……おい。テメェらの中で俺が一番強ェってこと忘れてるわけじゃねーよな?」

 挑発するような発言に、デスは容赦なく鋭いまなざしを向けた。

 当然本気ではない。

 しかし本当に腹は立っている様子である。

 ゴキゴキと関節を鳴らして脅されて、シャルルは茶化すように、

「おいおい、何マジになってんの? ウケるんですけど」

 と、肩を揺らした。

 どこまでもふざけた悪魔である。

「いっとくが手加減にゃ慣れてんだ。死ぬ手前までフルボッコにしてやっても構わないっつーこと忘れんなよ」

「くくっ、冗談だっての……。ただお前と話してると、どうにもいじめて苛めて虐めて辱めて恥辱に埋もれさせたくなるっつー、俺の加虐心がすげえ刺激されるってだけでよォ」

「このドSが」

 吐き捨てるように呟いて、デスは背後のレドを親指でさした。

「つーか何で俺、この盗賊女と寝てんの?」

「そりゃお前、一夜の過ちがあったからだろォ?」

 くつくつとからかうように笑うシャルル。

 デスは奥歯を噛みしめた。

 もし許されるなら、一度でいいからぼこぼこにしたい。心置きなく。

「嘘つくんじゃねーよ。お前やルキノじゃねえんだから」

「あァー? 俺はレドなんざとっくに抱いてるっつーの。俺が一回使ったもんは使わねー主義なのしってんだろォ?」

 まるでデリカシーのない発言に、デスが何か口を開くその前。

 ひゅっと鋭くナイフが飛んで、シャルルの頬をかすめていった。

 はらはらとミルクティー色の髪が落ちていく。

「……レディを前にしてなんて話してんだテメェら」

 別のナイフをぴたりとデスの喉元に当てて、レドは鋭い眼光をシャルルに向けていた。

「わ、悪かったって。でも事実なのはテメェも承知の上だろうが」

 わずかにひるんで、シャルルは降参とでもいうように両手をあげた。

 デスの方も、苦笑いを浮かべて両手を上げた。

「そーだぜレド……お前もこいつの最低具合しってんだろ」

「ああそうだな。でもこのあたしとヤったってのに、死神、テメェもなんつー嫌そうな顔してんだ? あ? あたしとヤれるなんてあんたらくらいのもんなんだよ?」

「だってテメェ、絶対ヤったあと面倒振るだろうが」

「そりゃそうだろ。あたしはボランティアじゃないんだ。有料なんだよ」

 ゲシッと乱暴にデスを蹴り落として、レドはパイプベッドからはねた。

 床に散乱した衣服をひょいと拾い上げて、手早く身に着けていく。

 落とされたデスは、ふと床に転がる注射器を拾い上げた。

 わずかに残った液体は、蛍光色でどうみても身体に悪影響を及ぼしそうである。

「……なんだよこれ」

 蹴られた背中をさすりながら、デスは小首を傾げた。

 用心棒は未だ目を覚ましそうにない。

 ぐーがーといびきまで立てている。

「ああ、それ?」

 衣服を着なおし終わったレドが、長い黒髪をまとめ上げながら振り向いた。

 先ほどよりはいくらか露出度の低い、しかし身体の凹凸をいやに強調する軍服(なぜか下半身はミニスカートではなくホットパンツである)と、黒い無骨なブーツがよく似合っていた。

 レドはあごでシャルルをさしながら、

「それそこの闇医者がつくった、記憶ブッとぶヤバい薬」

 と、平然と呟いて見せた。

「……は?」

「や、あんたらそうやって最近あたしの誘い断るじゃん? こっちとしては仕事でやってんだからすげえ困るわけよ。で、シャルルに頼んだらさー、あの『グラーナ』家自家製の毒をふんだんに使用した媚薬効果ありありの劇薬があるっつーから、買ったの」

 しれっといってのけたレドに、デスはもはやいう言葉がなかった。

 そしてそこまで言われてようやくのこと理解した。

 あちらこちらに転がる酒瓶を全て飲んだところで、ここにいる誰もつぶれるわけはない。

 だからこそ記憶のない現状が不可思議だったが、シャルルがレドと組んでいたというなら話は別である。

 シャルルという男は、金と女と気分で動く悪魔である。

 おそらく上玉の処女でも前金で支払われたに違いない、とデスは舌打ちした。

 不意を突かれて、デスも用心棒であるルキノも、その劇薬をシャルルに打たれたというわけだろう。どうりでシャルルだけは平然としているわけだ。

「でもさすがお前は化け物だよなァ」

「あ?」

 シャルルはどこか感心するように、足を組み替えて怪しく笑った。

「この俺が監督してた製薬シリーズだったんだぜェ? アレは結構デキがよくてよォ……、どんな屈強な悪魔でも一日以上はお人形さん状態のはずなのになァ」

「……褒め言葉かそりゃ?」

「おお。そこの用心棒はダメダメだったしなァ。でもお前は後半結構ノリノリでよ、お人形さん状態は前半だけだったぜ」

 にたにたと笑う顔をみて、デスは顔をしかめた。

 どうせ醜態を記録しているに違いない。

 そうしていつか脅す道具に使うに違いない。

「殺されてェならとっととそういえよ? いつでも死神機構の檻にブチ込んでやる」

 殺意と悪意に歪んだ顔で、デスはシャルルに青白く輝く右腕を向けた。

 それはいわゆる、『死』だった。

 触れれば終わる、冷たい『死』だった。

 シャルルはようやくのこと「悪かったって」と苦笑いを浮かべた。

 彼にしては実に珍しい表情だった。

 それだけ――死神機構という存在が、彼にとっては悪魔でいう神にも匹敵して嫌なものだった。

 いや、彼だけではない。

 魔界という世界では、『死神機構』というワードは人間界でいう『警察』に程近い。

 そしてその檻に入るということは、人間的に死ぬことのない彼らにとって、消滅という現象よりもはるかに【死】を意味するというわけだった。

「ま、そういうことだからさ―――」

 レドは何気なく振りかぶって、思いきりリモコンを投げた。

 見事リモコンは用心棒ことルキノに直撃。

 ドラム缶の上にいた彼は、思い切りドラム缶から転げ落ちた。

「ぐおっ……おお、おお? いてて……」

 うめき声のあと、ルキノは頭をさすりながら起き上って周りをキョロキョロした。

 先ほどのデス同様、何が何だかわからないらしい。

 乱れた着流し(まあ普段からだらしないのだが)を見つめながら、

「……レド? 何でテメェこんな……」

 と、一人浦島太郎状態である。

 レドは一切取り合わず、びしっとポーズを決めて、一枚。

 写真を取り出して三人に掲示した。

「どっ。この子、かわいーでしょ」

 レドが掲示したのは、とある少女の写真だった。

 ぼさぼさにはねた黒髪と、口元まで覆ったくすんだ赤いマフラー。

 全身ほこりまみれのファッションは、彼らに盗賊の印象をうえつけた。

 デスとルキノが嫌そうに顔をゆがめて無言の中、シャルルだけは、

「こいつ処女?」

 これである。

 レドは迷わず再びナイフを振りかざした。

「どこまでデリカシーのない男なのあんたは。それでモテるってんだから、ほんと不思議だわ」

「不思議なことなんてねェだろ。俺に抱かれたい女は山のようにいるんだよ」

「この自意識過剰は殺してもいーのかな?」

 とてつもなく恐ろしい形相で目を光らせるレドに、デスはようやくため息をついて口を開いた。

「まあ待てって。そいつ殺すなら俺が先にやるからよ」

 立ち上がったデスは、レドの持つ写真をピッと奪い取った。

 少女はまだ年端もいかない。

(……ガキどもと、同じくらいか)

 頭に思い浮かんだのは、親友の娘たちだった。

 とくに、デスに懐く、赤い髪の少女が脳裏をよぎった。

 今ものんきにアイスなどを待っているのだろう。

 少なくとも――こんな場所でこんな悪党どもと一緒にいるとは、思っていないのだろう。

「何しろってんだ? 誘拐か? 暗殺か?」

「ぷっは! 何だよその物騒な選択肢は。あたしを悪党あんたらと勘違いしてんじゃないの?」

 げらげらと豪快に笑って、レドは両腕を前で組んだ。

 そうして、実に豪快に。

 実に無責任に。

 とんでもない爆弾発言を投下した。

「その子の面倒をみてほしーの。一週間」

 デスは真顔で呟いた。

「お前はその女を俺たちに喰わせたいのか?」





***




 銀髪の死神(とはいえどほぼ仕事をしていない)――、デス。

 (女はリサイクル派。決して女性に優しくはない)

 着流しの用心棒といえどぶらぶらしている――、ルキノ。

 (女は処女派ロリコンともいう。しかし親父ギャグは言わない)

 悪徳の闇医者(といえどホストの方が本業だと思ってる)――、シャルル。

 (女は使い捨て派。地球にも女性にも優しくない)


 ついでに表は賭場を仕切る女頭、裏は史上最悪の女盗賊――レドも含めて。


 彼らは容赦なく『悪党』だった。

 魔界の中でもきわめて純度の高い、自分の要求に容赦のない『悪魔』だった。




 そうして、実に運命的に。

 彼らは、盗賊を仲介人として――とある少女と出会うのである。


 ……悪党の物語には、悪党しか存在しない。



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