その日、僕はただ、恋をする
「その日、僕はただ、恋をする」
僕はその日、桜の妖精を見ていた。
印象的なのは、セーラー服に長い黒髪。
舞い散る桜の花びらをその白い手で追いかけて、すくいとろうとする。
その姿は、僕にとって、まるで桜の花の風を操っているように思えたんだ。
向け、こちらを向いてくれ!
もう少しで、彼女の顔が見える。
そう、思った時だった。
夏美「おはよう、ハル! 今日から新学期だね」
正面から、一人のおかっぱ頭の女の子が、彼女を呼ぶ。
彼女の、友人だろうか。
夏美「まだ桜見てたの? ハル?」
ハル「あ、夏美? おはよう」
そういって、桜の妖精は、彼女の方へ向いてしまう。
僕は、そっぽを向かれたのだ。
夏美「ハルー。春休みの宿題が、まだ終わんないよ。どうしよう……」
ハル「夏美は、のんびり屋さんだから、宿題を忘れるのは仕方ないかも?」
夏美「ええ?! こういう時は、ノートとか見せてくれるのが、親友ってやつじゃない?」
ハル「現実は厳しいの、ほら、学校始まっちゃうよ!」
ああ、なんて、運命的な出会いなんだろう。
彼女は、僕と同じ中学の制服。
そして、ハルという名前しか僕は知らない。
だけど、僕は、初恋をした。
ハルという、先輩に――…。
了




