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第四話 修行

 気が付くと、俺は見知らぬ部屋で寝かされていた。気絶している俺を農家のおばちゃんが発見し、自分の家に連れて来てくれたらしい。お手伝いをするはずが、逆に手間をかけてしまった。俺はおばちゃんに謝ると、その日はすぐに家へと帰った。


 翌日、俺は昨日と同じように石を召喚した。すると、前日に比べて疲労感が遥かに少なかった。昨日をフルマラソン級とするなら、今日は千五百メートルの持久走ぐらいの感覚だ。もう一発ぐらいなら、何とかいける。そう考えた俺は、最初よりもやや小さな石を召喚してみる。すると、何とか気絶せずに石を召喚することが出来た。


 ――魔力の鍛錬は肉体の鍛錬と同じ。眼に見えた成果はすぐに上がらないので気長にやりましょう。

 本にはこのように書かれていたが、明らかに魔力量が増えている。元がしょっぱすぎるので、量としては大したことないのかも知れないが、伸び率だとすれば凄まじいものだ。


「もしかして、成長期だからか?」


 成長期に運動を始めると身体能力が飛躍的に向上すると言う。トップアスリートなどを育成する英才教育が、幼い頃に始まるのもこのためだ。魔力もそれと同じで、早い段階で始めればそれだけ成長率がいいのかもしれない。


「よし、ガンガンやるぞ!」


 修行三日目。俺は親指サイズの石を二回、砂粒よりちょっと大きいサイズの石を一回召喚することが出来た。気絶しないように余裕を持っているので、小さいサイズの石ならばあと一回ぐらいは召喚できそうである。昨日の魔力量から考えると、大体二倍ぐらいだ。昨日の今日で倍になるとは、コンピュータの性能もビックリの伸び率である。というよりも、使った分だけ増えているような気がする。


 修行四日目。今日は大きめの石を四回、小ぶりの石を三回召喚することが出来た。やはり、使った分だけ魔力が増えている。家系的に魔法の才能に満ち溢れているなどとは考えにくいので、成長期だからだろうか。子どもの伸び率ってすげえ!


 修行五日目。ここからはもはや倍々ゲームだ。毎日魔力を空にすれば、使った分だけ増えるので翌日には魔力量は倍。それを毎日繰り返していけば、一週間で元の魔力の百二十八倍。一か月で十億七千三百七十四万一千八百二十四倍まで増える。さすがにここまで増えるとは思えないが、千倍ぐらいまでは増えてくれるとありがたい。回数が増えたと言っても、二メートル先にある小石を召喚しているだけなのだから。異世界とまではいかなくとも、生来的には世界の端にいる何かを召喚できるぐらいの魔力は欲しい。


 修行七日目。回数が増えてきて時間を圧迫し始めたので、石のサイズを一回り大きくしてみることにした。結果、回数は六日目の半分にまで減った。どうやら、召喚魔術は召喚するものの質量に比例して消費する魔力が大きくなるらしい。これは、まだまだ鍛錬が必要そうだ。


 修行十日目。またも時間がきつくなったので、今度は距離を延ばしてみることにした。思い切って、一気に二十メートル。すると回数は九日目の十分の一にまで減少した。どうやら、距離と必要な魔力量はきっちり正比例をしているらしい。物の質量×距離=必要魔力と言う公式が成立するようだ。この分だと、倍々ゲームで魔力が増えてもまともな召喚魔法を使えるようになるのに相当な時間がかかりそうである。


 修行十五日目。やっと、自分の視界の外にある物を召喚できるようになった! 呼び出したのは酒場の裏に捨ててあった空き瓶。まだまだしょっぱいことこの上ないが、二メートル先にある小石を呼び出しただけで死にかけていた初日とは比べ物にならないぐらいの進歩だ。ここにきてやっと召喚術を扱えるようになったと言う気がする。喜びもひとしおだ。今度は村全域にある物を自在に呼び出せるぐらいが目標だな。


 修行三十日目。さすがに倍々ゲームとは行かなくなっていたが、至って快調に魔力は上昇している。今日はついに、自宅の裏にある岩を召喚することが出来た。俺の背丈よりも一回り大きいほどの岩で、大理石よろしく白っぽくてつるつるとした石質をしている。おそらく、俺の体重の五倍は重さがあるだろう。いよいよ召喚魔術も実用の段階に入ってきた。


 だがここで、一つ大きな問題が発生した。これ以上大きなものを動かすとなると、さすがに村の人たちにばれてしまう。かといって、遠くの山から適当な岩を召喚するなんてことも出来ない。召喚術と言うのは、基本的に自分が見たことのある物しか呼び出すことができないのだ。呼び出したい物をできるだけ脳内で鮮明にイメージすると言った作業が必要不可欠なのである。


 俺が修行に使える時間は限られている。仕事を終えてから、日暮れを迎えるまでの大体二時間から三時間ほどの間だ。召喚陣を描き上げるのにそれなりに時間がかかるため、実質は一時間半から二時間ほどである。せめて、もっと時間があれば――と思って、はたと気付く。


「草を召喚すればいいんじゃないか?」


 黒々とした畑の中に、まだらのように生えている緑。その姿を一つずつしっかり確認すると、俺は召喚陣の上に手を置く。掌から魔力が溢れ、陣が発光。たちまち独特の空気音が響き、目の前に草の山が出来る。一方、畑の方はきれいさっぱり。見事成功、これで仕事は完了だ!


「よっしゃ、この方法ならあっという間に仕事ができるぞ!」


 こうして、圧倒的な仕事能率のアップを果たした俺は、空いた時間でひたすら魔力量のアップに励んだ。毎日毎日、魔力を使い果たすまでひたすらに召喚を続けたのである。召喚術で呼び出した物は一定時間が過ぎると元の場所に戻る。そのため、戻っては召喚し、戻っては召喚しを延々と繰り返し続けたのだ。


 こうして、修行を開始してからしばらくが経過した。俺は六歳になり、魔力量も相当な物となってきていた。もはや小石や空き瓶などではその量を使いきることなどできず、家の裏にある巨大な岩を使っている。そんなある日、いつものように岩を召喚しようとした時のことであった。


「ギギャアアア!!!!」


 白い光とともに現れたのは、いつもの岩ではなかった。背中を弓なりに反らせ、全身の毛を逆立てている猫のような生物がそこには居た。だが、その大きさが尋常ではない。俺の体よりも遥かに大きく、見上げるような高さに顔がある。体重も相当重いようで、足元の地面が凹んでいた。木漏れ日を反射する毛皮も妙にザラザラとしていて、何か硬い鉱物で出来ているかのようである。


「な、なんだこりゃあァ!!!!」


 思いもよらぬ化け物。その登場に、俺はたまらず腰を抜かし絶叫したのであった――。

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