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第一話 三度目の転生

 記憶が戻ったのは、五歳を少し過ぎた頃の話だった。

 幼い子どもが良く罹るという魔疹と呼ばれる病。それを患った俺は三日三晩に渡り四十度近い高熱を出し続け、それが収まった頃にはすっかり前世と前々世のことを思い出していたのだ。今まで覚えていなかったことが、不思議なほどに鮮明に。


 前々世の名前は冴山さえやま 京丞きょうすけ。家から追い出された揚句、車に跳ねられて死亡した引きこもり。前世の名前はラティーヌ・フォル・バルトネルク。堕落した生活を続けた結果、陰謀に気づくことができず処刑されたボンクラ貴族。どちらも、恥ずかしいことこの上ない黒歴史的な人生だ。記憶が戻った時、体が弱っていたのは幸いだっただろう。もし健康な状態だったら、布団の中で叫んでいたかもしれないから。


 だが、状況を理解すること自体はすぐにできた。前世にも起きたことなのだから。神様が俺に慈悲を与えてくれたのか。逆に、業が深すぎて浄土へ行くことができず輪廻の輪をグルグル回っているだけなのか。そのどちらかはわからないが、俺はまたも異世界転生をしたらしい。


 今の俺はラルド。ジョバル王国の東部に位置する、カルソ村の子どもだ。身分は村長の息子。なかなかのポジションのように思えるが、三人兄妹の末なので普通の子どもと扱いはさして変わらない。相当に中途半端な感じだ。前世とは異なり、早いうちからの人生設計が必要そうである。


「むむ……現状を確認しないとな」


 一人ベッドの上でそう言うと、七歳児の知識を掘り起こす。どうやらこの世界は、前世と同じくファンタジー要素のある世界らしい。ただし文明的には比較的進んでおり、結構な田舎であるこの村にもランプのようなものが普及していた。村長である父親の話によれば「あと二十年もすれば、この村にも汽車が来る」だそうだ。地球で言うところの十八世紀~十九世紀ぐらいの雰囲気であろうか。


 文化は西洋風で、村の建物はそのほとんどが石造り。二階建てから三階建ての物が多く、窓にはガラスが用いられている。住んでいる住民も彫の深い顔立ちをしていて、髪も銀髪や赤毛など東洋人にはない色彩の者が多い。中には緑や青など異世界人ならではの色をした者もいる。前世が欧風国家の出身である俺には、比較的馴染みやすい。


 村はそれなりに豊かで、ここ数十年にわたって飢饉などとは無縁らしい。国全体の政情も安定していて、大きな戦争などは暫く起きていないようだ。前世と違って平民でしかない俺に国の内情など深く知るすべはないが、成長するまでの間に兵士として戦場に駆り出されると言うことはなさそうである。そこは安心できるポイントだ。


「あとは魔法についてか。うーん、これは……」


 前世の世界には様々な種類の魔法が存在したが、この世界の魔法は召喚魔法一本らしい。そもそも魔法と言う技術体系の一つとしてではなく、召喚術という独立した存在としてあるようだ。この召喚術と言うのはただ単に召喚するだけでなく、さまざまな応用系があるらしいが――俺はそもそも見たことがない。召喚術を扱える人間自体が、非常に稀なようだ。けれどこれは確実に今後の調査対象だな、うん。前世では剣の才能はあったのだが、魔法の才能は皆無だった。前々世のオタク魂が魔法を使いたいと疼いて仕方ない。


「よし、やってやる。今度こそ俺はまっとうな人生を歩くぞ!!!!」


 そう声を上げると、俺は布団をベッドの端へと追いやり、その場で土下座をした。どうしようもない人間である俺に、またチャンスを与えてくれた神様に対しての感謝である。もっとも、神様なんて居るか居ないかわかったもんじゃないが――これは、俺自身へのけじめでもある。前世までの自分と決別し、今生で頑張るための確固たる決意の表れなのだ。


「そうと決まったらまずはトレーニングだな。出来ることから始めよう」


 病み上がりのため体はまだ重いが、やってやれないことはない。ここで面倒くさがって「明日からやろう」と言い出したら、永遠にやれないことを俺は誰よりも知っている。そうやって言い続けてきた結果が引きこもりニートであり、堕落したボンクラ貴族なのだ。頑張れるときに思いっきり頑張る。それが何よりも大切である。


「一、二、三……」


 ベッドから降りると、板敷の床の上で腕立て伏せをする。さすがに子どもの身体だ。いわゆるピザデブだった前々世やメタボリックな体をしていた前世とは違って、予想以上に動きやすいうえに息切れしない。病み上がりだと言うのにだ。一・五秒に一回ほどのペースで、順調に腕立て伏せの回数が伸びていく。


 そうして五十回ほどもこなすと、今度はスクワットに取り掛かる。続いて腹筋、背筋をそれぞれ五十回ずつこなしたところで、俺はベッドへと戻った。息が苦しくて肺が焼けるような感覚。それが頑張った証のように感じられて、逆に心地よい。


「明日からも頑張ろう……」


 こうして俺は、心地よい疲労感に包まれながら再び眠りの底へと落ちて行ったのであった――。


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