スカウト
「君、名前は?」
軽いノリで聞いてきた。
「あ、私ですか?」
「そうだよ、他の誰に聞いてるんだよ」
「そうですよね。私は、あんずです」
「あんずかあ。変わった名前だよね。」
「え、まあ」
実は、私はすでにキャバクラで働いている。
「あんず」はそこの源氏名として使っている。
理由は単純で、「あんず酒」が好きだったからだ。
そこから徒歩で3分ほどのビルの3階にある喫茶店に入って行った。
喫茶店内は、若者はほとんどいなく、なにやら商談めいた会話が飛び交っていた。
「紹介します。友人の、小岩井です」
席に座っていたのは、スーツを着こなした紳士な感じの男性だった。名刺を差し出された。そこには「株式会社 ライブアイ コーポレーション」とあり、「営業部長」という肩書きだった。
「では、よろしく」
といって、さきほどの男、伊藤は立ち去って行った。
なにか騙されたんじゃないか?と不安がっていると、
「いや、ごめんね。実はさ、街頭でのスカウト行為は禁止になったんだよね。それで、こうして間接的にやっているわけ」
そういえば、迷惑防止条例が改正されて、街頭でキャバクラや風俗へのスカウト行為が禁止になった、というニュースがあったっけ。だから、こうして、最初にナンパして、その人ではないひとがスカウトをするのか。
手の込んだことをしているなあ、と思った。
「君、キャバクラで働かない?」
やはり、思った通り、キャバクラのスカウトだった。
「実はもう働いているんです」
「え、そうなの?ちなみに、どこで?」
「中野です」
「中野かあ。時給は、ぶっちゃけどれくらいなの?」
「1500円です」
「安いね。もし、僕の紹介するところだったら、最低2500円は保証するよ」
時給の1000円upは正直、うれしい話だ。
でも、私だって入店間近なころは時給2000円だったが、客がそれほど呼べなかったために、時給が下がった結果だった。だから、最低2500円といっても、どうせ下がってしまうんだろうな、って思った。
それに、お金だけが働く目的ではないし・・・・。