主人公になれなかった悪役のお話
主人公になれなかった悪役のお話
「我が名は、悪魔王クレスベリル!さぁ、私を倒せるものならやって見るがいい!」
「何を言うか!私のこの剣で成敗してくれる!ゆくぞ魔王っ!!」
此処は、他にもどこかにありそうなありきたりな魔王城、そこに彼、勇者アイス・ファーフは
クレスベリルとゆう魔王に勝負を挑んでいた。
愛する姫君、アリアンヌを救うために。
「これが……ユリアンヌの受けた痛みだぁ!!」
勇者アイスは大きく男の唸りをあげ、魔王へと……って。
「はい、カットォ!!」
「え……?」
はいはい、勇者アイスもとい本当の名前は無名Aさんは、魔王も切らず驚いて剣を落とし、地上に足を付けてしまった。
「落とさせないでください!クライマックスなのに……それに!俺の演技力はかなり良かったし……
ちゃんと規定の位置まで空も飛んでたし……剣の方向だって正確な……」
「バカやろぉお前ナレーターちゃんの語り聞いてたのかぁ!?それとも台詞を忘れたのかぁ!?」
「え……」
それより監督の声の説明どうしましょうか?省きましょうか?
「ちょ、いや、省いてねナレーターちゃん、お、お願いだから」
分かりました、ではナレーションモードに戻ります。
そして、監督は切れながらも的確に勇者役の少年を攻め落とす発言を続ける。
いきなり何かを指摘された少年は、慌ててしまいどうゆう事なのか理解できないでいる。
「わかんねぇかぁ!?あれだよぉ!あれぇ、ナレーションは「アリアンヌ」つったのにぃ
お前『ユリアンヌ』ってふざけやがっただろ、このやろぉ!?」
「……え……あ……」
その言葉を聞き少年は、自分の台詞の言い間違いに気がついた。
顔に血相を浮かべ、ナレーションの方を助けを求めるように横目に見た。
しかし直ぐに何もしてくれないと分かり、勇者のマントまで地上につきそうになるくらい体を落ち込ませた。
しかし、そんな事をしても監督は許してくれるはずが無い、間髪いれず監督は……な声で少年に怒鳴り散らす。
「あの、ナレーションしてくれてる所を邪魔しちゃうけど……今何か君言いそうになったよね?
今無理やりモザイク的な要領でドットで台詞隠したよね?お願いだからそんな汚物見たいな扱いしないで俺泣くよ……」
ほら、怒鳴り散らす。
「……てめぇ、また悪役に逆戻りしたいのかぁ?あぁん?折角今回主役やるはずだったファイグランド様に悪役変わってもらって
チャンス掴んだ癖にぃ!それを自分の手で不意にしてぇ、ファイグランド様の思いを無駄にする気かぁ!?」
静かにファイグランドと名乗られた魔王に墳する本当の主人公は、2人を見つめる。
「ひ……ごめんなさい!ちゃんとやりますからぁ!もう1度テイクを……」
「もう一度だぁ!?お前なんかのためにファイグランド様にお手数かけた上、カットされてるから視聴者知らないけどぉ何度目のテイクだと思ってんだぁ!?」
監督は、少年のヘマをどんどん責めていき、だんだん少年の心は押しつぶされていく。
その時。
「監督……もう止めなさい、アイスの事を責め過ぎだ……」
あまりの監督の声に見かねたらしい、とにかくどんな理由だろうと
そこまでその少年に酷な事をする監督をただ黙って見ていられなかったから。
きっと理由はそれだけだ。
「……あ、嫌そんなつもりじゃあ……」
少しだけ……なただでさえ……な声がさらに……になる。
「……ファイグランドさん……本当に……」
「言うなアイス、さぁ一緒に少し休もう」
……な声の監督とは対照的に、美しく優しく花のある声で
アイスを優しく宥める、まさしくこれが主人公と監督の大きすぎる格の違いと言えるだろう。
そして、マントを引っ掛け棒に掛けて、足早にアイスの肩を触ると、……声の監督から離れるように
休憩室へ、アイスを連れすばやく移動していった。
そして少し監督を睨むと、優しく扉を閉めた。
「ひ……すいません、ファイグランド様……」
監督は小さくなり、少し怯えた声でファイグランド様を見送った。
これで、お話も私のナレーションモードも終了でございます。
あぁ、ファイグランド様役の蝶様かっこいいですよねぇ。
「……吉良君……」
何でしょう?星素さん
「あれ……本気で言ってた?俺の声、字にも出せないような声じゃないよね?心の中じゃ思ってないよね?」
はい、当然のごとく何の誤差も失敗も無いほど思っていますよ。
「……この悪魔娘……」
黙れこの……声。
その次の日、何か知らないんですけど、星素さん書置き残して行方不明になりました。
~おわり~
監督より「主人公になりたい……」