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~見えすぎる世界で安定したい俺達~

作者: ここの色。

お題:カーニバル・シミュラークル・第三の目 という三題噺です。

どうかお目を汚しですがお暇なら読んでやってください。

 人類の環境はある日を境に劇的に変化した。

 たった一つの発明で、人間の多用性が死んだんだ。俺達は、いわば劣化コピーだった。

 理由を問うにはまずあげなきゃならないのは……プライバシーの破壊。

 昔、誰かが言ってたような情報社会化による個人データ漏洩の脅威ではなかった。

 崩壊の根本的な要因は便宜上、「第三の目」と呼ばれる。

 それはそれはセンセーショナルな発見だったらしい。……研究者は口々に叫んだはずだ。

「これで世界は変わる」

 と。

 実際、人を取り巻く状況は大きく変わったようだ。

 このあたりは皆が授業でまず一度は通る話だった。


 ……そして人類は滅んだ。

 

 俺達、言わば「亜人」の取り返しの付かない過ち。この事はもはや暗黙の了解として今や大人子供問わず知っているものだ。

 亜人の文化は一種のシミュラークルみたいなものだった。

 俺の居る時代は、かつていたはずの人類の文化に対する懐古で出来ていると言ってもいい。

 皆が在りし日を取り戻すために躍起になっている状態なんだ。

 それだけ失ったものは大きかった。

 その対価に俺達が得たもの、それは……「透視能力」。

「海人、ごはんよ」

 床の下より俺を呼ぶ声が聞こえる。俺はベッド上で布団をはね上げ起き上がる。

 また俺は考え事をしてたのか。

 次の拍子、立ちくらみで軽く吐き気がしたけど……我慢、我慢だ。

 静かに寝床に腰をかけたまま、俺はゆっくりと目を開けた。……と言っても左右二つの目は既に覚めきっていた。

 これから開けるのは「第三の目」。眉間の中央に存在する……比喩とかなしで眼のようなものだ。

 俺は意識を束ねるように深呼吸した。人によりけりらしいが、俺は全ての目を開けていた方が集中出来るんだ。

 そして、俺の思考の中にビジョンとして入ってくるものあった。

 (コンロの上にある……フライパンと……目玉焼き)

「また目玉焼きか」

 だけど当然か……。豪華な料理がなんて滅多に食べられるものじゃないし。

 例えば俺が憧れている肉料理、とか。昔は家畜の肉が食べられていたらしい。

 今では謝肉祭だけが残っている。もはや前時代の遺物になってるかな。

 だけど個人的に非常に楽しい行事だったりする。理由は……行事を透視出来るんだ。

 発明は祭りを皆で共有する事が可能になった。

 「第三の目」は、世界中全ての亜人共通のものだった。

 そしてそれが亜人と呼ばれる理由、人類が淘汰されてしまった理由なのだろう。

 俺は既に熱気で蒸せている二階を後にし、階段を下りた先のダイニングに駆け寄った。

「いただきます」

 食事に肉がなくなった理由、つまるところ、それも透視のせいなんだ。

 俺は不思議に思うが……なぜか多くの人々は見てしまったらしい。家畜がほふられる所を。

 ……食欲が失せるだけでは済まなかったみたいだ。果たして肉料理は地上から消えた。

 幸い代替がきいて動物性タンパク質は卵、牛乳で摂取することで補うことになったんだとか。

 当時は「第三の目」がないと人間扱いされなかったらしい。

 というか、自分を守るためにその能力を取り入れざるを得なかったようだ。

 どういう理屈か俺は忘れてしまったが遺伝子レベルで深く食い込んでいるという話だ。

 そして透視の出来ない人類は、ついにはいなくなった。

 亜人は、後悔した。……のだろうか?俺にはおぼろげに推測するしかない。

 なんせ昔の話だし。

 俺がもそもそと考えてるとチャイムが鳴った。

「え、まだ食ってないよ」

 俺は嫌々ながら立ち上がる。そして、少し歩いた先にあるトイレの扉を開き便座に座った。

 俺は考え得る最速の動きでズボン、パンツをずらし用を足し……なかなか出ない。まずい。

 ある程度時間が経つともう一度チャイムの音がした。

 横の個室にいた母が出てくる音が聞こえる。

「待ってっ!まだ俺……」

 だけど俺は渋々トイレを出た。小さい方だけ出せただけマシか。くそ。

 時間割が決まっているトイレが憎らしい。なぜこんな事になっているのか。俺にも薄々はわかっている。

 「見えてしまう」のが理由だろう。そして、トイレタイム中には透視してはいけない事になっているんだ。建前上は。

「今日は学校行きたくないな……」

 渋りながら着替え始めた。シャツにズボンに……。あれ、これは……。

 ハンカチ。

 級友が前日に落としたやつだ。キャラクターがプリントされているちょっと幼稚な。

 その持ち主は俺もよく知ってる……。と思うと何かが見えた。

「わ、わっ」

 それは下着姿の彼女だった。俺は慌てて両方の掌で目をふさぐ。けど、見えてしまう。

 まさか着替え中だとは。時間的にもわりと当然なのだけど、俺には刺激が強すぎた。

 下着と言っても見せブラ、見せパンみたいなものなんだ。だからやましくない。見られて当たり前だし。

 しかも防水ときた。お風呂に入っている時もずっと付けているわけだ。滅多な事じゃはずさない。

 つまりエロくない。というのはただの言い訳だ。

 と思うものの、つい眺めてしまう。……彼女は俺の片思いの人だったりするわけで。

 まだ発育途中な感じはあるけど俺もまだ高校生、目の保養が効き過ぎる。

「駄目だ駄目だ、俺もさっさと学校いかなきゃ」

 俺の高校は結構近い所にある。正直、ただの箱だ。たしか今日は模試の日だったかな。

 もちろん、テストに意味などなかった。カンニングを止める手段などないんだ。

 写して書いて提出するだけ。それを覚えるかどうかは個人の自由なわけ。

 これがもし能力をはかるための行事だとするなら、それは透視の視力の見るものだろうか。

 そんな感じで淡々と時限を消化していくわけだけど、その途中に前の席のクラスメイトがざわつきだした。

「泥棒だ」

「なんだ……泥棒か……」

 そのまま俺は眉間に意識を集める。見慣れた景色が浮かんでくる。それは青い制服に身を包んだ……警察だった。

 警察は手にいつものものを持っている。携帯出来るサイズのチョークボードだ。

「またあそこか……」

 そこは街一番のコンビニエンスな商店のアドレスが事細かく書かれていた。俺もよく知っている場所だ。

 この街の人々はいつもトラブルがあると警察を参照するようにしている。

 

 ……そして俺達の「実況」がはじまった。


「うあっ」

 先に様子を見ていたらしい生徒が呻いた。俺もまずは先ほど示された住所を浮かべて額で透視しよう。

 一瞬、何が起こったかわからなかった。俺の視界全体がチカチカする。

「『発光』だ!」

「発光だぞ」

 それは最近よくある犯罪の手口だった。実に単純な話で、「とても強い光源を持つ」。

 たったそれだけで目が眩むのだった。俺達全員の。

 俺は咄嗟に目をそらしたが生徒何人かは強い刺激を受けたみたいだ。

 そして、俺達の「追跡」がはじまった。

 強制じゃないし別にやらなくてもいいんだけど、俺はこの瞬間が楽しい。

 まず泥棒が逃げてしまった後の残された商店の中をぐるっと眺める。

「店のレジの後ろに爺さんが膝を抱えてるぞ!」

 俺も老人を発見していた。教室中が色んな情報でざわめきはじめる。

「泥棒はレジの金を盗んでいったらしいぞ」

「とても強力な発光源を持ってた」

「じいさんは殴られたみたいだ」

「他に人は居なかったのか?」

「泥棒は走って逃げた」

 怪我をしているのかフラフラしている爺さんはやがて店の外に出て、ポケットに入っている何かを取り出しているのが見えた。

 (泥棒はデパートの方に逃げた)

 ヨボヨボの字で、メモ帳に確かにそんなふうに書かれていた。

「デパートに行ったぞ!」 

 俺は声を立てると商店の一番近所のデパートに意識を傾けた。大きめの建物の情報が俺に入ってくる。

 隅の隅まで駐車場をざっと確認していると、道路側に何やら小さい太陽みたいなものが見えた。

「いた!」

 先生も見つけたらしい。

 ……やがて遠くサイレンの音が響きはじめ、やがて静かに収まった。おそらく、泥棒は取り押さえられただろう。

 「発光」のせいで捕まえられる瞬間は見ていられないのが難点だ。

 それでも「実況」にはひとつのエンターテイメントみたいな緊張感があるんだ。

 警察官はこの「発光」犯罪で視力の低下に悩まされているらしい。お気の毒さま。

 ……捕らえられた犯人は小太りで、体より一回り大きい発電と発光する装置が取り付けられていた。

 こんなので走って逃げられるわけないぞ。

 透視出来なくするほどの「発光」はそれを生み出す電力がネックだった。それに簡単に市販で売っている訳もない。

 俺達にとってはちょっとした自由ですら求めるすべも存在しない。例えそれが犯罪であっても。

 トラブルがあったものの模試テストは終わり、俺は帰る仕度をすることにした。

 すると、廊下で教師達が騒がしく何やら話している。

「また『実況』か……」

 俺が歩み寄ると、……どうやら違うらしい。大の大人が深刻な顔で叫びはじめた。

「だってそんなの冗談にしか見えないじゃないですか」

 勢いで裏返った声が俺に飛び込んできた。

「『第三の目』がない子供が産まれたなんて!」

 ……え、どういう事だ。

「先生、どういう事ですか!?」

教師達はこちらの事など気にも掛けてない様子だ。ただ、

「見たほうが早い」

 と口々に言っている様子だったので、俺は困ったときの警察の様子を見てみる事にする。

 集中すると署が見えてきた。いつもの掲示板の前のビジョンだ。

 だけど何か変だ。警察でさえ慌ただしい。俺があっけにとられていると、掲示板に警察の一人が蛍光のマジックで何やら書きはじめた。

 (亜人の希望 二つ目の子供 産まれる)

 思いがけない単語だった。それはまだ未成年の俺にとっても衝撃の出来事だ。

 ……いかん、俺ちょっと思考停止してしまったかもしれない。

 駅前を覗いてみる。当然のように凄い人が山のように集まっている。

 サンドウィッチマンにも。

 看板にも。

 ポスターにも。

 掲示板にも。

 プラカードにも。

 おめでとう、と。

 街が、社会が、祝福の一色だった。わかりやすいランドマークにも似た情報が書かれていた。

 それはまさに、カーニバルのようだ。

 俺は家に帰った後も浮かれてしまって珍しく夜眠れなかった。


 ……透視の情報によるとその子供は大きくなるまで様子を見るらしい。

 亜人が人類を復活させられるかはまだわからない。

 ただ、遺伝子に刻まれたはずの透視能力がさっぱりなくなってるなら、期待は出来るかもしれない。

 ……「二つ目」の子供は目隠しをされてずっと激しい光源に照らされているらしい。

 常人なら目が潰れてしまうほどなんだとか。

 そんなふうにしておかないと、またひっきりなしに透視されるのだろう。

 目隠しと言っても、視力の落ちないように中に映像は流れているという話も聞いた。

 もしその子を一部の権威が過度なモルモットにしようとするなら、それこそ皆が「見て」いるので抑止力として働くだろう。

 世間は新しいアイドルでも誕生したかのようにこの話題でもちきりだった。

 ようするに……とてもじゃないが俺達には見られないんだ。見てはいけない存在。

 でも、今なら見えないものがあるということがとても新鮮で貴重な感じがする。


 今日はなにか気分がいい。

 明日こそは、彼女にハンカチを渡すつもりだ。


まだまだ未熟な所も多々ありますが読んでくださってありがとうございます!

この場所は不慣れですが頑張りたいですね。また見かけたらよろしく!

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