第8話 俺の中身は善良な大人
「すまん佐野」
「そんな……。顔を上げてください、桜山先生」
1時間目の授業が終わった休み時間。
職員室の打合せスペースのような応接セットで、俺は担任の桜山先生から頭を下げられていた。
前世の感覚からすると、教師が生徒に頭を下げるなんてことは早々ない訳だが、流石は男子が大事な男女比1:99の世界だ。
「クラスの女子に囲まれて怖かっただろ……。今後は、ああいう事がないようにするから、どうか学校には……」
うーむ。
全然、頭を上げてくれないな。
担任の先生が生徒にこんなペコペコ頭を下げちゃってクラス運営上、大丈夫かな? と思うが、周りの教諭たちも、その事に対して特段ビックリしている様子はない。
そうすると、これがこの世界での教師の男子生徒に対するスタンダードな態度という事か。
どうやら桜山先生は、俺が学校に登校してこなくなってしまう事を最も恐れているようだ。
まぁ、月詠学園はエリート校みたいだし、そこに勤める桜山先生も教師の中では相当なエリートなのだろう。
となると、担任しているクラスの男子生徒の俺が学校に来ないというのは、桜山先生の教師としての評価にも影響が大であると考えられる。
けどな~。
──こんな、ビクビク接されてもツマラナイんだよな……。
怒らせてはマズい上司や、恐ろしい土着神みたいに、おっかなびっくり余所余所しく大事にされても嬉しくない。
俺は、そういうのを求めてはいない。
となると、俺が担任の桜山先生のために出来る事は。
「桜山先生。俺、学校楽しいですよ」
「え?」
俺の言葉が予想外だったためか、桜山先生が顔を上げる。
「昨日休んだのは、入学初日にはしゃぎ過ぎて知恵熱が出ただけです。それに、さっきの朝の事も、俺は別に気にしてません。寧ろ俺、女の子にちやほやされるの好きなので」
この世界でなくても、担任教師を一番安心させるのは何か。
それは、担任しているクラスの運営が上手くいっている事だ。
そして、この男女比1:99の世界において、クラスに男子生徒がいるというの極めて稀なのだ。
そんな特殊な箱庭の中では、何よりも男子生徒とその他の女子生徒達が良好な関係を築けている事が重要だ。
俺自身は、中身はとうの昔に成人を越えているオッサンなので、本音で言えば高校生の女の子に対して、中々劣情は催しづらい。
だってさ~。
高校入学したばかりって事は、先月まで中学生だった女の子達だぞ?
そんな子供に、まともな大人が欲情なんてできると思うか?
俺の中身は善良で、ちょっぴりママキャラが好きな良識ある大人なんだから。
でも、それを俺が表に態度として出してしまい、女子たちに冷たい態度を取ってしまうと、きっと桜山先生は悲しみ、ストレスを抱えてしまだろう。
ここは、彼女の精神的な安寧と、学校側からの評価のためにも、俺は女の子に対しても友好的な関係を築いていく。
これが、俺の学校での大方針だ。
「だ、だが、入学初日も固い顔をして……」
「あれは緊張してただけです」
本当は、ママ攻略ゲーの世界じゃねぇのかよ! と絶望してただけだが、桜山先生を安心させるためなので、ウソも方便である。
「それに……」
そう言って俺は立ち上がり、対面の応接ソファに座る桜山先生の耳元に顔を近づける。
「俺は、桜山先生の素敵な笑顔が見たいので」
囁いた吐息の温かさが、桜山先生の髪や耳に跳ね返って、俺の頬を少し揺らす。
「な……な……」
そして分かりやすく頬を赤く染める桜山先生。
「あ。顔が桜色になった。カワイイ」
「きょ……教師をからかうな佐野!」
教師という立場から反抗してみせるが、大事な男子生徒相手という事もあり、その反抗は弱々しい。
「今日は、先生の可愛い顔が見れたので良しとします。それでは」
そう言って、先生に『もう行ってよい』と言われたわけでもないのに、俺は職員室のドアへ向かった。
この傍若無人な振る舞いも、この世界での男子生徒の特権だよな。
わぁ~。
未成年者に手を出さないなんて、良識のある主人公だな~(棒)
フォロー、★評価ありがとうございます。
本作は週間4位の表紙入りしました。やったぜ!
これからも本作を引き続きよろしくお願いします。




