第31話 ママの顔は、女だった
【早見綾乃──視点】
「も~。清彦とママったら、どこに居るのよ」
そろそろ私の試合の番だっていうのに、どこ行ったんだろ。
清彦は目立つんだから、あんまりフラフラされてると困っちゃうんだけど。
そんな事を思いながら、私はテニスの森の中を探し回っていた。
「スマホに連絡入れても出ないし」
清彦に連絡入れても全然返事何てないし。
まぁ、清彦への連絡なんて、普段から10回に1回も返ってくればマシなんだけどさ。
う~、そろそろ時間か。
スマホに表示された時間を見ると、そろそろ試合コートに向かわなくてはならない時間になっていた。
もしかしたら、私が探している間に入れ違いになって、むこうが先に試合コートの方に行ってるのかも。
そう思った私は、試合コートの方へ踵を返そうとした所で。
「…………え?」
視界の端に入った芝生の向こう側に、探していた待望の人の姿があった。
でも、私はすぐには声を掛けられず絶句した。
──ママが、清彦を膝枕してる……。
……え?
だって、清彦は私の……あれ?
あ、でも私のお母さんだから大事にしてるんだよね。
も、もぉ~。
お母さんも、未来の義理の息子だからって、清彦の事を自分の子供みたいに甘やかして……。
──自分の子供みたいに……。
そう、強引に自分を納得させようとした。
でも、ママの顔は私の知ってるママじゃなかった。
自分の膝の上で寝ている清彦の頭を優しく撫で続けるママの顔は、女だった。
いつも、笑ってるママ。
出来の良い娘だと、親なのに身内の謙遜により落とした事なんて一度もなく、いつも手放しで私の事を褒めてくれるママ。
いつも、私の事を想ってくれているママ。
気が強くて自信満々で、外では方々にケンカを売る私。
だけど、だからこそボロボロになっても帰る場所があるという絶対に安心な港のような場所。
──私の事だけを考えてくれてると思ってた……。なんで……なんで……。
(Pi♪ Pi♪ Pi♪)
頭の中を色んな思考がグチャグチャに回っていたのはどれくらいの時間だったのだろうか。
手元のスマホが鳴動したおかげで、私の意識は現実へ引き戻される。
「ん、んぅ~~!」
そして、その音に反応してか、清彦がママの膝の上から起き上がる。
「よく寝た。ってあれ? アラーム何てかけてたっけ?」
「え? いや、誰か通りすがりの人のスマホの着信音かな」
不思議がっている2人。
そして、咄嗟にスマホをジャージのポケットに突っ込んで木の陰に隠れる私。
2人との距離は、会話が聞き取れる程度。
近いのに永遠のように遠かった。
「あ、ヤバッ! そろそろ綾乃の試合の時間じゃない」
「ほ、ホントだ……。私ったら、つい……」
「なに? 俺を膝の上に乗せて幸せだった?」
「ちょ、調子に乗らないの」
「アテッ」
2人の自然な触れ合いは。まるで……。
「このままお弁当ごと置いておくと、カラスにやられそうだな。一度レジャーシートを片付けようか。先に行ってて理恵さん」
「ううん。私も清彦君と一緒に行く」
「いいの? じゃあ、綾乃には試合観に行くの遅れてゴメンって一緒に謝ろうか。という訳でテイッ!」
「わひゃっ⁉ そんな抱き合って一緒に寝転んで……ってアタタタッ!」
「アハハッ! ずっと膝枕してくれてたから足痺れちゃってて動けないでしょ? 痺れがなくなるまで、こうやって一緒に寝転んでようか」
「もうっ……」
息が出来なかった。
おそらくは部員からの『早くコートに来い!』というメッセージの通知で振動するスマホの音が2人に届かないように、私はポケットの中で必死にスマホを握りしめた。




