第21話 幼馴染ルートって訳だ
「次の授業は体育か」
3限の授業おわり。
場所は体育館という事で、俺は体操着と室内運動シューズの入った袋を手に持った。
「大丈夫、清彦? 体育は別に見学してもいいんだよ」
「大丈夫って何が?」
綾乃が心配そうに話しかけてくるが、ちょっと意味が分からない。
別に、今日は体調も悪くないのに。
「でも……。大概の男の子は見学だよ」
「それに、体育の授業に出るって事は、体操着に着替えるっていう事だよ」
「男子専用体育館で女子生徒達からの目はシャットアウトされているとは言え、体育教師は女だし」
「現代社会で女人気ナンバー1職業の共学校での体育教師だから厳しく選抜されているとは言え、佐野君が優しく接したら絶対に好きになっちゃうよ」
「私、どうにか頑張って男子専用体育教師目指そうかな……」
「たしかに人気ランキング2位の女医の男子健康判定専門医ライセンスよりは可能性ありそうだけどね」
「医者の中でさらに選抜される男子健康判定専門医ライセンスは、マジで上位層の更に上澄みだから無理ゲーすぎるもんね」
他の女子のクラスメイト達も、綾乃の後ろから心配そうに俺の身を案じている。
まぁ、後半はちょっと脱線してたけど。
「大丈夫だよ。俺、運動は好きだし。サイクリング部を創ったくらいだし。本音を言うと、屋外で運動したいんだけど」
どうやら男子の体育は全て体育館で行われるらしい。
盗撮や警備の問題で、室内競技オンリーになるらしい。
「そう言えば佐野君は、サイクリング部を創部したんだよね。実は私、前からロードレースに興味があって~」
「はぁ⁉ お前はサッカーのユース所属だろ! ウソこくな!」
「そういうアンタだって、野球のシニア世界大会優勝メンバーでしょうが!」
「はいはい! 私は勉強一本槍なので新しいスポーツとしてサイクリングに興味あります!」
何気なく言った言葉で、場は大混乱で、その熱量に圧倒される。
男の自分の発言や一挙手一投足に対して、これだけ周りが過剰反応が返ってくるのに慣れるのには、まだ時間がかかりそうだ。
「こら~~! 清彦が困ってるじゃないの! しばらくサイクリング部は、清彦の一人部活になるって説明したでしょ! 散れ! 女子共!」
俺がクラスの女子たちに圧倒されていると、すかさず綾乃が間に割って入り仕切り始める。
「ちっ……。またお邪魔虫が」
「でも、アイツも佐野君のクラブには入れなかったんだよね」
「ぷぷっ、ザマァ」
「幼馴染は負け属性」
だが、徐々にクラスにも、クラスメイト達の性格なども把握し始めた時期。
故に、周りも唯々諾々とは従わない。
「あ? 誰だ、今私をディスりやがったのは。雑魚共はこの場でギッタンギッタンにしてやんよ!」
「「「「望む所だゴラァぁぁ!」」」」
そして、己の地位を護らんと必死な綾乃と下剋上を狙わんとする子たち。
やっぱり、最も優秀な子が集められているという1組なだけあって、一癖も二癖もある子たちばっかりだな。
「じゃあ、俺行ってくるね」
バーサクモードの綾乃とクラスメイト達の闘いが始まりそうだったので、体操着袋を持って俺はそそくさと教室を後にするのであった。
◇◇◇◆◇◇◇
「ん~~! やっぱり運動は気持ちがいいな」
準備運動を終えて、体育館の中を軽くジョギングしている所だが、大して息も上がらず足も動く。
やっぱり若いってのはいいね。
この世界の男は、運動もまともにせずにひ弱で当たり前と聞いたが、佐野清彦の身体はちゃんと動くのは、先日、ロードバイクに乗った時で実証済みだ。
故に体育については問題ないと思い参加したのだが。
「よぉ大将。景気はどうだい?」
ちゃんと参加している男子生徒は俺と、先日話しかけてきた1年B組の慶喜だけだった。
「最後の征夷大将軍と同じ名前なのに、お前が大将って呼ぶのかよ」
「いやいや。俺は大将って柄じゃないんでね。B組の俺はA組の後ろを子分よろしくついていくのが性に合ってるよ」
そうお道化ながら、慶喜がジョギングで並走してくる。
後ろをついていくと言っているが、やっている事は違うじゃねぇか。
「それにしても、体育に出席してる男子は俺達だけか」
「そうさね。こっちの男子は軟弱で困るねぇ」
「ん? こっちの?」
「おっとと~、何でもねぇよ。それよりも大将は、女の子の攻略は順調なのかい?」
ふむ。
やっぱり高校生ともなると、恋バナというのは蜜の味って事か。
この男女比1:99の世界の男は、女性には消極的だとの事前情報だが、共学校である月詠学園の男子には例外もいるようだ。
「そうだな順調だな。既にカノジョも出来たし」
「ほぉ~! それはそれは、流石は大将。手が早い」
「人をヤリチンみたいに言うな」
いや、別に。
年上の女性相手の場合は、割と序盤戦が短かったりするからな。
別に俺がガッツイてた訳ではない。
「この時期って事は、同じクラスの幼馴染ちゃんかい?」
ここで、俺は返答を逡巡する。
──果たして、この軽薄そうな男に正直に理恵さんの事を話しても良い物なのか?
こっちの世界ではハーレム恋愛も、一夫多妻もOKな事は、複数のリソースから確認済みだ。
そういう意味では、別に男が誰と何人と付き合おうと問題は無いのだろう。
しかし、俺は自分が少数派であることを自覚している。
前世でも、年上ママキャラ好きというのは、少数派だった。
たしかにネットの海に出れば、一人一人が熱心に布教や、ママキャラの良さを熱弁するというのは見かけたし、その必死さにバズって目立っていたりもした。
でも、それは裏を返せば、王道ではないから新鮮に映っただけに過ぎない。
そして、この世界ではそもそも男であるという時点で圧倒的な少数派だ。
その少数派の集団の中で、更なるマイノリティを選び声高に宣言するのは、一体周りからどのような反応が返ってくるか予想がつかない。
「ん~、まぁそんな感じだ……」
という訳で、俺は詳細はぼかすことにした。
「そっか幼馴染ルートって訳だ」
「そうそう!(本当はそのお母さんだけど)」
「いや、成程ね。王道ルートなら、俺も色々と安心だわ。このルートなら、シナリオも安定してるし、他のヒロインのサポートもしやすいし」
「シナリオ?」
「おっと、こっちの話さね。それよりも、カノジョとはどうしてんです? うりうり~。手とかもう繋いだんか?」
誤魔化すように話を変えて、慶喜が俺を弄ってくる。
まぁ、これは野郎友達の間で、彼女が出来た奴が出たら定番の弄りだな。
そういう意味では、慶喜は割と前世の野郎友達との付き合い方で行けそうだから、変に気は使わなくてもいいのかも。
時々、ブツブツ独りでよく分からんことを呟いてはいるが、割と女の子には積極的っぽいし。
あ、そうだ。
「そういや慶喜。お前がお忍びでデートするとしたらどうする?」
「普通のじゃなくてお忍びでかい?」
怪訝そうに聞き返す慶喜に、俺は言葉を続ける。
「ああ。まだ、2人の仲は周囲に内緒にしたいからな」
「そういうことね、な~るほど。まぁ、そうやって周囲には秘密にしてる期間っていうのも楽しいもんだしねぇ」
俺の意図して誤解を仕向ける理由の説明に、得心が行ったという感じで、慶喜が頷く。
「ん~。しかし、この男が少ない世界では、どうしたって目立っちまうからな。俺、この間、一人で街中歩いたら、女の人たちが集まってきちゃってヤバかったもん」
「そうなんだよな。まだ家デートしか出来てなくてな」
これが男女比1:99の貞操逆転世界のネックだと言えよう。
とにかく男はその辺を歩いているだけでも、ものすごく耳目を集める。
その事は、この世界に来てまだ10日間程度だが、身に染みている。
「うーん……。俺の時は、男が外を立ち歩くなら護衛をつけるのが当然だって、クラスの女子に注意されたな」
「護衛付きね……。それこそ目立ちまくるな」
お忍びデートからは完全に真逆だ。
「後は、お母さん同伴とかな。それなら安心だけど、デートに母親同伴はキッツイし」
「……今、なんて言った? 慶喜」
ジョギング中に突如立ち止まった俺に、慶喜も併せて歩調を止める。
「ん? 母親同伴デートの話?」
「そうだ。何で、母親同伴デートなら安心なんだ⁉」
大事な事なので、慶喜の両肩を掴み揺らしながら問いかける。
「大将、何か目が怖い……。だって、この世界では、男子の母親ってのはとんでもないステータスらしくて。男子を害するのはもちろんだけど、男子を産んだ母親を害するのも、男子保護法で大罪とされてるからな。下手な護衛のSPなんかよりも、周りへ与えるプレッシャーは大きいらしいぞ」
「ほぉ……。つまり、ママが男子にくっついているのは自然だと……」
「だからこそ、女子が男と仲良くなるための大きな関門が男子の母親で、そのせいで色々と弊害もあってさ。特に大将の場合は……って、聞いてる大将?」
素晴らしい朗報を聞いた俺は、ニヤケる口元を抑える事は出来なかった。
いいこと聞いちゃったね~。
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