第2話 って事はママって訳だな
「どう清彦? 月詠学園初日の感想は?」
入学式後のホームルームも終わり、初日はそれで終わり。
俺は、自称幼馴染の早見と一緒に家路についていた。
早見が『一緒に帰ろ♡』と言って、ホームルームが終わったら即、腕を引っ張られたのだ。
「感想ね……。早見はどうだった?」
「何で早見って呼んでるの……。2人きりの時は綾乃って呼んで! 他の女の子は近くに居ないんだし」
そう言って、綾乃は憮然とした顔をしながら抱え込んだ俺の腕をきつく締めあげる。
どうやら呼び方は不正解だった様子。
こちとら、数時間前にこっちの世界に転生して来て、幼馴染の君とも初対面だから距離感なんて分からんよ。
「わ、分かったよ綾乃。で、感想って言うのは?」
「誰か気になる女の子はいた? 幼馴染の私にだけこっそり教えてよ」
大らかっぽい言い回しで笑顔だが、綾乃の目は笑ってはいなかった。
こういう時の返答についての最適解を、俺は前世の年上女性との交際経験から知っている。
「ん~、特にいない。他の女の子の名前も、まだ憶えてない」
「も~。清彦ったら、他の女の子の事もちゃんと気にかけてあげなきゃいけないと可哀想だよ♪」
可哀想と言いながら、綾乃の声は随分と弾んでいた。
どうやら、俺の回答がお気に召した様子である。
こういう質問をしてきた時の男の正解は、何が何でも沈黙である。
まぁ、女教師の方にばかり気を取られていて、本当に他のクラスの女の子の顔や名前は憶えていないだけなのだが。
「あ、そう言えば、担任の先生の名前って何だっけ? 桜山……」
「桜山春香先生だよ。歳は30代で中学生の娘さんが居るんだって。も~、清彦ったら、本当に私以外の女に興味ないんだから♪」
ほう、春香か。
そして娘が居るのね。
って事はママって訳だな。
ほぉ~、ふぅ~ん。
男女比1:99の貞操逆転世界に転生したショックと物珍しさで、つい担任の冒頭あいさつを聞きそびれてしまっていたからな。
これからは、ちゃんと先生の言う事を聞かないと。
「あ、そうだ清彦。今日は帰りに私の家に寄って行ってもらえないかな?」
「なんでだ?」
今日は、家でこの世界について色々と調べたい所なのだが。
悪いがここは断るか。
「清彦と私の制服姿の写真を撮りたいんだけどな~って……ダメ?」
「写真か」
「やっぱダメだよね……写真撮るのうちのお母さんだし」
「よし、行こう」
「え⁉ でも、本当に大丈夫?」
「すぐに行くぞ綾乃」
「ちょっと清彦。なんで早歩きになってるの⁉ っていうか、家そっちじゃないでしょ。まったく清彦はホント、幼馴染の私が居ないとダメなんだから♪」
勇み足の俺に対し、またしても嬉しそうな綾乃。
そういえば、よく考えたら家がどこにあるのかすら、今の俺は知らないんだった。
だが、ママが待っていると思うと居ても立っても居られないんだよな。
◇◇◇◆◇◇◇
「ママ、ただいま~」
辿り着いた、よく庭も手入れされた一軒家の玄関扉を、幼馴染の綾乃が開けて家人に呼びかける。
その隙に、俺は玄関前の門に架けられた表札を見やる。
───早見 理恵……か……。
ついさっき出来た幼馴染の名前は綾乃と言っていたからな。
母娘の2人で住んでるんだな。
「お帰りなさい綾乃。ゴメンね、お母さん仕事で入学式に行けなくて」
そう言って、玄関から出てきたのは。
───おお……これは……。
この世界では、ゲームやマンガの世界のように、どの人も容姿が整っている。
特に綾乃はより顕著な美人ではあるが、本来、アニメ等では背景になってしまう一般人もレベルが高い。
「どうも理恵さん。こんにちは」
「ふぁ⁉ 清彦君が私に挨拶を……」
───ん?
「ふ……ふぇぇぇぇん」
えっ⁉ 泣いちゃった!
挨拶をしただけなのに、なんで⁉
っていうか、成人女性を泣かせるなんて事は、長い前世の人生でも初の経験だぞ。
「ど、どうしよう綾乃。理恵さん泣いちゃったんだけど……俺、何かした?」
「そ、そりゃそうでしょ。清彦がうちのお母さんに話しかけるのなんて何年ぶりかな」
「なん……だと……」
綾乃も戸惑っているようだが、俺の方がそれ以上に戸惑ってしまう。
こんな美人な幼馴染ママが居るのに、佐野清彦は今まで何をしていたんだ!
「エグッ……ゴメンね。オバさんが泣いてて気持ち悪いよね……。すぐに消えるからね。あ、これ、綾乃と一緒にご飯でも外で食べて来て」
そう言って、理恵さんは顔をベシャベシャにして玄関のドアの奥へ引っ込んでいってしまった。
困惑しつつ握らされた1万円札が、風ではためいていた。
◇◇◇◆◇◇◇
「ん~。やっぱり回転寿司は美味しいね清彦」
そう言って、隣の席に座る綾乃は、2皿目のサーモンアボカド寿司に舌鼓を打っている。
ボックス席なのに、向かい合わせじゃなくて何で隣の席? と思うのだが、俺の隣がいいらしい。
「ん、そうだな……。でも、理恵さんを置いて俺達2人で食べてていいのかな?」
どうしても、去り際の理恵さんの泣き顔が気になって、お寿司どころじゃない。
俺はママキャラを愛しているのに、初手で泣かせてしまうのは予想外だ。
「大丈夫だよ。ママは清彦と久しぶりに喋れて嬉しくて胸いっぱいで、ご飯なんて食べれないと思うよ」
「う~む……。けど……」
どうやら、本来の佐野清彦は幼馴染の母親である理恵さんに冷たい態度を取っていた様子だ。
これは、俺のママ好き主義に大いに反するので、直ぐに対処したいところだが。
「清彦もしかして……」
「う……」
ただ、あまり本来の佐野清彦から、かけ離れた行動は慎むべきか?
ここで怪しまれて、佐野清彦の人格が、実は前世持ちの男と入れ替わっているなんて知れたら……。
額を汗がつたう。
「清彦ったら、将来の正妻の私のお母さんの事まで大事に想ってくれてるんだね♪」
「あ、いや別に、そんな……」
「照れなくていいって。そっか、そっか~♪ やっぱり清彦は、高校生になって、私との事ちゃんと考えてくれてるんだ~♪」
綾乃は何だか良い方向に勘違いしてくれているようなので、取り敢えずはバレる心配はなさそうだと胸を撫でおろす。
しかし、男女比が1:99の貞操逆転世界か。
俺はこの世界の常識をもっと知る必要があるな。
そう思いつつ、俺はママがお金を出してくれたお寿司をしっかりと味わうのであった。
幼馴染の綾乃ちゃんは幸せそうだな~。
今は、まだ……。
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