第18話 メンズエステ
「自転車で走ると風が気持ちいいですね桜山先生!」
「ああ、そうだな」
春で気温は暖かく、風も穏やかな放課後。
納車日に俺と桜山先生は、ショップで受け取った愛機を早速、学校近くの川沿いにあるサイクリングロードで縦列を組んで走らせていた。
やっぱり新車は良いもんだな。
そして。
──そパンツスーツ姿の女教師がロードバイクにまたがってる後姿っていいんだよな……。
後ろを走りながら、前傾姿勢になっている桜山先生のお尻をじっくりと鑑賞する俺。
ショップで愛機を受け取ったら学校にまた戻る予定なので、俺も先生も学校が終わった時の姿のままなのだ。
いや。
ちゃんと顔を上げて前を見て走らないと危ないからな。
だから仕方ないよね。
本当は、経験豊富なライダーが前を走るべきなんだが、顧問として引率しないといけないと思ってる、ロードバイクについては初心者丸出しの桜山先生が誤解してるのを敢えて訂正しなかったんだけどね。
先生に恥をかかせちゃいけないからね。
──っと……。でも、これはちゃんと経験者として指摘しないとな。
そう思った俺は、縦列の後ろから声をかけた。
「桜山先生。ちょっと、そこのベンチで休憩しましょう」
まだ、そこまでの距離を走った訳ではないが、俺は早々にサイクリングロード沿いにあるベンチ辺りで休憩するよう進言した。
「どうした佐野。どこか痛めたのか?」
さっきまではしゃいでいたのに、急に俺が停車したので、桜山先生が自転車を横倒しに置くと心配そうに俺の元に駆け寄ってくる。
「違いますよ。桜山先生、肩や首は凝ってないですか?」
「え?」
「ちょっとマッサージするから、そこのベンチに座ってください」
「え……」
訳が分からず、俺に促されるままにベンチに座らされた桜山先生の肩と首に触れる。
「はひっ……⁉」
肩甲骨を背後から掴まれて、桜山先生が変な声を上げる。
「ロードバイク初心者だと、慣れない前傾姿勢に、つい肩や首に力が入っちゃいますからね」
「あの……」
「遠慮しなくていいですよ先生」
さも、マッサージをするのは当然とばかりに、なし崩しに肩を揉む俺。
初心者を毒牙にかける、最低経験者ムーブだが……。
「ふわっ……。男の子に身体を触られて……」
「もうちょっと強くしてもいいですか?」
「ふぁ、ふぁい……♡」
桜山先生も恍惚の表情を浮かべて悶えているのでヨシッ!
なお、俺のマッサージの腕前は多分普通である。
「う~ん。やっぱり桜山先生、お疲れですね。教師もデスクワーク多いから。いつもお疲れ様です」
「あ……そんな労いの言葉まで……。あと、耳元でささやかれるとフニャける……」
マッサージ開始当初は身体を強張らせていた桜山先生だが、徐々に力が抜け、身体を委ねてくる。
「先生はマッサージ店とか行かないんですか?」
「ああ。中々、時間が無くてな。家で娘に時々、揉んでもらうくらいだ」
「へぇ。娘さん良い子ですね」
何気なく言った言葉だった。
「そう……だな……」
──ん?
桜山先生の返事は、少し強張っていた事に気づく。
その強張りは、身体に触れている俺にはよく分かる。
家族の事についての話題なのに、弛緩ではなく緊張する。
これは、家族について何か問題があるのかもしれない。
「そう言えば、どうです俺のマッサージの腕は?」
ここで、俺は全く別の話題に話を振った。
家族の事は、そうそう立ち入って聞くことじゃない。
ひょっとしたら、この世界では貴重である男という地位を使えば、桜山先生から強引に聞き出すことも可能かもしれないが、今はそこまでする必要は無い。
「ああ、とても上手だぞ」
「ちなみに男が、女性客にマッサージを施術するお店とかどうですかね? 題してメンズエステって言うんですけど」
「ハハハッ! そんな、男の子が施術してくれるマッサージ店があったら、女たちは毎日通うだろうな」
そう笑いながら、桜山先生の身体はまた柔らかくなった。
まぁ、メンエスって、俺の元いた世界では、真逆の意味だったんだけどな。
けど、貞操観念が逆転してるのに男女比は1:99だから、そういったお店に勤める男なんて居ないだろうから、こっちの女の人は下半身が火照った時にはどうするんだろ?
何もそういうお店が無いって結構辛かったんじゃないかなと、こっちの世界の女性の下半身事情に想いを馳せていると。
(ピロンッ♪)
──ん?
「次は首を揉みますね~」
「あ、ああ……」
桜山先生の首を片手でつまむように揉みほぐしながら、ポケットの中のスマホを取り出す。
そこには、メッセージ通知が来ていた。
──ふふっ。めっちゃ長文じゃん。
メッセージを開いて流し読みした俺は、既読だけつけて、登録名『カノジョ』からのメッセージへ返信することなく無視した。
ロードバイクと女性物スーツって良いと思うの。
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