第17話 ママを沼にはめる
「こちらイタリアのメーカーでフルカーボンフレームの物になります。コンポは展示完成車には中級モデルのものを搭載しておりますが、1ランク上の電動コンポの物に換装する事も出来ます」
「あ~、電動コンポいいですね。じゃあ、コンポは電動に換装でお願いします」
「ありがとうございます」
いや~。
新車を買う時って、なんでこんなにテンション上がるんだろう。
自転車なのに、下手したら原付バイクを買うより高い値段になるけど、全然惜しくないんだよね。
「ちょ、ちょっと佐野」
「あ、桜山先生。フィッティング終わったんですね」
ロードバイクのフレームサイズや調整のために必要な、体型データの確認等のフィッティングを終えた桜山先生が戻ってきた時には、既に俺は自分の愛機をご成約していた所だった。
「こ、こういう自転車って高いんじゃ……って、80万円⁉ これ、騙されてるんじゃないのか⁉」
俺がサインしようとしている成約書類をひったくって、目を丸くする桜山先生。
「いや、フルカーボンで電動コンポならこれ位しますよ。むしろ、割と良心価格にしてもらってますよ。ね? 店員さん」
「は、はい! 組み立て工賃は全て無料サービスさせていただきます! 男性に乗っていただけるなんて、とても栄誉な事なので!」
俺が水を向けると、ショップの店員さんが直立不動で答えた。
まぁ、ロードバイクの事をよく知らない人にとっては驚く金額だよね。
安い原付バイクなら何台も買えちゃう値段だし。
「で、でも……」
「心配しなくても、男性手当金は毎月あまってるので、これ位の買い物は訳ないですよ」
男性手当金というのは聞きなれないワードだと思うが、どうやら男性であるというだけで、かなりの金額が定期的に国から振り込まれる制度のようだ。
ネットバンキングのアプリで残高を見た時には、俺もびっくらこいた。
男として生きているだけでお金がもらえるとか、夢の制度だ。
なお、手当金の金額は、政府のホームページでは表現がボカされているが、どうやら社会活動を積極的に行っている男性に、より多くの金額が振り込まれるようだ。
家で引きこもってるような男はダメってことだな。
「そうか、凄いな……。私の月給では、そんな思い切って買える代物ではないな。でも、サイクリング部の顧問としてはスポーツバイクはせめて買わないとな。ええと、こっちのクロスバイクというのなら、私の給料でも手が……」
そう言って、桜山先生は街乗り用のクロスバイクのコーナーへ吸い寄せられていく。
「あ、店員さん。この人にも同じ構成で、先ほどのフィッテングで適したフレームサイズのを選んでください」
「ふぁ⁉ いや、佐野。私はこんな高い自転車買うのは無理で……」
「無論、桜山先生の分は俺が払いますよ」
「え⁉ いや、そんな男の人に買ってもらうなんて……。そもそも教師が生徒からというのも」
「いいんですよ。俺が強引にサイクリング部の顧問をお願いして、先生に時間を使わせてしまうんです。だから、必要な物はこちらで用意させてもらいます」
「で、でも……」
「さぁ、バイクは決まりましたし、次はヘルメットにグローブ、ウェアを見ていきましょう」
「ちょ、ちょっと佐野」
固辞しようとする桜山先生の主張は無視して、俺は桜山先生を引っ張って行って、なし崩しにサイクリング用品を揃えていくのであった。
男性手当金欲しいわ~。
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