第16話 クラブ創設
「失礼しま~す」
「入っていいぞ」
個別相談室と部屋名が掲示された扉をノックすると、既に相手は到着しているようだった。
「放課後なのに、お時間作ってくれてありがとうございます桜山先生」
「いや、そんな事は問題ない。で、どうした佐野。何か学校生活で困った事でもあったか?」
心配そうな顔をした桜山先生が、対面に座って訊ねてくる。
担任教諭として、どうやら男子生徒の様子というものに、まだまだセンシティブな様子である。
俺には、そういう気遣いは無用なんだけどなと思いつつ、とっとと本題を切り出すことにする。
「実はクラブをどこに入るか迷ってるんですが」
「むっ! 女子生徒たちから、強引にクラブの勧誘を受けているのか⁉」
見る間に、桜山先生の顔が険しくなる。
まぁ実際、勧誘は激しかったんだけどな。
今日は、隙を見ては色んな女子の先輩が俺の元に来ては、
『佐野君! 週一の参加でいいいから、是非、野球部のマネに!』
『あ? こっちが先に佐野君に声かけてんだけど。汗臭い野球部なんて行ったら鼻が曲がるでしょ』
『文芸部なら汗臭くないよ佐野君。是非、文芸部に』
『く……。男子人気ナンバー1の文芸部め……』
『騙されないで佐野君! 文芸部は、未成年が書いちゃいけない同人誌とか書いて売りさばく悪の集団だから!』
『はぁ⁉ うちは真っ当に活動してるんですけど! オモテ出ろや!』
と勧誘してきて、その先輩たちを綾乃が追い返すというシーンが何度も繰り広げられた。
桜山先生の顔が険しくなるのを見るに、おそらく毎年のようにこの時期に、男子生徒の争奪戦が各クラブ間で勃発しているようだ。
しかし、男子人気一番が文芸部っていうのは意外だな。
「まぁ、そういう騒ぎをおさめるためにも、所属クラブは早めに決めたくて」
「そうだな。それが、バカな女子生徒どもを黙らせるのには一番だな」
「桜山先生も同意ですか」
「ああ」
大きく頷く桜山先生を見て、俺は言質をとれてニヤッと笑う。
「じゃあ、新しくクラブを創設するのでお願いします」
「え?」
予想外の話だったせいか、桜山先生が呆けた顔になる。
「学校で制定されているクラブ活動要領に目を通したんですけど、男子が発起人の場合、部員1名からでも、クラブとして創設することが可能なんですよね?」
「あ、ああ。確かにそうだが……」
クラブ創設のためには何人か部員を集める気でいたが、要領を確認したら男子が創設者なら1名からでも可能となっていた一文を見つけたのだ。
「これは実質、男子に婚約者が居て、その男子を囲い込むための制度だ。佐野にはそういう相手がいるのか? まさか、早見か?」
「いえ、綾乃は硬式テニス部ですよ。自分も新しいクラブに入ると言って聞かなかったのですが、何とかなだめました」
流石に、全国優勝している硬式テニスを俺の都合に合わせて辞めさせるのは憚られたからな。
渋々ながら、綾乃は何とか納得してテニス部の方へ向かっていった。
凄く後ろ髪引かれてたけど
「ああ、確か早見はテニスの実績を加味された上での推薦入学だったな。流石に、それで硬式テニス部に入部しないのは無理か」
「そうなんですよ。で、これがクラブの新設時申請書と、添付の活動計画です」
「これ、佐野が一人で書いたのか?」
「はい。昼休みの間に」
桜山先生の顔には、『世間知らずな男がよく書類を揃えられたな』と顔に書いてあったが、所詮は高校で生徒が作成する書類だ。
前世で事務仕事もしていた俺なら、作成なんて造作もない。
「ほぉ、サイクリング部か」
「はい。高校入学を機に始めたいと思って」
実は前世で、大学や社会人になりたての若い頃まではフットサルを仲間内でやっていたのだが、その内、仲間も結婚して子供が出来てと集まりが悪くなり、更に自分の動きが年齢と共にモッサリしてきて限界を感じ始めた頃に、一人でも楽しめる生涯スポーツとして始めたのがロードバイクだったのだ。
この世界で男はサッカー部に入れなさそうだったので、それならばもう一つの趣味のクラブを立ち上げようと考えたのだ。
「そうか。だが、男の子が学校外で一人で自転車に乗るというのは……」
ここで、桜山先生が難色を示す。
たしかに、そこはこの男女比1:99の世界では懸念事項だろう。
だが、この反応は織り込み済みだった。
「はい。だから、外でサイクリングをする時には、顧問の先生が必ず伴走するように徹底します」
「ふむ……。じゃあ、体力のある若い先生を顧問に据えて」
「いえ、顧問は桜山先生にお願いします」
「え⁉ 私が?」
またもや予想外の言葉が続き、再び宇宙猫顔の桜山先生。
この人、クール系バリキャリ女教師って感じのキャラだけど、俺の前では結構表情豊かなんだよな。
「はい。桜山先生でなければ駄目です。信頼できる相手でないと、命を預けられませんから」
「そ、それは……」
「きちんとボクが先生の都合にも合わせます。だから何卒、顧問の方、お引き受けください」
この世界に来て分かった事がある。
それは、男ならこうして頭の一つも下げれば大概の無理は押し通せるという事だ。
理恵さんの時で実証済みである。
ましてや、今回のお願い事はそこまで無茶を要求している物ではない。
「う……分かった。私がサイクリング部の顧問を引き受ける」
教師として頼られた事も嬉しかったのだろう。
桜山先生は少し戸惑いつつも、了承の返事をくれた。
「ありがとうございます! じゃあ、早速行きましょう」
「行くってどこへだ?」
「デートです」
「ふへっ⁉ って、また手を……」
意味が分からないという感じの桜山先生の手を握って、俺は個別相談室を飛び出していった。
流れるように担任をデートに誘う。
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