第15話 悩みとか無さそう
「今日はパンとベーコンエッグの洋食か。じゃあ俺、コーヒー淹れるわ」
「え⁉ そんな、いいよ。いつもみたいに清彦は座って待っててよ」
「コーヒーを淹れるのは好きなんだよ」
自宅のキッチンで、学校の制服にフリフリなエプロンを着た女子高生新妻スタイルの綾乃が、フライ返しを手に困惑する中、俺は無視してハンドドリップでコーヒーを淹れる。
「そんな、男の人に台所仕事なんてさせちゃ……」
「好きでやってるからいいんだよ。こうやってコーヒーがフィルターを通して降りてくるのを眺めるのは好きだし」
前世でも、コーヒーには凝っていたしな。
家にあった豆はかなり良いコーヒー豆だったし、ぶっちゃけ、昨日綾乃が淹れてくれたコーヒーは、お湯を注ぐタイミングや量が微妙だったので、豆のポテンシャルを最大限は引き出せていなかったしな。
「んもう♪ 家事にまで協力的とか、私の未来の旦那さまが優しくて最高過ぎる♪」
コーヒーを淹れただけで大げさだが、この世界の男は家事しないみたいだな。
そう言えば、理恵さんの家の家事を片付けた時にも、理恵さんがビックリしてたな。
何やら綾乃もご機嫌なので、やんわりと仕事を取られた事は気にしていない様子なので問題ないなと、俺は淹れ終わったコーヒーを2つのカップに注いだ。
◇◇◇◆◇◇◇
「そういえば、清彦はクラブ活動はどうするか決めた?」
朝食後。
一緒に登校する道すがらに、綾乃から話題が振られる。
「あ~、部活か。サッカーとかかな」
前世での俺は中高とサッカー部だったんだよな。
佐野清彦の身体は、別にひ弱って感じでもないし、体力的には問題なさそうだが。
「は? 男の子がサッカーみたいに身体接触のある競技なんてダメに決まってるでしょ」
「ええ……」
「マネージャーとしても絶対にサッカー部はダメ。サッカー部の奴らなんて、男の事しか考えてないヤリ〇ン集団なんだから」
幼馴染のサッカー部への偏見が凄い。
確かに、サッカー部にはモテてる奴もいたりするけど、俺みたいに大してキャーキャー言われてなかった奴も居るんだぞ!
「っていうか男子がマネージャーなんてやるのな。でも、マネージャーって結構大変だろ。ドリンク作ったり洗濯したり」
前世のサッカー部のマネージャーは、普段の部活の日も、試合の日も結構仕事が多くて忙しそうにしていたのだが。
「そんな事、男子マネージャーにさせる訳無いでしょ。男子マネージャーの仕事は、サイドベンチで座って、時々応援の言葉をかけるだけで良いんだから」
「それ、何の意味が……」
「それで、単細胞な女共はヤル気出るんだから。試合の時には、男子マネ連れてると、他校にマウント取れるし」
「ああ、なるほどね……」
そういや前世でも、試合の時に男子校の奴らが、うちの学校の女子マネ見て殺気をみなぎらせてたわ。
「という訳で清彦。私の入る硬式テニス部のマネにならない?」
何が、という訳で、なのか。
その流れで、マネなんてやりたくないのだが。
「綾乃は硬式テニス部なのな」
「私、これでも中学時代に全国大会で優勝してるからね。清彦は、まだ私の試合に応援しに来てくれた事無いから知らないかもだけど……」
マジか……。
幼馴染で日頃世話になってるのに、それくらい行ってやれよ過去の佐野清彦。
でも、マネはな~。
どっちかというとスポーツは観る派というよりは、プレイの方が好き派な俺としては、部活で退屈を持て余すって言うのも。
「俺、マネはちょっと……」
「そ、そう……」
あからさまに残念がり、しょんぼりする綾乃。
「代わりに、今後は綾乃の大会には応援に行くから」
「え⁉ 本当⁉」
しょんぼりから一転、綾乃の目はキラキラとした希望で輝いていた。
「う、うん。行ける時にはね」
部活の時間に毎回応援はしんどいけど、まぁ大会の時くらいならな。
「やった。部活のマネじゃなくて、私だけの専属男子の応援……。フフッ、ライバルの悔しがる顔が今から目に浮かぶよう……」
何やらブツブツ言っている綾乃は、うへへと笑いながら自分の世界へ行ってしまった。
この幼馴染は、定期的にトリップするな。
悩みとか無さそうで羨ましい。
──それにしても部活か……。男だと色々と制約があるみたいだけど、何にするか……。あ! いい事思いついた!
この世界の男子なら可能なのではと思い立った俺は、学校へ綾乃と揃ってスキップ気味に向かうのであった。
サッカー部へ謂われなき風評被害が。
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