第14話 俺のカノジョが可愛い
「ん~、清々しい朝だな」
カーテンを開けると降り注ぐ朝日を浴びて、寝ていた脳と身体が冴え渡らせる。
「やっぱり、カノジョが出来た翌日の朝って違うな~」
これは、男ならアルアルだろう。
カノジョが出来ると、何てことない日常の風景が急に華やいで見えるのだ。
仕事や学業にも張りが出るから、人間という物は、実に現金な生き物である。
「さてと。この時間なら大丈夫か」
ベッドサイドに置かれた目覚まし時計のアラームをオフにしながら、ちょうどいい時間だと思った俺は、顔も洗わずにまずはスマホを手に取り、通話アプリから連絡先を開いた。
「あ、おはよう。理恵さん」
『清彦くん……お、おはよ……』
電話の相手は、もちろん理恵さんだ。
だってこの人、俺のカノジョなんすから~。
けど、理恵さんの声は蚊が鳴くようにボリュームが小さい。
「何でそんな小声なの?」
『だって、娘に聴こえたら……』
「ああ。だから、1コールで電話出たんだ」
『も、もう! 心臓に悪かったよ』
だいぶ自分より年上のお姉さんが自分に振り回されているという事実が、俺の何かしらの欲求を満たす。
──これだよ、これ……。これが、年上の女の人と付き合う時の醍醐味なんだよな。
でも、理恵さんは急に電話をかけられて困ったみたいな事を口では言ってるけど、決して嬉しくないわけではない事が、その声音から分かった。
じゃあ、今日もアクセルは踏んだままでいいか。
「ねぇ、理恵さん。ちょっとだけ、ビデオ通話できない?」
『そ、そんなの出来る訳ないじゃない! 私、寝起きだし、それに娘が!』
「心配しなくても、綾乃ならもう家を出て、俺の家に向かってる時間でしょ」
『あ、そうか……』
この時間。
どうやら綾乃は、朝食を作りに毎朝、俺の家に来ることになっているようだ。
「だからね。時間無いから。ちょっとの時間だけだから」
『でも……』
「理恵さんの顔を見てから学校行きたいんだ。だから、お願~い」
カノジョに可愛く甘えられるのは、年下彼氏の特権だ。
だが、金銭を伴うようなお願いは付き合いたての今の時期は特に厳禁。
こいういう初期段階は、彼女にとってはノーコストだけどちょっと胸襟を開かせるような小さなワガママを言うのがいい。
『し……しょうがないな~。ちょっとだけ時間ちょうだい……』
「わ~い♪」
これなら、相手も二つ返事で、こちらのワガママを聞いてくれる。
そしてしばらく待つと、スマホ画面にビデオ通話の承諾選択画面がポップアップされるので、OKのアイコンを押す。
『お、おはよ清彦くん……』
恐らくフルメイクは諦めて、辛うじて眉のメイクだけは何とかした、化粧っ気のない理恵さんの自信がなさそうな顔がスマホ画面に映る。
「おはよう理恵さん。いや~、朝からカノジョの顔が見れて幸せだな~」
『な⁉ も、もうっ、バカ……』
そう言って、理恵さんが顔を赤らめる。
「カワイイ。俺のカノジョが可愛い」
『そのカノジョって連呼するのやめてよぉ……』
真っすぐに見つめながら率直な感想を伝えると、どぎまぎする理恵さん。
この男女比1:99の世界の女性、特に、結局は男性と懇ろになれずにママとなった理恵さんなら、余計に男からの可愛いに免疫がないだろう。
ほんと、反応が初々しくて愛おしい。
(ピンポ~ン♪)
2人だけの世界は、唐突に響いた玄関からのインターホン音が終わりを告げる。
『あ……。綾乃が家に着いたんだね』
「うん……。まだ話していたかったのにな……」
理恵さんの声と顔は少し沈んでいた。
それが、この楽しい時間があっという間に終わってしまう寂しさからか、それとも母親としての後ろ暗さからなのかは分からなかった。
『あの子を待たせないで上げて。春とは言っても、朝方はまだ冷えるから、玄関前で待たされたら、あの子、風邪ひいちゃうから』
それは、俺のカノジョとしてではなく、娘をおもんばかる母親の顔だった。
これもまた、ママキャラの魅力だろう。
ママキャラとその子供の関係は良好であって欲しいというのが、ママキャラ好きの俺の信条である。
でも、正直ちょっと妬いちゃうけど。
「じゃあね理恵さん。また連絡するよ。綾乃の居ない時に」
『う、うん……』
秘密を共有する2人。
もう、片方だけ抜ける事は許されないのだと誤認させつつ、ずるい俺は、ちゃっかり次も電話をする事を当然の事のように理恵さんに約束させる。
「おはよう清彦! 清々しい朝だね!」
「おはよう綾乃。そうだな」
何かスッキリしてツヤツヤお肌な綾乃に対して、俺はさっきまで母親と愛を囁き合っていた口で、にこやかに朝の挨拶をした。
──こういう事してると地獄に堕ちるかもな。
そう思ったが、一度無くなった命。
何も惜しくはなかった。
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