第10話 俺は君のファンなんだ
「佐野君♡ お弁当作り過ぎちゃったの。一緒に」
「佐野君♡ 月詠学園は学食のメニューが豪華で有名なんだって。良ければ一緒に」
「佐野君♡」
「佐野君♡」
昼休み。
授業が終わると、早速、俺はクラスの女の子達に取り囲まれた。
前世での高校生の頃は昼食は母親の二段弁当だったが、佐野清彦は一人暮らし。
適当に購買のパンでも買うかと思っていたが、どうやらその必要は無いようだ。
女の子にお弁当を作ってもらえる青春なんてのは、それこそ彼女持ちでなきゃ無理だった訳だが、この世界では男であるというだけで経験できる。
実に男にとってはイージーモードな世界だ。
「はいはい、清彦に群がらない。お弁当作りやランチ会は、大人数じゃなくてグループごとに担当シフト決めるから」
ここで、綾乃が俺の前に立って仕切り始める。
「ちっ……。出しゃばり女が……」
「早速、学級委員長気取りかよ……」
「あのまま一生、保健室にいればよかったのに……」
周りの女子たちがヒソヒソしているが、綾乃は気に留めてない様子だ。
「清彦の好物や嫌いな食べ物については私の方から資料を提供します。事前情報無しで、清彦が食べられない物を作って来て、一生口きいてくれなくなっても知らないけど~」
「ぐぬぬ……」
「幼馴染の立ち位置を最大限利用しやがって……」
おおう……。
女の子同士のバチバチって怖いな。
しかし、今日の所はどうやら軍配は綾乃の方に上がったようである。
◇◇◇◆◇◇◇
「ふぅ。腹いっぱいだ」
身体は高校生で、胃袋も若くなっているのでいくらでも食べられる……かと思えたが、次々にお弁当のおかずを貰ってしまった。
綾乃が仕分けたりしていたが、後半の方は一人で捌ききれなくなり、結局は色んな子が次々と俺の皿におかずを置いて行った。
残すのもアレなので全部食べたのだが……。
『清彦……いつの間に、高野豆腐なんて食べられるようになったの? 大嫌いだったのに』
と綾乃に怪訝な顔をされた時には、慌てて誤魔化した。
今度俺も、綾乃作の清彦の好きな物嫌いな物リストを見せてもらわないとな。
「ええと。ここが男子専用ルームか」
ちょっと、クラスの女子を分からせるから、清彦は男子専用ルームに行っててと綾乃に言われたんだよな。
入り口には電子ロック錠が掛けられていて、男子生徒の電子学生証カードが無ければ出入りが出来ない施設だ。
トイレや更衣室等の機能も、この男子専用ルームに集約されているらしい。
まぁ、男の数が少ないんだから、一か所にまとめちゃった方が効率もいいしスペースも節約できるしな。
そう思いながら学生証を出そうと制服の上着の胸ポケットをまさぐっていると。
「やぁ、佐野君。こんにちは」
後ろから、俺を呼ぶ声がかかった。
「君は……」
「どうも。1年B組の佐原慶喜。見ての通り同じ男子生徒さ」
声を掛けてきたのは、にこやかな笑顔を湛えた男子生徒だった。
「佐野清彦です。俺の名前、なんで知ってるの?」
「そりゃ有名人だからなアンタは。握手いいかい?」
「ああ……よろしく」
答えになっていない答えだが、差し出された手を取り敢えず握る。
「いやはや光栄だよ。俺は君のファンなんだ」
「ファン……?」
はて?
佐野清彦は、そんな同性の間で有名なのか? モデルやタレントでもしてたとか?
「数少ない男子なんだ。苗字も佐野と佐原で似てて紛らわしいし、下の名前呼びで清彦と呼んでいいか?」
「あ、ああ。俺の方も慶喜と呼ばせてもらうよ」
──初対面にしては随分と馴れ馴れしいな。
というのが、目の前でうさんくさく微笑む男の正直な第一印象だった。
男女比が1:99の世界という事で、同性と触れ合える機会は貴重だから、同じ男相手なら必要以上にフレンドリーなものになるのか、それとも慶喜の性格によるものなのかは分からない。
「ありがとう清彦。早速何だが、俺はお前の女に手を出すつもりはないからな」
「はぁ……」
「ああ、悪い。こいうのは最初に言っておかないとと思ってな。俺は、主人公様の幼馴染ちゃんみたいなヒロインキャラには手は出さないから。モブキャラ男子として弁えて、ちゃんとヒロインキャラ以外の女の子で我慢しとくから」
いまいち慶喜が何を言っているのか分からない。
「それじゃあな」
「お、おう。また」
まぁ、こんな男女比が歪な世界なのだから、会話が下手糞でも問題なかったんだろうな。
自分の言いたい事だけ喋って、会話が成立していると思っているタイプ。
うん、思春期男子にはよくある、よくある。
そう思いながら、俺はコミュ力がちょっと残念な、この世界で初めて出来た男友達を見送るのであった。
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