第1話 はぁ……。男女比1:99の貞操逆転世界か……
「あ~あ……。このアニメも、結局、ママには手は出さないのか……」
またしても、本懐を遂げることが出来なかった俺は、病室の小さなモニターに映るラブコメアニメのスタッフロールを見ながら失意に沈んでいた。
───分かっている。大多数の野郎どもの嗜好から、自分が外れていることは……。
マンガにアニメ、ギャルゲーもスマホ美少女ゲームも、何でもそうだ。
少なくない予算や開発費用をかけて商品をリリースするのだから、当然、ヒロインは万人受けした女の子たちになる。
美人で器量の良い幼馴染、お金持ちで完全無欠な生徒会長、生意気な女後輩。
みんな、皆、せいぜい年齢差は1~2歳差しかない!
「なんで……なんで、ヒロインのお母さんに手が出せないんだ! こんなに可愛いのに! まだ産めるのに!」
ほら、美人のママキャラが出たりするとSNS界隈がザワついたりするだろ?
ファンアートがたくさん書かれたりさ! 神絵師さん、いつもありがとうございます!
でも、制作サイドはあくまでママキャラの事はサブキャラ扱い。
ただママキャラに雑に娘の制服を着せて、コラボイベントの隠しキャライラスト扱いして一過性の話題だけで盛り上がればいいという、浅い姿勢が透けて見える。
───けど、俺は……俺は、ママキャラと幸せになりたいんだ!
だって、現実ではママキャラと付き合ったり結婚することはおろか、口説くことすらできない。
現実のママは、ほぼイコール人妻であり、不貞行為となってしまう。
不倫は民法上の立派な不法行為だ。
だからこそ、フィクションの世界では非現実的なシチュエーションでママ攻略をしたいのに、それすら許されないだなんて、我々に酸欠で死ねと言うのか⁉
そんな悲哀を心に秘めつつ、俺はその生涯を病室のベッドの上で閉じた。
───所詮は、人の願いという物は叶わないのだな。
そういう諦念を抱いて、見上げた天井すら見えなくなり、無に帰す。
……はずだった。
◇◇◇◆◇◇◇
『皆さんは本日から、栄えある月詠学園の一員となり~』
ベッドの上で往生したはずの俺の意識が再度覚醒した時には、一瞬、何が起こったのか理解ができなかった。
───これは夢……。いや、違う!
学生時代なんてとうの昔なのに着ている高校の制服。
そして、周りを見渡すと、周りの生徒はもちろん教員まで、女の人ばかり。
可愛い女子たちが、チラチラと俺の方を注目している。
───ここ、男女比1:99の貞操逆転世界への転生だ!
その事に気づいた俺が最初に思った事は……。
───はぁ……。男女比1:99の貞操逆転世界か……。
というスンッ……と冷めた感想だった。
たしかに、男女比が1:99という男が希少な世界で、積極的にグイグイくる女の子に迫られるというのは男にとってはワクワクな夢みたいなシチュエーションだろう。
そういう舞台設定のギャルゲーがある事は、良いママキャラがいないかを発掘するディグアウトをしていたので知っていた。
でもな……。
───ああ、神よ……。別の世界に転生させてくれるなら、ママを攻略できるギャルゲーの世界にしてくれよ……。ホンマ、使えん……。
転生という非合理自体よりも、俺は、やはり転生してもままならない己の人生に軽く絶望しつつ、入学式を茫然と過ごした。
◇◇◇◆◇◇◇
「佐野清彦です。よろしく」
なお、自分の名前は席札に書かれた自分の名前を確認して知った。
男はクラスに1人しかいないらしいので、他の人と間違うこともなく、中身が別世界からの転生者であることはバレずにすんで一安心だ。
入学式が終わって自分のクラスである1年1組の教室に戻ると、早々に自己紹介が執り行われた訳だが、俺はおざなりでぶっきらぼうな自己紹介をすると、すぐに自分の席に座った。
本来、第一印象という物は大事な物だが、これでいい。
なぜなら。
(パチパチパチパチッ!)
「きゃ~! 本当に男の子だ!」
「月詠学園の倍率100倍近い入試を突破した甲斐があった……」
「吸ってる……。私、今、男の子と同じ空気を吸ってる……」
「空気うめぇ」
男女比が1:99の世界ならば、男にとにかく激甘だからだ。
故にこんな塩対応でも問題ないのだ。
「まったく……。清彦ったら、最初くらいは愛想よくしなさいよね」
着席した俺の隣の席から、声が掛けられる。
隣の席の女子は、頬杖をつきながら、したり顔で俺に笑いかけてくる。
───ええと……誰?
しかし、入学初日なのに、親し気に声を掛けてくるところを見ると、佐野清彦である俺とそれなりの関係性がある奴だと思うのだが。
そう思って、リアクションに迷っていると。
「次。私語してないで早く自己紹介しろ」
「は~い。すいませ~ん」
入学式という事で、ビシッとスーツに胸元にコサージュを付けた、理知的メガネで、長い髪を巻いている教師がこちらに注意してくる。
───む! この担任の女教師……。いい……。
俺のママレーダーが反応する。
担任女教師の容姿はとても良い。
エリート然としているが、その奥に教師として子供たちを導く心優しきママみを感じる。
もしアニメでママキャラとして登場していたら、1年は味わい尽くすレベルだ。
「私の名前は早見綾乃です。隣の席の清彦く……、おっといつもの癖が出ちゃった。佐野君とは家が近所の幼馴染です。男の子の事で分からない事があれば私に聞いてください。よろしく~」
ああ、隣の席の話しかけてきた女の子は早見っていうのか。幼馴染だから親し気に声をかけてきた訳ね、はいはい了解。
そんな事よりも、女教師の方だ!
「何あの女……幼馴染アピールかよ……」
「男慣れしてますアピールして余裕ぶりやがって……」
「でも、物心つくまえから一緒の女は、男の子も女子への忌避感が薄いから、婚姻率も高いって聞くしな……」
「男児が生まれた家の一帯の土地って、地価が跳ね上がるもんね」
「悔しいけど、妻の座の1つ目はあの女の物か……」
歳は30代くらいか?
ママではなくても、一回り上の女教師というのは実にいい。
教師として普段は毅然として振る舞っているのに、自分の前ではフニャフニャに甘えてくるのが最高なんだよな~。
「早見……。あまり最初から強い言葉を使うな」
「すいませ~ん桜山先生」
───へぇ……。桜山先生って言うのか。
思わず舌なめずりしそうになった俺は、案外この世界も悪くないじゃないかと思い直していた。
なお、教室内の空気が幼馴染のせいで何やらピリピリしている事に、俺はまるで気が付かなかった。
私は気付いたんだ。
男女比1:99の貞操逆転の世界なら、性癖のアクセルを目いっぱい踏めると。
という訳で、新作もよろしくお願いいたします。
ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。




