第6話:内容確認_2
正直なところ、面倒くさい気持ちと詳細を知りたい興味が交錯している状態だった。気になる。気になるがまだ会おうとは思えない。完全なる野次馬精神だが、それくらいのほうが匿名さん……なーこさんも話しやすいかもしれない。
それに、本当に解決したくて、真相を知りたくて行動を起こすのであれば、私のような規模の小さいトークの配信者ではなく、それこそ定評のある霊能力者にでも話をしたほうがよほど先も見えるような気がする。私である理由があるのではないか。それこそオカルトを信じていなければ選択肢には含まれないだろうし、信じていたら即行くだろう。……私なら即行く。お祓いにも占い師の元へも行くと思う。得体が知れなくて怖いから。得体の知れないものには、その根拠がわからない手段があっている気がするのだ。
オカルトか、それとも人為的なものなのか。まったくもってただの偶然なのか。
そして、残りの二人には何か起こるのだろうか。
物語の詳細と結末として、ただ最初から最後まで知りたいと思った。何か惹かれるものがあるのだ。世話焼きで、お喋り好きで、ゴシップも変わった話も大好きなただの私が惹かれるものが、何か。
「なんというか、なんというか。これも縁……ってやつなのかな……」
決めるのは私なのだから、決めることに対して誰も何も言うことはない。それなのにポジティブな言い訳を考えながら、私はなーこさんへ返事を出した。
***
なーこ様(匿名希望様)
ご丁寧に、メッセージありがとうございました。
SNSや意見箱にて、他のリスナー様よりコメントが届いております。
主にどのようなコメントがあったか、そのコメントのおおよその比率など、まとめて明日配信いたしますので、もうしばらくお待ちくださいませ。
また、詳細を話すことについてのご提案ですが、申し訳ありませんが現状、お会いすることはできません。
ですが、そちらの内容に関しましては、当方もとても興味を持っております。
通話も可ということでしたので、こちらのDMに付随している通話機能を使って、お話しするのはいかがでしょうか?
次回の配信以降、またご連絡いただければと思います。
ご検討のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
宗像祈
***
その日のうちになーこさんからの返事はこなかったが、悩むのは当たり前だろう。私自身、どうしてこんなに興味を惹かれるのかは謎だったが、恐らくただの好奇心だ。昔からこういう話に弱い。友人が困っていたら話を聞いて、必要があればアドバイスもする。必要なければせずに聞くだけだが、話に終わりが見えても見えなくても取り敢えず聞いていた。力になれるならなりたいし、話をしてスッキリするならその相手になる。
オカルトはてんでダメだが。
……その昔、少しだけ見えていた時もあったが、それだけである。自ら驚いたことはあっても、驚かされたり危害を加えられたことはない。顔を洗ってふと鏡を見たら、そこに映っている廊下を何かが通っていったとか、膝を立てて寝ている時に壁側から誰かにその足を揺らされたとか、夜中ふと見た窓の外に大きな女性の顔があったとか、そういう話だ。
流石に中学生のころに、リビングで小説を読んでいた時に、何気なく見た両親の寝室から、青い手が覗いていた時は叫びそうになった。が、次の瞬間にはもう消えていた。一番ハッキリと視えたのが、この時だったからだ。
学生のころはイヤホンをして音楽を聴きながら夜道を歩いていると、トントン、と少し強めに肩を叩かれたからイヤホンを外してそちらを見たのに、誰もいなかったこともある。この時から音楽を聴きながら歩くのはやめた。
――と、まぁこれも『気のせい』と言われたらそれまでなのだが、自分の身に起こった少々オカルトチックな出来事を、私は気のせいではなかったとずっと思っている。こんな経験もあるからこそ、なーこさんの話を『気のせい』で済ませられないし、気になってしまうのだと自分では思っていた。……だから、惹かれているのではないか、とも。
翌日、さらにその翌日になっても、なーこさんから返信はなかった。
ただ、送られてきたメッセージに対してつけられる絵文字がポンっと一つついていたので、確認はしているのだろう。特に焦る必要もない。
今日は配信日だ。もしかしたら……いや、きっと、なーこさんは配信を聞きにくるだろう。私は配信の準備をしていつも通りお昼の時間に、いつも使っている配信アプリ上の【配信開始】ボタンを押した。
「みなさんこんにちは! 宗像祈です。お仕事学校、家事育児、今日もお疲れ様です。えー、さてさて、本日もこの時間がやってきました。『祈の雑談部屋』やっていきたいと思います。それでは早速、えー、前回お話していた匿名希望さんのこと、覚えてらっしゃいますでしょうか? 匿名希望さんの、神様に祈った話です」
私は前回の……なーこさん、匿名希望さんの話からすることを決めていたので、出だしはすんなり入ることができた。




