第2話:奇妙な相談_2
届いたダイレクトメッセージの一通目には、こんなことが書かれていた。
「はい、えー、まずはメッセージありがとうございました! こちらね、ちゃんと読ませていただきました。内容にもありますが、是非リスナーさんの率直な意見もお聞きしたいです。後で意見箱を解放しておきますので、そちらにご意見お願いいたします! ……ちょっとね、後でまた、じっくり何度も読ませていただこうかな。 はい、えっと。私の意見として、まず、多分だけど短期間に匿名さんの身の回りには良くない方向で色んなことが起こっているんだね」
もう既に何度もこの内容を読んではいたが、私はそう言ってブツブツと声に出しながらもう一度最初から最後まで読んでいった。何度読んだって内容に変わりはない。特に新しい気付きや感想も出てはこなかった。
「うん、うん。それから、匿名さんは気のせい……だとは思っていないんじゃないかな? なんとなくね。だから私は、気のせいだった場合と、気のせいじゃなかった場合で可能性……感想を出してみたいと思います」
このメールを読んで思ったのは『とにかく匿名さんが得体の知れない不安と恐怖に駆られているのでは』ということだった。文章自体、長いものではない。もしこの『たまたま祈った神様の仕業』だったとしたら、とにかく運が悪かったとしか言いようがない。助けてもらう神様を選べるのだったら、みんなきっとそうしている。……何なら、私だってそうする。
「まずは、気のせいだった場合。厄年に本当に良くないことばかり起こる人もいるよね。たまたまそういうツキまわりだったんじゃないかな。厄年、私は思い返すと前厄が一番酷かったけど、そんな感じで。それなら、その期間を過ぎれば、悪いことは起こらなくなると思う。また起こる可能性は無きにしも非ずだけど、良いことと悪いことって人生の中でその量を帳尻合わせしてるって言うし、その一部だったのかもしれないよ。それなら、ここに書いてある良いことと悪いことは量が見合わないだろうから、悪いことよりも良いことのほうがこの後多く起こるんじゃないかな」
まずは気のせいだった場合から話してみる。当たり障りないかもしれないが、これくらいしか思いつかなかった。
「じゃあ次に、気のせいじゃなかった場合。何らかの力が働いているってことだよね? 神様と対話できたら一番早いんだけど、あいにく私もその方法は知らないよね。リスナーさんで知ってる人いるのかな? もしいたら教えてください。あ、これ、冗談じゃないよ? 結構本気です。えー、そのさ、天罰レベルにもよるけど『そのうち人が死ぬ』かもしれないレベルに近いのなら、それはちょっとヤバそうだよね。解決方法が悪化してるってことは、結果がどんどん悪い方向へ行ってるってことでしょ? ……それはもう、神様ではなくて死神なのでは? もしくは悪霊? 悪魔? 目撃証言があって事件性があるなら、警察に行くのも手だろうけど、その天罰は別に匿名さんに下ってるわけじゃないから難しいのかな」
一気に話し過ぎないよう、一呼吸置く。
「そしたら相手の自損事故ってこと? 下手にその天罰下った人に話聞いて、自分の状況が悪くなるのも嫌だろうし、逆恨みされても困るし。目立った行動はしないほうが良いんじゃないかな。するとしたら、今まで何が起こってどんな天罰が下ったのかまとめるくらいかもしれない」
まとめるという作業は、頭の整理にも心の整理にもいい。やっておいて損はないだろう……と言う気持ちからの提案だ。
こうして話しているうちに、思いついたことを付け足してみた。
「気のせいだった場合でもうひとつ。思い切って放っておく。気にしたら負けなやつね。さっきも言ったけど、人生の中で幸不幸の量って決まっているって聞くからには、相手が今不幸なターンなんだよ。それだけの話。……うーん。全然いいアドバイスにならなかった。言いたい内容が上手くまとまらなかったなぁ。皆さんの意見もお聞きしたいので、次回も引き続きこのお話したいと思います。匿名さん、待っててね。えーそれでは……」
考えても考えても、まだいい案も意見も出てこなかった。次の配信で再び取り扱うことにして、今回はこれで話を終わらせることにした。
配信中はチラホラと、配信が終わってからは続々とリスナーからメッセージが届いた。
『変わった相談ですね』『気のせいじゃないかな』といった感想も多かったが、併せて『お祓いに行ったほうがいい』『住んでいる家について過去をきちんと調べたほうがいい』『誰かの呪いかもしれない』『匿名さん念飛ばせるのでは』といった、オカルト方面のコメントもある。
中には『匿名さんが無意識にやってたりして』『夢遊病の気は?』『妄想じゃないの? 病院行け』『二重人格なら自作自演』などというコメントもあった。
「はぁぁ、私も何だったか知りたいよ。何この相談……。失敗したかな……」
配信では読み上げなかったが、あのダイレクトメッセージには続きがあった。確かに一通目はあれで終わったのだが、二通目と三通目があるのだ。そちらには『読み上げないでほしい』と念を押して最初と最後に二回書いてあったので、怖いからその通りにした。
――その内容はこうだ。




