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わたしだけのかみさま-宗像祈の配信録-  作者: 三嶋トウカ
第一章:宗像祈の雑談部屋

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第14話:依頼者との通話_5


 ***

 あの先生は興奮していたのか、徐々に声が大きくなっていた。


 先生「はー。ホントさ、いきなり見学したいとかアンタの親迷惑なんだけど」

 そう言われて、娘は謝っていた。

 次女「ごめんなさい」

 先生「後さぁ。他の子のモチベも下がるから、アンタもあんまり知ってることひけらかさないでほしいんだけどなぁ? この間も言ったじゃん? 日本語わかんないの?」

 また謝る。

 次女「ごめんなさい」

 先生「あーあーあー。可愛い友達の息子の見せ場盗らないでほしいし。あ、親があんなんだから、子どものアンタもおんなじか。親子揃って礼儀がなってないのね。はー、そんなんで良く通えるね。めちゃくちゃ迷惑。存在自体が邪魔」

 娘は何も言わない。

 先生「おい、黙るなよ。そこはごめんなさいだろ? あ?」


 娘がまたごめんなさいと言いかけたので、私は耐え切れずに話へ割って入ることにした。

 娘は泣きそうな顔をしていたが、ホッとしたような顔もしていた。

 わざとらしく間に入ったが、先生はパッと表情を変えて、さっきの声よりもうんと高い声で私に挨拶をして出ていった。

 信じられない。


 こんなことが起きたのに、私は先生に対して詰め寄ることができなかった。

 けれど、しっかりとこの目で見てこの耳で聞いた。

 上の人間に話をしなければならない。

 そして娘を守るのが、私の責務だ。

 ***


『……えぇ、本当に、信じられませんでした』


 なーこさんの声は震えている。それはそうだ。そんなの、当たり前だ。こんなことを子どもが言われているのを知って、冷静でいられる親がいるのだろうか。

 話の途中でわざとガラガラと大きな音を立てて教室に入り、乱暴な言葉で詰め寄りたくなるだろう。一発ぐらい顔面をぶん殴っても許されるかもしれない。私なら許す。殴り倒しても許す。それくらいの事案だ。

 なーこさんは大人だった。少なくとも大人だと私は思った。ここで出て行っても、これだけのことをしていても、はぐらかされる可能性はある。日記の内容を聞く限り、録画をしたり人を呼んだ形跡はない。

 ……自分の子がそんなことを言われたとして、私だったら、相手が女性でも髪の毛をひっ捕まえてやっぱり一発顔面をぶん殴っていたかもしれない。もしくは、聞こえた位置から静かにスマホで動画撮影をして、後日保護者みんなで上映会をしてやる。


「私も信じられません。そんなことを言う人がいるなんて……。これは間違いなく、娘さんの行き渋りはこの先生ですね?」

『はい、そうだと思いました。それでまず、夫に話したんです。彼も気にしていましたから。もし先生が娘のことを邪険に扱っているなら、複数の目で見て証人を増やしたほうが良いと言うので、夫にも見に行ってもらいました。……娘は辛かったかもしれませんが』

「ご主人も同じ光景を見たのですか?」

『それが、見なかったんです。その日は久し振りに、娘が笑顔で習い事から帰ってきたんです。凄く楽しそうに話してくれて。夫は、先生も人間だから、たまたま機嫌が悪かったのかもしれないね……なんて言ってました。絶対その日だけじゃないよね? って思ったんですけど、もう一回か二回くらい様子を見よう、と言ったので、従うことにしました。まぁ、単純に娘じゃなくて、私が気に入らないとか、そんな話も可能性としてあるので。夫が見学に行ってソレだったので、一か月、夫が習い事の日は在宅勤務にして、送迎をすると言ってくれました。中抜けはできるからって』

「それで、結果はどうだったんですか?」


 何かあったのはだいたいわかる。だがあえて聞く。だって、この人に天罰が下っているのだから。


『一週目は、夫が送迎をしてくれて。娘は楽しそうに帰ってきました。二週目は、夫が送っていったんですが、運悪く迎えの時間に会議が入ってしまって。私が迎えに行きました。それでも、娘は楽しそうでしたね。三回目は、会社の偉い人がくるとかで、結局出社になってしまって。送迎はどちらも私が』

「その日はどうでしたか?」

『面白いことに、元に戻っていました。それで思ったんですよね。あれ? これってもしかして、私が原因なの? って』

「でも、なーこさんが先生に何かするほど、繋がりも会う機会もないですよね……?」

『なかったですね。教室まで子どもを連れて行ってバイバイ、なので。よくある、アイツ何かムカつくよね、みたいなのかなって思いました』

「あー、それはちょっと、納得です。意味わかんないですよね、あれ」


 多くの人が見聞きしただろう、具体例はないがとにかくムカつく、というやつだ。私は主に、小中学生のころ経験した。


『何かって何? ってなりますよね。でも、それで子どもに当たられても、ふざけるな! って感じですし。最後の四週目は、夫がまた送迎をしてくれました』

「じゃあ、その日は機嫌よく帰ってきたんですね?」

『はい。娘の機嫌は良かったです。でも、夫の在宅は終わってしまったので、翌週からまた私が送迎することは……決まっていたんですよね。だから、心配だったんです、とても』

「お気持ち良くわかります。……懸念していた通りになりました?」

『いいえ、それが……』

「それが?」


 なーこさんは言い淀んでいるように感じだ。表情まで見られないが、声色からしてきっと暗い顔をしているに違いない。

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