第1話:奇妙な相談_1
「――はい、今日も始まりました『祈の雑談部屋』。こんにちは、宗像祈です。私事ですが最近、新しいソファを買いました。ちょっと大きめで、ゴロンって遠慮なく寝転がれるのが最高! ……と。えーっと。今日はレトロゲームの話をしようと思ったのですが、相談のDMが届いたので、先にちょっとご紹介……というか、この配信の中で返信させていただきます。ご本人から、掲載許可等いただいているので、本日の最初のコーナーは『祈の相談部屋』にいたしましょう!」
私【宗像祈《むな方いのり》】は、音声配信サイトで雑談と悩み相談をメインに活動している配信者だ。歳はアラサーで通じるだろう。年齢を公表してはいないが、出す話題で同年代の人はわかると思う。それから、結婚して子どもいる。音声配信を始めたのは何でもないただの興味からだったが、今では固定のリスナーもつき、ある程度再生回数もある。いつもは自分でお題を考えたり、リスナーからお題をもらったり、今回のように相談メールに答えたりもしている。ありがたいことに、最近オススメに挙がり新規のリスナーも増えていた。おかげさまで趣味で始めた割には自身の生活の一部になっており、すっかりハマっている。
今回のようにSNSのダイレクトメッセージでもらった相談は、配信で流す前に内容を確認している。今回のその相談内容は、少し奇妙に見えた。なんというか、あまり実感がわかない。物語のように聞こえる……読める、というのが正解だろうか。どこか絵空事のように感じたが、それでも、配信で内容を読んで良いという許可ももらっていたし、他の人……私以外の意見も聞きたいということも書いてあったので、採用することを決めた。
事前にダイレクトメッセージを別のテキストへ起こし、何度も何度も読む練習をした。詰まってはいけないし、なんとなく、今回は間にあまり言葉を挟んでもいけないと思ったからだ。いつもなら相談内容を読みながらこまめに相槌で一言二言言葉を入れているのだが、試しに録音したものを聞いてみたらイマイチしっくりこなかった。だから、言葉を挟むことをやめた部分もある。最初の、挨拶の部分だけ返すことにした。最低減の自分の中のマナーとして、入れておきたいものもある。
「それでは、早速読んでいきましょうか。えー、お名前は……匿名希望だったので、匿名さんとお呼びしましょう。『宗像祈様。初めまして』。はい、初めまして!」
そこに書かれている内容はこうだった。
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宗像祈様
初めまして。
私の名前は、匿名希望でお願いいたします。
いつも祈の雑談部屋、楽しく拝聴しております。
早速ではありますが、今回は相談したいことがあり、こちらのメッセージを送らせていただきました。
色々な方のご意見を聞ければと思っておりますので、誠に勝手ではございますが、匿名希望で相談内容を配信していただけましたら、大変嬉しく思います。
ここからが、相談したい内容となります。
私は現在仕事をしながら子育てをしています。子どもは二人おり、夫を含め四人家族です。
事情があり、一年ほど前に今の土地へ引っ越してきたのですが、それから、身の回りで不思議なことが起こるようになったのです。
始めは、ママ友がほしいと思っていたころに、ママ友ができました。
それからほしいと思っていたアクセサリーや服を買ってもらったり、多めのお小遣いをいただいたり、ずっと行きたかった旅行へ行ったりと、立て続けに良いことが起こりました。
そうなる前に「神様にお願いしたら、願い事を叶えてくれるかも?」なんて話をしていたので、内容も嬉しいことでしたし、ほんの少し怖くもありましたがポジティブに考えて「神様が私の願いを叶えてくれたんだ!」と思っておりました。
実際、心の中で、神様に祈ったりしたので、その結果が出たんだと。
ただ、何もかもが上手くいくことは難しく、周りであまりよくないことが起こり始めたのです。
たとえば、子どもが習い事で嫌な思いをしたり、学年は同じですが、特定の授業以外で接点のない子から嫌がらせを受けたり。
「何だか嫌だな」とそう思っていたところ、子どもたちだけではなく私の身の周りでも、同じように嫌なことが起こりました。
詳細はこちらでは控えさせていただきますが、簡単に言うと、付きまといや顔見知り程度の人間からの、気味の悪い嫌がらせと言えばわかっていただけるでしょうか。
そこで私は、今の事態が好転することを神様に祈りました。
勿論、自分でも努力や配慮できる部分や妥協できる部分は、最大限その通り行ったつもりでおります。
「困った時の神頼み」とはよく言ったものですが、私自身精神的にかなり参っていましたし、今までポジティブなことばかり起こっていたので、これまでと同じように「神様がどうにかしてくれたら」と、虫の良いことを考えていたのは事実です。
それでその、藁にも縋る思いで神様にお願いした結果なのですが、なんと、私たちに対する嫌なことはなくなったのです。
ですが代わりに、私たち家族へ嫌がらせを行っていた人たちは、まるで天罰でも下ったかのように、痛い目に遭っていたのです。
それを知った時「自業自得」「因果応報」と思わなかったかと言えば、嘘になります。
「悪いことをしたから罰が当たったんだ。いい気味だ」と。
……でも、それが急に怖くなってしまいました。
本当に、私がそうお祈りした人たちだけがピンポイントで、そういった目に遭ったのですから。
ただの気のせいかもしれません。
ですが、気のせいにしては出来過ぎている感じもします。
これは本当に、神様が願いを叶えてくれたのでしょうか。
それとも、それは考え過ぎでただの偶然なのでしょうか。
偶然だとしたら、最近は私たちにとって悪いことが起こった後、その原因となる相手へ更に悪いことがよく起こるので、この家や私たち家族が呪われているのでしょうか。
物事が解決しても、その解決方法が悪化しているような気がしてなりません。
そのうち「人が死んでしまうのでは?」と、不安になってしまいます。
私はもう、神様に祈らないほうが良いのでしょうか?
でも、今まで頼っていた神様に祈らなくなったら、もっと酷いことが起らないかと心配です。
それとも、もっともっと強く祈ればよいのでしょうか。
私は何か、神様を怒らせるようなことをしてしまったのでしょうか。
祈様は、どう思われますか?
率直な意見をお聞かせいただきたいと思っております。
拙い文章ですが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
匿名希望
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