7 物質再構築=再生成
「記憶にない・・・・いや、そんなんだっけ?僕の認識が何かズレている?」
何故か変だ。視界と記憶にノイズが走っている。今思えば何故僕はこのメイドさんを見て、あの人を思い出すのであろうか?
ただ生活のためにお世話をしてもらっただけにしか過ぎない。そんな存在を。
「無理もありません。何故ならこのお身体と命は貴方様からいただいたモノです。新しく全てが生まれ変わった瞬間、初めて自分の使命を気付かされました。今までの人生も全てはこの時のためにあった。」
こんなに饒舌ではなかった。確かそうだった気がする。けど、記憶のノイズが徐々に晴れて更新されていく。
正しい記憶をプログラムが復旧作業に取り掛かっている。バグを取り払い、正式なデータに再インストールしている。
「なっ!んで・・」
何故自分の身体なのに、ここまで力によって支配されなくてはいけないのだろうか?
それにこの痛みは気持ち悪い痛みだ。吐き気を催すぐらいの眩暈と嗚咽である。
「だいじょ!」
「近寄るな!」
メイドは大神を抱き抱え、千条を近寄らせないように謎の鎖魔法を盾のように壁から大量に発生させていた。
「貴女は何?」
「貴様らのような持つモノ・・・生まれながらにして持った者には分かるまい。」
「貴女が何者かを聞いているの?彼は私が保護するために来たの。」
「保護?実験のようなか?」
「あまり私を侮らないでもらっても?若いけど一応賢者をやらさせてはいただいてるんだけど。」
バチバチと見えない火花が飛び散る。
「お嬢様、彼奴かなりできます。」
「知ってます。ただ彼女の動きは先ほどからトレースして確認はしています。油断はしませんが。」
『トレース』という対象の人物のある程度の魔力質や量といった能力査定を行う一般魔法である。
しかし何故か目の前のメイドからは全てがアンノウン判定が出ていた。
「そうやっていつも人を見下さないと気が済まないとは・・・やはり、この方に世界を変えていただくしかない。」
「はぁ!?いつ見下したって?貴女被害妄想が激しいけど?大丈夫?」
「何を仰っているんでしょうか?魔五斗様に振られたショックのあまり我を見失っているのか?」
千条は頭にカチーンときた。流石のじいにもそれが伝わった。そしてそんなじいにこの女の戦いを止めることはできない。ただ1人を除いて。
「「!!」」
そんな2人(オマケで1人)の魔力をごっそりと大神によって分解されてしまった。
彼はただ一思いに人が頭痛い時にわーきゃー騒ぐな。その勢いそのまま魔力のみを分解した。人1人を分解せずに済んだのは彼の理性が保たれているからであろう。
3人は立つことすらままならず、そのまま両手両膝をついて苦しそうに呻いている。
「こ!っ!!こい・・つの・・」
「や、やっぱ・・・」
「・・・・!!・・!」
最後の1人なんかヤバいぞ・・・ふう・・・・ともかくようやく落ち着いた。
「どうして?と言いたいが、その状態では無理だろな。」
今度は別の魔法式、つまり『再生』のコードを入力して発動する。分解の逆である。
先ずメイドの彼女、以前僕のお世話係だった『華城沙月』であった。脳内に保管されていた記憶と全くもって姿形が変わっている。ただ気になるのは容姿もそうだが、その魔法である。
あの鎖の魔法はどう考えてもどの属性にも当てはまらない。確かに構造状は鉄だから土属性?・・・錬金的な部分に当たるのか?
「違う・・・変質した?が正しいのか。」
「さっ・・流石ですっ!」
急接してきたせいか、なんか怖いよ。いやそんなことよりあかん!
この現代魔法において禁忌とされるのが、『再生』とされている。
この『再生』はいわゆる物質の再構成とされており、人体を変質させたりと医療そのものに大打撃を与えかねない事象である。ただこの世にゲームみたいなヒーラー属性は存在しない。
怪我をすれば、当然医療班による適切な手当が必要である。もちろん風邪なども含めてだ。
それだけじゃない。再生の派生系とも言える『再生成』とは、いわゆる人格や人の皮膚などといったものも偽れるというかなり危険な魔法として転用することも可能であるとされている。
それが有機物に限らず、無機物にも影響される場合はその限りはない。
つまり『分解』はあくまで使えないに相当される魔法であり、実現できるなら使える。と魔法式上では過程されている。
ただこの『再生』は別である。この世の摂理を変えかねない危険なものであり、実際に行うためにはさまざまな人体実験を伴うため、人として背徳される行為にも当たる。
更に諜報活動などと言った世界の乱れにも繋がってしまう。
「できなくはないが、当時・・・・はできないはずだ。」
そうだ。
そもそもこの禁忌に触れずにどうやったら肌の変質を行えるのかを実際のテーマとして実感していた。
しかし、いつ僕はそんな危険な真似をしたというのだ?それに甚大に影響があるということは魔法による上書きの痕跡がある筈だ。診断すれば100%見抜かれる。はずだ?
今の機械は警察の捜査のため、魔法による事件かどうかを判別する機械だって存在する。
かなりまずい・・・・・・うん?あれ?
「今しれっと使った?あれ?どうしてだ?」
ふともう一つの事実に気づいた。何故彼女を見たら躊躇わずに『再生』を使ったのだ?いやただの回復系統ならバレないが、いやいやそうじゃない!
大神は今までにないぐらいに思考がぐるぐると慌てている。
禁忌に加え、再生魔法の発動、そして自分が自分で記憶を捏造していた事実とこの日だけで脳内の容量をオーバーしていた。
「お見事です、やはりこの世は貴方様を神としたのですね。素晴らしい。
私は神の使徒に選ばれた1人ということですね。」
「???」
やばい・・・脳がバグってきてるのに、心身正常化システムが働きかけてやがる・・・エラー修正エラー修正と永遠に理性の正常化を計っている。
よく分からんが、この辺はたまたまなのか、この千条渚によって情報がしっかりも封鎖されていた。
凄いたまたまというか、この偶然によってさっきのうっかりした行為がバレずに済んだ。
まさか計算に生きた僕が奇跡と不確定要素論を言いたくなってしまうなんて。
「つ、ついでか・・・」
2人も何故かついでに『再生』してあげた。うん?
「むむっ!こ、れは?」
「やっぱり・・・貴方なら世界を変える力を持っている・・・なら」
千条渚は狼狽えていた僕の隙をついて手を握る。流石に脳がショートを起こしている上、脳内でシステムの正常化音が鳴り響くせいか油断している。
「私は貴女を守るためにここに来たの!そう未来が告げたのと、私の意思で!」
「なっ!お、お嬢様っ!」
「??な、何を言って」
パァン!とその手を容赦なく振り払う華城沙月である。その瞳には何者をも許さない殺意が宿っている。
なんでこんな危険な奴を招き入れているんだ?
「触れるな!」
「なっ!なんで貴女なんかに!」
また喧嘩が始まりそうな雰囲気なので『分解』するぞ。と脅しを発動する。
すると、2人は息ぴったりなのか静かにそそっと距離をとっていく。
「話が見えなさ過ぎるのとここで暴れすぎだ。
しょうがないから一度僕の家に来てくれ・・そこのじいも。代わりに見張っといてくれといいたいよ。」
「むう・・・貴様に台詞を取られるのは癪だが望むところだ。」
「ありがたき幸せ。」
メイドらしく綺麗なお辞儀です。
「いっ、いきなりなのね・・はわわ。」
何を勘違いしとんだ。流石にじいも目も当てられないのか困り顔である。
またしても沙月から殺意が出ている。まるで番犬だな。飼い主を守るために常に威嚇してる感じである。なった覚えすらないけど。
「あとこの辺の情報統制は?」
じい・・・・確か聞いてないからその人に聞く羽目に。なんと言ってもトップが頭お花畑なんだからしょうがない。
「無論、お嬢様がここまで表に出るのだ。当然通り道は愚かこの辺りは封鎖しておる。魔法自体も使ってはいるが、物理的にも工事が絡んでいると封鎖した。」
なんでそんな無駄な国家権力使っているのだろうか?そりゃじいも頭悩まして着いてくるわな。
賢者がそこら辺歩いているのもおかしな話だがね。だからと言って・・・
大神を中心とした通路や辺り一体はボロボロであり、民家が近くにはあるものの魔法統制で全く気が付かない。
更に建物はやや損壊気味である。それに気づかないのも魔法の凄みと賢者が絡んでいると見た。
隠匿やサイバー系犯罪の管理を行う特殊警察庁情報課出身であり、現『特殊魔法技術取締』警察長に居座る大門護
彼は戦闘系よりも裏方のような情報系等に優れている賢者である。
賢者である前に1人の警察官として勤務する彼からすれば、賢者など二の次である。
魔法による情報統制、これもまた並大抵の魔法、魔力ではなし得ないとされている。
大門家は代々日本の天皇や総理大臣といった重鎮を守っている由緒正しき家系である。
そんな彼がこの辺り一体を封鎖として取り仕切ったのだ。家にヒビが入ろうとも崩れようとも誰も気が付かないのも当然である。
相当高位の魔法師でないと分からないほど、その実力は群を抜いている。
現に魔法封鎖がされているのは分かっていたが、どの程度レベルで封鎖されているのかまでは分からなかった。
しかし途中から彼の存在をキャッチしてからは問題ないと踏んだ。
近くにはいなかったが、どこからか僕たちの衝突などがあったことを確認したのか、警察の勘なのかは知らないが本人がこっちへ急いで向かってきたのだろう。
「癪ではあるが、ここら一帯を治す。」
「流石でございます。」
「いや、まだやってないから・・」
沙月の打てば響くような反応に困る。信者というより、知らない完成品はちょっと。
損傷箇所算出・・・生命の危機感知・・0・・損害・・・多数・・記録をバックアップからコピー・・・『再生』を開始・・・修復完了・・・異常なし
「なぜ今日に限ってボロボロと秘密が暴かれていくんだ?」
「それも運命です。これから私たちに降り注ぐ大きな厄災と同じく。
貴方様もその厄災に大きく関わっております。」
千条渚がここにいる。ということの時点で十分異常ではあるが、賢者3人と出会うというこの日そのものが最早異常を通り越して悪夢である。
しかもオマケでじいと戦わされるわ、昔馴染みのお世話係が謎の変貌を遂げているわでもうこんがらがってる上、勝手に改造された俺の記憶ときた。
「一先ずはここを離れるぞ。」
そのまま僕の住む家までゆっくりとその場を歩いて立ち去っていく。
安いがそれなりのしっかりしたアパートには住んでいる。壁などの防音耐性は自分で編み込んだ魔法式と素材を上書きして壁にねじりこませた。そのため従来のアパートよりは頑丈で音が聞こえない。
それに防犯レベルは正直他の施設よりは上であり、ここに自分がいようがいなかろうともそのセキュリティ性は万全である。
「ま、かけるところなんてソファしかないが、かけてくれたまえ。」
僕はいつも研究に勤しんでいる専用のデスクと椅子へ腰を掛ける。見られたくない資料やデータがパソコン内に保存してあるので。
「では、私はお茶を組ませていただきます。」
沙月はしれっと台所にいき、お茶を作り始める。
しかし僕は思うのだ。いつ買ったんだろうか?と。普段家には必要な栄養素以外取らないので、水しかないはずだ。
沙月どこから取り出したのか、茶壷をもっており、更に生活魔法を使い、お湯を張り出す。
「用意がいいというのか、なんというのか。」
「あの方とはいつから知り合い何ですか~?」
そんなむくれて聞かないでもらっても?
「素性は知っていたが、前と180度違う。だから自分が自分に驚いている。」
「へぇーーーー!」
「今のうちに話を進めよう。ここまで来たのに時間が無駄になる。」
僕は流石に今案件を今のうちに聞いておかないと、次のフェーズに移れない。と判断したために無理矢理にでも推し進めていくことに。
「んん!ではこのじい目がお話しさせていただきますぞい。
まず貴様に会う必要があったキッカケだが、『厄災』またの名を異次元からの進行とされる日本滅亡の
危機がお嬢様によって予知された。」
「ほう・・・異次元ね。外部からの戦いではなく、異次元な上この日本でか?それはさぞ一大事だな。
まぁ賢者が7人もいる訳だからそれなりの強大な敵がやってくるという訳かな?」
「お待たせいたしました、お茶でございます。」
沙月によって汲まれた高そうなお茶とその茶碗、そして茶柱が綺麗に立っている。どこがいいこと起きているのだろうか?
あ、褐色お姉さんに会ったことかな?悔しくもその実態を知らないのと「禁忌」に触れてしまっている可能性があるがな。
「ええ、中でも今回はその賢者が1人裏切ることで発生する出来事でもあるの。」
「それはなんと・・・・また七面倒なことに。」
賢者も一枚岩じゃないのは知ってたけど。
「その一人の候補が蛇の魔女「阿良川艶美」ともう一人候補がいるの」
候補となると、魔力が強いのと同レベルは感知できないのか?それとも両方裏切るからか?
「『天照の遣い』城戸天満がその候補の一人なの。」
「ほう・・・・」
「あら?意外と驚かないのね。」
「あの化け狸のことだ、何か裏があるとは思うぞ。少なからず裏切りではない何かがね。」
天満の体内コードとそのリソースをチェックしたが、妖精と融合している次元生物でもあるが、どうもアイツの身体の痕跡からどうやってか、異次元に幾度か行っている。
更に他の賢者と比べて、人間として遺伝や血液などが大きく変質している。まるで少しづつ何か知らない生物へと変化しようと、徐々に何かを推し進めているかのようでもある。
「それも分析なの?」
「もちろん数的根拠に基づいて分析はしているが、僕自身がもう少し情報を探るようにじっくりと観察と本人の魔力体から構造までを細かく調べられれば判明はするが、そこまでしてやる義理も気力もない。」
「そう・・・・・ね。逆に余計に怪しまれる。
ただ、これだけは分かる。貴方がその力で立ち上がってくれる時、全ての未来が変わる。でも貴方が立ち上がらずに、どこか消え去ってしまう。そんな未来もあるの。特に今は後者が大きい。
だから少しでも変わる可能性がある未来として私が介入する。これが一番かなと・・・・あと私たち昔出会ってるの覚えてない?マコ君。」
???
「・・・・・・・・ナギなのか?」
再びノイズが走った。そしてふとその名前が何故か出てきた。
「!!」
千条は突如涙を一滴だけ流した。
だが肝心の僕は残念なことに、小学生以前の記憶はない。正確にはログとして残像が残ってはいたが、死者の墓は荒せないのか、肝心な必要な内容がごっそりと消えており、残りの部分は残影のようにノイズが走る。
しかしそこに痛みは伴わない。まるで死んでいる記憶だから痛みはない。とシステムに言われているようである。だがそこに大きな怒りや悲しみ、憎しみ、悔しさが生まれない。
「覚えてた・・・・ただそれだけでいいの。私は覚えてるから・・・だって貴方はもう・・・一度死んでしまったのだから。」