5 強者と恐者
「おおっ!すげぇ・・・何もしてねえのに力がっ!」
城戸京太の素質は荒々しくも繊細な戦闘センスがあった。守りや魔法師としての技術面よりも、完全に戦闘向けのスタイルが特徴的であり、特技であった。
それにちなんだかのような黄金色の聖剣が彼に次元を超えて手渡されている。
「おめでとう。そこまでの強力な武器は見たことない。また1つ成長したな。」
「・・・・ありがとうございます。」
割と反抗期迎えてなかった。つか、尊敬してんのな。と感じる。
怒りに身を任せる訳でもなく、ただ力を試したいだけのバトル癖が強いだけなのかもしれない。人の感情とは複雑怪奇である。
「では真凜、次は君だよ。」
「はい、父上・・いえ、すいません。先生」
やややんわりと微笑む天満である。
「『嗚呼、涙よ。その悲しみ、その哀しみ、その慈しみに憐れみを。彼にその一部を恵んであげたまえ。』」
2度目の詠唱が発動する。青き輝きから新たなる光の輝きが生まれる。
「!!」
天満は反射的に行動に起こしていた。
その光から範囲魔法攻撃が放たれた。
「!!!」
どどどどど!!っと大きな音が響くも教室は無事であった。
鳳凰寺先生は生徒たちの前へ、マーシャ先生は天満と真凜を囲うような土属性で固められた物理的シールド。
そして、光魔法で構築した結界が内輪で展開されていた。
シルエットこそ大きな龍を描いているも、そこにはなんとカワイイぐらいのマスコットサイズの白色の龍が佇んでいた。
見た目に相反しており、その殺意と威力は3人の行動からよく分かっている。
もっとより正確な言い方にすると、僕は何故かアレをよく知っている。
だからこそ、僕は自動的に防衛本能が反応したのか、天満、鳳凰寺、マーシャの3人で防げるレベルへと龍の放った攻撃に合わせて攻撃側の攻撃式を一部改竄した。
聖剣も実を言うと容量なく理解できたため、何故かあれを知っていることになる。
『ティアリニィスの涙』自体は知っていたが、あれの発動で容量負荷がかかるような出来事が起きたが、あれ以降ちゃんとインストールできており、何なら何故だろうか。何が出てきても驚く要素が全く無かった。
最初の時点で勝手に全てを解析等を処理を行った際で辛かっただけでは?と推察した。現に僕自身は存じ上げてはいないが、知らない異次元の龍の力の一部をバレずに改竄することができた。
これが何よりもの証拠ではないだろうか?いや、証拠すら残さないから迷宮入りが正しいのか?
「ほほう・・・契約として呼び出した者含めて全て消し去ってしまおうかと思ったが、よもやこのような使い手に出会うとわな。
だが、呼び出し手のレベルは確かだが、何かと混ざっておるな?となると、ワシが引かれた者はそちらの小娘という訳か・・・・だが釈然としない。先ほどの威力を打ち消せるとは?しかも何の被害もなくだと?腑に落ちんが、答えは出てこなさそうだ。」
「いきなりの挨拶ですね。まさか娘がこのような高レベルの精霊・・・いや龍を呼び寄せるとは。龍の中でも王の存在とお見受けします。」
天満は下手に怒らせないように慎重に様子を窺っている。
娘の真凛は表情にこそ出さなかったが、今一番死と隣り合わせであるからこそ、その冷や汗や緊張感は膨れ上がる一方であった。
他の生徒含めた2人の先生たちも警戒を解除せず、それどころかより一層対応すべく『神器』を取り出して待機していた。
「王ではない。ワシは龍神である。だが、中でも最弱のな。」
「これは失礼いたしました。ですが、ご冗談を。仮に最弱だとしても我々にとっては大きな力でございます。そのため、お戯れだったとしてもご遠慮していただけると幸いです。」
「人間風情がお願い?だと・・・・まぁ何故かこの小さな身体付きに、どうも存在が掠れてきている。この世界に適合できておらず、そこの娘の魔力で培われている。か。これは正式契約しないと消え失せるのみか。」
「真凛」
天満は怯える娘に優しく諭していく。
「はい・・・・・・龍神様・・・・」
「よい。ワシは『ファフティシア』、小娘の属性光を司る龍である。」
「そう・・・・ファフティシア様、どうか私に力を貸してはいただけないでしょうか?」
「小娘の願いは?」
契約において大事なこと。
それは思いの丈である。魔力・相性・力は確かに必要とはされているものの、そこまで重視される内容ではない。
例えるなら、恐らく素の力比べならどう考えても城戸京太の方が強いであろう。他にもそれなりの実力者がいるが、この城戸真凛は思いの丈で反応し、聖遺物がこの龍神を寄越したのであろう。
思い・想い・願望この3つが重なる時、次元の生物が反応を示す。欲望もその一種であり、実現の可否に問わず、ぶれない確実な思いを心に秘めている。というのが解った。
「つまるところ、僕と同じくらい強力な願い?なのかな・・・・」
「よくこの現場で平然としてられますね!」
机の下に避難している三上とは違い、願望と渇望という悲願達成への思いは真凛よりも途轍もなく強い。だが、召喚契約する者も並大抵ではない思いを秘めているに違いない。
そう考えると、研究としては興味の対象になり得るな。
「私の思いは父を超えて、大賢者「アレイスター」の称号を得ること。」
「「「!!!」」」
空気が一気に変わる。
「アレイスター」とは遥か昔に異国の地にて手にしたとされる世界唯一の称号である。既に大賢者であった方は亡くなっているとされており、今その席は空白の状態である。
賢者は各国から集ってはいるものの、大賢者「アレイスター」へは至らない。死者を蘇らすとかしないと厳しそうである。
「ほう・・・・この世界の仕組みは知らんが、個々の奴らの心内からそれが本当であると察した。
だが、実現できるのか?小娘よ、周りの者はお前を嘲笑っているぞ?」
「だから何?私はなる。ただそれだけ。」
真凛の意思は非常に固く、龍神相手に目を決してそらさない。
暫く龍神は目を閉じる。その数分後に。
「いいだろう。契約成立だ。我が主よ。」
龍神との契約が成立したのか、彼女の右手には光沢光が宿り謎の紋章を刻みつけていく。
「融合はまだ無理だが、使役からの使いこなしぐらいは行けるであろう。せいぜい絶望せずにワシをつかいこなしてみせよ。」
龍神はそんな捨て台詞と共に彼女の右手へ吸い寄せられていき、消えてしまった。残ったのは先生や生徒とこの半壊しかけている教室のみである。
正に好き勝手に暴れて逃げた。これに尽きる。
そして暫くしてから『神器』剪定は進められていき、僕ともう一人の美しいレディを残すのみとなった。だが、この視線から察するに今回はお預けとなっていることを周りも察していた。
伊達に「魔技特」に入学してきた猛者たちである。城戸京太の件といい、割と見た目に反して察しがよく判断力が優れている。
「この後はお待ちかねの魔力測定だけど、大神もパスされんのか?」
「いやついでに実はこっそりと聞いたが、どうもそれは受けられるらしい。何でも魔力はあくまでも量や質を図るものであって、属性有無といった部分には偏らないらしい。」
「へぇ・・・なんかめんどい立場にいるんだな。」
三上ほどではないがな。賢者千条がトップの政府機関から派遣された君ほどめんどい立場ではないよ。エルフさんこと黒田さんはさっきから純粋にチラチラ見てくる始末である。
何故あんなプライドが高い奴を今一番に信用に値する存在と認知せざるを得ないのであろうか?
これもコミュ障の末路だというのであろうか?
続けて魔力測定を今度は名前順に始めていくことになった。
ちなみに大げさに表現はしないつもりではあったが、割とこのクラスの『神器』はなかなかの逸材が多かった。
しかし、やはり大注目となったのが城戸京太と真凛であった。エルフの黒田さんも珍しくかなり古めな杖を授けており、本人は何故か驚くことなく平然としていた。
しれっと解析したが・・・・・まぁお楽しみで。
「大神ー、オラお前だぞ~」
「くれ・・・鳳凰寺先生!」
レディに呼ばれたので行くしかない。下の名前でもいいんですよ。
城戸天満は既に教室にはおらず、聖遺物と共に立ち去っていた。マーシャと鳳凰寺の2人が測定を担当することになった。
近年の魔力測定には科学による機械装置で測定を可能としている。そのため、操作の仕方を知っていれば誰でも使用可能となっている。
「お願いします。」
魔力測定機は大きなものではなく、教卓と同じぐらいのサイズであり、手をかざすだけで本人の魔力を測定するという機能になっている。
「ど、どうなんでしょうか?」
何故マーシャ先生が緊張しているのかは不明ではあるが、正直なところ僕も気にはなっている。この魔力測定機はどうも魔力に反応する。詰まる所、僕自身の魔力は恐らく高くないのでは?というところである。
実際問題自分の解析は済ませてある。力の把握度合いがまだ少ないだけであり、自分自身の能力値は既に把握している。それに伴い、発動できる魔法とできない魔法の区別、最小単位コードの読み込みと最小レベルでの魔力消費で実施できる。
また、人の魔法コード(数式)に上書き、追加なども。まぁあくまでもこれは自身が視認出来て入ればの話である。
だからこそ分かる。
【魔力値:1】
「へ?」
「あ?」
全員が口を揃えて言う。
「はい?」
「今回の報告は以上です。」
「ご苦労様だ。・・・・・いやーにしても今回は沢山の面白い生徒が募って何よりだよ。」
「は、はぁ・・?」
「おや?不満かな?」
天満の学長室にはA~Dの各クラスの担任からこの度の結果を報告していた。
そして最後の鳳凰寺紅の報告後に天満が満足そうにコメントを残している。
「学長、よろしいでしょうか?」
1人のイケメンの男性先生として支持率の高く、ロングヘアスタイルに緑のコートを身に纏う一条学が学長である天満に意見を訪ねた。
「おや?不満かな?」
「とんでもございません。ただ気になったというのか。いえ、これは私も実のところ調べていて開発元に尋ねたので確実な答えですが。」
「ああ、その通りだよ。」
「??あ?おい学何の話だよ!?」
鳳凰寺が自分の報告後に意味不明なやり取りにしびれを切らしていた。
「鳳凰寺先生、彼の件です。」
もう1人の金髪ショートカットの色白であり、スタイル抜群のメガネをかけた女教師のプリムラが鳳凰寺へ進言する。
「あ?あいつのことがどうかしたのかよ?確かに変人だが、それ以外変わんねぇだろうがよ?」
「そうではありません。」
今度は一条学から鳳凰寺へ直接訂正し出した。
「あ?んだてめえら?」
鳳凰寺から炎の魔力がちらつく。
「まぁまぁ落ち着いてよ。先生が思うような話じゃないよ。」
天満は優しく微笑んではこの場を大人しくさせた。
「ありがとうございます。学長。
鳳凰寺先生、そもそも魔力測定機で1はあり得ません。低くて100です。これは生活水準における必要な魔法最低値として記録されており、魔力を持たない者、つまりは魔法が行使できない者は0と表記されます。
そのため、彼は魔法が使えない。のではなく、魔力測定機自体が彼の魔力そのものを判別できなかった。が正解です。」
「測定不能だぁ?んだそれ?」
「私も学先生の話を聞いておかしな点はありますが、学長はご存知でしょうか?
恐らく今学長も同じ状態になりますよね?」
「そうだね。プリムラ先生の言う通り、私を測定してもきっと同じ現象になるよ。最も私の場合は魔力量が多すぎてだけど。彼の場合はどうかな?」
「多いんじゃねぇのかよ。です。」
鳳凰寺はつい素の状態になっていたことを我に返った。
「多分違うと思うよ。彼は恐らく異次元の存在だね。
まぁ、あの様子から彼自身は気付いていない。もしくは彼自身が使いこなせていない。かな。」
放課後
「まぁ落ち込むなよ。ほら、俺だってさ、300だったしよ。」
「いや、落ち込んでいないんだが?」
やけに慰めのつもりかホームルームや諸々やることが終わった後、しつこく絡んでくる三上である。
「あら?私は貴方のその数値は確実に計れていないと思っているのだけど?」
「いえ、事実あれが機械による判定なので仰る通りかと存じます。」
「おーい、黒田嬢と俺との対応の差が激しいんだが~」
普段うるさいか純粋にそう言ってくれている人かの違いだな。
すると、正門前で大きな魔力波を感じ取った。
「ふざけないで!」
「ああ?ふざけてんのはお前だろうがよ!」
「大賢者になるっていうのそんなにダメなの?」
「親父が大賢者に相応しいのもあるが、なれねぇのに粋がってんじゃねーよ!賢者にすらなれるか分からねぇのによ!」
何と城戸京太と真凛による家族喧嘩が勃発していた。
「強力な魔力垂れ流しだから先生たちがすぐに駆け寄って止めてくれるだろう。ここはなにも刺激せずに任せるのが一番と判断した。」
「いや、冷静に分析してその冷酷な判断スゲーよ。」
僕の確実に被害を被らない完璧でかつ、何もしなければそうなる未来に何故かちゃちを付けてくる三上である。
だが、人間は予想に反した行動が好きなのだろうか。既に黒田さんが三上と僕を置いて、真凛側に加勢していた。
「何をつまらないことをグチグチと言っているのかしら?
なれないと知っての発言にお家の恥晒しとでも言いたいの?」
黒田・ラクーシャ・カーチャから氷のような冷たい魔力波が今度は放たれる。
「部外者は黙ってろ、これはウチの問題だ。」
「そう。確かにそうね・・・・でもね、人の夢を中傷する人、私大っ嫌いなの。」
「へぇ・・・・黒田家のはみ出し者にしてはいい魔力だな。お前を潰して一生の思い出にしてもいいと思うな。」
光の魔力も同時高まっていく。聖剣を宿した影響か、当時出会った頃よりも確実に増している。
「ねぇ、私もいるのよ?」
真凛も魔力を高めるも、例の龍神は現れない。
理由は明白である。魔力が足りないのではなく、コントロールが難しいのと龍神本人が気まぐれなのであろう。
そんなものはあの真凛の手のひらにある契約紋から拒否反応が出ているので分かる。一部改竄して出してやってもいいが、暴れられては厄介この上ない。
「三上、逝け。」
「OK!任せろ!・・・・っておい!?今しれっと言葉だから分らんが、漢字からして絶対に違う意味で「行け」って言ったろ!」
「まぁ、事実あんなのに巻き込まれたら死ぬのお前だからな。」
非道!という三上を無視しているが・・・・・ここだけのムカつく話をしよう。
天満と知らない闇魔法がこの辺一帯を隔離し、切り離している。
まるで、当人たちの問題だからこそ、首を突っ込まずに解決させようともしている意図を感じる。だが同時にもう一人のお陰でその真の意味も理解した。
「・・・・入学当初から気に食わない策士とは思っていはいたが、食えない人だよ。」
「大神・・・・?」
俺は3人のいる前方へ手のひらを向けた。
「ぶっ潰す!」
「凍えさせてあげる。」
「舐めないで!」
3人の魔法が最大限の威力で発動されようとした瞬間、それは静寂に変わった。
発動と同時に全ての魔法が分解され、3人が苦しそうに膝を着くのであった。そこには冷や汗に加えて、顔が非常に青ざめている。
「そこまでだ。ここでそんなドンパチしたら誰かが瀕死になる。」
3人の近くには呆然とする三上と今回これを引き起こしたであろう大神がいたのであった。