4 戦慄と驚嘆
一波乱を生んだ次の朝
「目を覚ますという行為そのものも数値化されているって、寝た気がしない。」
アラームというより、目が覚める時間を予め設定するという。もちろん緊急で起き上がる機能も計算済みである。
しかし、ロボットのスイッチON・OFFのような感じで人としてからいいのか?状態である。
しかし、睡眠を取るという行為にはこれが今の再現レベルの到達点である。
「疲れがないのも・・・しかし準備や着替えは自分でやれという。便利そうでそうでもない。」
大神は1人でに冷蔵庫から飲むゼリーを取り出しては、朝食代わりに摂取する。
そして身支度も同時に始めていく。例のメイドが退去後の食生活は簡単な食事以外を摂取していない。
食事のエネルギー量とカロリーなどといった面が数値化されているため、効率の良い食事の摂取を癖付けていることも関係している。
「さて。行くか・・・」
そんな利己的な生活を送ったとしても、彼の部屋は研究資料や検証結果の産物だらけという、綺麗とは程遠い状態であった。
登校する。この歩行速度、道なり、信号、魔力といった全てが数式と言った要素で構築されている。
正確には言うと、俺の目にはそう見える。
「よぉーーーー!」
三上の猛烈な挨拶につい横にサッと避けてしまった。その余波ですってんころりんの三上さん。
「お、お前なぁ・・無視してるのかと思ったらこの始末は酷いぜぇ〜・・」
「すまんな。聞こえてはいたが、考え事が先行しててな。」
いや知ってた。割と無視ってたが正解である。
「まあ、大神は神器の件やら悩みはあるからな。そう言われれば納得するもんもあるな。」
「そうか、助かる。」
「短っ!まあ、求めてねえけど。」
感情というのも今の僕にはただの瑣末な物に成り立つある。
野望が絡むとかなり変貌するほど自我が強いが、それ以外が希薄なっている。全てが演算処理されるせいか、感動要素が薄れていく。
涙も流すためには流す必要のある工程式を整えれば発言できる。しかし、それは心から泣いている訳ではない。
「行くか。」
「??イマイチ掴み所無いよな・・ま、それが良いんだけどよ!」
そもそもだ。目的もなく人は僕に関わらない。実を言うとだ。メイドさん在中の頃は人の中身を解析・分析するといった視点まで発達していなかった。
しかし、今は手に取るように分かる。
なんの思惑もなく普通に純粋にムカついたから興味本位で突っついたエルフさんこと、黒田さんぐらいである。
この三上はどうやら政府機関の『伊弉諾の劍』にいる未来千里眼の持ち主『伊奘冉の宿し子』千条渚という『伊弉諾劍の劍』にて長を務めている神と人の融合身体、またの名を7賢者が1人千条渚である。
千条渚についてはいずれだが、早速賢者様に目を付けられるとは。
この特別学校の学長たる城戸天満に紹介されたのもこれが関係しているから?先までの未来予測は数分程度しか読めないが、その先まで見えていたとしたら敢えて僕を学校の名の元で保護した。と見るべきなのか。
「ともあれ通い続けなければ分からない。か。」
「なんかよくブツブツ言うよな〜」
「そうだな。」
「肯定かよ。変なやつだな!」
ヘラヘラと笑っている。
何故か本心で関わってきているのでどうも千条に何か告げられたのであろうか、もしくは何か対策や魔法の行使なのか。
「あら?ご機嫌よう。」
黒田さんは確実に本心で出待ちしている。ある意味1番信用に値するエルフさんである。
しかし感情という不特定な感覚にはどうも見えない。どれだけ再演算処理しても反応がなく、しっくりこない。
ランダムのように答えが弾き出されており、どれが正解かが分からない。
しらみつぶしに回答を探る時間も無駄だと思い、半ば諦めてはいる。ただ三上よりは信頼には値する。
「おはようございます。本日もお日柄」
「ああ、そういうの要らないから。貴方は面白そうだから。」
「これはありがとうございます。」
「おはようございます!」
「・・・・ではまた。」
三上スルーブレイクってやつか。そう考えるとコイツもよく分からない。というのが今の位置付けである。
「今日は神器剪定だからな。早いうちに到着しておくか。」
「あ、そういや結局どうなのよ?」
「気になるか?まあ神器剪定してもらうが。」
「答えまでの回答が早い・・・勿体ぶるならもうちょいな」
やはりうるさいのでシャットアウトした。
そしてようやく学校へ辿り着く。昨日の波乱の影響か、視線が四方八方から飛び交っている。また覗き魔による噂の拡散によって無属性魔法であって支援系である。という内容で広まっている。
つまりこの噂の出所は
ガラッと大神は教室を開け、三上と共に入室する。視線はまたしても刺さるものの大神の視線は唯一他所見をしている雷属性のフード少女に視線だけを向けた。
彼女が使用している電子ネットワークは雷系統に属する物であり、電子ネットワーク領域を使った独自の管制システムであり、彼女その者がそのネットの母体である。
つまり相手のログを覗くことや他の電気系統を伝って確認する事ができる。またその伝達も可能とする。
デジタルにおける事実改変もできるため、国外から脱出なんてしたら間違いなく指名手配犯待ったなしである。
ただ魔法を使う時点で、いや使わなくても僕には見えてしまう。人そのものを数値化してしまうからこそ、避けてしまう。行動履歴、魔法行使といった情報までも。
過去ログも残っている記憶の数式から読み取って映像化することも出来る。
「どうしたよ?」
「いやなんでも無い。」
むしろありがたいな。
「よお・・・お前が何者か知らんが、余り調子に乗るなよ。」
「噂は一人歩きしていますが、流石にこれを自分では流さないかと。」
魔法師が自身の使っている魔法を自ら話すのは愚の骨頂である。ネタバレを自らするものである。
有名人でもある程度の実態は掴ませないように秘匿しているもの。僕のような例外を除くと、殆どの人はお互いなんの能力を使えるのか?といった詳しい内容は知らない。
「けっ。分かってんのならやっぱそうかよ。」
「仰る通りそういうことですね。」
城戸息子さんはどうもただのイカついヤンキーではなく、ちゃんと魔法師としての距離感を分かっていた。
カマをかけてきた。噂が噂であると証明するために。
彼なりの配慮であり、割とフード少女よりはまともなのかもしれない。
まあ先生に喧嘩売った事は忘れんが。
物語的な波乱は起きず、割とあっさりとことなきことを終える。
しかしもう1人の目線、城戸娘は未だ僕をジッと見つめている。何か探るような視線でもあり、興味本位で見ているようでもあった。
解析が常にかけられているので、僕の視点では探るというのはしてなさそう。魔力反応はなく表情にも険しさなどが見えない。
「やっぱ人気者は辛いよな〜。」
「何故君が?」
三上自体もよく分からん。今にして思えば引き篭もり人生が多く、人と会話する機会などかなり少ない。
ある種、現環境は僕にとって良い刺激になっている。そうプラスに捉えられなくもない。
「ささっと席に着くか・・・?」
「うん?どうしたよ。アレは・・・」
目の前に鳳凰寺先生と同じくらいの美少女がいた。僕はその美少女を何故か知っているようなそうで無いような。
ただ1つだけ確かな事がある。
昨日いませんでしたよね?
居たら見逃す筈がない。この綺麗で艶やかな日焼け肌と適度に施されたメイク、そしてツートンカラーの美しきショートボブヘアーに耳にはイヤリングとネックレスである。
ここまで素晴らしい女性を私は見逃さない。強いていうなら、ブレスレットや他にもアクセサリー付け足しても・・・おっと。理性が蒸発してた・・・
「おーい・・・なんか変なところで立ち止まるよな?」
「うるさい。」
「何か出会って2日にして、過去1冷たい気がするぞ!」
大神はしれっとその綺麗な女性からなるべく近い距離で着席する。敢えてである。
「博識なんだか、凄いんだかよく分からんやつだな。」
「まだ何もしてないぞ。」
「いやこっちの話だよ。」
三上もしれっと僕の隣に着席する。
こうして数分眺めていると、もう1人の美少女・・・鳳凰寺先生、マーシャ先生・・・・
一瞬大神含め全員に緊張感と静かさを起こす。人によっては命の危機、尊敬、畏怖、感動さまざまである。
「やあ諸君、私はここで学長を務めている城戸天満だ。よろしく頼む。
賢者だどーのと言われているが、ここでは一教師として接していくので気軽にね。」
早速現れた。この「魔技特」の設立者にして日本が誇る7賢者が1人城戸天満『天照の遣い』その人だ。
魔力の解析を自動で行うが、やはり人とは既に構造が違う。
年齢からは窺えない魔力量に加えて、精霊の存在である。そして次元を越えるその生物は自分に反応しかけている。
「ほほう・・・なかなか面白いのが今年も勢揃いしているね。」
存在が異質同士何か敏感になるところでもあるのだろう。
僕は軽い会釈だけで済ます。
「それじゃあ、私がきた理由だが・・・聞いてはいると思うが『神器』についてだ。
軽く説明すると、『神器』は精霊などの次元を超えた未知なる者たちからの贈り物だよ。
残念なことに私は『神器』を授けてはもらえなかったけど、代わりに『光の精霊アマテラス』との契約を果たすことができた。正確にはその幼体だったけどね。
まあ、その話はまた今度にしてだ。
今回は『神器』、つまりは君たちにとってのこれからの相棒であり、武器または長所だね。もちろん私のように精霊を授かる者もいるかもしれない。」
『神器』名前の通り、神の武器もしくは神の道具のことである。
時に戦闘系であり、支援系でありとさまざまな形を宿している。稀に物ではなく生物や霊体が現れて直接契約を交わすこともあるとされている。
しかし、その契約が起きることは非常に稀であり、まさに神のみぞ知る世界であった。
「今回私がきたということはその神器を授けるための起動『ティアリニィスの涙』を使う。
まあ、俗にいう私にしか動かさなくてね。」
単純な魔力量と使い方の熟知、そして契約における何かであろう。
その辺は推察できる。まだ物を見ていないから読み取れないが。ただ、僕の場合どうなるのか?
個人的には肌質や体質を変化させる時代改革に関係する『神器』であれば最高この上ない。
僕の目指す新時代にますます拍車がかかる。だから武器や生物系は要らない。絶対に。
「まあ気になるけどよ、大神も残念だよなぁ、ここではまだ分からないってさ。」
「まあ・・・それは確かに・・」
期待して良いのやら知らないが、ある種気にはなる。何が出るか?次元を超えて出てくる物など計算や演算が及ぶ領域ではない上、とても気になる。
「そうだね、早速だけど『真凜』、『京太』来なさい。」
呼ばれたのは城戸息子と娘である。
「ああ、ごめんね。単純にどんなものかを見て安全性を確かめてもらおうとね。
彼等はある程度は力があるから何かあっても大丈夫な領域だからね。担保としてだよ。」
自分の息子たちを生贄風に言える父親もなかなかだぞ。
彼等は興味なさそうに早くしろと言わんばかりであった。反抗期を迎えているのだろう。きっと。
「じゃあ、京太からだ。」
静かに京太は手の平を天満の前へ突き出す。自信が満ち溢れているその姿に人々はこれから起こる出来事に身構えるのであった。
天満はどこからか、大きなサファイア宝石を取り出しては教卓の前へ置いた。そして。
「『嗚呼、涙よ。その悲しみ、その哀しみ、その慈しみに憐れみを。彼にその一部を恵んであげたまえ。』」
涙にちなんだ式であった。そして僕がその聖遺物を視ると、一瞬だけ視界にノイズが走った。
だがそれを阻止しようと、自動でプログラミングされていく。そして更に解析と勝手に魔法式や数式をコピーし始めていく。
時としてこの力は自動性が強く、自分の手元を離れては勝手に動き出すケースが度々起こり得る。
コントロールこそ慣れてきたが、未だその全てを支配しきれている訳ではない。
その自動プログラミングや演算処理を行われると、僕自身の負担も半端なく起こる。
嗚咽、苛立ち、頭痛、眩暈、衝動と言ったありとあらゆる事象がぐちょぐちょに織り混ざっていく。
気絶せず忍耐がある理由だが、慣れた。これに尽きる。ただ気分は非常に最悪だ。
サファイアの青き清浄なる光が収まると同時に自動計算とコピーも終わっていった。
とても無駄に疲れたが、目の前の綺麗な光の聖剣が城戸京太の手には握られていた。
そう。またしても勝手に僕の能力が自動処理と解析を始めた。