3 過去の死と選択
あれは僕がそもそも僕になる前である。
丁度小学生に入りたての頃、ダンジョンという所に足を運んだことがキッカケである。
当時子供がダンジョンへ近付くこと、侵入することを法令で禁止していた。無理もない。ロクな魔法も使えない、使うための準備ができてない青二才にむざむざ死なれても困るからだ。
「だがダンジョンという謎の異世界は僕らが思う通りに誕生する訳ではない。
意図しない地域や場所、果てまたは夢の世界という特殊な環境下で起きるという、まさに神のいたずらに等しい行為であり、その予測は誰にもできないとかれる。
何故現れては消えるのか?現れて我等の経験と武器、知識、素材を与えるのか?発生するのに干渉される魔力とは?全てが謎である。
だが、分かることは人間の手で攻略が可能である。ということである。」
そして話僕が小学1年の成り立ての頃に戻る。ダンジョンは今住んでいた自室にて発生したのだ。
逃げる術などない。ただ飲み込まれた。発生と同時に。
行くための心準備や装備などの支度も愚か、ただそこに居たというだけで巻き込まれた。
そして僕は誰かに殺された訳でもなく。魔物と言った者たちに殺された訳ではない。
ダンジョン内の強烈な魔力の余波を間近で受けて死んでいた。普通はこんな現象はない。
でなければ、これはまるで棺桶のようなダンジョンであり、無意味に死を撒き散らすだけのダンジョンとなる。
だが確かに死んだ。そして目を覚ました。自室で。
夢を疑った。同時に己の身体が魔物になったのでは?とも疑った。しかし、異常ない。いや正確には異常は起きていた。
僕の視界は数字社会のように、言い方かを変えると2進数のような現象になっていた。身体含めた全てがそう見える。いやそうなっているようである。
この事象に吐き気、気分の悪化や眩暈を引き起こした。初見で慣れるほど強くも無く、良い魔力に恵まれた訳でもない。
数週間は動けずにいた。だが数週間後、身体が適応し、無事に融合を果たしたかの如く身体が動き出す。だが、その動きだしも全ての計算によって動かされているようである。
何もかもが数字の世界で彩られて行く。不思議にもコントロールする術すら数字で頭や身体の神経が僕に何かを伝えているようである。
その指示に従ってあらゆる調整と計算を弾き出して試験を繰り返した。
そして少しずつ、数字世界から色の認識、人の認識ぎできるようにアップデートとインストールを繰り返した。
行動から全て。そしてやがては攻撃からあらゆる能力の発現法に加えて解析、分析、分解、再生といったログを利用することも可能であり、不可能とされる部分も理解した。
そんなこんなを学校と家を行き来して過ごして今を迎えていた。
もちろん家庭的な話をすると、1人中学生になるまでに契約したお世話係さんがいた。黒髪ショートヘアーのメイドさんである。
なんでもメイド訓練校かなんかで僕のような孤児やワガママなバカ息子娘の実体訓練として務めてくるとか。
たまたまではあるが僕のは当たりであった。適当では無く、ただ忠実に任務と職務をこなしては帰宅する。という作業員さんの鏡である。
無言の日々と必要な確認のみを常に行なってくれており、小学生相手だからといって人を選ぶことはない。
だが僕が生まれ変わったその日以降は1日だけ変化があった。だが何があったかは聞かず、語らずである。
そんなありふれた日常が進んでいき、中学生の時点でお別れとなった。その時も悲しさや虚しさはない。
お互いになったそうであった。向こうは今頃20歳過ぎの成人である。
きっと立派なメイドさんとして職務をこなしているのだろう。
だからこそ自身の研究や検証の時間は何も困ることなく、能力の解析等を推し進められた。
無論直接的な戦闘データも欲しいため、空手などの格闘や武術にも精通していた。数字から得られるモーションと実際の感覚や距離感など。
それが中学を迎えてからはそれをダンジョンで試していた。
「1人でにあーでも無い。こうでも無いと言い続けたせいか、独り言がこうして癖になった。研究者としての性質なのか?
まあ、まだ研究なんてしてないが。」
そんなこんなで青春のせの文字もないただ時間を費やす日々を過ごしていき、先に語った人の肌質を変えるという時代を巻き起こすためにシフトチェンジしていった。
そして今僕はその過去をどうやって明かさないで話すかを考えながら、ミーシャ先生の待つ執務室へ向かっている。
死のダンジョン、別名棺桶といっておくか。あれの所在も伏せておくとしよう。聞けば割と面倒ごとになる。
黒田さんと三上が何故か後ろからついてきている。しかも無言の威圧と1人はビビり散らかしている。
「貴方、自分のこと知ってるんでしょ?マーシャ先生ほどでは無いけど、魔力の色や力の波長ぐらいは判断できる。
つまりそこの隣のムシとは違って貴方にはその波長は愚か、魔力すら感じられない。不気味なほど静かということ。」
「む、ムシですか・・」
「それに貴方は無能力者ではない。この学校にいるということ。そして魔法師の雰囲気、そして魔力を宿す匂いが・・・なんでも無い・・」
「何故言いかけて・・」
人前で匂いがって言われると勘違いするから、余計なツッコミはしないようにした。
そうこうしている内にたどり着く。
コンコンとノックをする。
「どうぞ〜〜っ!」
どっがしゃぁぁぁぁん!!と色々と物音立てる物音と後から鳳凰寺の爆笑声が扉の中から聞こえる。
「失礼します。」
「貴方ね!」
淡々とする僕の様子に戸惑っている黒田さんと三上である。こんな感じでマイペースなのも全てこの力のせいだということだ。
「よ、ようこそ〜・・」
本に埋もれている人をこの世で初めて見た。二次元のサンプルとしてはよくあるが、実在していたとは。
それに先生は奥で一杯引っ掛けてるという始末である。
「よぉ、さっき振りだなガキども。」
「色々と言いたいですが。」
大神はマーシャの周りを一度整理整頓を開始した。話を進める体制にするのに一手間かかってはしまったが、一旦ソファや机が空いたためひと段落する。
「ど、どうぞ〜。お、お茶は!?」
「いえ、お構いなく。」
「じ、自分も!」
「結構です。」
「あ、はい・・・」
なんで話す前からこんなにも情緒が激しいのやら。というより、勝手についてきたこいつらが何故そんな台詞をしれっと吐いているのだろうか。
「へへっ!全員に断られてやがらぁ!」
「紅は黙ってて!」
この2人は旧知の中なのか、お互いどこか信頼しているようである。
「んん!で、では・・・いいんですか?」
隣にいる両サイドの2人を見て尋ねてくる。
無論問題ない。そんな些細な話は曲解させる。人の耳には音信号による信号から内容をキャッチする。
そして魔言もそれに乗せて魔力を流すため、回避不可能に近い攻撃などを行うことができる。
これから彼女が発する発言の信号を変えて、この場にいる者また近くで息を潜めている者たちに伝達する。
伝達する仕組みは敢えて別々にする。
情報は不正確なほど得することが多い。
「そ、そうですか・・では、大神君の魔法ですが。
無属性魔法という色の無いという意味でもありますが、そもそもそんな物は書物にしか記載されておらず、存在自体は確認されていますが、実態が掴めない魔法となっている。いいですね?」
マーシャ先生の言う通り、無属性魔法というのは識別が無く、その魔法行使すら未だ文献以外に見た者は居ないとされる。
元々魔法や属性は生まれ持った先天性できまる。つまりは生まれた瞬間に炎なら炎、雷なら雷と遺伝も関係するが決まる。魔力を持たない家系から、魔力が生まれる。と言うこともある。
だが実際に多いとされるのが遺伝的な前者である。
無属性はその後者である魔力無き者から魔法師が誕生するより更に可能性が薄い者である。ということ。
というより存在すらしない、ただの誰かがイタズラに流した噂では無いか?と言われるレベルに。
ただあの現場で死んだから分かる。
急に意識が途切れたと思ったらこの状態に加えて、いつのまにか蘇生されていると思えば、知らない属性に切り替えられている。
勝手に拉致監禁された上、人体改造を受けたといっても差し支えない。
そんな状況を説明する訳にもいかない。荒れること間違いなし。
時代を変えるためには時として秘匿すべき事柄もある。ということだ。
「仰る通り、その存在は類を見ません。」
「ええ・・・・ただこの仕事を何年もやっているので確証はありませんが、大神君は無属性・・・であってそうでは無い。ですよね?」
「「!!」」
三上と黒田さんは驚いている。ちなみにこの部分は今し方コントロールした。放たれる光信号の一部を弄って、鳳凰寺先生、三上、黒田の3人には俺が無属性の中でも生産職であると認識している。
潜んでいたり、聞き耳を立てている奴等には無属性の中でも生活魔法や公共に特化している国内における需要が高い魔法という情報にすり替えた。
本来は全く違う。だが間違ってもいない。どちらにもなれる力だからこそ嘘でも無く本当でも無い。
この『演算領域』(仮)本来の力の使い方としてあるべき姿はおおよそ予想は付いている。
「ええ、流石はかの名高い『占地術』ですね。ご明察通りです。」
「そ、そんな便利なのかよ!」
「少しガッカリはしたけど、確かにその力は大変希少価値のあるものですね。」
「よく知らねえが、戦闘しなくて飯食えるなら特だわな。」
三者三様意見が違うが、書いている内容は同じである。疑いのある者、または疑念を抱く者もいるが、誤解や変につっつく必要もない。
数字の世界になったら、相手の思考パターンや思っている事考えている事も分かる。
気分は非常に悪くなるが、前よりはコントロールできるようになったのと慣れてきた。
「ですが、何にせよ無属性であることはなるべく公言しない方がいいかもです。色々と面倒には巻き込まれる訳ですから。」
「先生の仰る通り、そうさせていただきます。」
「何かあった時は先生か、紅を頼って下さいね!」
割と先生と慕ったからか、気分が非常に良さそうだ。
「あ?まあ、生徒守るのは仕事だからな。任せとけって。できるだけ暴れられるようにしてからこいよ。」
依頼の請負方が悪質過ぎる。
「では、今日はこれで失礼してもいいでしょうか?このままここにいても何か変わる訳でもないですし。」
「あ、はい!ただ明日の神器剪定はどうしましょう?」
「ああ、んなのあったか・・・コイツの神器は見らんねえしな。だからよ、無属性ってことにしてなんか適当にでっち上げてくれや。
例えば特殊過ぎて呼べねえ?とか。」
鳳凰寺先生はあいも変わらず大雑把な上、適当ですね。最高に美し過ぎて困ってしまう。エクセレントな理由だ。それで行こう。そういう風に誘導して印象操作しよう。このために力はあります。
「いえ・・・逆に注目浴びるので普通に呼べない。が妥当なところでは・・?」
なん!だと・・・・・いや、そうなんだけど。理性と本能がガガガが。
大神の特徴として、こだわりが強い分こだわりが前面でら場合理性が蒸発している。しかし、特異体質のせいか理性と本能が入り乱れる瞬間がある。
しかし優先されるべき判断は。
「いえ、鳳凰寺先生の理由が1番いいと思われます。返って絡まれるケースもしばしばありますが、それは長く絡まれるのか?それとも一時の話なのかによります。
特殊なケースで避けている。これは噂などによっては近寄らせないというケースを生み出しやすく、僕にとってはこれ以上にないぐらいベストな解答かと思います。」
「お、おい。なに饒舌になってんだ?」
三上にツッコミを入れられるとは。だがやや不自然だったかな。まあいい。
「なんか急に持ち上げられたが、ソイツがいいってんだ。いいだろうよ。な?」
「はい・・・本人の意思を尊重はしますが。知りませんよ。それで落とし所としてみます。」
「ありがとうございます。」
神器の存在をうっかり忘れていた。
そう、この学校に所属できると神器を確実に授けて貰えるという伝承がある。
原因はここにある聖遺物『ティアリニィスの涙』というサファイアのような色をした巨大な宝石にして、次元の扉を司ると言われており、異次元から魔法師に合わせた神器という名の専用武器を授けてくれる。
聖遺物のランクによっては恩恵をもたらしてくれる物から割と運要素や魔法力と言った差で効果をもたらしてくれたり、くれなかったりとする。
『ティアリニィスの涙』はそんな不確定要素を度外視した上で効力を発揮する。
それを発見したとされるのが、あの城戸天満が発見したとされる。当人の力量もあるが、それを補う運要素という正に今を生きる時の人である。