2 種族と魔法社会
「大神・・聞かないな?どこかの家名か?それとも没落か?」
「とんでもない。一般人です。
こうやってお話しさせていただいている事が大変恐縮なほどです。」
数秒の静寂が流れる。賢者の息子と娘も大人しくその場を見守る。
魔法の行使はない。だが何か人の肌を刺激するようなピリピリ感が漂う。
「面白い。ジロジロと見ていた事を不問としよう。また貴方の実力が見れる事を期待させていただきます。
私を失望させないでください。」
「ご期待に添えるかは不明ですが、かしこまりました。善処させていただきます。」
ようやく緊張感のあるやり取りが一幕降りていく。
「スゲェな・・どこでそんな対応覚えてんだよ。」
三上からコソコソと話しかけているので筆談で応じてやることに。
『彼女は魔力量と質によってはかなりの高レベル、つまり下にいる俺たちの中身はスケスケだ。
つまり今お前が言ったセリフすらな。』
「!!」
驚き過ぎて再度彼女のいる方向を確認してしまったアホである。またしても氷の眼差しが啓介を貫いていた。
だが先ほどとは違い、興味なさそうな前へと向き直すのであった。
他にも多種族のクラスメイトに高レベルな魔法師、技術者らしき者と風格のある面々が集っている。
エルフは中でも魔法という部分においてはかなりの有力者である。だが獣人は身体能力系統に優れており、エルフとは違った形で需要性を生み出す。
ドワーフは戦闘面はからっきしだが、モノづくりの才はどのドワーフも優れており、ドワーフとして誕生すれば出世コース間違いなしとされている。
ある意味需要性を見出しにくくなっているのが、僕ら人間であろう。ジグザグのようなアンバランスに加え、能力の確実性が薄いこと。さらには寿命の短さである。
今まで同族で差別していたが、今度はこちら側が差別される側に回りかけているという。
しかし、未だその関係も不安定を極めており、エルフを稼働力源のような資源奴隷と見做したりと人間また種族を利用価値のある物としか捉えていない節がある。
「おーーし、集まったか野郎ども〜。」
そこには絶世の美女が現れた。
ポニーテールショートの赤い髪にオラオラ系のガテン系のジャージ姿である。
胸はそれなりに大きく、大人ながらのセクシーさも兼ね添えている。そんな胸ポケットにはタバコが入っている。
風紀的な問題は度外視である。
「凄いのがきたな・・」
「ああ、とても素晴らしい。」
「??ど、どうした?」
「なに、気にするな。」
つい興奮が止まらん。あれは自然なのか?それともという点はあるが、どちらにせよ僕にとっては運命である。このトキメキは初だな。
まさかこの時代にこのような世界一美しいとされる存在に出会えるとは。さっきのエルフの件がすっ飛んだ。
「おーーし・・・ほほう?既に魔力全開で挑発してきやがるとは面白え・・」
そんな視線の先には城戸息子こと兄か弟か知らんやつ。何故か娘の方とは席が離れている。その特徴は学長を思い出す白髪にいかついピアスと腕輪などの装飾品、そして指輪には魔力が付与されている。
ただのオラオラではなく、それなりに場数を踏んできたやつの風格である。
だがそこには明確に自分の強さを示したい。という魔力の出し方である。
エルフはダダ漏れだが、彼は魔力の発動と抑えがきかせられる。つまり自在に操っていると言っても過言ではない。
この年でそのレベルは非常に凄い。
「力を見せつけてやりたいってか?え?」
何故か美しきレディがやる気になっている。仕方ない。あまり争いは好みではないが美しき花を守るのも時代の開拓者となる僕の宿命だ。
動くその一瞬に起きた。
「『その場を収めなさい。』」
「!?」
「・・・・」
2人の間に2人の女性が現れた。
1人は眼鏡をかけた完全にもバカ真面目なスレンダー少女、彼女の言葉には魔力が帯びていた。城戸息子が一瞬だけ怪訝そうな表情をしたのもそれが原因だろう。
もう1人はフードの背が低い少女であり、何故か胸がでかいという摩訶不思議な体型である。
ヘラヘラとしているその表情は何を考えているかわからない。
「おい。」
「城戸君、貴方の強さは分かってる。ただここで暴れられても困るの。これからここで問題になるのは避けさせてもらいたいのよ。」
堂々とした良い振る舞いに注目を集める。
「あー、それと変なことすると今これ全国生中継してるんだよね〜。あ、もちろん賢者様にもね〜。」
くひひとフード少女が城戸息子の言葉を遮るように話す。そんな鋭い目付きで少女たちを睨みつけるも、チッと舌打ちをして抑え込んだ。
レディははぁ~と頭をボリボリとかいてパン!っと手拍子で仕切り直しをした。
「うっし!そんじゃはじめんぞー。最初のホームルームからよぉ。」
先生が指パッチンで黒板を起動させて、各カリキュラムと現状を映し出した。
「先ずは現状だが、ここでは属性の測定とか魔力量を測ってもらうぞ。理由は今後の方針を決めやすいからだ。
もちろん戦いに必要なカリキュラムに技術面もある。両方どちらに進むかはお前ら次第ってことだ。
ま、当たり前だが向き不向きがある。無理にその道を進まずともここに入れれば確実に出世できるって訳だ。
間違えないよう後悔ない道を進めよぉ。」
ざっくりし過ぎたが、そこが最高に美しい。おっと、いかんいかん。
うむ、簡単過ぎたから軽い解説をするとだ、例えば雷の属性は発電や公共の施設に対応する技術家を目指すのが良いとされる。これは生活や動力としてのエネルギーを生み出す側と開発する側の両方が取れるからだ。
しかも今現在はかなり手軽にアプリ化されているので、当然自分のスマートフォンからカリキュラムなどの選択が可能である。
必修は選ぶ余地ないが、後は選択式という形になっている。
「けどよ、これってあれよな?今日の検査次第ってことになるよな。」
「もっともだな。」
三上の言ってる通り、今日でここでの生活や身の振り方が決まると言っても過言ではない。
最もあの真面目委員長タイプの子は「魔言」少なからず闇属性という稀な属性であろう。
隣の背が小さいフードの子は電子系から雷属性と予測できる。
この2人だけでもそうだが、既に将来を期待されているというのが窺える。城戸2人組は光属性だが、娘の方が何かが入り乱れているように感じる。
直視できれば判明するが、下手に不幸を買いたくない。
遺伝の関係から父親の能力は受け継いでいる。と言っても間違いないので、別の力が判明したところでその期待性は全く変わらない。
大神は前方の右窓側にいる青年をチラッと見る。
そしてすぐさま視線を前の先生へと移し替えた。
「納得したかどうかは知らねえが、私の名前は『鳳凰寺紅』だ。夜露四苦なー。」
『鳳凰寺』の性は非常に有名である。不死鳥、またの名を『火の鳥フェニックス』の一族である。
彼女はその中でも強力な生命力と大火力が売りとされている「火炎の暴れ怪鳥」と力技で有名な通り名である。
そもそも不死に近い性質な上、若く保たれる美貌に力というまさに鳳凰の名に恥じない家系である。
(まるでその美しさと気品さを表しているようだ。素晴らしい。恐らくその肌質から自然のもので生まれ育ったものであり、後天的なものではない。
まさに天然の原石ということか・・・僕の時代を築くための到達点の一つでもあるな。)
「お前何先生を見つめてんだよ。殺されるぞ?」
よろしい。本望だ。と言いたいが、時代の開拓者になる目的がある以上まだ早い。が・・・
「つー訳で早速検査すっから名前呼んだら前に来いよー。」
「ちょっ!ちょっ!鳳凰寺先生!」
すると教室の入り口から背がかなり低いピンク髪ロングの女性がいきなり入り込んできた。
「あ?ああ、悪い悪い。紹介し忘れてたわ。
コイツが今回測定する土属性の魔法師『占地術』のミーシャだ。よろしくな。」
「雑ですか!?」
「いいだろうがよぉ・・・」
鳳凰寺先生はめんどくさそうに気怠さにしているが、ミーシャ先生は元気いっぱいのわんぱくさである。
『占地術』人間だが、地の母神『マルテリシア』の加護を引き継いでいるとされる。
土属性の中でも地脈を使った人の能力や存在を感知すると言った戦闘向きではないものの、その精度や先見性は非常に有力視されている。
「はあ・・・もういいです。
はい!じゃあ名前順に呼びますので!」
こうして検査がスタートしていく。僕の名前前から数えればあっという間であり、直ぐにその出番を迎える。
「お、大神君〜。」
名前を呼ばれた大神は学生服の身だしなみを一度整えてから立ち上がる。
彼に緊張感は見えない。隣の三上啓介が何故か緊張している。はたまたは空気に緊張感が生まれたからか。
エルフとの一悶着から起きた騒動である程度注目を浴びていた彼に自然と視線が集まるのも無理はない。
1番下の壇上まで向かい、ミーシャの前へと立つ。
「で、では、検査するので動かないで下さい・・ね?」
何故上目遣いなのか?いや僕との身長差ならそうなるのが自然なのか。
「分かりました。よろしくお願いします。」
鳳凰寺先生は早く終わらないかなと気怠そうに待機している。それまた美しい。
「『大地なる母からその地脈の流れに沿い、その真実を写し出したまえ。』」
魔法は詠唱が必要とされている。だが詠唱の形は人それぞれであり、効力が単調なものであればあるほどその詠唱も短い。
そして、効力が強ければ強い。または高性能であればあるほどその詠唱も長くこだわったものとなる。
変な話、火を付けたいなら『火よ。』と唱えればライターのようなものが発言する。このレベルなら属性云々関係ない。
ただ、火炎のような攻撃系統になるとそれなりの詠唱が必須となる。
今回のミーシャ先生の詠唱はかなり独特なものであるが、構成からして魔力の練り具合、詠唱の言葉から弾き出される効力の調整のバランスが非常に上手く作られている。
伊達に何度も検査をし、この学園で唯一請け負っている人なだけある。
「・・・・・・・・・」
「?・・おう、もう検査出てんだろ?」
「あ、え・・・あ、はい・・ただ・・・」
「あ?」
鳳凰寺先生が疑問を抱きつつ、僕とミーシャをそれぞれに視線を移す。
「え、えーと・・・彼の属性・・いえ、属性が無く・・そのー・・無属性という診断になりました・・・ですね?」
「・・・なるほど、いえ先生がそうならきっとそうでしょう。ありがとうございます。」
「ちょっと待ちなさい!どういうことですか!?」
1番に声を荒げたのが、まさかのエルフ嬢であった。他も言いたげにしていたが、先に言われたせいか大人しく引き退っていく。
「貴女は?」
「!・・失礼しました。私は黒田・ラクーシャ・カーチャと言います。
先ほどは荒げてしまい申し訳ありません。ですが、お答えしていただければと存じます。」
なんか外個人ハーフみたいな名前してることに驚いた。
「黒田さんですか、家疑問は最もですね。かの有名なエルフ族の魔法師の一門にして、今世紀最大の素質を持ったとされる黒田さんからしても納得がいかないこと。
これは仰る通りです。ですが、私もそれなりに何年も検査してきましたが、この結果に変わりはありませんでした。むしろ、変わらないどころかこれ以上何もないためこれしか回答ができませんでした。」
「なっ!?・・・分かりました。ミーシャ先生のお名前は私でも理解しております。
一先ずはその先生の言い分で抑えるとさせていただきます。」
えらく大人しく引き退るエルフの黒田である。名前だけ黒いのなんでなの?
「すいません。取り乱してしまい、この後お話がありますので私の研究室まで来ていただけませんか?」
「分かりました。異論はありません。」
大人しく大神も席まで戻って行く。
無属性魔法というのは存在せず、あるのは炎、水、雷といった属性に加えて光と闇という色分けが判別できるものとなっている。
しかし、無属性というのは存在せず、あるのは無能力者という魔力を持たない者たちである。
この世界における無能力者はドロップアウトという奴隷以下の烙印を押される。
「おい!お前どうなってんのよ!」
ヒソヒソと早速三上が問いかけ始めてきた。
コイツのことは無視するとして、実際僕の魔法というのか、魔力というのか、どちらにせよ異質なのは間違いない。
その原因はそもそもこの世に生まれ落ち、そしてあのダンジョンで死んだことで起きてしまった出来事だからである。
波乱生んだこの特別学校での検査をキッカケに激しく物語は進んでいく。