19 研究者と実験者
「よもや裏口から現れるとはね。」
「それは普通に用意していたお前が悪い。」
「それは失礼した。」
正面を向いていた椅子をこちらへ反転させる。
そこには20代ぐらいの若さであろう見た目にスーツを着こなす男性であった。黒髪の短さと日本人にある特徴な黒目はそのまま。陰陽師や呪術師とは思えない社会人的な見た目であった。
「ここはね、常にいつか戦場になると予測し、あらゆる術式とあらゆる耐性を構築し構成された私専用のフィールドでね。呪符も勿論だが、結界も施している。だからここは君たちにとっては不利となる檻という訳だ。」
「魔五斗様、ここは私が是非・・・」
「いや面倒だ。もとより御約束のバトル系で死闘を繰り広げるなんて、僕の柄じゃない。ナンセンスにもほどがある。」
とうにこの部屋含めて解析も分解処置も既に完了している。
「!!?」
この部屋にあったあらゆる術や力を全て『分解』した。
呪術や呪力の仕組みをこの部屋にくるまで学習と理解、対処法といったあらゆる角度を脳内のシステムで素早く対応した。
その結果面白いことが分かった。
「そもそも仕込みや相手の出所を察知、相手に合わせてそれなりに対策などを取る戦法として培われている陰陽・・・と言えばいいかな。
弱点は即興性と柔軟力、あとは使い手次第かな。ただ、相手を知り、己を知るということは必勝法も会得することが出来る。今の現代魔法にはない、古来における特殊な技法という訳だ。」
しかしそれはあくまで、僕のような存在以外での話だ。それにこの呪力の源となるのは感情と呪いだ。
思いは魔力にも関係するが、それ以外は特段魔力は干渉しない。ただ人の念といった部分にいたく感心するのがこの呪力や陰陽のポイント。それらを簡単に踏みにじるのが我々の異次元の存在か。彼は魅入られたのであろう。この次元の、この世界の先遣隊として。
「もう人ですらない君に言葉は要らないかな。」
先生は恐らくあのフロアから抜け出せない。なら彼を送り届けてあげようじゃないか?
「お、お前はまさかっ!あの」
床を今度は分解する。正確には組織構造そのものを粒子レベルへと変換し、塵にした。
「ぬぁ!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
スーツの男性はそのまま落ちるも僕は沙月の咄嗟に放った鎖の上に立っている。沙月も壁上に張り巡らされた鎖の上へ着地する。
「よろしいのでしょうか?」
「聞きたいことはもう既に聞いた。」
「かしこまりました。」
「簡単な話、彼の呪力・・・陰陽は与えられたものであり、彼という存在は既に死んでいたも同然だ。端末として機能していただけに、本物の異次元の存在は今こちらへ向かっている最中だ。
面倒だからこそ、現れるまでここでのんびりと待つとしよう。」
異次元の存在、魔力ではなく、『人という感情をトリガーにおぞましいモノへ変化させる能力』メタモルフォーゼである。端末の彼の身元は動物のサルであった。
「えぐいことを平気でやるな。」
今のうちに潰しておくか。こいつが世の中に潜んでいるだけで、我が悲願の障害となるのは間違いない。消せるうちに消す。
「とは言え、ここを落下するのに衝撃計算等が・・・・」
あまり高いところからのダイビング経験がないためか、理論上行けるとしても行きたくない。という感想である。
「んだぁ?」
鳳凰寺は突如空洞となった上から一人の男が降り立った。正確には落っこちてきた。衝撃は咄嗟の判断で男の呪力で緩和し、なんとか一命を取り留めていたが満身創痍である。
「てめぇ・・・・野郎かっ!」
彼女の怒りに呼応したかのように魔力が周囲へと発散される。その色は炎属性のソレであり、触れたものの魔力度の有無によっては身を焦がすほど情熱的な威力である。
呪力で身を守ることなどできない彼には火傷を伴う身を焦がす音が鳴り響く。
「ぐぅぅぅぅぅぁああああああああ!あづい!」
「熱いだぁ!?なめてんじゃねーぞ!!私の・・・・あたしの大事な奴らは!?」
だがその魔法に沈静化される。
「うむ、なるほど。現世の民はこのように魔力を身に付け、属性?といったものを宿し、己の糧とする。彼らで改造をしてきたが、どうして魔力が宿らないのか不明であったが、素体に問題があったのか。それともそもそも魔力という質が特徴的過ぎてダメなのか・・・・
答えは後者と見た。」
シルクハットを被り、モノクロスーツに身を包むある一人の渋い男性がいつの間にか、スーツの男と鳳凰寺の間へと割り込んでいた。
そんな鳳凰寺には不思議とこの冷徹でかつ観察するような悍ましい視線に覚えがあった。
「スカしたフリしてんじゃねえぇぞ!」
渾身の炎のバットが目の前の男は容赦なく振り下ろされる。そしてそのまま直撃し、周囲へ衝撃と火焔を撒き散らす。
「・・・・・がづつっ!」
しかし炎の中から1つの手が伸び、鳳凰寺の首を掴む。その力強さに息が止まっていく。
「人間とはここまで謎の力を有している存在だというのに、ちょっとの改造で心や生き物としての価値を失ってしまう。
だから私は考えたのだよ。人は感情による昂りと憤りを感じ、長い時を経て生き続けるとどうなるのか?そしてその行き着く先を・・・今からその集大成が見れるのだ。とてもワクワクする。」
「っっっんなっぁ!」
鳳凰寺は首を掴まれながらも必死の力を振り絞り、炎を纏う蹴りを入れ込む。
しかし、煙幕から表した素顔は綺麗そのままであり、全くの無傷であった。だが彼は手を離した。
「っっ!ぐぁ!」
落ちた衝撃もあり一瞬うずくまるも、すぐさま立て直して、後方は退がっていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・チッ。」
「いいね。グッドだ。そこまで剥き出しで私を前に戦意を落とさないのも最高だ。意図的に君を生かしておいて正解だ。」
「意図的に?・・・ざけろ。・・・ぶっ殺す!」
炎の魔力反応が更に強くなっていく。
「死ねぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁ!!」
彼女の渾身の炎が男を包み込む、永遠にその業火で焼き尽くす牢獄のように燃え盛る。
「ぬるい。ぬるいが、これは面白い。
感情によって魔力が作用されている。我々の世界にはない代物だ。」
パッチん!と指の音が鳴るのと同時に炎が離散していく。
「では実験といこうか?」
「!!?なっ!がぁ!」
彼女体内で何がが蠢く。自分じゃない何かが身体にいるかのような。
ボコボコと何かへ変わろうとしているように変形が始まろうとする。
「ぐぎぃ!がぁぁぁ!」
「いいぞぉ!始まるか!私の実験が!!さぁ!さぁ!さぐぎゃあ!」
彼の顔に上から蹴りが入れられたせいか、話を最後まで話さずにそのまま蹴り飛ばされてしまう。
「うるさい。」
1人の研究者が地上へと降り立つ。
「魔五斗様!いきなりお一人で、危険です!」
沙月が鎖を紐がわりに続けて降りた。
「邪魔!」
スーツの男の存在そのものを分解し、この世から存在ごと抹消させた。
このまま生きていても自覚なしに害を与えてしまう存在に成り果てるのは明白だ。ならばせめても。
「お見事です。」
「うぐぅぅ!ど、ぉじで!」
「・・・・・・」
解析完了
「!!」
変形仕掛けていた先生の身体をコンマ数秒で治す。僕の先生になんてことすんだあのハゲ。おっと、研究者にあるまじき発言だった。
「んで・・・来たんだよ・・・なんも」
涙が出ていた。
無力な自分と仲間の思いも背負えなかった無念、この両方が彼女を苦しめている。
「おやおや・・・」
「これはどうも。」
2人の異次元が初めて会合する。この現世界にとっても初である。そして初めて次元の侵攻の第一戦闘となった。
「同胞よ。何故私の前に?」
「気色の悪いお前と同胞とは、俺も末というやつだな。この人は僕のだからお前にはやらん。失せろ。」
「ほほう?実験体を横取りされかけていて、はいそうですか。とはいかないなぇ。」
2人に魔力は感じられない。だが不思議と見えない何かが膨れ上がっているようであった。
「だが変化した身体は止まらんぞ?」
「お前の手付として呪力が練り込まれてるからだろ?」
「ほほう。気付きましたかね。」
彼の周囲と結界ないな高密度かつ圧縮された呪力が空気中を彷徨っていた。そして息をすると体内は蓄積する。
ただそれだけなら魔力で相殺できるが、そうじゃない。感情という人間に対するトリガーを組み込まれている。それが激情であればあるほど効果覿面である。
「やはり僕のような奴らには感情というのが欠落しているのか?いや欠落ではなく、1点のみ与えられ、後は喪失しているのであろうか。」
「おや?君は感情に興味があるのかな?私は人体と魔法に興味があるようだ。どうやら選ばれた者にはそれぞれ何がが欠落し、何かを求めるように設計されているようだ。
だからこそ興味が湧かないかな!?」
「湧かない訳ではない。言ってることは多分そうであろう。ただ何故か1つの確かな感情は人を辞めた時から残っている。」
・・・・・そう。
褐色肌は最高であり、男女問わず至高なものであり、その価値は時代を作れるほどである。
つまり、これを害そうとする者は全て僕の敵である。
「ほう・・・より人間に近いようだな?」
「まあな。」
2人の間会話が終わる。最早言葉はいらない。研究者ではあるものの、客観的に見ると1人怪物である。
「「!!」」
2人の間に見えないが、ガラスが割れているような音と衝撃が鳴り響く。
2人の力がそれぞれ相殺し合っている。大神は分解、それに対して相手は人体を変化させる圧縮した呪力を大神に対して撃ち放つ。
正に見えない激しい戦闘が繰り広げられている。
「「キリがない(ですねえ!)」」
お互いが示し合わせたかのように直接攻撃へシフトチェンジする。
「っ!」
だが近接戦闘は大神が有利である。システムに組み合わされたあらゆる戦いの技法を再現しているのに対して、ただの実験家である相手からすれば不利になるのは明白であった。
「だがネ!」
すると僕を捉えようとした腕がタコのような触手へ分裂し、四方八方から襲ってくる。すぐさま全触手の分解を行い、他警戒をすべく後へ退がった。
「いい予測だねぇ!」
「喋り方が変わってるぞ。実験者の愉悦精神が消えているぞ?」
「何を言うか!?これが実験の真髄だよ!」
常人の身体からバキボキと変形し、異形ならざる形へと変貌する。目も怪物のようにサードアイが開いている。
キメラという表現が正しいのかもしれない。ただその歪さはそこだけではない。
「それ他の人間の細胞と遺伝子を改良して組み込んでるだろ?」
「ほほう!流石は研究者です!よく見てますねぇー。貴方こちら側の才能ありますよ?」
うねうねとしなるタコのような腕に、斬れ味の鋭そうな尻尾、そして針のような爪をした手と鱗、背中には翼を生やしている。
「痛々しいな。」
「何をいいますやら・・・彼等の血と涙と汗の結晶!」
実験で捕らえて改造した奴等の有能な部位だけを自分に抽出したというところだろう。
ま、僕と似たようなことやった訳だし・・・ここまでのことはしないけど。
「人の美しさを奪い、変質させるその悍ましい・・なんという悪行にして下劣極まりない。」
「ほほう?後ろの彼女の姿もなかなかではないかな?」
「っ!」
沙月、風見はそもそもこの局面においては僕の遺伝レベルでの再構成と僕の開発を人の手に渡らせないようプロテクトなどをかけている。
だが先生は違う。先生は自然体そのままの美しさ。神がいるのならば偶然この世に生み出された女神そのものである。つまり僕らが手をかけられる存在でもある。
「魔五斗様、ここは私が介錯を。」
「・・・下がっていなさい。」
「かしこまりました。」
先生は異形の姿、鬼の妖怪に変化しつつある。ファンタジーのような美しさではなく、無理矢理変形させられ歪に形取られた姿へと。
「ぶっ、こ、ろふ!・・がぁぁぁぁあぁ!」
怨念だけが残って形作られている。アレでは敵味方の区別が付かない。なんで酷い。
「このように人類も美しくあるべきとは思いませんかね?私は格あるべきとはこうであると思うのです。」
くっフフフフと愉快そうに微笑む。
「実験家のお前とは分かり合えないであろう。人の祖は形作られた芸術と努力によって変わる素晴らしさが醍醐味だ。
システムによって支配された僕ですら唯一残っている確かな感情、好きなものはどのような状態でも好きであるということ。そして偶然僕には救う手段が残されている。」
「何を」
「ッッッッっ!!」
変わり果てた姿の先生が僕へ目掛けて神器を振り下ろす。
ドガッと、珍しく大神の身体から鈍い音が鳴り響く。普段なら受けない攻撃を敢えて受けていた。
身体を強化したとはいえ、その身体は研究者そのもの。神器を受け止められるほど強靭なものではない。内出血、複雑骨折をしてしまい、受け止めはしたものの腕がひしゃげでしまう。
「避ければいいでしょうに。それとも優しさ?というやつですかね?」
「優しさ?感情そのものはとうに枯れてる。怒りや後悔すら全て消化処理される。
ただ好きなものや自分の管轄をいじられるのは好きでなくてね。そうだろ?自分のイジったものがまさか人の手によって最高傑作に塗り変わるなんてさ?」
「ご、ろぜ!」
先生の呻き声から微かに聞こえた。
「いえ、残念ながら貴女は僕のものになります。」
コード解析完了・・・・『構築』開始します。魔法式から改訂・・・・再生コード発行・・・遺伝子改変・・組織改築・・再構成・・生成
歪な形が少しずつ元の姿へと変化が起きる。スクスクと元の身体へと治っていく。
「構成完了・・コンマ数秒か。」
「お見事です。」
弱々しくへたりと倒れかける先生を支える。素肌全開で僕が全開になるので白衣を羽織らせる。
この方のためならこの一張羅いくらでも貸してしんぜよう。
「沙月」
「かしこまりました。」
いつもの悪態はなく、ただ淡々とメイドとして主君の意見に顔色一つ変えずに務める。
「なっ・・・なんというっ!最悪なことを!」
「どうした?呪力自体効かないから驚いたのか?
簡単な話だ。効かなように僕が改変させたからね。それにこの辺の呪力自体も受け付けないようにプロテクトをかけた。」
「研究者の癖して支配者気取りかっ!?研究者は研究者らしく結果で崇められるべきだ!」
「結果ね・・・まあ耳が痛い話、少なからず信じてくれる大切な奴等は集まってるよ。」
「なるほど・・・貴様さては我々の原理と概念を理解していないな?」
「・・・・・正確にはしてない訳じゃない。ただ分からない。」
「そうか。お前そもそも力を制御しきれていない上、支配されているな。
この力は選ばれた者のみ直接その恩恵を与えられる。だがそれは精神を蝕み、自我を崩壊させるほどの苦しみと悲痛に合い、最後に狂人に至ったもののみこの力を手にし、この世界と異次元を変える方ができる。」
「まるでどこかの神様が選んだ上で、試練を与えているような曖昧な言い方だな。」
「曖昧なのは否定せん。だがこの力は神ではない。逆だ。神へ仇名した者たちが持った権能だと言うこと。
そしてその力はいずれも強大にして悪質と言われている。」
悪質なのは理解している。何故自分なのか?何故この世界でそんな事を?何故が山積するばかりで一向に解答の糸口が見えない。
神様とやらが実在しているの対して、神様に立ち向かう者もいたという。この世の理から外れた者、異次元の産物、ここに来た甲斐があった。偶然ではなく、これも導きというやつなのか?そうとは思えない作為性が匂う。
「この状況とお前との巡り合わせもきっと俺を選んだ奴の意図的と見るべきが正解か。」
「ほほう!それはそれで面白い!私が実験の素晴らしさをお教えする事ができるのだから!!」
再び戦いが始まる。
直した先生は沙月に預けると同時に複数の触手が僕を捕らえた。
だが触れた時点で自動『分解』の対象として、触手の存在自体を消し去った。だが消えたはずの部位から再びウネウネと再生を繰り返す。
実験という過程による結果、そして人の細胞から作られた怪異というその悍ましい形に僕は。
「なおのことだな。」
上へジャンプし、尻尾の攻撃を避けるの同時に『複数分解』魔法式を組み立てては発動する。
「っ!」
男の特殊な実験体の部位を全て消し去った。呪力という怨念の構成を完全に分解することは難しい。
感情は分解といった概念から遠い存在である。しかし感情ではなく、そこに宿っている本体や物は別だ。不確かな物ではなく、そこに存在するための構成や過程が存在する。
であれば、後は簡単だ。
「無駄無駄ぁ!」
またしてもバキボキと再生する。
「繰り返しやるのも無駄なのは確か。けどそれでいい。」
呪力は結局のところ発せられる本人か周囲から集めるかの2つだ。
恐怖、呪い、怨念、邪念、恨みの類から魔法と似ているようで違う力である。魔法と違う点は感情が鍵となっている。
幸いこの場には職員たちの社畜事や先生、実験で苦しめられた奴等以外の物は存在しない。そして本人のうちにある感情だけ。
ならばどこからアイツ自身へ引っ張っているのか?
「切っても切り離せないもの。」
「気付いたか・・・」
魔法だ。
呪力と重ね合わせても効力は薄い。だが重ねるのではなく、鍵のように呪力を引き立てるような使い方なら可能である。
陰陽の中でも魔法師としての力を使い、陰陽における発動条件などを満たすといった使い方をするケースも見られる。
「魔法は根源であり、混成可能な法則を持っている。この異常なまでの呪力における感情と悲痛さは普通には集められない。
ここという場所を拠点にしたのも、ここでの過労死や働いている者たちの負担力と辛みなどを蓄えている。といったところだな。」
その辺の奴等から日々の恨み言を徴収するよりよっぽど効率的であり、隠れ蓑、魔法について、情報といったあらゆる面で優位性を誇っている。
こんな場所を拠点に選ばずしてなんだというばかりに。
「魔法は・・・確かに貴方の得意とするところですね。その目、何が見えていますかな?」
「クソみたいな術式に魂を縛りつける効力と魂に負担をかけ、負のエネルギーを吸収させ、より強く拡散させるというこの世のゴミみたいなやつだな。」
「癪に触るガキが。」
当たり前だ。ここまで非人道的な魔法式に実験で亡くなった奴等の魂すら痛めつけて閉じ込めているという、死体すら辱めるのではなく、魂をも弄ぶ光景に反吐以外何もない。
「『禁忌』の一つであり、僕の『禁忌』はまだ大したことがない。という安心感もあるが・・・」
大神は鳳凰寺のグッタリと倒れている様子を横目に。
「ここで全て分解し、更地にする必要がある。」
「できるのかな?君には感じの力への徴収がない。その上で未だに止まらず集まる私に敵うとでも?」
「幸いなことに知識や計算といった類は強くてね。それにやけに冷静な上、理性的だよ。
このクソみたいな光景と魔法の正体が分かったというのに何故か落ち着いている。不思議とイラつくこともない。何もかもが僕の目的以外はどうでもいいとすら感じるよ。」
まあ、そんな知らない間に勝手に突き動かされている自分自身には釈然としないが。
「お見事です、魔五斗様。」
沙月はただパチパチと小さな拍手で賛美する。
「では研究者よ!その成果を私に見せっ!なに!?」
風見は優秀なのでこの件について言わなくても気づいてる。彼は魔力の大きさには敏感であり、サーチ魔法を使わなくともその所在を感覚的にキャッチできる。
彼のうちに眠る崩壊魔法が破壊の衝動によって引き寄せられている。
詳細は何故か記憶が修正されるのと同時に解析が完了していた。
「もしや彼でしょうか?」
「そうだな。この規模の呪力吸収魔法式を一瞬で壊せるのは彼しかいない。
彼の崩壊魔法は触れる物の全てを無に返す。有機物無機物関係なく、ただ彼の意思一つで変わるからね。最大の点は触れられるか?だったけどここまで時間が稼がれてれば問題なかったね。」
「何をっ!」
2階のフロアから魔法式を破壊した張本人が姿を現す。無を象徴するかのような灰色の一色の姿が最上風見というソーサリーバトラー。
「終わりました。」
敵を見下すように報告する風見君である。
もちろんこの魔法式を崩すのは僕でもできる。それは彼と言う存在を退けられる人物が代行するに限る話になるが。
このような見てくれでも生命力と身体の細胞再生力は僕の再生スピードと何ら変わらない。
戦闘向けの人格、立場ではないからこそ沙月や風見たち複数人でカバーできる。だがそれは僕の魔改造を受けた者のみに限定される上、複数人で連携した場合に限る。
「だそうだ。確かに他の奴らならと言いたいが、生憎と彼は魔法やあらゆる事象を触れることで崩壊させる元素を持っている。
僕の場合は分解するのに仕組みを解析し、構築できるように頭中で計算しなくてはいけなくてね。かなり手の込んだ仕掛けのようだ。だからこそ今回はね。」
相手はかなり動揺している。心拍、脈拍も非正常、呼吸は荒く、魔法の魔力たる根源が入り乱れているが不思議と安定している。
だがそれ以外は不安定そのもの。ポツリと冷や汗を流す。
「終わらせるか。」
「ふっ!ざけるなぁぁぁぁ!!まだまだ!わだじわぁ!」
「こっちもお前を封殺し完全に消し去る方法を組んだところだよ。」
コイツの魔力は入り乱れているため、一人一人を分解していったら埒が開かない。
そのため簡単な分解方法を編み出した。そもそもコイツそのものを消し去らないと、残った魔力、呪力かな。それで構成する可能性が高い。つまり塵ひとつ残さずに滅却する必要性がある。
「こうする。」
「なっ!?けっ!結界!?」
結界、コイツは辛いの呪術や陰陽が呪力へ対抗すべく作られたものらしい。らしいと言うのはこのビルにかけられている術がソレだった。
解析して今回ように編み直した。ただこれ維持するの難しい。確かに訓練や厳しい修行が必要なのも納得である。
「次にこれだ。」
結界はあくまでも囲いであり、檻のようなもの。
本命は中にある彼の存在と本質にある魔力ではない、俺と同じ根源である。コイツの実験たらしめるナニかを完全に消し去る。つまり殺人になる。
「やっ、やめろぉ!貴様っ!私を覗くなっ!」
「お前の存在を消すのにお前を理解しないといけないこの能力が煩わしい。本当にそう思うよ。僕も僕で人の心などないただの実験者なのかもしれない。」
解析(読み込み)完了、浄化開始
「わ、私の組織と概念がぁ!あああああ!」
彼の身体を少しずつ足先からボロボロと崩れていき、砂状に分解され始めていく。
「貴様っ!貴様は研究者ではない!?何者なんだ!?」
「そんなことは知らない。知らないからこそ僕は僕を知らなくてはいけない。この力の根源、権能は崇拝か!?だが貴様の周りにはたった数人!?何故!?」
「よくは知らん。だが僕じゃない何かが蠢いているようでね。しかもそんな僕とやらは知らない間に何かしてるようだよ。
全くこっちもこっちでいきなり殺されたんだ。」
静かに分解されるのをまつ彼は唐突に真顔に戻る。既に死を悟ったのかと思われた。
「なら貴様は概念を持ってない?そんなバカな。研究者としての権能を持っているはずだ・・・・死んでいるのに蘇った?・・・ふっ・・ハハハハハははは!
そ、そうかそうか・・・貴様さては異次元の奴と融たな?・・・ならば・・・も・・・える・・・」
何か意味ありげな台詞残して結界ないで確実にその存在が抹消されていった。
ただ呆気なさより、確実に何か意味がありそうな一言を。
「終わりましたか?」
「まあ・・ね。」
「魔五斗様、気に病まれることはありません。奴はバトラー含め他の奴等を弄んでいた外道です。
慈悲などおかけになる必要もありません。」
「風見の言う通りではある。コイツを野放しにしていたら僕の妨げになる。それは確実に。
だからこそ消す必要はあったが、どうも殺人をしたというのにしっくりこない。コイツに関係していたこの支部もそうだが、他にも残党や組織が編成されている可能性が高い。」
「ではここを更地になさいますか?」
いやそれしたら潜入の意味なくない?まあ、確かにこの中の惨状と支部長がお亡くなりなったところから多分手遅れ感凄いけどね。
「てかあれ?亡くなってたことにしてたけどアレ?」
いなくね?
「これは申し訳ありません。手掛かりになると思い捕獲しております。」
沙月が上に指を指すと、そこには謎の鎖で亀甲縛りされて苦しめられている名前を知らない支部長様がいらっしゃっていた。
苦悶に浮かべる表情に思わず顔を背けたくなる。何かに目覚めそうで怖いな。
「消しますか?」
「消しても何もないので却下だ。」
どうして血の気が多いのやら。血圧コントロール調整だけミスをしたのか?
「とにかく撤退するぞ。」
「っっ!」
施設は彼等が瞬きする瞬間に全て修復しておいた。




