16 混沌の開戦
徐々に魔力が高まっていくアレクシス。包み隠すどころか逆に全力で垂れ流している。
まるで、魔力量や質含めて絶対の自信があるかのような。しかしそこに油断という2文字は存在しない。自身の全力を持って応じるという姿勢が垣間見える。
「魔五斗様、ここは私が。」
沙月は何故か自信満々であった。ナギは元より戦闘向けの賢者ではないため戦いは不得意である。
同年代でもあり、そこまで戦闘に特化している訳でもない。ということもある。
「お任せを。魔五斗様よりいただいた神器をこの身に刻んでおりますゆえ、問題ありません。」
神器を刻む?いや刻んでるけど・・・僕が?・・・そういえば気になるが無属性が神器を授かるケースってどんな時だ?世界には『ティリニウスの涙』のような神器またはダンジョンといったところから授けられたり、生まれ付きで神器に選ばれるとい言ったことはあるとされている。
しかし、神器は人の手で作り出すのは不可能では?魔法具を作り出したり、点検・修理をするといった点ならできる。
ただし、神器以下であるというのが絶対の定義である。
「そんなことしたか?」
「ええ。魔五斗様が異次元より召喚してくださいました。素晴らしい理論と実験でした。」
とんでもないことをさらっと言ったせいで余計に睨まれる始末になった。ただでさえ、ここのバトラーたちは神器持ちが数人いるというのに。
「なんか初耳なんですけど?」
「奇遇だな。僕も初耳だよ。」
なんてことしてんだ僕は。より狙われる理由が1つ増えたが!?
どどどぉぉぉ!!と容赦ない拳の鉄槌が振り下ろされた。
「ごちゃごちゃ話してねーで戦うのが一番だな!」
「私もそう思っておりました。」
沙月はアレクシスの容赦ない攻撃を鎖を巻き付けた腕で受け止めていた。ギリギリと火花が飛び散る。
「OH!excellent!」
「どうも、っ!」
だが少しずつ力で沙月のガードしている腕を押し返していく。
「ちっ!!」
下から新たな鎖を生成され、アレクシスへ向けて一斉掃射するも。アレクシスの身体に当たった瞬間、キンッ!とおおよそ人の身体から鳴はずのない音が鳴り響く。
「鋭いbladeなchain!ですね!」
清々しさすら感じれるほど無傷であり、未だ降り注ぎ続ける鎖の雨を無視しながら押し返そうとミシミシと腕力に力を入れていく。
「・・・・」
押されている沙月ではあるが、未だに強烈なアレクシスの腕力と対峙しつつ冷静に淡々と、鎖による一斉掃射攻撃を続けていた。
僕から見れば器用に良くやるもんだ。と思う。
「ぬっ!?」
だが突然ガチガチに固かったアレクシスの身体の一部から出血が確認された。
沙月は無数の鎖槍を連続で放って、この強力な腕力に耐えていたのではなく。真っ向から力技と技量を屈指した応戦を行っていた。
複数方向から放たれていた鎖槍は1つ1つに魔力や威力が込められてはいており、常人が喰らえば致命傷か死は免れない。だが、今回はある1点だけ違った。相手が神の子ヘラクレスの子孫であり、バトラーアメリカ支部の中でも上位に位置する戦闘者であったこと。それにちなんである1つの左肩部分に目掛けて飛ばしていた鎖槍だけはバレないように特別に魔力を入念に込めており、それを同じ個所に目掛けて連続で撃ち込んでいたのだ。
「Oh・・・・やるねぇ!」
流石にまずいと思ったのか、距離を後ろへ取った。沙月も下がった様子から敢えて追撃はしなかった。あくまでも僕の守りに徹していた。
「わぁおネ・・・力には力技ってことかネ?」
「あの英雄の硬さ相手に真っ向から勝負する胆力と実力・・・・なぜあのような人物が今まで出てこなかったのだ?」
はい。それは私が本来の元データを遺伝子レベルで書き換えてたのに加えてただのメイドであったため、健康診断のような血液が絡まない場合だけを除いて、本人が秘匿していたからでしょうね。
この国では魔法師が珍しくないため、大きな力を有しても隠匿のある魔法具、魔力制限といった手法で諸々対応策がとれる。その対策で日本にはナギのような未来視が見えない者、または客観的目線から見えた者といった人たちが政府やら用心に追われることに。
その点沙月の件は僕を通して強制的に見ていたため、黙っていた案件であったとされる。
ただ気になるのはメイド校である。どう考えても彼女の変化はおかしなもの・・・・今は考えないでおこう。
「あまり力技は好まないですが、魔五斗様の手前です。となりのなんちゃって賢者とは違うところは見せつけないといけなかったため。」
「貴女余計な一言加えないと死ぬの!?」
ナギのやっている広範囲の風魔法を併用したスタンガンは並大抵の魔法師にはできない。というより二重属性だからできる技でもある。
更に殺さないように制限している。ナギは同じ年齢の年頃だ。殺しに抵抗があるのは本人の優しさから窺える。
「はっ!大いに結構結構ダナ!私も久々にこのような強気レディに出会えた!・・・面白い!
私が貴女に勝ったら私のフィアンセになってもらいたい!」
中身が脳筋だと言葉も脳筋になるとどこかの理科大が検証してたかな?結果は今出たけど。
「お断りします。私の貞操や全ては魔五斗様へ捧げております。」
ここにも脳筋がいた・・・・
「バッカ!何言ってんのよ!あなた達は!」
「何をコントしていらして?」
「私たちもいるっての!」
ロシア三姉妹が背後から僕を中心に氷魔法を展開し出した。
1人は造形、1人は固定、1人は封印といった形で’氷魔法による鹵獲を試みていたのが魔法式から読み取れたのと、彼女たちの行動における合理性から既に演算処理されている。つまりこれからの対処法も。
「「「!!!!」」」
ナギの落雷が風を伝って変化球のように屈折しながら三姉妹へ強襲する。三姉妹の内2人の姉妹が鹵獲系魔法を停止し、すぐさま防御態勢を整えた。そして風魔法へ闇魔法の阻害を行い、咄嗟の氷のバリアで防御できるように威力調整を行っていた。
「ふぅ・・・危ないですね~。」
シュゥゥゥー・・・と氷のバリアが蒸発していた。
しかし咄嗟の判断とは思えないほどの連携力と臨機応変であった。1人1人が洗練されたバトラーであり、チームであるということが分かった。
仮にも賢者の一撃を受け止めたのだ。ナギ自体もそこまで防がれたことに驚きがない。というより僕の目線から未来を見通してやがったな。現にナギの魔力消費が常人のソレより激しい。だが、元の魔力量が多く伊達に賢者ではないため、まだまだいける。といった表情をしていた。
「ま、そうよね。」
さて、どれこれも僕を狙った一撃であるということ。残りの中華連邦とインドがどう動くかによっては変わるとされる。インドの美青年はどこか僕をまじまじと観察しているようであった。
先ほどから実はしれっと呪い攻撃を幾度か実施されていたのだ。まるで、何が通じてどのような油断や隙が生じるのかを観察しているかのように。
だが、深淵を覗こうとする時、また深淵も覗いている。この闇属性による呪い攻撃は本来魔法式の構築もそうであるが、一個人相手にピンポイントで唱えるのは至難とされている。広範囲で呪いを展開する魔法の方が特定をしないで発動に集中できるため、かなり楽な方である。
しかしあの美青年はわざわざ難しい方を難なく、観察しながら実施していた。やはり襲撃者はどの国家もかなりの凄腕とみるべきであろう。
大神自身は常に呪いやデバフといった身体に害のある魔法や異常が発生した場合、自動で分解分析を行うシステムが構築されていた。ソフトウェアのように日に日に情報をアップデートされ最新式で常に整えていたのだ。そのため本人に向けられた害意はすぐに発見できるような仕様になっていた。
「相手が悪いかもしれない。」
「マオ、何を言ってんだ?」
「精鋭が賢者に潰され、あまつさえこの混戦状態・・・・隙を縫って闇魔法を幾度か試したが効果がない・・・・相手にするには情報不足もいいところだ。」
「おめぇがそういうんなら間違いないな。」
インド支部から派遣された『ソーサリーバトラー』のS級バトラーたちはかなり慎重に物事を静観し、どう出るべきかを探っていた。
しかし大神相手に後手に回るのは危険と判断したのか、1歩も動かずにじっと待ち続けていた。自分たちの被害を抑えることにしたのだ。
「それじゃあ私行くネ。」
「タオ!待たんか!」
中華連邦の女武闘家が僕へ向けて近距離戦を行おうと素早く接近した出した。
「そうは!?」
「私に集中してクダサイ!」
アレクシスの攻撃に沙月が咄嗟に反応し、威力の高い拳を受け止めたせいか反動が伴った。
「くっ!脳筋バカがっ!魔五斗様!?」
さてナギも三姉妹によって抑えつけられている。
研究者として時代の開拓者として別にバトルを極めている訳でもない。というよりしたくない。無駄だ。本当に無駄だ。人類の原始時代より植え付けらているとされている人間の暴力的闘争本能自体が無駄だ。遺伝子レベルで書き換えてやった方が本人のためにもなる。
そんなこんなで考えているとタオとやらの掌底が腹部へ近づいてきた。
だが寸前で動きが止まった。正確にはタオの表情が険しくまた身体に何か負担のようなものを感じ取っていた。まるで動きたくても動けないような。
「あーららららー・・・・ダメでしょうに・・・神の御前ですよ?全員跪くか首を垂れなさい。」
ふとどこからか妖艶さが漂う声が聞こえてきた。ちなみにこの魔法は重力魔法といって闇魔法の頂点に位置する超高位魔法である。
「というよりなんかうちの連中まで効いてない?」
沙月やナギも苦しそうに膝を下へ着けて堪えていた。
「マイリィー様足元が汚れてしまわれます。それ以上は下賤の者たちの領域です。
神の御前までの道は私が開かせていただきます。」
地属性魔法で道が作られていく。瓦礫上から階段へと至るように生成されていく。
カツ・・カツ・・と美しきヒール音が鳴り響く。紫色のシュッとしたドレスを着ており、ところどころの隙間から濃い褐色色の肌が露出されており、見る者を魅了していく。その後ろから同じく日焼け肌のメイド服を着た女性が周りを警戒するように厚底のブーツをコツコツと静かに鳴らして着いて来ていた。
メイドの女性はミニスカートと沙月とは違うものを着ており、髪の色も赤と白で入り混じっていた。しかし特徴的なのはやや太い尻尾があり、ほほに鱗のようなものが見えていた。
この特徴から龍人族という戦闘民族の一族であり、暴力的かつ今の社会で不適合と揶揄され、差別を受けている者たちの見た目であった。
もう一人の外国人の特徴である青い瞳にふっくらとした口、そして洗礼されたボディバランスのあるショートボブヘアーの女性であった。派手な見た目に刺青の数々からも海外の自由性という特徴を示していた。
そしてその美しき2人が僕の前までやって来ては、そのまま綺麗な所作で跪く。
「このような形での御対面誠に申し訳ございません。
ですが、傷つかないとは言えど愛する御身に刃が向けられるという行為を見過ごすこともできず・・・・この罰はいかようにもお受けいたします。」
まず誰だよ。美しきダークエルフ様と美しき龍人様なので前提を通り越して歓喜に満ち溢れてはいるが。初対面だが、この所作は確実にまたしても僕じゃない僕の仕業だ。風見の件から立て続けに集ってくるこの感じと言い、タイミングと言い本当に僕を舐めている。しょうがないから先回りしてやったと言わんばかりである。
だが、このベストさは否定しようがない。寸分違わない登場と制圧に驚きすら最早起きない。
「マイリィー様失礼ながら、自己紹介がまだかと。」
「そうでしたね。神から見れば我々など取るに足らない矮小な存在です。常に自己を認識していただくことでこの存在を認めていただく必要がありますね。
では、改めまして私し、ヘルガー・マイリィーと申します。御身に会う以前は愚かな賢者をドイツにて名乗らせていただいておりました。ですが、御身にあったあの日より私は賢者を名乗ることをやめる決意の元今日この日まで研鑽を積ませていただいておりました。」
うん。誰だよ。世間体に疎い僕からすれば、「賢者なんだ。凄いね。」しか出てこない。ドイツ?つか何でもう一人の僕は海外へ勝手に遠征しているんだ?
パスポートなど持っている訳もなく、ビザなどの経歴もない。つまりいつの間にか『禁忌』以外の法律違反も起こしているということになる。何故だろうか・・・・冷静に考えれば考えるほど冷や汗が止まらない。
「この後ろにおります者が」
「ご拝謁に賜り心から感謝申し上げます。
私、マイリィー様の身の回りのお世話をさせていただいております「マナ」と申します。民族柄姓は存在せず、龍人族という世間体から迫害されている身分となります。」
淡々と述べているが、僅かな感情の揺らぎを僕レベルなら見逃さない。生まれた時から謎に迫害され追いやられるという差別はいいものではない。
ましてや、生きるうえで共存しなければならないこの現状はなおのこと。それを分かった上とは言え、どこか納得のいかない苛立ちを感じ取れた。
「そうかね。ともかく、2人に会った・・・・いやあるね。」
ざざーっとまたしても風見の、沙月と同じ現象が起き始めた。
僕が僕じゃない僕
何故このようなドイツの中でも辺鄙な街道へいるのか謎である。言語が異なるも翻訳アプリを脳内で生成し、勝手に翻訳され勝手に話せるようになっているため、子供僕でも活動するのには十分であった。
そんな街外れには奇妙なことにSSSとされる非常に危険なダンジョンが存在していた。ドイツ支部の『シーカー』たちが幾重にも挑戦し、撤退を余儀なくされた伝説のダンジョン。
だが、今回は本気の攻略部隊編成なのか、当時ただの白いエルフだった「ヘルガー・マイリィー」も賢者の代表かつシーカーとして参戦していた。
彼女の力は先ほど見たものと同じく重力魔法による制圧力と多彩な闇魔法による敵戦力の低下を図れる闇魔法使いの中でも戦闘系・支援系の両方をこなせる国家お抱えの魔法師であった。特に重力魔法は敵を圧殺させるほどの威力と魔力量を有しており、ここまでの闇魔法師は存在していなかった。
そんなある日、攻略隊が進んでから数週間経つ。未だにダンジョンの崩落は起きない。
僕はこのパーティーメンバーからある程度の攻略率とダンジョンの構造を形と難易度から計算し、生存率と攻略の可能性を見抜いていた。
その確率は0%である。
帯びているダンジョンの魔力波から神位性が高く、異次元の神が作ったとされるものである。という確実な答えがあった。であるなら内部は人が攻略できないとされる設定に加えて、奥に潜んでいる「バサラ」という異次元の戦神が鎮座しているのが解った。
構造、そして触れた瞬間から奥底まで魔法データや各層の配置、どうしてこれが作られたのか?といった記憶も読みとったからである。
「これは全員死んだな。」
賢者や他の有力者もいたが、唯一生存の道があるとするなら。
するとダンジョンから3人の男2人と女がボロボロの瀕死状態で現れたのだ。このことから中の奴らは囮にされたか犠牲になったかであるが・・・あの3人の様子から犠牲が正しそうだ。自身の命と引き換えの。
僕じゃない僕は既に動いていた。
そしてその死にかけている四肢が捥がれている彼女マイリィーに出会った。対峙している魔物・・・いや次元の魔物『バサルト』という荒々しい巨大な狼に腕を数本生やした奇妙な形をした獣である。
人のようなずる賢さや人のように痛めつけて遊ぶといった残虐性を反映し、獣のように貪り尽くすというものを重ね合わせて作られたようである。これを作った奴の性格が知れる。
吐き気がする。
周りでは、ボロボロの『シーカー』相手にバサルトの腕で引きちぎるようにゆっくりと恐怖を与えていたり、他の魔物を使い火あぶりに処したり、腕力のある魔物のサンドバッグにされるなどもう大人と子供の遊びのようになっていた。
そんな四肢が無いマイリィーの周りにはオークのような性欲力が強い魔物に囲まれていた。しかし彼女の瞳には生気は宿っていない。絶望と怒りで心が壊れかけていた。
『汝、何故人間?』
狼のくせにニヤニヤと獲物を見るかのような視線に嫌気がさしていた。
「はぁ・・・・・・面倒だな・・・・。」
僕じゃない僕は視界に入った魔物たちをバサルト以外を全員存在自体を分解した。外道だからといって裁き云々はどうでもいい。僕からすれば全員が興味対象外である。
『!?』
咄嗟に危険を察知したのか狡猾なバサルトはすぐさま反転し、引き返そうとした。
「貴様は小さく丸めてやろう。」
僕じゃない僕はバサルトを囲う魔法式を展開し、彼の形そのものを無理矢理に変形させていく。ボキボキバキバキと歪な音を鳴らして、バサルトの悲鳴が轟く。
そして数秒後、パチンコ玉ぐらいに小さく挽肉になったバサルトをそのまま分解して消した。
「分解もやりようによっては上書きと変更再生処理が可能と見た。」
そしてもうただの肉人形になりかけているマイリィーをみた。
「・・・・あ・・・・こ・・・・して」
だから僕は彼女を使ってまたしても実験を試みた。どうしてバサルトを見て動じなかったのか?簡単だ。僕も同じくらい実験をしてその過程を見ているからだ。
そしてヘルガー・マイリィーという存在は僕によって完全に生まれ変わった。失った四肢にはそれぞれ特殊な魔力コーティングを施した。まるで、失った欠損部を再生中に新たな細胞と部位を作り変えられるかの実験をしているようでもあった。
左腕には龍のような刺青魔法式を反対には曼荼羅模様、足には片方はヘビ、片方は数本の剣で刻み込んでいた。
「これで君は生まれ変わった。君は君の道を歩むと言い。僕の時が来たという合図があるまではね。」
ざざーっと記憶が蘇った。だが肝心のあのダンジョンがどうなったのかが分からない。そこだけはロックされているようであった。
「そうか・・・・なんか出会ったときよりも刺青増えてない?」
何か胸元の十字架や頬の模様、など要所要所が増えていた。こんなバンギャでしたっけ?
「御身への忠誠の証として胸元へ『誓いの命』を刻んでおります。」
「僭越ながら同じくです。」
あーーーーーなるほど・・・・・・・面倒なことするよね?