13 デュエル
「魔五斗様・・・・」
流石のいつもの沙月でも空気を読んでいる。目では私が出ると誘導してくれ。と訴えている。
ナギに関しては、やってしまった感から落ち込む様子と心配そうな目線を送る。
やれやれ・・・
いつから僕は
コイツら程度に負けると思われているのであろうか。
普通に考えればそうであろう。ただの年齢の浅い学生であり、神器もなく、魔法測定も測れないほど脆弱という認定扱いされる始末の人間だ。
天満は既に見切っていると思うが、それ以外は未だ僕の素性が未知である。ということ。
選択肢が2つに分岐される。
1つ目
そもそも僕が素直に負けるように上手く仕向けること。
リスクとして挙げられるのが、ナギの存在である。個人の感情を抜きにしても成功例の素体として可能性が残っている以上は手放すのは研究者からしてあり得ない。
2つ目
普通に勝ってしまうこと。この戦いに辛勝はない。蹂躙されるか仕返すかの強者の在り方として証明するのみ。
これには大きな意味がある。そもそも勝つ勝たない以前に互角に渡り合う時点で、注目と今後が面倒になる。中途半端にかち合うぐらいなら、ある程度の力で無力化させる。
そのため後者の選択が今後有利に運ぶ・・・が、これは天満の思惑とナギの言う異次元の侵攻に備えた準備のような、そんな手筈通りに進むような流れでどうも納得がいかない。
特に自分の能力が何よりもそうすることが最も効率的かつ確実に解決するスムーズな答えであり、高確率を示している。
「いいでしょう・・・あまりそんな聡明な方と争って得があるとは思えませんが・・ここまで言われてしまった以上は受けざる終えませんね。」
「マコ!」
「魔五斗様・・・・」
「よし!では決まりだね。」
「分かりました。」
改めてリカディは大神の前に立ち、握手を求めた。
彼はどこまでも紳士であり、勇者である。どこまでも無意識に崇高である。
そんな彼に触発されてしまったのか、大神は握手を取り交わす。
「変な流れで決まってしまったが、僕は本気で彼女を愛している。確かにやや姿が変わったが、彼女の本質はそこじゃない。
僕は愛のために、大人がないかもしれないが、必ず勝たせてもらう。だから全力で来てくれ。」
「善処します。」
僕に熱量はない。既にそこには。
「魔五斗様、申し訳ありません。」
「いやいいよ。どちらにせよ、あの空気とあの団体とかち合った。そのタイミングと偶然性という予測不可能な出来事だ。
回避しろ。というのが難しい。ナギの未来視でもない限りはね。」
今回ナギはこの現象が分かっていたはずだ。
つまり、ナギは意図的にこうなることを知った。もしくはどう見てもこのルートに転ぶ。かだ。
だからと言って攻める気はない。なんと言ってもデモンストレーションだ。世間に知らせねばならない。新たな時代は既にここまで来ていると。
「フッ。」
「やはり、勇者如きでは相手になりませんか・・流石でした。」
そのフッじゃない。そんな戦闘狂じゃない。ただ単純に楽しみなだけだ。
私の築く新たな文明と文化に。
「ごめん・・・マコは気付いてると思うけど・・でも避けるとどうしてもマコのやりたいことに繋がらないかな?って・・」
そんな肌でシュンとされると全てを許したくなる。というかもう許した。
「気にするな。僕は僕の目的のためにただそこは向かうだけだ。」
「うん・・・ありがとう。」
「本当に迷惑な狸ですね。」
「はあ!?貴女も余計なことしたでしょうに!」
「ぬぐっ!・・・んん!それでも私は魔五斗様の不利益は作らないように立ち回っておりましたよ?」
割と暴力的な不利益は起こしてるけどね。キミは。
「マコ・・・・か、勝てそう?」
「何を不安になっている。お前はもう僕のものだ。安心していろ。むしろ殺さないように加減するのが難しいところだ。」
「そ、そうなの?・・あの分解は脅威だけどそれが明らかになるってまずくない?」
「だから狸だって言ってるんですよ。」
流石のナギもここまで言って気付いたらしい。今回は勝つ負けるとかではない。
この力が世に出回るということだ。更にはリカディという最も上位に位置する賢者であり、勇者として異名が名高い奴に勝利するという最低条件付きである。
ナギの影響もあるが、僕が負けるというのはどうも考えられない。というか、このシステムがオートで動き出したらそれこそまずい。
色んな意味を含めつつ、考えさせられる戦いとなること間違いない。どちらにせよ、戦いは避けられない。
「まさか入学後の初戦が賢者相手とは・・・」
「圧勝してしまうお姿に皆惚れ直すかと・・いや、経緯と畏怖を示しになられます。」
「何故言い直したし・・まあ、確かにこれ以上要らないからそこは賛成かな。でもマコのかっこいい姿が!」
お前ら忙しいな。人事だと思っているからか?おっと、感情に抑制がかかった。
「その辺の話はどうでもいい。今わかることはこの場をどうやって穏便に収められるかだが。」
「ですが、確実に殺さないように倒すというのも至難の業ではありませんか?
私たちのように魔力だけ分解することはできませんか?」
「あれは全て分解すると言った簡単な工程とは違って、確実にスキャンして魔力のみに絞るってのは針の穴に糸を通すと言った行為が必要なんだよ。」
「表面上は魔力を消せるよね?」
「単発を消すのは分けない。解析と言っても秒で終わる。
ただ、全体をかつ本体や物を分解させないようにするのはかなり骨が折れる。」
「本体を消してしまった方がよろしいのでは?居てもいなくても異次元侵攻の際は不要ですし。」
「んな訳あるか!そりゃマコが居れば変わる未来だけど、他の国の状況だって酷い上、賢者の動向なんて見えないんだから。
ただ日本が起点に異次元侵攻が開始されるからリカディ様の力は英国で抑止力として必要になる。それに、国交のためにもできるだけ荒事は起こしたくなかったの。」
「それでこの体たらくですか?」
「うっ・・・・すいません。」
流石に応えたようだ。沙月もあっさりと引き下がった様子に物足りなさそうに追撃はしない。
「気にするな。
どちらにせよ1週間後その時はやってくるのと同時に、この学校へ来た時点でそうなる運命と・・見るべきかもしれない。
強さなんて新たな時代に不要だと言うのに。全く。」
「流石です。魔五斗様の築かれる時代の礎の犠牲として必要ということであれば、この沙月どこまでも貴方様の側にて支えさせていただきます。
この命が尽きるまでお使いになさっていただけると幸いです。」
「何しれっとアピってんのよ。
ごめん、マコ。なんか余計な事したとは思うけど・・ただ不思議と負けないのは分かる。ただ・・」
「分かっている。ナギの見た通り、殺さないように倒せばするのであろう。
しかし倒し方にやや問題がありそうだ。」
「そうなんだよね・・・途中でマコの強さにリカディ様本気で戦っちゃうんだ。
マコの未来だけはくっきり見れるようになったから、これからのことは分かるけど、リカディ様がどうなるかまでは分からなくて。
ただ負けることはなさそう。けど、この未来も」
複数ある内のひとつの答えでしかない。か。
つまり、真面目に存在ごと消し飛ばす可能性もあると。
僕の未来が見える・・・か。見えすぎて答えが逆に多過ぎるが正解だな。神様もナギにどんだけ負担を強いるのやら。やはりこれで分かるが、ナギも僕も魔法の強度が高過ぎて人の身で制御するにはかなりの労力を費やしている。
僕自身も今でこそここまで扱えるようにはなっているが、厳密にはまだまだと言っていいだろう。
支払っている対価が大きい割にはそこまでいいように魔法が行使できていない。まだ力によってコントロールされる側である。
「どちらにせよ、やるかやられるか。
賢者はお断りだが、新たなる時代の開拓者としてその姿を拝ませてやろう。
時には力によってその在り方を見せつけるケースもある。なら温故知新として古来のやり方に則るとしようかね。」
そして1週間目がすんなりとやってくる。
門をくぐるといつも以上に魔技特は静かである。ある一定の箇所を除いては。
側には沙月やナギは居ない。その理由はナギの側には沙月を付けさせた。今回な可能性として、ナギを狙った暗殺なども考えられる可能性が浮上していたため、その抑止力として沙月を付ける事で0%という結果は至った。
ちなみに僕個人が今現在狙われる可能性は0%である。この戦いが終わるまでは。
「やあ。」
「今回の首謀者が現場に居なくていいですか?」
「まあ、こっちはあくまでオマケ。本命はリカディ君かな。」
「でしょうね。」
「覆すと?」
「いや、覆すほど差がある訳でもない。」
「へぇ・・・ま、そうだね。分解と再生からすれば相手が誰でもそこは問題でないと。」
なるほど、僕の力をなるべく知っておく必要があるのは確実だな。ただ勘違いをしている『分解』と『再生』は別に特技でもなんでもない。本質が違う。
「そうだね。」
「解答は得られずか。君相手にお話しすると全てを見透かされているようで困るなぁ。」
正確には見抜けてない。ただ、そこまで打算的であると困る。分かりやす過ぎて逆に普段のケースを考慮すると疑う。
「あまり興味ないかな。」
これは本音である。
「そうかい・・・いずれにせよ、君の力はこの世界を左右するのに必ず関わる力だ。
僕らのステージもそうだが、君は特にその力で世界を塗り替えられる。魔王となるのか、救世主となるのか楽しみだよ。」
「ファンタジーの読み過ぎでは?あまり興味ないな・・」
大神はただ無関心にその場を後にする。無意味な会話に需要が伴わない。
「人を止めるのは何も望んでやめた訳ではない。そうとも受け取れる。」
また、今回の首謀者城戸天満もその場を静かに立ち去っていく。
『魔法技術特別校』には毎年行われる『魔法闘技』という技術や力を用いた戦闘面で評価される代表選抜戦が実在する。
その中でこの闘技場を催して作られた国技場がその一つである。魔法競技としても使われるアスリート施設や大会の過程でも使われるほど、その知名度は高い。
かなり頑丈な構成と『ダンジョン』異次元の生物たちの素材から作り込まれている。
職人たちの汗と涙の結晶そのものでもある。
「そんな素晴らしい施設に、わざわざ一身上の都合で戦いの場として提供するとはね・・・・本当に賢者という人はなんでもありな権力者という訳か。
それとも、外交の意味も兼ねての宣伝かな。」
丁度この小綺麗な控室に僕はたった1人いる。八百長などの持ちかけもない。
それほど実力差があるとされている勝負、ましてや相手は世界3位以内に入る強さ。
コンッコンッとノック音が鳴る。
「失礼します。」
「おう、邪魔すんぜ。」
マーシャ先生と鳳凰寺教諭が入って来られた。鳳凰寺教諭は本日も美しく、輝いている。そのズカズカと控室に入ってくる様もなんと美しく、大人な魅力を醸し出しているのであろうか。
「大神君、大丈夫・・・ですか?」
「大丈夫とは?」
「いえ、あの・・経緯はよく分かりませんが、相手はあの。」
「んなもんやるしかねえだろ!なぁ。」
マーシャ先生とは違い、鳳凰寺教諭はわしゃわしゃと美しい手で僕の頭を元気付けるように撫でてくれる。
これでもう負けることはない。
「ありがとうございます。これで戦えます。」
「おう!なんか知らねえけど、しっかりかませよ!」
勝ったら鳳凰寺教諭にプロポーズするのもありだな。
「大神君、無茶だけはしないで下さいね。」
「まあ、それは相手によるのでは?どちらかというと相手方をどうやって抑えるかが、ちょっと悩ましい点です。」
2人は『?』マークを浮かべていた。それもそうだ。
僕の使える魔法は彼女たちの耳には届いていない。あの最初の秘匿会議では全員に誤解するように調整してそれぞれの脳に僕の特技魔法を流し込んだ。
音声から発生される超音波に一定の魔力、振動音といった信号から脳がそれぞれ違うように聞こえる仕組みをあの場で構成していた。
だからこそ。
「どう魔法を使用するかが鍵となる。」
「『さあさあさあ!皆さん!お待たせしました!司会は世紀の一戦を見守りお届けする和島公平と解説者の光の賢者城戸天満様に起こししていただいております!
天満様、本日はよろしくお願いします!』」
「『ええ、よろしく頼むよ。』」
「『さあ!早速我等が王子にして、今や世界の『勇者』であるリカディ・R・ターナー様の入場だぁ!英国の賢者『天賢の騎士』に所属し、神器『聖剣カリバーン』を授かりし12人のうちのトップとされる、正に真の騎士!』」
実況の紹介と共にリカディが入場し、闘技施設の真ん中へと歩いて向かっていく。
その歩き方は凛々しく、無駄が一切ない。手には神器ではなく普通の剣を握っている。甲冑も軽装で整えられており、どれも魔法が付与されている特注品であることが遠目でも判明している。
だが、彼の表情はあまり優れない。事情が事情と言えど、自身の突発的な告白から天満の言いなりに乗せられて起きてしまった素人学生との一騎打ちである。
騎士として誇りがないのか?と問われる一戦になることであると危惧している。
だが、世間は気にしない。また、政界も気にしない。
そこにあるのは需要と供給のみ。
人の誇りすらその天秤にかける。
「『おおっーーーと!今度は無謀にも挑戦者の登場だ!』」
そんな盛り上がりの最中、1人静かに奥からやってくる。
「マコ」
「魔五斗様・・・」
2人は施設の特等席で大神を見守る。
「『入学したばかりではあるが、無属性魔法という特殊な魔法を司った少年、大神魔五斗だぁぁ!』」
僕に歓声などない。あるのは疑念と懐疑心だけ。
「『果たして魔力1と判定された少年はどう戦うのであろうか!?』」
「『この戦いは案外か早期決着かな?』」
「『ほほう!それはどうしてでしょうか!?
いや、やはりターナー様による一撃瞬殺でしょうか!』」
「『いやそうはならないよ。』」
???とハテナを浮かべるも中央では試合開始直前となる。
そこに注目が否が応でも集まっていく。固唾を飲んで見守るギャラリー、解説と千条渚、華城沙月である。
「試合開始!!」
審判の魔法音信号で合図が飛ぶ。
「はあっっ!」
一瞬で迫ったのは当然リカディである。既に剣は大神の身体へ近づいている。だが
「!」
「ふっ!」
大神は後はバク宙して避けた。
その動きは達人のようにしなやかさと素早さを誇っており、会場中は唖然とした空気に包まれる。
「まぐれではない・・」
「・・・・」
流石だ。この一瞬で勘違いではなく、実力もしくは魔法と見抜いた。
伊達に『勇者』ということか。しかし元より実力は既に解析と分析済みの上、肉弾戦に近い形で応戦することも読めていた。そこまで慌てる必要もない。
戦いように脳内に新たな戦闘用スキャンシステムと戦闘選択プログラムを導入した。
コードから自動的に情報収集と更新を常に行い、バックアップを取る。そして相手のアクションに合わせて動作を取る。読み込む速度を上げるため、新たに動体視力を上げるシステムも追加開発した。
「今まで戦闘用プログラムなシステムは構築してない。」
「?何を言っている?」
大神の唐突な独り言にリカディは不気味さを覚える。
「そもそもダンジョンやある一定の依頼をこなす程度で組まれるべきものではない。
戦いというある種、遠い国日本で育ったんだ。普通はこんなのが日夜当たり前とする方がどうかしている。
僕は研究者であり、どこまでも新たなる時代を築くためにただ1人でに探究し続けて成果を挙げられればそれで良かった。」
大神はまるでこの戦いのせいで、自分がどうなるかを予知しているようであった。
誰かに言い聞かせるように、だがどこか切なく無常を語るように。
リカディも不思議とその話に耳を貸す。
「よく分からないような、分かるような。
だからこそ僕はもっと強く、そして本当の意味で世界の助けになりたい。
けど、自分の愛も本物だ。その愛を守れるようにもなりたい。だからこそここで負けるわけにはいかない。」
剣に光魔法が収束する。
「はぁ!!」
光魔法を帯びた鋭い斬撃が容赦なく大神へ飛ばされる。その一撃は賢者らしく、かつ剣聖のような鋭さを誇っており、止めるには至難の業である。
しかし、大神は避けない。
威力は当然死なないように抑えていた。だが致命傷は避けられない。
「だからだ。」
ーーーーーーーー!
魔法は消えた。跡形もなく静かに消え去る。
「なっ!?・・・・にが」
「『こ、これは・・・・』」
またしても唖然とする一同である。
「まだ分からないのか?この世に絶対という定義はない。常に変革を求め、変革に対してアップデートできるものがその上の階段へ行く。
愛だか恋だか世界だか僕にはなんとも表現への理解ができない。
ただそこにある事象を否定するだけではなく、その証明を行い、検証を重ねることで事実とする。
そうすることで世界へ、いやこの時代に爪痕を残す。」
ただ淡々と語る。魔法を分解したことについてではない。
「なら!」
リカディは戦闘慣れしているため、次の一点として改めて近接戦を仕掛けた。
魔法を利用した超光速で動き、4方向からの光の分身攻撃を行う。
剣は物理であるため分解できない。と読んでいるのもあり、魔法は自身にかけて対策をした。
ーーーーーー!
だが目の前の現実という名の悪魔は許さない。
今度は光の動きを打ち消されてしまい、剣が砂状にサラサラと消え去ってしまう。
「物質はそもそもミクロの集合体でもある。人間もそうであるように、そこに例外はない。」
「っ!」
リカディは気付いた。いや気付いてはいけなかった。
大神は『分解』を行ったのではない。『分解』をするために働きかけた魔法に勘づいた。
実態のない異次元の能力とその恐ろしさに。
そう、まるで魔法そのものを否定する力に。
「終わりだ。」
大神はノーモーションでリカディの鎧と魔法を全て消し去った。
そして魔力欠乏症になったリカディはその場で膝をつくも、上を向く暇もなく彼の意識は大神の追い討ちで消されてしまう。
「『ヒュプノ』とは人間が疲れた際に起きるとされている事象でもある。脳内にある睡眠欲は疲労によって働きかけられる。」
意味のわからない一言で会場に沈黙を生み出す。




