第92話 華さんは3度負ける その2
「3敗目の相手って…りりりりり凛子さん?!」
「なんで私の時だけそんな幽霊でも見たようなリアクションするんだよ!」
「すっすみません」
あわてて謝る。本当に悪意はないのだ。
ただ華さんの負けた恋のライバルが尽くうちのメンバーだったから、悲鳴みたいな声が出て顔が引きつってしまった。
「しゃーないやん。ウチも華が凛子に負けたって知った時は世界線変わったんか思ったもん」
「なわけねーだろ」
また怖い顔をする凛子さん。けど葵さんはそれを完全にスルーして話を締めくくる。
「以上が華とウチらとの因縁のあらましやな」
ベッドに座ったまま両腕を高く上げ、背筋をぐーっと伸ばす。そして大きなあくびをしたあと思い出したように付け足した。
「あの子、3連敗した頃から死んだみたいな顔して『曲が書けない』って言うとったから…凛子には相当恨みが溜まっとるやろなぁ」
「なるほど…」
名探偵咲ちゃんじゃないけど、これで色々な事がひとつに繋がる。
華さんの脱退とスランプの原因はどちらも失恋のせいだったわけだ。
だから私たちに対してあんなに好戦的で、特に凛子さんを目の敵にしているのだ。
そしてスランプを乗り越えようとして、禁断の盗作に手を伸ばした…
「じゃあ全部凛子さんのせいじゃないですか」
「そうはならないだろ!」
「冗談ですってば」
凛子さんがムスッとした顔で座卓に頬杖をつく。
RUSHはまだ流れ続けていた。葵さんがサビのメロディを口ずさみながらスマホの画面を確認している。
「6時18分。これなら余裕やな」
「6時半にここを出たら間に合うんですよね?」
「せや。新開地駅から阪急乗ったら三宮まですぐや」
よし、時間はまだある…と私は呟く。そしてその場で正座して、背筋を伸ばした。
「凛子さん、葵さん」
華さんとの因縁の話は、私が想像してた物語に比べたら気の抜けるような話だったけど、それでも色々と腑に落ちた。
だからしっかりお礼を述べる。
「ありがとうございます。おかげで頭の中のモヤモヤがすっきり晴れました」
「水臭いなぁ、そんな改まって」
「くだらない話だったろ?」
凛子さんは肩をすくめて残りのコーヒーを飲み干す。私はゆっくり頭を左右に振った。
「確かにくだらない因縁だなって思いました…でも、このバンドの私の知らない昔の話が聞けてすごく嬉しかったです」
「そっか」と意外そうな凛子さん。「じゃあもっと早く話しとけばよかったな」
「ほんなら感謝の印になんか奢ってなー」
「高校生にたかるなよ」
「冗談やんかー」
「うそつけ」
親指と人差し指で輪っかを作りお金のジェスチャーをする葵さんを凛子さんが睨む。
私はそんな2人に向かって「あの!」と声を出し、両手をギュッと握りしめて続けた。
「これまでの私たちのバンドの話は分かりました。だから…これからの私たちの話をしましょう!」




