第91話 華さんは3度負ける その1
「やっぱり凛子さん…華さんの彼氏を」
「ちがう!」
顔を真っ赤にして拳を握る凛子さん。
「ひぃっ」怯えた私が両手で頭を守るとほぼ同時に、葵さんが説明を始めた。
「華はな、対バンしたバンドのメンバーに惚れててん。でも何度も話すうちにその子は蘭子に気があるって分かってん」
「あー…蘭子さん美人ですもんね」
華さんには悪いけど納得してしまう。
もし私が男でどちらに魅力があるかと問われたら、迷わず蘭子さんに軍配を上げると思う。
「つまり華さんは告白前に負けちゃったのか」
「そういうことやな」
全身から力が抜けて変な笑いが漏れた。どうしよう。本当にしょーもない。
「バンドの因縁話っていうか…中学生のよくある恋バナじゃないですか。似たような話クラスメイトから何度も聞かされましたよ」
「でもそれだけじゃないねん」と葵さん。「まだ続きがある」
「続き?」
いよいよ本当の因縁が幕を開けるのだろうか。そう思って私は彼女の言葉に神経を集中した。
「その後な、華は新しい恋に目覚めてん。心機一転、過去の傷心と決別するために前を向いて進み始めたんや」
でもな、と葵さんは悲しげな声を作る。
「人生そんな甘ない。またしても華の恋の行く手に悲劇が待ち受けとった」
「まさか…また負けたんですか?」
「そう。新しい恋の相手はまたバンドマン。でもその人は別の女性に恋してた」
「ちなみに…そのお相手は?」
好奇心で尋ねると葵さんは自分の顔を指さした。
「ウチ。まあ断ったんやけど。ほらウチって男女関係なくモテるやん?」
「め…めっちゃ気まずいじゃないですか」
華さん痛恨の2連敗。しかもその敗戦相手が2回続けて同じバンドのメンバーだなんて。
当時のバンド内の雰囲気を想像したら、それだけで胃が痛くなりそうだ。
「でも華の失恋はまだ終わらんかってん」
「ま…まさかまた負けたんですか?」
「そのまさか。3連敗や」
なんてことだ。生まれてこの方彼氏がいない私にも、その連敗どれだけ心を蝕むかぐらい分かる。
「私なら絶対に闇堕ちします」
「華だってそうやで、その3敗目があの子の心を完全に折ったんやから。なあ凛子?」
「まっまさか」
ハッとして凛子さんに向き直る。すると彼女と目が合い、思わず両手で口元を覆った。
「3敗目の相手ってりりりりり…凛子さん?!」




